池上秀司のブログ

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ファイナンシャルプランニングに関することを中心に、好き勝手に書きます。

つい先日、現代ビジネスに掲載された経済ジャーナリスト(自称)の荻原 博子さんの変動金利に対する間違いを指摘したばかりですが、同様の記事がプレジデントオンラインにも記載されていました。


どう考えても投資は始めるべきタイミングではない…荻原博子が「新NISAはおやめなさい」という根拠

3ページ目に以下の記載があります。

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 変動金利には、金利が低くなると返済額が下がるというメリットがあるものの、逆に金利が上がれば返済額も上がってしまいます。適用金利は半年ごとに見直されるのですが、これが変わっても5年間は毎月の返済額は変わりません。

 じゃあその間に金利が増えた分の利息はどうなるのかというと、「未収利息(まだ支払い期限が来ていない利息)」として元金に組み込まれていくのです。たとえば、2000万円借りて5年間順調に返済し続けたのに、いつの間にか金利が上がっていて気づいたら元金が2000万円以上になっていた、なんてことも起こり得るわけです。

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多くの変動金利型住宅ローンの返済額は5年間一定です(5年ルールといいます)。その間に金利の見直しがあった場合、元金と利息の割合で調整します。元金の減りが鈍くなるということです。金利が上がったら未収利息(顧客から見た「未払い利息」という用語が一般的)がすぐに出るということではないので、2,000万円借りて、気づいたら元金が2,000万円以上ということは起こりません



未払い利息とは、返済額を超えた分の利息のことをいいます。金利が急上昇した場合に発生する可能性があります。未払い利息は「未払い利息」として計上され、元金には組み入れられません。将来、金利が下がったり、返済額が上がったりして、当月の利息が当月の返済額を下回った場合に充当し消化します。そして、未払い利息が解消されたら、元金返済が再スタートします(未払い利息が出るということは、元金返済がストップした状態です)。


【4月30日追記】

最終返済日までに未払い利息が消化されない場合は、最終返済日に当月の利息に加えて、未払い利息と未払い残高を一括返済することが原則となっていますが、あくまでも原則です。金融機関に相談すれば返済方法を変更してもらうことも可能ですし、約款でそれらを規定している金融機関もあります。未だかつて、そういう状況になったことはありません。

【追記ここまで】

 

仮に未払い利息が出たとしても、元金には組み込まれません。元金に組み込まれてしまったら、当月の利息を計算するときに、

(その時点の借入残高+未払い利息)×金利

となってしまいますが、あくまでも当月の利息は

その時点の借入残高×金利

で計算します。元金と未払い利息は明確に区別され、元金に組み込まれることはありません。未払い利息が増えることと元金が増えることは全く違います。この区別ができるか否かで専門性の有無がわかります

 

では、未払い利息が出るか否かですが、荻原さんは記事の冒頭で

 

実質賃金や日銀短観を見れば景気が良くなる兆しはない

 

と述べています。常識で考えて、景気が良くなる兆しがないなら、変動金利の急激な上昇があるとは思えません。荻原さんの主張は経済のセオリーに反しており、支離滅裂です。


このように、荻原博子さんは明らかに変動金利の金利見直しルールを誤解していますし、その主張は理屈が通っていません。そのくせ上から目線で「おやめなさい」などと言ってくるので、非常に迷惑です。

 

経済ジャーナリストを名乗るのは「おやめなさい」ですし、メディアは荻原博子さんの記事を掲載するのを「おやめなさい」。

 

【関連記事】
荻原博子さんは、経済ジャーナリストを名乗るの「おやめなさい」

住信SBIネット銀行が短期プライムレート引き上げを発表して、変動金利が騒がしくなっていますが、情報を整理したいと思います。
 

まず、4月17日に以下のようなプレスリリースが公開されました。

円定期預金およびローン金利の改定について

「ローン金利について」というところの一番下に以下の記載があります

(※) 三井住友信託銀行株式会社との契約となる「ネット専用住宅ローン」は対象外となります。



↑ここに注目です。

住信SBIネット銀行の住宅ローンは、昨年「住宅ローン(WEB申込コース)という新しい商品を発売しました。

住宅ローン(WEB申込コース)新規取扱い開始のお知らせ (2023年4月3日)

それまでは三井住友信託銀行の商品を代理店として販売していました。「ネット専用住宅ローン」という商品です。

ネット専用住宅ローン新規お借入れ終了のお知らせ

つまり、新旧2つの商品があるということです。↓に比較があります。

ネット専用住宅ローンと住宅ローン(WEB申込コース)の比較

1年前から取り扱いを開始した住宅ローン(WEB申込コース)は今回の短期プライムレートの影響を受けますが、それ以前に借り入れをしていた、大多数のネット専用住宅ローンのお客様は影響がありません。そのお客様は三井住友信託銀行の短期プライムレートの改定を気にする必要があるということです。商品概要書にもその旨が記載されていますし、ホームページ上でも短期プライムレートは二行を分けして表記しています。

商品概要説明書:ネット専用住宅ローン

 

金利のご案内 住宅ローン


短期プライムレートを上げたといっても、今のところ影響が出るのは住信SBIネット銀行のお客様の中でも少数ですから、住宅ローン全体への影響は希少であり、それで金融業界全体を議論するのはちょっと乱暴なような気がしています。そういう点まで考えて判断をした方がよろしいかと思います。

イオン銀行も短期プライムレートを引き上げるそうですが、いわゆる新興の進行と従来からある銀行を十把一絡げにするのもどうかと思います。色々と違いがあります。

もちろん未来は不確定ですから、今後、短期プライムレートを引き上げる金融機関が出てくることは考えられますが、こういう情報がまったく世の中に伝わらないのでは、ファイナンシャルプランナーの存在意義、存在価値がないと思い、書かせていただきました。

金利上昇が気になるとさらに不安を煽る人達が出てくるのですが、質が悪いのは「嘘」「デタラメ」で不安を煽る人達です。今回は経済ジャーナリストの荻原博子さんです。

人気の「住宅ローン変動金利」が老後の足かせに…「おやめなさい」と荻原博子が断言するワケ

4ページ目から5ページ目にかけて、以下の記述があります。

 

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35年ローンで2000万円を借りると、金利0.3%なら返済額は月約5万円と手頃です。
ただ、「変動金利」の場合、半年ごとに金利が見直されます。金利が1%上がって1.3%になると返済額は約6万円。2.3%になると約7万円、3.3%になると約8万円と返済額も増えていきます。

変動金利ローンの怖いところは、金利が半年ごとに見直されても、返済額は5年間変わらないところ。0.3%で借りて半年後に金利が1%上がっても、5年間は月々の返済が5万円のままなのです。

では、差額の約1万円は銀行が負担してくれるわけではありません。「未払い利息」ということで元金に繰り入れられていくのです。

つまり、2000万円借りて、銀行と契約した通りに月々しっかり5万円ずつ返しているにも関わらず、5年後には元金が約2050万円に増えているということが起きるのです。
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【誤報①】
未払利息とは当月の利息が当月の返済額を上回った場合に発生します。

 

 

0.3%から半年後に1.3%になっても利息は21,373円。返済額を上回らず当月に支払うことができるので、未払いになりません。その分、元金充当額が減ります。

 


 

↓こういう状況です。

 



【誤報②】
「5年後には元金が約2050万円に増えている」とありますが、0.3%のままであれば、5年後の残高は1,727万円。半年後に1.3%なった場合は1,813万円。元金の減りが鈍くなるだけなので、元金は増えません


ちなみに、3.0515%を超えると未払い利息が出ます。


そもそも、「変動金利が半年で1%も上がるのか」という点も考えないといけません。過去の金利推移から見れば可能性だからゼロでないだけで、常識的にはあり得ません



 

しかも、冒頭に「景気の悪化が避けられない状況になってきました」と書いてあります。景気が悪化するのに短期金利が半年で1%も上がるというのはどういう理屈なのでしょうか。意味不明です。

 

このように、変動金利の不安を煽る人は間違いが多く、声が大きいので困りもの。正しい知識、常識的な感覚がないから騒ぐのでしょう。皆様、お気をつけください。

変動金利に関して騒がしくなると、それに便乗した記事が増えますが、指摘事項の多い記事がありました。

マイナス金利解除で住宅ローンはどうなるか…7300万マンションを買った夫婦が「変動→固定」に変えた深い事情

この記事を書いているのは、FPの高山一恵さん。高山さんは以前、信憑性のない記事を書いていました(以下参照)

数字が合わない / FP高山一恵編

では前提を整理します。

> 高遠さんはお子さんの誕生と同時に5年前、7300万円で都内のマンションを購入。1300万円を頭金で入れ、残りの6000万円を35年で借り入れしました。返済額は、月15万5000円。
> 高遠さんは現在、0.5%の変動金利

 

そこで、

> 急激に金利が上がったらローンの返済ができなくなるかも

と書いてありますが、変動金利は日銀の金融政策の影響を強く受けます。



日銀の金融政策は日本銀行法で、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展を資すること」と規定されています(下記画像は日本銀行のホームページ)。短期金利を急激に上げたら物価が安定どころか大混乱です。日銀は短期金利を急激に上げない=変動金利も急激に上がらない、と考えるのが常識的な判断といえるでしょう。その観点が抜けています。




>高遠さんは現在、0.5%の変動金利ですが、たとえばマイナス金利解除によって1.5%まで金利が上がった場合、返済額は月々19万8000円になります

まず、1.5%になった場合の返済額は19万8000円ではなく約18万円です。単純に計算が違います。



次に、「1.5%まで金利が上がった場合」とサラッと書いてありますが、そこをサラッと流さず、「1.5%まで(1%も)上がるのか?」を考える必要があります。長期金利ですら1%未満の今、マイナス金利を解除した程度で変動金利(短期金利)が1%上昇するのは「異常事態」といえます。日銀の金融政策と変動金利の推移を見れば一目瞭然です(下図参照)。



確かに未来は不確定ですが、そのような可能性の低い事象を前提にするのは、不確実性の高い=リスクの高い考え方です。

> 一方で、リスク回避をしたい方は、現在1.9%ほどの固定金利に切り替えるのも、ありでしょう

変動金利が1.5%に上昇するのが大変だと書いておきながら、1.9%に借り換えるのはありというのはよくわかりません。固定金利に切り替えた後は金利は上がりませんが、固定金利に切り替える時に金利が上がるのだから、リスク(この場合は「危険」という意味)は回避していません。リスクをモロに被っています。変動金利は前述のように急激に1%も上がるとは思えず、金利が上がるのも将来なのに、残高の多い今、金利を1.4%も上昇させることが大きなリスク(危険)とも考えられます

> 固定金利へ借り換えをしました。変動金利0.5%から1.9%の固定金利への借り換えだったのですが

わざわざ手数料を払って金利を約4倍にするのは悪手ではないでしょうか。6,000万円・0.5%・35年返済で5年経過時点の残高は約5,200万円。試しに三井住友銀行のホームページで借り換え試算をしたところ、月々の返済は約19万円。記事には「ローンの借り換えには、20万~100万円の費用もかかりますし」とありますが、手数料だけで153万円です。総返済額は1,378万円も増えるという結果が出ました。これを覆すだけの金利上昇が起こるかどうかの判断が必要ですが、考えるまでもないと思います。



>借り換え時点でローンの残高が当初の借入金額よりも減っていたため、月々の返済額はほぼ同じになりました

金利が上がるのに返済額がほぼ同じにはなりません1.9%、残り30年で返済額が15.5万円程度になる残高は4,270万円です。つまり、借り換え時点で930万円の繰上返済が必要です。このような重大な事項(返済額がほぼ同じになる根拠)が記事に見当たりません



ちなみに、借り換えせずに5年経過時に930万円を繰上返済(返済額軽減型)した場合、返済額は12.8万円程度まで下がります(▲月2.7万円)。これだけの資金を繰上返済できるのに、わざわざ手数料を払って借り換えする必要があるのか、甚だ疑問です。




記事には

> 業界でも、安全をとるファイナンシャルプランナーたちは今、固定金利をおすすめしていますね

とあります。変動金利と固定金利が同じ金利水準であればそうですが、現実はそうではありません。これらの指摘の通り、高山さんは日銀の金融政策に対する理解が不足していますし、リスクの定義もあいまい、計算も合っていないので、安全をとっているとは到底思えません。この論調で固定金利をすすめるのは、非常に危険ではないでしょうか

冒頭に、

>相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています

とありますが、変動金利が1.5%になると返済額が上がるのに、1.9%の固定金利に借り換えると返済額はほぼ同じというのは、どういう理屈なのでしょうか。事実関係の一部を変更どころか創作とも考えられず、私の頭では表現のしようがありません。

 

【関連記事】

変動金利の金利上昇リスクとは……?

今回は、明確に定義されていないことを書きます。よって、私見ですので、その点を踏まえて読んでいただければと思います。

住宅ローンの変動金利の金利上昇リスク」という言葉を見かけることがありますが、「変動金利の金利上昇リスク」とはなんでしょうか。

リスクとは様々な意味合いがあります。企業年金連合会のWebサイトには以下の記載がありました。

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「リスク」という言葉は、通常「危険」という意味だが、運用では「危険」=運用の失敗と言うよりも、むしろ収益が予測できない、不確実だ、バラつくということを示す。したがって、リスクが大きいとは、リターンの振れが大きいということであり、リスクが小さいとは、リターンの振れが小さいということである。
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では、これに従って、まず「危険」という部分で解釈をしてます。大雑把な書き方をすると「変動金利は将来金利が上がるから危険。固定金利はその心配がない」。こんな感じになると思います。つまり、

変動金利=将来、金利上昇の可能性あり
固定金利=将来、金利上昇の可能性なし

となるので、将来の金利上昇の可能性の有無を指していると考えられます。可能性の有無だけで考えるのであれば非常に簡単です。

しかし、「変動金利はリスクが高い」という表現を拝見することもあります。この場合は「有無」でなく「高低」での議論になります。前述のように金融商品において、リスクは「収益の不確実性、振れ幅」とも解釈されますので、リスクを「高低」で考えることも大切ではないでしょうか。他(災害など)にも、リスクは「高いか、低いか」で考えることがあります。
 

そこで、以下に日本証券業協会のWebサイトに記載されている内容を引用します(図は私がリライトしました)。

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POINT1
金融商品の「リスク」とは「リターンが不確実である」こと。

金融商品のリターンとは、「資産運用を行うことで得られる収益」のことです。
一方、金融商品のリスクとは、一般的な「危険なこと」「避けるべきこと」という意味ではなく、「リターンが不確実である(予測できない)こと」を表します。
不確実の度合い(振れ幅)が大きいことを「リスクが大きい」、小さいことを「リスクが小さい」といいます。
つまり、「リスクが大きい」とは、「大きく収益が得られるかもしれないし、大きく損失が出るかもしれない」という意味です。



POINT2
「リスク」と「リターン」は比例します。

リスクを低く抑えようとするとリターンは低下し、高いリターンを得ようとするとリスクも高まります。
したがって、「リスクがなく(低く)、リターンが高い=ローリスク・ハイリターン」の金融商品は存在しません。



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住宅ローンの変動金利を金融商品的に見てみます。変動金利は金利を固定する期間が1年未満なので、大きな分類では短期金利と考えられます。多くの変動金利型住宅ローンは短期金利の指標である「無担保コールレート・オーバーナイト物」の影響を強く受けることは当ブログで何度も触れてきましたし、最近では多くのところで目にする情報となりました。





次に、お金を増やす方向から考えてみます。お金を増やす場合に、短期金利の代表的な金融商品としては「預貯金」が挙げられると思います。では、預貯金のリスク(リターン)は高いのでしょうか。前述の図を見れば一目瞭然、預貯金のリスク(リターン)は低い、つまり、短期金利の振れ幅は小さいと考えられます。



お金は金融市場でつながっているので、短期金利を指標としている「変動金利のリスクが高い」ということは「預貯金のリターンが高い」につながります。別の見方をすれば、「預貯金のリターンが低い」ということは「変動金利のリスクが低い」につながります。このように、金融商品的に考えてみると、変動金利のリスクは低いと解釈することができないでしょうか(もちろん、低いからといって無関心でいいということではありませんが)。

冒頭に記載したように、これは明確に定義されていないことなので、私の論調に違和感を抱く方もいらっしゃると思います。私自身、未だにモヤモヤしていてスッキリしていません。私はこういった疑問を抱えていたので「金利上昇リスク」という言葉を使わないように気をつけてきたつもりですが、それでも不用意に使ったことはあったかもしれません。

 

とはいえ、議論を重ね、(明確ではないにしても)それなりの定義をしていくこと、その議論が深まること(そのキッカケ)が必要なのではと思い、今回書いてみました。そして、私が問題提起しておきたいことは、

私を含めた、いわゆる専門家と称される側の人間が、「金利上昇リスク」をいう言葉を明確に定義せず安易に使っているのでは

ということです。

日本の住宅ローン指南においては、この20年ほど「低金利期は固定金利、高金利期は変動金利」といった論調が蔓延してきました。私は15年前の拙著の表紙でも指摘し、この点を問題視していました。

 

 

未来は不確定なのですからそんなことはなく、結局はあまりにも低金利が長期化したため、「それおかしくない?」と気づいた一般消費者の方が増えてきました。住宅ローンの世界では、こういった観念的な論調があたかも原理原則のように扱われてきた悪しき前例があります。

 

そして、こういった変動金利にアレルギーのある(適切に扱えない)方達が「変動金利の金利上昇リスク」という言葉をよく使っているように見えますし、リスクを定義してもいなければ、評価もしていないと思います。

 

リスクというのは様々な解釈があるのですから、使う側が「ここでいう金利上昇リスクとはこういうことです」という説明をしてから使うべきではないでしょうか。