Accounting, Tax and M&A -14ページ目

Accounting, Tax and M&A

会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


アリババの上場の話題の第三弾です。

前回 は上場申請書(F-1)からアリババのVIEストラクチャーや税務上の論点について記載しました。

今回はソフトバンクの会計処理についてです。

・・・

よく報道では、アリババの上場でソフトバンクの利益が4兆円とか書かれてますが、もちろんこんな利益が会計上、計上されるわけではありません。

ソフトバンクは株式を売却しない意向のようですし、引き続き持分法投資としてアリババ株を保有します。

IFRS上、時価評価による損益を計上するのは、持分法投資の重要な影響力を喪失した場合か、支配権を獲得して子会社化する時なので、今回はこのような評価替えは起こりません。

また株式の売却を行わない以上、Cashの回収も株式売却益も認識されません。

一方、アリババの新株発行によりソフトバンクの持分比率が低下した場合、みなし売却益が認識される可能性があります。

IFRS上、持分変動によるみなし売却益を認識するかどうかは必ずしも明確ではありませんが(IASBでは、みなし売却益を認識せずに資本剰余金の増減として認識する方向で議論が進んでいましたが、反対意見が多くプロジェクトは延期となっています)、ソフトバンクの会計方針次第で、みなし売却益を計上することも十分考えられます。

ソフトバンクのIFRS移行後の開示資料で、持分法投資のみなし売却の事例がないので何とも言えませんが、きっと認識するような気がします(違ったらごめんなさい)。

・・・

では本題ですが、そのみなし売却益はどの程度の金額になるのでしょう。

不確実な要素が多々あるわけですが、IPO時の株価と発行する新株の数、IPO時のアリババの純資産及びソフトバンクのアリババ株式簿価等を仮定すれば試算することが出来ます。

まず、アリババの純資産は2013/12末で53億ドルです(IPOにより普通株に転換される優先株を含む)。また、IPO時期は未定ですが、8月という噂もあるので、その8ヶ月間の純利益を30億ドルとすると、上場時の純資産は83億ドルとなります。

(この時点でソフトバンクは持分法投資利益で10億ドル(1,000億円)を計上している計算ですが)

そして、ソフトバンクの保有株簿価は、暖簾等の投資差額はないとして、純資産持分34.4%分で29億ドルと仮定しましょう。

これを前提にみなし売却益を試算してみます。(ソフトバンクは株を売却しない前提です)

【ケース1】

まずは控えめな予想です。

F-1によれば上場による調達額は10億ドル、また上場株価は50ドル/株といった話もありましたので、この場合は20百万株が新株として発行されます。

この場合、アリババの発行済株式総数は2320百万株から2340百万株に増え、ソフトバンクの保有株797百万株の比率は34.4%から34.1%に減少します。

そして、新株発行後の純資産93億ドル×34.1%=32億ドルということで、上場前の持分純資産29億ドルとの差額3億ドル(300億円)がみなし売却益になります。

【ケース2】

次に、上場時価総額の予想をアナリスト平均とされる1,410億ドルとすると、株価は61ドルになります。

また、資金調達額は報道では200億ドル超に達するといった話もありますので、その間を取ってざっくり100億ドルとすると、新株の発行は165百万株になります。

この場合、アリババの発行済株式総数は2486百万株、ソフトバンクの比率は32.1%、持分純資産は183億ドル×32.1%で59億ドルになります。

なので、この場合のみなし売却益は30億ドル(3,000億円)ですね。

【ケース3】

最後に強気のケースです。

報道の中でも高めの水準として、上場時価総額2,000億ドルで株価86ドル、調達額200億ドルで新株発行232百万株としてみましょう。

この場合、アリババの発行済株式総数は2553百万株、ソフトバンクの比率は31.2%、持分純資産は283億ドル×31.2%で89億ドルになります。

なので、この場合のみなし売却益は60億ドル(6,000億円)です。

ここまで来ると、さすがにすごい金額です。

尚、これらのみなし売却益を認識した上で、保有株式の含み益はケース1~3で各々、367億ドル、426億ドル、599億ドルといった感じです。

・・・

ということで、おそらくこのみなし売却益はソフトバンクの営業利益には反映されないように思いますが(営業外)、純利益の観点ではかなりの影響がありそうですね。

キャッシュの伴わない会計上の利益ですが。

もちろんこのみなし売却益は課税所得にはなりませんが、税効果会計により税負債を計上する可能性はありそうです。

しかし、もし仮に、例えばアリババが現地で何らかの組織再編を行って、それがソフトバンクの保有株が税務上時価評価課税されるような事象だったとすると、1兆円規模の法人税負担が発生しうるんですかね。。

とか、ちょっと怖い想像をしつつ、今回はここまでです。





(8/18追記)

ソフトバンクの2015/3期の第1四半期決算にて、アリババの優先株関係で巨額の損失が計上されています。

アリババ上場時のみなし売却益にも影響がありそうなので、ちょっと見てみました。

・・・

ソフトバンクの決算短信を見てみましょう。

『アリババが発行している転換優先株(Convertible Preference Shares)については、同社が採用する米国会計基準ではMezzanine Equity に払込金額で計上されるのに対し、IFRS では負債に計上し公正価値測定を行うとともに、公正価値の変動を純損益に認識しています。当第1四半期においては、転換優先株の公正価値が増加したことにより、当社の持分法投資損益に102,996 百万円の損失の影響がありました』

『当該登録届出書によれば、アリババの普通株式1株当たりの公正価値は、2013 年10~12 月期においては1株あたり25 米ドルとなり、2014 年6月においては56米ドルと記載されています』

・・・

なるほど、確かにアリババの上場申請書を見た時に、IPO時に強制転換される条項付きの転換優先株について記載がありました。

普通株への転換価格は1株18.5ドルですが、転換されずに現金で償還される可能性もあることから、IFRS上は資本ではなく負債扱いなのでしょう(IPOすれば強制転換ですが)。

IFRS上負債扱いでFVPLの処理ということは、上場して転換されるタイミングまで時価評価損益を認識し、転換時にその時価をもって資本に振り替えるものと思われます。

この優先株が転換された場合、普通株91百万株になりますが、これを前提にソフトバンクへの影響額を計算すると、91百万株×時価変動31ドル(25ドル⇒56ドル)×ソフトバンク持分36%=10億ドルになります。決算短信では1,030億円と書かれているので、ちょうどそんな感じですね。

・・・

上記のアリババが上場した場合のソフトバンクが会計上認識するみなし売却益分析にはこの影響は織り込めていませんでした(反省)。

少なからず影響があるのですが、ソフトバンクの開示資料での説明にはこうあります。

『同社が株式公開した場合には転換優先株は自動的に普通株に転換され、IFRSでは負債に計上されていた転換優先株は資本に振り替えられることとなります。その結果、それまで転換優先株の公正価値増加に伴い発生した損失のうち当社帰属分については、同社の株式公開時に持分変動利益として当社の連結損益計算書に計上されることとなります。』

なかなか難解ですね。

・・・

ここからわかるのは、まず、ソフトバンクはIFRS上、みなし売却益を認識するということです。

また、その金額についてですが、この優先株は上場時に時価ベースで負債から資本に振り替えられたという処理になり(負債の消滅=払い込みというイメージ)、みなし売却の比率(持分比率の減少割合)が上記の元々の試算より高くなります。

というのも、現状のソフトバンクの持分比率は、上記試算では優先株を普通株扱いすることで34.4%としていましたが、この優先株を分母から除くと35.8%になるからです。

【ケース1の見直し】

(取り敢えず、この優先株の取扱いの見直しだけですのでご了承ください)

ケース1は、上場株価50ドルで20百万株を新規に発行(調達額10億ドル)という控えめなケースでした。

この時、まず優先株の評価替え(56ドル⇒50ドル)による利益(負債の減少)がアリババで5億ドル(ソフトバンク持分35.8%で2億ドルの利益が出ます。この時点でのソフトバンクのアリババ持分法簿価は13億ドル程度と思われます。

その上で新株発行の20百万株と優先株転換の9百万株が50ドルベースで払い込まれる結果、アリババの純資産は93億ドルになります。この数字は、上記の元々の試算値と同じです。(優先株の時価評価部分は、時価評価で損失認識され、その上で資本に振り替えられるので、純資産への影響の合計額としては、結局、現金の払込額だけになるわけですので)

で、持分比率は34.1%に減少しますので(こちらも上記の元々の試算と同じ)、純資産持分で93億ドルになり、差引のみなし売却益は18億ドルになります。

優先株の評価替えと併せて20億ドル(約2000億円)の利益というわけです。

この中には、これまでに認識した優先株の時価評価損の戻りが含まれています。なぜなら、優先株相当の時価での払い込みという扱いによって、①みなし売却部分は譲渡原価の減少として、②継続保有部分についてはみなし売却益の増加として、結局、時価評価損の金額がそのまま利益に振り替えられるからです。なので、ソフトバンクの決算短信での説明は正しいと思います。

(この辺は図解した方がわかりやすいのですが、相変わらず面倒なのでこれはパス)

【ケース2、3】

同じ前提でケース2、3も計算してみました。

詳細は面倒なので省きますが、みなし売却益(IPO時の優先株の評価替え含む)はケース2で47億ドル、ケース3で77億ドルになりました。

さて、IPO実現時の実績はどうなりますかね。楽しみにしたいと思います。


(9/7追記)

IPOの仮価格等が公表されましたね。

新株発行1.2億株と既存株主の売出し2.5億株。ソフトバンクの持分比率(IFRSベース)は35.8%から32.4%に減少。株価60~66ドルということで、ケース2に近い感じ。みなし売却益はざっくり5000億円くらいかなという感じですかね。(もう少しちゃんと計算してみますが、取り急ぎ)

9月中に上場されればソフトバンクの第2四半期決算に計上されるかもです。


⇒アップデート版はこちら

アリババ上場によるソフトバンクのみなし売却益アップデート(IPO仮条件)



タイミング的に乗り遅れましたが、KADOKAWA(以下、角川)とドワンゴが経営統合するようですね。

共同株式移転による統合ということで、ちょっとプレスリリースから会計・税務的な話題を確認してみます。

・・・

本件は、角川とドワンゴが共同株式移転により100%親会社を設立し、両社の旧株主は新設親会社の株式を取得して上場するとともに、角川とドワンゴは新設親会社の100%子会社になります。

株式の交換比率は、角川株式に対して1.168株、ドワンゴ株に対して1.000株となります。

この比率だけ見てもよくわかりませんが、角川とドワンゴが相互に持ち合いしている株(これらは新設親会社の自己株式となります)を除くと、新設親会社に対する出資比率は、旧角川株主が48%、旧ドワンゴ株主が52%になります。

尚、ドワンゴ会長の川上氏は現在ドワンゴの14.85%を保有していますが、統合後は新会社株式の8.8%を保有する筆頭株主になります。

・・・

統合の報道が行われる直前の5月13日の株価は角川3,150円、ドワンゴ2,566円でした。比率は1.228です。従い、移転比率1.168はどちらかというとドワンゴ株主に有利な比率と言えますね。

案件公表後の5月15日には、角川3,470円、ドワンゴ2,972円で綺麗に1.168倍になっています。

尚、その後両社の株価は下落しており、5月26日時点での時価総額は、角川926億円、ドワンゴ1,076億円です。統合会社の時価総額は、自己株となる持合い株を除いて1,823億円と計算されます。

・・・

さて、開示資料によれば、本件の会計処理としては、ドワンゴが角川を買収したものとしてパーチェス法を適用するとのことです。

どちらが買収者なのかの決定は悩ましいところではありますが、相対的な旧株主の比率ではドワンゴ、新会社の筆頭株主という点でもドワンゴです。一方、株価に対してプレミアムが付されたのもドワンゴ。新会社の取締役構成という点では、旧角川5名に対して旧ドワンゴ6名。

これらを総合勘案すれば、ドワンゴに軍配が上がりそうな感じですね。

ちなみに角川の純資産は2014/3末時点で1,104億円です。ここからドワンゴ株式の3月末の時価相当を控除すると931億円です。

一方、角川の時価総額からドワンゴ株式分を除くと880億円。

買収価額がやや純資産を下回るということで(これに加え角川のコンテンツ等の無形資産の時価評価により時価純資産はもっと高い可能性もありますが)、会計的には負の暖簾のポジションのようです。

但し、当然ながらこの辺は今後のドワンゴの株価に依ります。

・・・

ちなみにドワンゴの簿価純資産は2014/3末で219億円。時価総額との比較では750億円ほどの暖簾が計上されるポジションです。

つまり、今回の統合は、会計上いずれが買収企業と認定されるかによって、負の暖簾が計上されるか、多額の正の暖簾が計上されるか、という大きな差が出ていたわけです。

まあ、だからといってドワンゴが買収企業になるように設計したわけではないでしょうけど。

・・・

最後に税務の取扱いです。

開示資料において、ドワンゴのFAだったJPモルガンのdisclaimerにもある通り、本件は税制適格の株式移転となることを想定しているようです。

当然ながら両社に支配関係はありませんので、適格になるには共同事業要件を満たす必要があるわけです。

この点、株式移転の対価は株式のみ、移転後の完全親子関係は継続する見込み、両社の従業者の80%以上は継続する見込み、両社の事業に関連性あり、両社の事業は継続される見込み、両社の関連事業の売上又は従業者の規模が1:5以内或いは両社の特定役員に退任予定なし、という当りの要件を考慮して、おそらく問題ないということなのでしょう。

ちなみに、元々角川は純粋持株会社である角川グループホールディングスの下に事業会社がぶら下がる資本構造でしたが、2013年4月と10月に角川グループパブリッシング、角川書店等の11社と持株会社が合併し、現在は角川本体が事業会社となっています。

この辺りも適格要件の検討に影響していたように思います。

・・・

ということで、適格株式移転の場合、両社に対する時価評価課税は発生しないことになりますね。

ちなみに、現在、両社は各々連結納税を採用しています。

この点、新設親会社の100%子会社になることにより両社の連結納税は解消することになります。

ただ、おそらく連結納税のメリットを継続する為、新設親会社による連結納税を同時に開始するのではないかと想像します。

この適格株式移転と同時の連結納税開始には特例があり、旧親法人である角川とドワンゴの繰越欠損金は、新連結納税グループ全体で利用できる繰越欠損金として引き継ぐことが可能です。

一方、その100%子会社として連結子法人になる会社の取扱いは、100%子会社後5年以上経過又は設立保有の場合は時価評価課税なしで繰越欠損金は個社のみで利用できる欠損として引継ぎ可能、これに当たらない子会社の場合は時価評価課税の対象且つ繰越欠損金は切捨てといった扱いになります。

ま、この辺もきっと色々考えているんでしょうかね。

・・・

ということで、今回はここまでです。

まあ、会計・税務的にはあまり大した話題はありませんでした。。

経営統合うまくいくといいですねぇ。


昨日のエントリーでちょっと書ききれなかった重要な部分を追記します。

・・・

ヤフーは、組織再編の包括否認規定の発動の要件である「不当性」について、『私的経済取引として異常又は変則的で,かつ,租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合に限られる』と主張しています。

この根拠の1つとして、同族会社の行為計算否認(法132条)と規定振りや文言が同じで、別異に解すべき理由がないことを挙げています。

これに対する裁判所の見解です。

『「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは,(ⅰ)法132条と同様に,取引が経済的取引として不合理・不自然である場合(※一部省略)のほか,(ⅱ)組織再編成に係る行為の一部が,組織再編成に係る個別規定の要件を形式的には充足し,当該行為を含む一連の組織再編成に係る税負担を減少させる効果を有するものの,当該効果を容認することが組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるものも含むと解することが相当である』

『法132条は,同族会社においては,所有と経営が分離している会社の場合とは異なり,少数の株主のお手盛りによる税負担を減少させるような行為や計算を行うことが可能であり,また実際にもその例が多いことから,税負担の公平を維持するため,同族会社の経済的合理性を欠いた行為又は計算について「不当に減少させる結果となると認められるもの」があるときは,これを否認することができるものであるとしたものであり,法132条の2とはその基本的な趣旨・目的を異にする』

要するに、同族会社と組織再編では、同じ「不当」という文言であっても、趣旨や目的が異なる、ということですね。

まあ、ここは妥当な判断でしょうけど、けっこう影響は大きいように思います。

・・・

ちなみに、話が逸れますが。

グループ内適格合併でみなし共同事業要件を満たせない場合でも、時価純資産が簿価純資産を上回る部分については繰越欠損金の引継ぎを認めるという特例規定があります。

これは、合併せずに単独で存続した場合でも、時価純資産>簿価純資産の部分は、例えば含み益資産を売却することで、自分自身で利益を獲得して繰越欠損金を消化することができたはず、という趣旨です。

ヤフーはこれを狙うという選択肢もある気がしました。

おそらく、当初申告要件の緩和は適用されませんので形式的にはアウトなんでしょうけど、包括否認という事情もあり、議論の余地はあるんじゃないのかな、と。

時価純資産超過額として申告していれば引き継げた欠損金については、法人税が不当に減少したとはいえないのでは?みたいな。

ま、難しいんでしょうかね。

・・・

ということで、補足でした。

さて、ヤフーとIDCの税務否認の東京地裁判決の後編です。

今回は前置きなしで、早速の前編の続きから行きましょう。

・・・

前編の最後で裁判所が示した総合勘案の6要件について、本件の具体的なあてはめです。まず、特定役員引継要件について。

『N氏が副社長に就任してから本件買収により特定資本関係が発生するに至るまでの期間はわずか約2か月であり,極めて短い。』

期間の短さの指摘です。

『N氏がIDCSの副社長に就任したのは本件買収及び本件合併に係る本件提案を受けた後であること,N氏がIDCSの副社長として実際に行った職務の内容は本件提案に沿ったものであり,本件提案と離れて,IDCSにおける従来のデータセンター事業に固有の業務に関与していたとは認められない』

続いて職務内容。これは面白い観点かもですね。

『IDCSの経営を担ってきたU氏などの役員は,いずれも,本件合併後,原告の役員には就任することが予定されておらず』、『役員の去就という観点からみて,「合併の前後を通じて移転資産に対する支配が継続している」という状況があるとはいえず,施行令112条7項5号が設けられた趣旨に全く反する状態となっている』

なるほどねぇ。

そして次に、他の要件について。

『本件合併により,本件分割前のIDCSが従来行っていたデータセンター事業が事業として承継された(すなわち,その経済実態に変更がない)とみることは困難』(※IDCSの従業員や営業・開発部門等は、株式譲渡前の会社分割でIDCFに移転されており、IDCFにはデータセンター設備と不動産しか残されていませんでしたので)

『原告とIDCSとでは,企業規模に大きな差があり,資本金で70倍以上,営業利益で50倍以上,売上高で20倍以上の格差』

うーん、規模要件を満たさないからこその特定役員引継要件なんですけど。。

『本件買収の対価は450億円であるところ,そのうちの200億円が未処理欠損金額の価値とされるものであって,事業自体の価値とはいえない部分が約半分を占める』

それは関係ないでしょう。欠損金が大きいんだから仕方ないじゃない。株式価値なんて資本構成でも変わりますし。

『本件合併を含む本件提案は,その出発点において,IDCSの未処理欠損金額を余すことなく処理することを1つの目的にしたものである』

税務が目的の「1つ」であることは当たり前でしょう。

『原告とソフトバンクとの間では,税務上,本件合併により未処理欠損金額の引継ぎが認められるかどうかについて明示的な検討が行われ,取引に係る契約書のほかに,差入書が作成されて,未処理欠損金額の引継ぎが認められない場合の対処方法が合意されていたことに照らすと,原告とソフトバンクにおいては,未処理欠損金額の引継ぎが認められない可能性が相当程度あることを認識していた』

税務リスクを検討するのも会社として当り前ですけどね。

ヤフーは、買収対価に繰欠の価値を織り込むことも、そのリスクを検討することも、(リスクが必ずしも高いと想定しておらずとも)表明保証や補償条項の対象とすることも、M&Aでは極めて自然と主張していますが、これに対する裁判所の見解は示されていません。

『以上のような本件における諸事情を総合勘案すると,本件副社長就任は,特定役員引継要件を形式的に充足するものではあるものの,それによる税負担減少効果を容認することは,特定役員引継要件を定めた施行令112条7項5号が設けられた趣旨・目的に反することが明らかであり,また,本件副社長就任を含む組織再編成行為全体をみても,法57条3項が設けられた趣旨・目的に反することが明らかであるということができる。したがって,本件副社長就任は,法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当すると解することが相当』

結局、どれが本質的に重要なポイントかよくわからない「総合勘案」です。。

・・・

それと、国側の主張からちょっと面白いところを抜粋しておきましょう。

『原告は,IDCSの未処理欠損金額を引き継ぐため,特定役員引継要件(施行令112条7項5号)を充足し,みなし共同事業要件(施行令112条7項)を満たす必要があったが,原告には,ソフトバンクと米国ヤフーとの役員比率を維持しなければならないという事情があり,IDCSの特定役員を原告の特定役員に就任させると,米国ヤフー側からも原告の特定役員に就任させることになるため,本件合併によって,IDCSの特定役員を原告の特定役員に就任させることはできなかった。』

なるほどね。

『被合併法人の特定役員として,適格合併に至るまでの就任期間が短期であったとしても,その者が,合併法人を通じて被合併法人の事案を共同事業として継続させる役割を担っていく場合もあり得る』

『特定資本関係発生の直前の段階になって,合併法人等の特定役員が被合併法人等の特定役員と「一人二役」を兼ねるということは,共同事業を行う場合に通常行われるものではない。』

『買収価格をめぐり,せめぎ合いの交渉が行われていた段階で,買主として交渉している原告が,買収対象企業の取締役副社長に就任すること自体,組織再編成上の経済取引としても不自然』

『たまたま,一人の者が複数の法人の特定役員を兼任しており,それぞれの法人の事業を体現するような立場にあると認められるような場合には,両社が合併するに当たって特定役員引継要件を充足すると考えても,みなし共同事業要件を設けた立法趣旨に合致すると考えられる場合はあり得る』

ま、この辺は当たり前と言えば当たり前ですかね。

ということで、ヤフーの否認額は所得ベースで543億円、法人税で163億円、過少申告加算税16億円でした。この他、地方税も発生すると思われます。

・・・

次にIDCFの非適格分割に係る東京地裁判決です。

ほとんど同一の案件ですので、判決文もかなり内容が重複しています。

本件のポイントは完全支配関係の継続見込みの有無でしたね。ICDSがIDCFを新設分社型分割で設立し、ICDF株をヤフーに譲渡することで一旦完全支配関係を断ち、その後、ソフトバンクがIDCS株をヤフーに譲渡&合併することで、再度完全支配関係が発生するというものでした。

この点、裁判所の見解です。

『完全支配関係継続見込み要件については,それが局所的にみると充足されないのであれば,当該分割を含む組織再編成の組み合わせ方や組織再編成に係る他の具体的な事情を一切問わずに(すなわち,例えば,①一連の組織再編成を構成する行為全体により,移転資産に対する支配の状況がどのように変化することが予定されていたのか,②分割自体により,移転資産に対する支配の状況や事業の内容がどのように変更されることが予定され,そのことに十分な事業目的又は事業上の必要性が認められるか,③完全支配関係継続見込み要件に該当する行為又は事実につき,十分な事業目的又は事業上の必要性が認められるか否かなどの事情を一切問わずに),当該分割を非適格分割と認めるべきものとして定められたとはいえず,完全支配関係継続見込み要件が局所的にみると充足されない場合において包括否認規定を適用することは排除されない趣旨のものと解することが相当』

要するに、局所的に完全支配関係が分断されていても、再編の全体像や、個別の会社分割の事業目的等を勘案して、完全支配関係が継続していると評価できるというわけです。

『原告は,本件分割の時点から本件譲渡1の時点まではIDCSの完全子会社であり,本件譲渡1の時点(同年2月20日)でヤフーの子会社になることによりIDCSとの間の「当事者間の完全支配関係」は一時的に切断されるが,その約1か月後である本件合併の時点(同年3月30日)からは,ヤフーがIDCSを吸収合併して原告を完全子会社とすることにより,ヤフーとの間で「当事者間の完全支配関係」が生じることを予定するものであった』(※原告=IDCF)

その通りでしょう。

『本件提案は,一体的な事業をデータセンター設備を保有する会社とデータセンターの営業等を行う会社とに分割するというものであるところ,それ自体,IDCSとして事業上の必要性に疑問があるもので』、『ソフトバンクグループ全体で繰越欠損金を有効利用するという目的が優先されたものであった』

資産保有会社と分割するのは、不自然とまでは言えない気がするけど。。

『旧IDCSにとっても,ヤフーにとっても,データセンター設備を保有する会社の譲渡を行う数日前に,データセンターの営業等を行う会社の譲渡を行うことにつき,何らかの事業上の意義があるとは評価し難い』

まあ、これはそうですよねぇ。

『税務上,本件分割後,原告において資産調整勘定の計上ないし償却が認められるかどうかについて明示的な検討が行われ,取引に係る契約書のほかに,差入書が作成されて,資産調整勘定の計上ないし償却が認められない場合の対処方法が合意されていたことに照らすと,一連の組織再編成に関与する法人は,資産調整勘定の計上が認められない可能性が相当程度あることを認識していた』

この部分はヤフーと同じく疑問です。。

・・・

面白い観点として、IDCFは、同一の結果となる再編行為として、分社型分割ではなく分割型分割にしていても非適格となっていたと主張しています。

これに対する裁判所の見解です。

『同一の組織再編成の結果を得る方法としては,他に,本件分割を行う以前にヤフーがIDCSを吸収合併し,その後,分割を行って原告を設立する方法も考えられるところ,この場合は適格分割となる』

ほうほう。

『抽象的に設定された他の組織再編成の方法を検討してみても,結論は区々なものとなることからすると,他の組織再編成との比較をするだけでは組織再編成の実質的な性質決定をすることはできない』

『当該事案における組織再編成の方法を前提として,その具体的な事情を基礎として検討を行うほかはない』

なるほど、そうなりますか。

それと、わざわざIDCS株の譲渡の直前にIDCF株の譲渡を行った事業上の目的についてです。IDCFは、①事業展開の観点、②情報セキュリティの観点、③社内システムへのアクセス権限付与の為、等と主張しています。

これに対する裁判所の見解です。

『ヤフーにおいて上記のような観点から本件譲渡1の必要性が実際に検討されていたことを示す的確な証拠はない』

『本件譲渡2に先立って本件譲渡1を行うことについてソフトバンクから一方的に通知を受けたにすぎず,営業部門である原告のみを譲渡する事業上の必要性等は認識されていなかった』

まあ、ちょっと無理がありましたかね。

・・・

さて、今回はここまでです。

前編・後編に分けて東京地裁判決を見てみましたが、なかなか微妙な判決ですね。

ちょっと包括否認規定の射程を広げすぎな印象もあります。

いずれにせよ本件は控訴されていますので、控訴審判決を楽しみに待ちたいと思います。

ヤフーとIDCの組織再編に係る税務訴訟の東京地裁判決は完全国側勝訴でした。

当初、判決文の閲覧が制限されていましたが、ようやく内容が公開されましたので、早速読んでみました。

なかなか面白いので、前編・後編に分けて気になったところを纏めておきます。

(尚、判決文からの引用は『』で示します。また、本事案の内容そのものについては、以前に別エントリーで纏めていますので、その辺は省略します。)

・・・

まず、本件の検討経緯が明らかにされています。

それによれば、IDCSは約650億円程度の繰越欠損金を抱えていたところ、同社は株式公開を検討したとのこと。

IPO前に会社分割を行ってIDCSの事業を子会社に外出しし、当該株式を親会社であるソフトバンクに現物分配することで、株式譲渡益と繰越欠損金を相殺することを企図したようです。

それに対し、ソフトバンクが反対します。

IDCSが上場しても時価総額は300億円程度にしかならず、繰越欠損金を使いきれないし、また孫社長は時価総額1,000億円程度になってから上場すべきとの意向だったそうです。

そこで、ソフトバンクの財務部が、同社の他の子会社(ソフトバンクBB等)とIDCSを合併させることで繰越欠損金を活用する案を提示します。

しかし、孫社長はIDCSをヤフーと合併させた方がシナジーがあり適切と考えたとのこと。

最終的に今回の案件の姿となり、「プロジェクト"Shinjuku"」という提案がソフトバンクからヤフーになされたそうです。

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さて、本件の最重要論点である、ヤフー社長のN氏のIDCS副社長就任の件です。

『ソフトバンク及び原告においては,本件合併においてIDCSの未処理欠損金額を処理するためには,特定役員引継要件を満たす必要があることが認識されており,ソフトバンクの財務部部長は,S氏に対しても,その旨伝えていた』(※原告=ヤフー、S氏=孫社長)

『S氏は,N氏に対し,平成20年11月27日,IDCSの取締役副社長に就任するように依頼し,N氏はこれを了解した。』

判決文にソフトバンクとヤフーの担当者のメール等の内容まで引用されています。

『ソフトバンクの担当者が原告の担当者に対し平成20年12月10日に送信した電子メール(乙9の1)には,「税務ストラクチャー上の理由でNCEOあるいは△△CFOにIDC取締役に入っていただく必要があるとのことで,その件について等,何点かご相談させていただきたく考えております。」と記載されており,原告の担当者がソフトバンクの担当者に対し同月17日に送信した電子メール(乙9の3)には,「IDC取締役就任の件ですが,弊社CEONが就任する方向で進めさせていただきたく存じます。」と記載されていた。』

『平成20年12月16日付け「ディスカッション・ペーパー~DDの進め方について~」(乙19)のスケジュール案には,「Y!役員を送り込む日」という書き込みがされていた。』

生々しいですねぇ。

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そして、判決文の議論は組織再編に係る包括否認規定の趣旨に移っていきます。

ヤフーは、包括否認が認められる「不当性要件」について、『私的経済取引として異常又は変則的で,かつ,租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合に限られる』と主張します。

これに対する裁判所の見解はなかなか興味深いです。

『租税回避行為の不当性の有無については,経済合理性の有無や事業目的の有無といった基準によって判断することはできず,「租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる」か否かという基準は,それのみを唯一の判断基準とすることは適切ではない』

まあ、事業目的があれば全てOKではないですよね。

『組織再編成の形態や方法は,複雑かつ多様であり,同一の経済的効果をもたらす法形式が複数存在し得ることからすると,そもそも,ある経済的効果を発生させる組織再編成の方法として何が「通常用いられるべき」法形式であるのかを,経済合理性の有無や事業目的の有無という基準により決定することは困難』

『組織再編税制に係る個別規定は,特定の行為や事実の存否を要件として課税上の効果を定めて』おり、『想定外の行為や事実がある場合には,当該個別規定を形式的に適用して課税上の効果を生じさせることが明らかに不当であるという状況が生じる可能性が』あり、『同条の適用対象を,通常用いられない異常な法形式を選択した租税回避行為のみに限定することは当を得ない』

異常な法形式を選択し場合に限定されないということですね、ふむふむ。

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そして判決文は、本件の核心であるみなし共同事業要件における特定役員引継要件の論点に移ります。

グループ内合併の適格合併で、支配関係発生後5年以上経過していない場合、繰越欠損金を引き継ぐには「みなし共同事業要件」を満たす必要があります。これには、事業関連性要件+規模要件+事業・規模継続要件を求めるA類型と、事業関連性要件+特定役員引継要件を求めるB類型の2つがあります。

一方、グループ外合併で「共同事業要件」を満たす適格合併の場合、繰越欠損金の引継ぎも認められます。これには、事事業継続要件や従業者引継要件等、みなし共同事業要件とは異なる要件も含まれています。

この点、裁判所はこう判事します。

『共同で事業を営むための適格合併等については,法57条2項により,未処理欠損金額を引き継ぐことが認められているが,その場合は,役員引継要件のほか,従業者に関する要件,事業の継続に関する要件などの充足が求められているのに(法2条12号の8ハ,施行令4条の2第4項),みなし共同事業要件においては,特定役員引継要件のみで足りることとされ,この点でも具体的事情如何によっては均衡を欠く場合も生じ得ることからすると,特定役員引継要件を形式的に適用するだけでは,課税の公平を実現することができないおそれがある』

え?共同事業要件とみなし共同事業要件は敢えて異なる規定振りなのに、そうなるんですか。。

そして判決の最も重要な部分が次の6要件でしょう。

『みなし共同事業要件に係る特定役員引継要件が,特定役員引継要件に形式的に該当する事実さえあれば,組織再編成に係る他の具体的な事情を一切問わずに(すなわち,例えば,①特定資本関係発生以前の時期における当該役員の任期,②当該役員の職務の内容,③合併後における当該役員以外の役員の去就,④合併後における事業の継続性や従業員の継続性の有無,⑤合併により引き継がれる事業自体の価値と未処理欠損金額との多寡,⑥被合併法人と合併法人の事業規模の違いなどの事情を一切問わずに),未処理欠損金額の引継ぎを認めるべきものとして定められたとはいえず,特定役員引継要件に形式的に該当する事実があるとしても包括否認規定を適用することは排除されないと解することが相当である。』

このような事情を総合勘案して『合併の前後を通じて移転資産に対する支配が継続しているとはいえず,同号の趣旨・目的に明らかに反すると認められるときは,法132条の2の規定に基づき,特定役員への就任を否認することができると解すべき』

これは相当キツイと思います。

①②はよくわかります。まさに特定役員が形式的な場合ですよね。

③はどうなんでしょう。特定役員が引き継がれていても、他の役員が全員辞めたらアウトなのか。

④⑥は個別規定をあまりにもひっくり返し過ぎでは?B類型のみなし共同事業要件で求められてもいない要件ですけど。

そして⑤。これは酷くないですか?繰越欠損金が大きいと否認するとでも??

ちょっと踏み込み過ぎな感じがします。

ただ、同時にこのような見解も示されています。

『個別否認規定が定める要件の中には,法57条3項が定める5年の要件など,未処理欠損金額の引継ぎを認めるか否かについての基本的な条件となるものであって,当該要件に形式的に該当する行為又は事実がある場合にはそのとおりに適用することが当該規定の趣旨・目的に適うことから,包括的否認規定の適用が想定し難いものも存在することは否定できない。』

なるほど、5年経過していれば、さすがにそれを包括否認はしないと。

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ということで、前編はここまでです。

続きは後編で。