Accounting, Tax and M&A -15ページ目

Accounting, Tax and M&A

会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


アリババの上場申請(Form F-1)が公表されました。

343ページというボリュームなのでとても詳細見切れませんが、ちょっと覗いてみたところを簡単に纏めておきます。

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まずはアリババグループの出資構成(中国のVIEストラクチャー)について。

そういえば、こういうのありましたね。

今回上場するアリババグループの親玉は、ケイマン法人のAlibaba Group Holdings Limited(以下、Alibaba HD)です。ソフトバンクが約37%株式を保有しているのはこのAlibaba HDです(F-1では、諸々のdilutionを勘案して34.4%とされています)。

TaobaoやTmallについては、Alibaba HDの傘下の香港持株会社(Taobao Holding LimitedとTaobao China Holding Limited)を経由して、中国のTaobao (China) Software CoやZhejiang Tmall Technology Coといった子会社に辿り着きます(これらの中国子会社はwholly-foreign owned enterprise "WFOE"と総称されます)。

但し、中国ではインターネット事業者等に係る外資規制があり、一部業種には外資が50%超出資することが認められていません。

これに対応する方策がVIEストラクチャーと呼ばれるものです。

・・・



(上場申請書より抜粋)

VIEとは、Variable Interest Entityの略称で、米国会計基準では変動持分事業体と訳されているものです。

外資規制の対象となる事業は実際には中国のVIEが行います。VIEの株式は、形式的に中国人株主(アリババにおいては、経営者のJack Ma氏やその関係会社等)に保有されます。

但し、Alibaba HDのWFOEである在中国子会社との契約により、VIEに係る支配権及び配当等の利益参加権は全てWFOEに帰属させることになります。

これにより、Alibaba HDはVIEを会計上、子会社として連結対象としています。

これは、中国の外資規制対象業種を外資が実質的に支配する手法として、一般的に採用されているものだそうです。この点、中国でのリーガルリスクについてもF-1で触れられています。(詳細は後述)

また、F-1によれば、AlibabaのVIEストラクチャーは一般的な他社事例とは異なり、本当に外資規制の対象となる部分以外の事業や資産保有を実際にWFOEで行っているとのこと。また、WFOEはVIEとの包括的技術支援契約により、VIEは税前利益のほぼ全額を税前段階でWFOEに支払う形になっています。

従い、VIEにはほとんど税前/税後利益は残らず、利益やCFは全てWFOEに残る形になります。

尚、F-1からははっきりしませんが、中国でAlibaba.comや1688.comといった事業を行っているWFOEはAlibaba (China) Technology Coで、その親会社は香港ではなく在BVIのAlibaba.com Investment Holdings Limitedという法人のようです。

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次に、税務上の取扱いです。

前回アリババを取り上げた記事では、米ヤフーの10-Kに記載されているアリババの業績で、法人税率が低い(10%程度)点に注目しました。

その理由は、極めて単純に、中国での優遇税制だったようです。

上記のWFOEは、各々High and New Technologyや、Software Enterprise、Key Software Enterprise等のステータスで優遇税率が適用されています。中国の法人税率は25%ですが、これらのステータスにより、法人税率15%や10%、2免3減(利益計上後2年は免税、その後3年は50%免税)等となっています。

一方、面白いのは、Alibaba HDの連結財務諸表上、中国WFOEが稼いだ税後利益は、全て将来的にAlibaba HDまで配当される前提で繰延税金負債を計上している点です。

よく米国企業では、海外利益は永久に海外で再投資に回すという戦略を元に、海外子会社の未分配利益に対して税負債を計上しないようにしていますが、Alibaba HDは配当前提にしているんですね。(今後、変更の可能性もあるとのことですが)

ただ、実際に現時点で配当しているわけではないようですが。

ちなみに未分配利益に対する税負債の計上については、中国における配当の源泉税率は10%のところ、主なWFOEは香港持株会社経由の投資となっており、中国/香港の租税協定に基づき5%の税率で計算されています。(Alibaba.comはBVI経由と思われるので10%だと思いますが、F-1からは確認できません)

尚、香港やBVIからケイマンへの配当は、いずれの国においても税金は発生しません。

さらに税務については、ケイマンのAlibaba HDやその香港子会社等が、中国税務上、中国居住者として取り扱われるリスク及びその影響についても記載されています。(詳細はとりあえず割愛)

・・・

最後にコーポレートガバナンス的な話です。

Alibaba創業者のJack Ma氏を中心としたメンバーで、Alibaba Partnershipなるものが組成されています。

そして、定款上、このPartnershipはAlibaba HDの取締役候補の過半数を指名する権利を有しており、また大株主であるソフトバンクと米ヤフーは株主総会でこの役員選任に賛成票を投じる義務を負う契約を締結する予定とのこと。

Google等でよく用いられている種類株式の活用ではなく、Partnershipによる取締役過半数の確保により、経営支配の継続を行う仕組みというわけです。

ちなみにソフトバンクは引き続き30%以上の株式を保有する予定で、但し、30%を超える議決権は信託を介して経営者のJack Ma氏に付与、また15%以上を保有している間は取締役1名を指名する権利を得るようです。

・・・

ということで、今回はここまでです。

前回の記事でも米ヤフーの絡む資本政策等について書いてましたが、ここについては別途答え合わせをしたいと思います。

(ちなみにソフトバンクの保有株約8億株というのはドンピシャでした)



(5/8補足)

ちょっと細かいですが、VIEストラクチャーに係る契約関係を整理しておきます。

①融資契約:WFOEからVIE株主への無利息融資により、VIE株主はVIEへの出資を行う。WFOEはいつでも早期返済を要求することができ、その場合、融資額面でVIE株主からVIE株式を買い取る。

②コールオプション契約:WFOEはVIE株主からVIE株式を払込資本額面で買い取る権利を有し、またVIEから保有資産を簿価で買い取る権利を有する。また、WFOEは、VIEが行う配当その他の分配及びVIE株主がVIE株式の譲渡により得た対価の内払込資本を上回る額を受け取る権利を有する。

③委任契約:VIE株主はWFOEが指名する者に対してVIEに係る権利行使を委任する。

④株式担保契約:VIE株主はWFOEからの借入に係る担保としてVIE株式を供する。

⑤包括技術支援契約:WFOEによる技術支援の対価として、VIEは税前利益のほぼ全額をWFOEに支払う。

これらの契約により、VIEのリスクと経済価値及び支配権をWFOEに移転させているわけです。

但しいずれも、中国法制上認められる範囲でという限定が付きます。

この点、中国の法律専門家であるFangda Partnersの見解がF-1に記載されています。

①VIEストラクチャー及びWFOE/VIE/VIE株主間の各種契約は、現時点においては中国の法規制に準拠しており有効である。

②但し、中国の法解釈には重要な不確実性があり、将来において中国当局が違法との見解を示す可能性があり、その場合、事業停止等に追い込まれるリスクがある。

不確実性の程度は何とも言えませんが、投資家はこのリスクを認識した上でアリババ株式に投資する必要があるわけですね。

取り敢えず補足はここまでです。



ヤフーとブックオフが資本業務提携を発表しました。

ヤフオクとブックオフのコラボはビジネス的にも面白そうですが、このブログでは張り切って会計の論点を見てみます。

ちなみにブックオフ株価は公表翌日にストップ高。市場はかなり好感してるようですね。

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今回、ヤフーが引き受けるのは、ブックオフの新株3.1百万株@702円の総額22億円と、転換社債型新株予約権付社債77億円(転換価格@751円で10.3百万株相当)で、合計99億円がブックオフに払い込まれます。

ブックオフの現在の発行済株式総数(自己株除く)は17.6百万株。増資後で20.7百万株になり、その内ヤフーの持分比率は15.0%になります。

この15.0%はヤフーが持分法を適用できるように設定したとのことで、ヤフーからの2名の役員派遣も含め、重要な影響力ありという判定になっています。

新株発行の702円は公表前日終値の751円より6.5%のディスカウント、転換価格は前日終値ベースです。ディスカウントは10%以内なので有利発行の問題はなし、希薄化率が25%以上ということで第三者委員会からオピニオンを取得しています。

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この転換社債は満期2018年12月で利息なし。転換権の行使は、2018年3月期までにブックオフの連結営業利益が22億円を超えたら45%、27億円を超えたら100%まで行使できるという仕組みです。

つまり現時点では行使できません。なかなか面白いですね。

100%行使された場合、ブックオフは10.3百万円の新株を発行し、ヤフーの持分比率は43.2%になります。

ブックオフの連結営業利益は、2013/3期19億円、2014/3期21億円です。会社計画ではその後15億円、15億円、28億円、37億円ということで、3年後に行使要件が満たされる想定です。

まあ無茶な水準とは思えませんし、最悪、今回の99億円の資金は設備投資に回すようなので、一度減損すれば減価償却費が減って営業利益をかさ上げすることも出来るかも知れません。

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それはさておき。

ヤフーはIFRSへの移行を公表していますが、この投資をどう会計処理するのでしょう。

まず普通株式については、重要な影響力があるということで持分法適用です。

ざっくり計算すると、ヤフーの取得価額22億円に対し、ブックオフ純資産持分は23億円程度(13/12末純資産146億円からBS上の暖簾及び保証金の時価簿価差額約14億円を控除し、増資による払込22億円を加算して、持分15%を乗じて計算)。ほぼ純資産ベースでの取得で、1億円くらいは負の暖簾が出るかも?くらいな感じです。

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次に転換社債の取扱いです。

ここがややこしいですが、ヤフーがIFRSの適用上、IFRS9号を早期適用するか、現行のIAS39号を適用するかで処理が変わってきそうです。

IFRS9号の場合、組込デリバティブは区分処理されず、転換社債を一体として会計処理を行います。

そして、いわゆるSPPIテスト(元本及び利息の回収のみを目的としているかどうか)を満たせないことから、常に時価評価して評価差額をPL認識するという処理になります(FVPL)。

ブックオフの事業が好調に推移すればするほど、利益の増加によって転換権の行使可能性が高まり、また株価の上昇により固定価格での普通株への転換が有利になることから、転換社債の価値も高まるものと思われます。

一方、IAS39号の場合、社債部分と転換権部分に密接な関連がないことから区分処理になるものと思われます。転換権部分はデリバティブとして時価で認識され、社債部分は発行価額と転換権の差額(同時に通常の社債利率で割り引いた現在価値ベースを意味する)で認識されます。

その後は、社債部分は償却原価法に従って一定の受取利息を認識し、一方、デリバティブ資産はFVPLになります。

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そして転換時の処理です。

おそらく営業利益27億円を達成して転換権が100%行使可能になった場合、潜在議決権が43.2%になり、且つ上場会社で他の大株主が存在しないことから、いわゆるde facto control(事実上の支配)として、転換権を行使していなくてもブックオフはヤフーの連結子会社に該当するものと思います。

子会社になる場合は既存の持分の時価評価損益も認識されることになります。

一方、営業利益22億円で転換権の45%が行使可能な場合は、潜在議決権は30.5%で、依然として持分法と思われます。この場合は、転換権を行使した部分のみ、持分法投資の追加取得として処理されるものと思われます。

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ということで、更に細かく書き始めると面倒なので、今回はここまでです。

税務的にはあまり論点もなさそう。

ちなみにブックオフの株価は公表前の4/24終値751円に対し、翌日はストップ高、その翌営業日の4/28は最高値1,003円まで記録し、終値は887円で落ち着きました。

2014/3期EBITDAベースのEV/EBITDAマルチプルで、751円で6.1倍、1,003円で7.1倍、887円で6.6倍というところ。

妥当な水準でしょうけど、もう少し上がってもいいかも知れませんね。




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前回のエントリーで書いた三井造船の昭和飛行機工業のTOB/子会社化による負の暖簾ですが、両社の決算短信が公表されましたので、簡単に答え合わせです。

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昭和飛行機の子会社化に係るみなし取得日は2014/3末とのこと。

三井造船の開示によれば、この時の昭和飛行機の簿価純資産303億円に対し、時価純資産は1,218億円だそうです。

前回のエントリーでも時価純資産1,179億円としていたので、まあそんなもんですね。

含み益は固定資産がほとんど。三井造船のBSの変動からして主に土地のようで、含み益は約1,450億円といった感じ。

これに対し、税負債が500億円程度計上されています。こちらも三井造船のBSの変動からして、ほとんどが税負債。税率も36%くらいの計算なのでちょうどいい感じです。

2013/3末の昭和飛行機の開示では、賃貸不動産の含み益が677億円とのことでしたが、(賃貸不動産に限りませんが)2014/3末では1,450億円もの含み益になっていたのですね。

まあ、この時価が正しいのであれば、負の暖簾の金額はもちろん納得です。

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しかし、時価純資産1,218億円に対し、TOB価格ベースでも時価総額538億円。

これだけ賃貸等の不動産の時価が高いってことは、賃料等の収入も高いはずなわけで(マイナス評価になるような不利な契約もないようですし)、Valuationの水準の妥当性はどうなの?という気もせんでもないですね。

ということで、簡単ですが、この辺で。

三井造船が持分法投資先だった昭和飛行機工業をTOBにより子会社化しました。

これに伴う段階取得による利益57億円、負の暖簾297億円を特別利益に計上し、2014年3月期の純利益予想を70億円から420億円に引き上げたとのこと。

面白そうなので開示資料を見てみましたが、ちょっと不自然な感じなんです。

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まずはTOB前の状況から整理しましょう。

三井造船は昭和飛行機工業(昭和)の株式を5.1百万株(持分16%)保有し、また議決権を留保している信託株式が5.1百万株あり、議決権比率32%を確保して持分法投資としています。

この信託株式の会計処理は不明ですが、有報によれば、時価のある関連会社株式について、2012/3末の時価が27億円、2013/3末の時価が52億円と開示されています。各々のタイミングの昭和の株価は546円、1,033円でしたので、割り算すると株数は5.1百万株になります。

つまり、関連会社株式として会計処理されているのは直接保有分のみと考えられます。(信託株式については受益権を有していないということなんでしょうか。。)

さて、この2013/3末の関連会社株式の連結簿価は29億円と開示されています。

2013/3末の昭和の純資産は261億円、三井造船の持分でも42億円だったはずなので、株価が低迷していたタイミング(2012/3末)で減損を行っていたのかも知れません。

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そして今回のTOBです。

TOBによる買付は上限10百万株で、応募のあった17百万株から比例按分により買取を行いました。この中には昭和による自己株式の処分も1.8百万株含まれています。

TOBの単価は1,650円。TOBを公表した1月29日の終値に対し45%のプレミアムです。

この結果、TOB総額は165億円で、三井造船の保有株数は15百万株で持分比率46.4%、議決権比率で62.1%になりました。これでめでたく連結子会社になったわけです。尚、連結子会社になったのはTOB対価の支払いが開始された3月24日付とのことです。

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では、段階取得の利益をみてみましょう。

これは、既存の持分法投資が子会社化に伴って時価評価されるものです。

持分法投資の簿価は2013/3末で29億円、2014/3末の予想で30億円になります(昭和の純利益予想等を踏まえ)。その内、4億円分はいわゆる有価証券評価差額等のPL計上されていない金額なので、時価評価損益の計算上の簿価は26億円と思われます。

一方、時価はというと、3月24日の市場株価1,199円をベースに計算すると62億円。時価評価益で36億円です。

あれ、開示資料の57億円より小さいですね?

では、時価をTOB単価の1,650円で計算してみると85億円。時価評価益で59億円になります。

なるほど、これなら開示資料の57億円と近いですね。普通ならあくまで支配獲得時の時価なので3月24日の株価を使用すべきな気がしますが、どうなんでしょう。

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そして何といっても不自然なのは負の暖簾です。

時価評価後の子会社株式の簿価(取得価額)は、既存持分85億円とTOB取得分165億円の合計250億円です(46.4%相当)。

負の暖簾が計上されるということは、昭和の時価純資産はこの時価評価後の簿価ベースより高いことになるのですが、2013/12末の昭和の純資産は100%ベースで282億円、TOBによる資本払込みを踏まえても300億円程度です。

三井造船の持分46.4%ベースで139億円。

あれ、むしろ正の暖簾が111億円発生する計算です。

にも拘わらず、開示資料では負の暖簾が297億円。

これが正しいとすると、三井造船の時価純資産持分は547億円、昭和の時価純資産は100%ベースで1,179億円になってしまいます。だって、時価総額391億円(3月24日時点)、簿価純資産300億円の会社ですよ?

ちょっとありえない感じなんですよね。

何らか時価で認識すべき無形資産があるとしても、この水準は異常です(税効果後で900億円の無形資産??)。

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ということで、依然として頭がモヤモヤしています。

もちろん開示資料が間違ってるわけじゃないでしょうし、僕が重大な何かを見落してるんでしょうか。。(だったら恥ずかしいんですが)

本件は今後の開示資料を踏まえてまた検証したいと思います。




(4/24追記)

さて、やはりお恥ずかしい話でしたということで、ブログをご覧頂いた方から早速ご指摘を頂きました。(ありがとうございます!)

昭和の有報の賃貸等不動産の注記によれば2013/3末時点の含み益が667億円あるようです。

あれ、そんなのあった?ということで手元の有報を見返しても見当たらず、再度別のサイトから有報をDLしたところ、ちゃんと注記がありました。

元の有報はなんなの??まあ何言っても言い訳なので、はい、すいません。

で、この含み益667億円から時価評価差額に対する税負債236億円(税率35.6%前提)を控除し、三井造船持分46.4%を乗じると199億円になります。

この賃貸不動産の含み益なしでは111億円の正の暖簾でしたので、この199億円を考慮すると、負の暖簾は88億円です。

開示資料では297億円なのでまだ三井造船持分で209億円(昭和100%で450億円)足りません。

まあ、この不動産の時価は2013/3末時点なので、その後時価が上昇している可能性もありますけどね。

ということで、引き続き注視してみたいと思います。

ちなみにこの賃貸不動産の内、賃貸用施設が簿価270億円に対して含み益523億円になっています。このセグメントの減価償却費は▲11億円ですが、これを時価で認識すると当然減価償却費もかなり増えます。

ざっくり按分計算すると、年間の減価償却費は▲18億円程度増加する感じです。昭和の2014/3期の営業利益は20億円なので、ちょうど営業利益が吹っ飛ぶようなインパクトになりますね。

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いやいや、しかしやっぱりこの見落しはお恥ずかしい限りなので、ついでにもう少し追記します。

三井造船の保有している信託株式は退職給付信託ということで、ここの会計処理をもう少し考えてみました。

三井造船の退職給付債務は2013/3末で103億円ですが、188億円が未認識で、BS上は85億円の資産サイドになっています。

年金資産は356億円で、その内、330億円が退職給付信託の資産です。

この信託資産の中に昭和の株式も(関連会社株式とは別に)含まれるわけですが、昭和が子会社となった場合に、退職給付信託内の昭和株式はどう取り扱うのでしょう?

この点、会計基準上の明確な規定はないと思いますが、ASBJの退職給付に関する会計基準の適用指針が参考になります。

この中で、子会社株式を退職給付信託に拠出する場合の連結財務諸表上の処理として、①子会社判定の議決権には引き続き含める、②信託への拠出に伴う信託設定益はなかったものとする、③拠出した株式の持分について親会社持分比率は減少する、とされています。

これって、色々と疑問があります。

既存の子会社株式の一部を信託に拠出した場合、年金資産として受け入れる金額はどのベースで(連結決算上の簿価?時価?)、時価なのであれば売却に伴う差額はどう処理するのか(一部売却の扱い?でも②と合わない?)、連結簿価なのであれば年金資産の期末評価の差額は年金数理差異?

ただ、おそらくは退職給付信託に拠出した子会社株式は親会社持分ではなくなるということで、時価による一部売却として処理すべきものと思われます。

今回の事例は、もともと信託に拠出していた株式が子会社株式になった事例ですが、上記の整理を当てはめると、もともと信託株式は三井造船による昭和への持分として認識されていないことから、子会社化に伴う時価評価(段階取得利益の認識)は行わず、引き続き年金資産の一部として時価で認識されるものと考えます(評価差額は年金数理差異)。

悩ましいですが。

ということで、とりあえず追記はここまでです。



第一三共がインド上場子会社で後発医薬品大手のランバクシーからExitするようです。

巨額の買収案件が大失敗に終わったということで大きく報道されています。

ということで、早速、会計・税務を中心に開示資料を見てみました。

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第一三共がランバクシーの株式を取得したのは2008年11月。公開買付、創業者一族からの買取、増資引受けにより株式を取得して子会社化。総額1,980億ルピー、円ベースで4,884億円(取得費用30億円を含む)を支払いました。

ランバクシーは上場を維持し、現時点での第一三共の出資比率は約63.5%です。

第一三共は買収したその2009年3月期にランバクシー株の下落を受け、暖簾の減損3,513億円を認識。単体での株式評価損は4,024億円で、単体簿価は859億円になりました。

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さて、今回のExitは、同じくインド上場の後発医薬品大手サン・ファーマシューティカル(サン)との株式交換の形を取ります。

まずは時価総額を見ると、案件公表前の4月4日終値ベースで、サンは1兆1,840億ルピー(現在のルピー/円レート1.71で約2兆円)、ランバクシーは1,940億ルピー(約3,300億円)です。時価総額の規模としては、ランバクシーはサンの15%程度の存在というわけです。

株式交換では、ランバクシー株主に対し、ランバクシー株式1株当り、サン株式0.8株が交付されます。4月4日終値がサン572ルピー、ランバクシー459ルピーなので、ほぼ市場株価の比率通りの仕上りです。(開示資料では、ランバクシーの過去30日や60日の平均株価に対して18%~24%のプレミアムとか書かれてますが。)

ちなみに案件公表後の4月7日の終値でサンの株価は587ルピーに上昇しました。

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では、第一三共の受け取るサン株式はというと、現在保有しているランバクシー株268百万株がサン株215百万株となり、これに株価587ルピーを乗じると1,262億ルピー(約2,159億円)になります。(株式交換後のサンへの出資比率で約8.9%相当)

当初の出資額は4,884億円でしたから損失額で2,725億円、下落率で56%ということになります。

かなりの金額です。

ちなみにルピー建では、当初出資額の1,980億ルピーから1,262億ルピーということで下落率は36%。ということは、為替もかなり悪影響を及ぼしていることになります。

2008当時のルピー/円レートは2.45、現在のレートが1.71なので、アベノミクスで多少持ち直したとはいえ、かなり円高になっていたということです。

その結果、円ベースでの価値下落が大きくなってしまったわけですね。ざっくり、2,725億円の損失の内、半分くらいは為替の影響といっても過言ではないかも知れません。

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とはいえ、かなりの損失なわけですが、会計インパクトはどんな感じでしょう。

連結/単体ともに2009年3月末の減損で簿価は859億円。その後のランバクシーの連結純利益は、累計ベースでほとんど出ていません。なので、仮に現時点での連結簿価も859億円と仮定すると、会計上は今回の株式交換により税前で約1,300億円の利益が計上されます。(実際には株式交換が実施される時の株価によります)

尚、株式交換により子会社化がその他有価証券になりますので、交換による損益が認識されます。(この点、第一三共はこの2014年3月期からIFRSに移行しますが、取扱いは同様と思われます)

これまで認識してきた損失に比べれば、かなりマシなExit Valueと言えるかも知れません。

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次に税務上の取扱いです。

本件はインドという海外での組織再編です。外国の組織再編の日本での税務上の取扱いを纏めた日本租税研究会の報告書によれば、①個々の株主の同意を要しない強制的な株式の交換で、②100%親子関係が生じ、③これらが一回の取引として実現すれば、日本における株式交換と同等と取り扱えるそうです。

詳細は不明ですが、サンの開示資料からすれば、おそらくこの要件を満たすものと思います。

次に、この株式交換が日本で適格要件を満たすかどうかです。

この株式交換は支配関係のない企業同士の株式交換なので、いわゆる共同事業要件を満たせば適格になります。

これも詳細は不明ですが、サンとランバクシーの100%親子関係の継続、事業関連性、規模要件(又は経営参画要件)、ランバクシーの事業継続、従業者継続要件と考えていくと、おそらく満たすことができる可能性が高いのではないかと思います。両社の単体売上や資本金も概ね1:5の範囲内です。また、ランバクシーの株主は50人超なので、旧ランバクシー株主の株式継続保有要件はありません。

とすると、おそらく本件は日本では適格株式交換に該当し、第一三共は、税務上、旧ランバクシー株式の簿価を新サン株式の簿価として引き継ぐものと思われます。

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但し、第一三共は2009年3月期にランバクシー株の評価損を認識した際、税務上もこれを損金として処理しているようです。この時の有報の税効果の開示を見ると、前期にはなかった繰越欠損金に係る税資産が1,000億円ほど登場しており、この原因はランバクシー株の評価損しか考えられません。

とすると、現在の税務上の簿価も会計と同様に859億円。

税務上の簿価859億円を引継ぎ、会計上は今回の株式交換による交換損益を認識して2,159億円になると、将来減算一時時差異が1,300億円発生しますので、これに対しては税負債468億円を計上することになります。

とすると、結局、連結PL上の税後利益は832億円という感じでしょうか。

まあ、これでも第一三共の2014年3月期の連結純利益予想で650億円ですから、けっこうなインパクトですね。

おそらくこの利益は2015年3月期に計上されるのでしょう。サンの株価によって金額は大きく変動しますが。

・・・

さて、最後に全然関係ない話題。

現在日本では、法人税率の引下げと、これに対応した課税ベースの拡大の議論が進んでいます。この課税ベースの拡大の1つとして、租税特別措置法の縮減という話があります。

第一三共の税効果の開示を見ると、連結ベースで、2013/3期の税前利益921億円に対し、試験研究費の税額控除による税率への影響が▲8.4%なので、掛け算すると77億円の税額控除を受けているという計算になりますね。

ま、金額の大小や善し悪しはよくわかりませんが。

・・・

ということで、今回はここまでです。

巨額の海外M&A案件が大失敗に終わったわけですが、その損失の半分は為替の影響、また、会計上はこれまでの損失が大きかった分、けっこうな利益が発生しますね、というお話でした。

ではまた。


(2015/1/31追記)

昨日第一三共の第3四半期決算が発表されました。日経によれば、現在の株価で評価益が3000億円程度になるとのコメントがあったようです。

現時点のサンファーマの株価は918ルピーまで上昇しており、為替は1.89円になってます。

これをベースに計算すると第一三共の持分で時価3,730億円です。元々の試算時点から1,600億円程度増加しています。

評価益は1,300億円としていましたので、今回3,000億円程度とされたのも違和感のない水準です。

むしろ、これ程のインパクトがあるとわかっていながら、今まで対外説明をしていなかったのが、やや問題ありな気がしますね。