ローランドのTOBが成立したようです。
遅ればせながら漸く開示資料を見てみたのですが、このMBOのValuationはかなり疑問ですね。
というのも、DCF評価内容の開示と実際のTOB価格が整合しない感じなんです。
本件は、ローランドの筆頭株主であるローランド芸術文化振興財団(ローランド創業者の梯氏が理事長)とのいざこざも面白いのですが、その話題はさておき。
ということで、纏めてみました。
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まずはMBOの概要です。
ローランドは電子楽器の会社ですが、同社の子会社には、同社が40%出資して実質支配基準により連結子会社としているローランドDG(以下、DG)というコンピュータ機器の会社があります。
両社はともに東証一部上場会社。つまり、親子上場です。
両社の連結業績を見てみると、2014/3期実績のローランドの営業利益78億円の内、DGの営業利益は61億円、非支配株主帰属利益控除前の純利益で比較するとローランドの33億円に対し、DGは43億円ということで、DGを除いたローランドは赤字という状況です。
ということで、本業の電子楽器事業に経営資源を集中する為、ローランドはDGの保有株式の半分をDGの自己株TOBという形で売却し、ローランド自身のMBOの対価に充当するようです。
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もう少し詳しく見てみます。
ローランドの株価は本件公表直前の5/14終値で1,582円、時価総額で351億円です。
今回、TOBを行うのは常若コーポレーションというTaiyo Jupiter Holdings LPが100%出資する日本の株式会社で、ローランドの三木社長が代表取締役を務めます(なので、MBOと。一応、その後三木氏も一部出資するそうですが)。Taiyoは米国の投資ファンド系のSPCです。
尚、Taiyo系のファンドはローランドの8.3%、DGの9.5%の株式を保有する大株主でもあります。
TOB価格は1,875円。終値に対して18.5%のプレミアムが乗っています。このTOB価格に関する疑義は後ほど詳述しますが、取り敢えず続けると、TOBの対象は全発行済株式22百万株、総額416億円になります。(TOB成立の下限の応募数は2/3の15百万株)
この416億円の資金調達については、りそな銀行からの借入で上限が350億円、Taiyoによる出資が上限112億円です。
350億円のローンは3つのトランシェに分かれており、ブリッジが90億円、6年間分割返済のタームローンAで60億円、6年後一括返済のタームローンBで175億円です。
常若コーポレーションは、TOB後、全株取得条項付種類株を活用して少数株主をスクイーズアウトし、最終的にローランドと合併するということで、典型的なLBOのスキームです。
このブリッジローンの90億円は、ローランドとの合併後、ローランドがDGの自己株取得TOBに応じたことで得る現金で返済するものと思われます。なので、416億円の内、ローンが350億円というとかなり高いD/Eに思えますが、実際にはすぐにある程度の返済が見込まれてるわけですね。
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では、そのDGの自己株取得を見てみましょう。
DGは5/14終値3,455円、時価総額615億円の会社です。
それに対し、自己株TOBの単価は3,208円と終値比7%のdiscountです。これは、この自己株TOBに他の株主が応募せず、ローランドだけが売却できるよう意図したものです(そのため、ローランドはdiscountを受けざるを得ない)。
結果、見事に応募した株主はローランドだけで、ローランドの保有株7百万株の半分が総額114億円で取得されました。
ローランドは税務上、繰越欠損金を抱えている状態ではありますが、この自己株取得に係るみなし配当は益金不算入なので、節税メリットを享受しているものと思われます。
DGは2014/3期で手元現金116億円を抱え、net debtはマイナス114億円(現金超過)という状況です。時価総額615億円からnet debtを差し引いた事業価値で501億円、EBITDA73億円とのマルチプルで6.8倍という評価です。
まあまあ、そんな違和感もありませんし、自己株TOBに係るdiscountも特に変な水準ではないものと思います。
ということで、自己株TOB後、ローランドはDGの持分25%を保有する形となり、Taiyo系ファンドの保有する11.8%を加えても議決権は40%未満で、持分法投資ということになります。(持分比率は自己株取得によって分母の株数も減少しますので)
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さて、本題のローランドのTOB価格です。
TOB価格1,875円ベースで、ローランドの時価総額は416億円、これにnet debtの▲195億円(現金超過)と非支配持分194億円(大半がDGの60%株主持分)を調整した事業価値で416億円、EBITDA100億円とのマルチプルは4.2倍になります。
低い評価ですね。
前日終値ベースで計算するとマルチプルは3.5倍ですので、一応、プレミアム分、上昇はしていますが。
しかし、ここで注意が必要なのは、ローランドの連結財務数値の大部分を占めるDGが、今回の自己株TOBによって連結から外れ、持分法投資になる点です。
この点、買収者側が起用したKPMG FASやローランドが起用した第三者評価機関のアミダスパートナーズも当然考慮しています。DCFによるValuation上、DG株式の価値は自己株TOB価格ベースとし、ローランドのFCFはDGを除いた電子楽器事業のみとして算出したとのことです。
では、それにならって検証してみましょう。
TOB価格ベースのローランドの株式価値416億円から、DG株式の自己株TOB価格ベースの価値228億円を控除すると、残った純ローランドの株式価値は188億円になります。
net debtのマイナス(現金超過)はローランド195億円の内、DG連結分の114億円を引いて81億円です。また非支配持分は、ローランド連結BS上の簿価194億円から、DGの株主資本の60%相当である178億円を控除して16億円になります。
これらを調整すると、純ローランドの事業価値は、188億円-現金超過81億円+非支配持分16億円で123億円になります。
EBITDAは、ローランドの100億円からDGの73億円を控除した純ローランドで26億円、マルチプルは3.5倍しかありませんね。
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ここで、もう一度開示資料を見てみます。
KPMG FASが最も重視したというDCF評価のレンジは1,718円~2,086円、これを検証したアミダスパートナーズのDCF評価レンジは1,779円~1,994円で、いずれもTOB価格1,875円はレンジの真ん中当りに位置します。
DCFの前提となっている連結業績予測値(電子楽器事業のみ)は、2014/3期からの3期のFCFが8億円、14億円、24億円(但し、2014/3期は3ヵ月分)、割引率は9.3%~11.3%、継続価値の算出は永久成長モデルで、永久成長率は0.0%だそうです。
これをベースに、2016/3期以降のFCFは24億円が継続するものとして事業価値を計算すると218億円~263億円、割引率を平均の10.3%にすると238億円になります。
あれ、TOB価格ベースで逆算した事業価値123億円に比べて115億円も高くなりますよ??
更に、この前提は継続保有するDG株式の価値を単価3,208円の114億円と見ていますが、5/15終値の4,040円ベースでは144億円の価値があり、30億円の過小評価です。纏めて売却しようと思えば、今回の自己株TOBのようにdiscountを受けざるを得ない面もあるでしょうけど、通常、25%の株式の評価でそんなdiscountしますかね?
ということで、今回のMBOの対価は、ローランドの電子楽器事業で115億円、DG株式で30億円、合計145億円過小という評価が成り立つように思います。
株式の単価に直すと652円。TOB単価は2,527円でもいいくらい、というわけです。
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ここまでDCFの前提を開示してるわけですから、計算結果がズレるのも変な気がするんですけどねぇ。
まさかDGを連結から外すに当っての非支配持分やnet debtの調整を間違ってるとか?(僕が、かも知れませんが。。)
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ということで、今回はここまでです。
既にローランドのTOBは成立していますが、応募株主は合計82.9%(Taiyo系ファンドも応募)、筆頭株主だったローランド芸術文化振興財団の10.5%と残り6.6%の株主は応募していません。
スクイーズアウトに際して裁判所に価格申立を行う株主もいるでしょうから、まだまだ目が離せませんね。