Accounting, Tax and M&A -13ページ目

Accounting, Tax and M&A

会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


ローランドのTOBが成立したようです。

遅ればせながら漸く開示資料を見てみたのですが、このMBOのValuationはかなり疑問ですね。

というのも、DCF評価内容の開示と実際のTOB価格が整合しない感じなんです。

本件は、ローランドの筆頭株主であるローランド芸術文化振興財団(ローランド創業者の梯氏が理事長)とのいざこざも面白いのですが、その話題はさておき。

ということで、纏めてみました。

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まずはMBOの概要です。

ローランドは電子楽器の会社ですが、同社の子会社には、同社が40%出資して実質支配基準により連結子会社としているローランドDG(以下、DG)というコンピュータ機器の会社があります。

両社はともに東証一部上場会社。つまり、親子上場です。

両社の連結業績を見てみると、2014/3期実績のローランドの営業利益78億円の内、DGの営業利益は61億円、非支配株主帰属利益控除前の純利益で比較するとローランドの33億円に対し、DGは43億円ということで、DGを除いたローランドは赤字という状況です。

ということで、本業の電子楽器事業に経営資源を集中する為、ローランドはDGの保有株式の半分をDGの自己株TOBという形で売却し、ローランド自身のMBOの対価に充当するようです。

・・・

もう少し詳しく見てみます。

ローランドの株価は本件公表直前の5/14終値で1,582円、時価総額で351億円です。

今回、TOBを行うのは常若コーポレーションというTaiyo Jupiter Holdings LPが100%出資する日本の株式会社で、ローランドの三木社長が代表取締役を務めます(なので、MBOと。一応、その後三木氏も一部出資するそうですが)。Taiyoは米国の投資ファンド系のSPCです。

尚、Taiyo系のファンドはローランドの8.3%、DGの9.5%の株式を保有する大株主でもあります。

TOB価格は1,875円。終値に対して18.5%のプレミアムが乗っています。このTOB価格に関する疑義は後ほど詳述しますが、取り敢えず続けると、TOBの対象は全発行済株式22百万株、総額416億円になります。(TOB成立の下限の応募数は2/3の15百万株)

この416億円の資金調達については、りそな銀行からの借入で上限が350億円、Taiyoによる出資が上限112億円です。

350億円のローンは3つのトランシェに分かれており、ブリッジが90億円、6年間分割返済のタームローンAで60億円、6年後一括返済のタームローンBで175億円です。

常若コーポレーションは、TOB後、全株取得条項付種類株を活用して少数株主をスクイーズアウトし、最終的にローランドと合併するということで、典型的なLBOのスキームです。

このブリッジローンの90億円は、ローランドとの合併後、ローランドがDGの自己株取得TOBに応じたことで得る現金で返済するものと思われます。なので、416億円の内、ローンが350億円というとかなり高いD/Eに思えますが、実際にはすぐにある程度の返済が見込まれてるわけですね。

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では、そのDGの自己株取得を見てみましょう。

DGは5/14終値3,455円、時価総額615億円の会社です。

それに対し、自己株TOBの単価は3,208円と終値比7%のdiscountです。これは、この自己株TOBに他の株主が応募せず、ローランドだけが売却できるよう意図したものです(そのため、ローランドはdiscountを受けざるを得ない)。

結果、見事に応募した株主はローランドだけで、ローランドの保有株7百万株の半分が総額114億円で取得されました。

ローランドは税務上、繰越欠損金を抱えている状態ではありますが、この自己株取得に係るみなし配当は益金不算入なので、節税メリットを享受しているものと思われます。

DGは2014/3期で手元現金116億円を抱え、net debtはマイナス114億円(現金超過)という状況です。時価総額615億円からnet debtを差し引いた事業価値で501億円、EBITDA73億円とのマルチプルで6.8倍という評価です。

まあまあ、そんな違和感もありませんし、自己株TOBに係るdiscountも特に変な水準ではないものと思います。

ということで、自己株TOB後、ローランドはDGの持分25%を保有する形となり、Taiyo系ファンドの保有する11.8%を加えても議決権は40%未満で、持分法投資ということになります。(持分比率は自己株取得によって分母の株数も減少しますので)

・・・

さて、本題のローランドのTOB価格です。

TOB価格1,875円ベースで、ローランドの時価総額は416億円、これにnet debtの▲195億円(現金超過)と非支配持分194億円(大半がDGの60%株主持分)を調整した事業価値で416億円、EBITDA100億円とのマルチプルは4.2倍になります。

低い評価ですね。

前日終値ベースで計算するとマルチプルは3.5倍ですので、一応、プレミアム分、上昇はしていますが。

しかし、ここで注意が必要なのは、ローランドの連結財務数値の大部分を占めるDGが、今回の自己株TOBによって連結から外れ、持分法投資になる点です。

この点、買収者側が起用したKPMG FASやローランドが起用した第三者評価機関のアミダスパートナーズも当然考慮しています。DCFによるValuation上、DG株式の価値は自己株TOB価格ベースとし、ローランドのFCFはDGを除いた電子楽器事業のみとして算出したとのことです。

では、それにならって検証してみましょう。

TOB価格ベースのローランドの株式価値416億円から、DG株式の自己株TOB価格ベースの価値228億円を控除すると、残った純ローランドの株式価値は188億円になります。

net debtのマイナス(現金超過)はローランド195億円の内、DG連結分の114億円を引いて81億円です。また非支配持分は、ローランド連結BS上の簿価194億円から、DGの株主資本の60%相当である178億円を控除して16億円になります。

これらを調整すると、純ローランドの事業価値は、188億円-現金超過81億円+非支配持分16億円で123億円になります。

EBITDAは、ローランドの100億円からDGの73億円を控除した純ローランドで26億円、マルチプルは3.5倍しかありませんね。

・・・

ここで、もう一度開示資料を見てみます。

KPMG FASが最も重視したというDCF評価のレンジは1,718円~2,086円、これを検証したアミダスパートナーズのDCF評価レンジは1,779円~1,994円で、いずれもTOB価格1,875円はレンジの真ん中当りに位置します。

DCFの前提となっている連結業績予測値(電子楽器事業のみ)は、2014/3期からの3期のFCFが8億円、14億円、24億円(但し、2014/3期は3ヵ月分)、割引率は9.3%~11.3%、継続価値の算出は永久成長モデルで、永久成長率は0.0%だそうです。

これをベースに、2016/3期以降のFCFは24億円が継続するものとして事業価値を計算すると218億円~263億円、割引率を平均の10.3%にすると238億円になります。

あれ、TOB価格ベースで逆算した事業価値123億円に比べて115億円も高くなりますよ??

更に、この前提は継続保有するDG株式の価値を単価3,208円の114億円と見ていますが、5/15終値の4,040円ベースでは144億円の価値があり、30億円の過小評価です。纏めて売却しようと思えば、今回の自己株TOBのようにdiscountを受けざるを得ない面もあるでしょうけど、通常、25%の株式の評価でそんなdiscountしますかね?

ということで、今回のMBOの対価は、ローランドの電子楽器事業で115億円、DG株式で30億円、合計145億円過小という評価が成り立つように思います。

株式の単価に直すと652円。TOB単価は2,527円でもいいくらい、というわけです。

・・・

ここまでDCFの前提を開示してるわけですから、計算結果がズレるのも変な気がするんですけどねぇ。

まさかDGを連結から外すに当っての非支配持分やnet debtの調整を間違ってるとか?(僕が、かも知れませんが。。)

・・・

ということで、今回はここまでです。

既にローランドのTOBは成立していますが、応募株主は合計82.9%(Taiyo系ファンドも応募)、筆頭株主だったローランド芸術文化振興財団の10.5%と残り6.6%の株主は応募していません。

スクイーズアウトに際して裁判所に価格申立を行う株主もいるでしょうから、まだまだ目が離せませんね。


久しぶりのブログ更新です。

前回のIBM税務訴訟ネタの続きです。

今回は、本件が一連の租税回避行為といえるのかに焦点を当て、当事者の主張を中心に見ていきます。

判決文が膨大なので、個人的に面白かったところを中心にピックアップする形にします。

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まず本件訴訟における争点は、①IBMの一連の行為による法人税の減少が同族会社の行為計算否認規定(法人税法132条)における「不当」なものといえるか、②不当といえる場合に国税当局による引き直し計算が妥当か、③更正理由の附記に違法な不備があるか、の3点です。但し、裁判所は①しか判示していません(=①で不当じゃないとの結論なので、②③は判示する必要がない)。

この①について、国税当局の主張は、日本IBMによる自己株取得はAPHの法人税を不当に減少させており、その評価根拠事実は、APHを持株会社として正当な事業目的がない、APHへの融資は独立間取引とは異なる、本件一連の行為に租税回避の意図が認められるというものです。

但し、これらに対する裁判所の判示内容は、色んな雑誌記事等でも説明されているので、取り敢えず今回は省略し、本件の一連の行為の「不当性」の要件の当りから見てみます。

(判決文からの引用は『』で示します。)

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前回のエントリーで纏めた通り、本件の一連の行為は、2002年4月に米IBMグループが行った日本の資本再編(具体的には有限会社APHを持株会社とし、そこに日本IBMを株式譲渡)、その後2002年、2004年、2005年に日本IBMが行った自己株取得、そして2008年のAPHによる連結納税の開始というのが全体像です。

資本再編の検討を行ったとされる2001年11月から7年もの期間に亘るわけです。

日本IBMはこう主張します。

『当該行為又は計算と直接関係しない事情については、否認対象の行為又は計算の「不当」性評価と客観的,合理的に結びついたもの(当該事実が「不当」性(すなわち、否認対象たる行為又は計算が純経済人として不自然、不合理であること)の評価に原則として結びつくような量的程度の存する事実)に限って考慮することができるというべきであり、その限度を超えて、評価根拠事実として考慮できる「周辺事情」の範囲を客観的、合理的基準なしに拡張して解釈し、否認対象の行為又は計算が純経済人として不自然・不合理であるか否かの判断と客観的、合理的な関連性が認められないような当該行為又は計算に関連する周辺事情を広く評価根拠事実に取り込むことは許されない』

『複数の行為を一連の行為として評価するためには,当該複数の行為が一つの目的を実現するために行われたものであることを要すると解されており,他の裁判例(①山菱不動産事件判決及び②ガデリウス事件判決)においても、事前の計画の存在やそれに基づく複数の行為の実行について、証拠に基づく事実認定を前提として、一連の行為であることが肯定されている。』

『複数の行為を取り出して一体的に評価することが許されるためには,少なくとも3つの基準(①あらかじめ一連の行為として計画されたものであること,②その計画に従って実行されたものであること,③どれか1つが欠けても実行する意味がなく,相互に関連した連鎖的な行為であること)が満たされることが求められると解されるというべきである。』

要するに、本件を法132条で否認するなら、7年間に亘る行為が、予め一連の行為として計画・実行されていた取引でなければならないというわけです。

国税当局はこのように反論しています。

『当該行為又は計算が行われるに至った経緯や目的、その後の状況、当該行為又は計算を行った同族会社と関連会社(同族親会社等)との関係等といった当該行為又は計算に関連する周辺事情も含めて考慮する必要があり、これらを総合して不当性の評価を行うべき』

『不当性の評価に影響を与える具体的な事実は、「否認」の対象となる法人の行為又は計算自体に関する事実に限られるものではなく、その周辺事情も広く含まれると解するのが相当』

関連する周辺事情も総合勘案したいというわけですね。

裁判所はあまりこの点には触れておらず、シンプルにこう記載しています。

『「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められる」か否かを、専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否かを基準として判定し、このような客観的、合理的基準に従って同族会社の行為又は計算を否認する権限を税務署長に与えているものと解するのが相当である』

言うまでもありませんが、本件は同族会社の行為計算否認ですので、ヤフーの裁判のように、組織再編の趣旨に照らしてといった議論はありません。

・・・

繰り返しですが、国税当局の本件に係る主張は、日本IBMによる自己株取得はAPHの法人税を不当に減少させており、その評価根拠事実は、①APHを持株会社として正当な事業目的がない、②APHへの融資は独立間取引とは異なる、③本件一連の行為に租税回避の意図が認められるというものです。

この①~③の主張は、本件を一連の行為としつつも、どこまで一体として評価するのかという当りが曖昧になっています。

日本IBMはこう反論します。

『本件一連の行為に係る被告(※注:国税)の主張及び立証を見る限り、それがあらかじめ一連の行為として計画されたという事実又はある計画又は目的(例えば有価証券の譲渡損の計上という目的)に従って実行されたという事実が,積極的に主張立証されているとはいえない』

『本件一連の行為として、本件株式購入及び本件各譲渡に関して時系列的に行われた複数の行為及び計算を列挙し、これらを総合的に判断して,本件株式購入及び本件各譲渡が通常の経済人として不合理・不自然であると判断しているが、これらの行為を一体的に評価すべき特段の事情は何も述べておらず、これらの行為があたかも税務上の損失を生じさせるために計画的に行われた一体的な行為であるかのような印象を作り出している』

なぜこの議論に拘るかというと、結局、本件を一連の租税回避行為として当初から全てを仕組んでいたという立証は極めて困難であると思われるからです。

むしろ、判決を読む限り、米国IBMの意図は日本から米国への配当/自己株取得等による利益還元に係る日本での源泉税(及び米国で外税控除が取れないことによる二重課税)の回避を目的としたものと思われ、日本で株式譲渡損を利用することは意図していなかったと思われる為です。

日本での源泉税回避を目的としていたという点は、日本IBM側は堂々と主張しています。

『資本構成を最適化した原告(※注:APH)の設置によって,米国IBMの租税上の地位(タックス・ポジション)に起因する国際的二重課税のリスクをより早期に、より確実に排除するという効果が生じており、資金効率の改善は確実に実現している。』

『納税者が、源泉地国課税と居住地国課税との国際的二重課税を回避するための努力は、国際的に事業を展開する企業であれば当然に行っているものであってかかる考慮が合理的な経営判断の範ちゅうに含まれることは明白であり、いわゆる課税ベース(所得課税の対象範閤)を浸食するような「租税回避」とは全く性質が異なるものといえる』

当然、国税側は反論します。

『金融仲介機能としての正当な事業目的であるかのごとく指摘するのは、事業上の合理的な必要性がないにもかかわらず、原告を米国WTと日本IBMとの聞の取引に介在させることにより我が国における税の負担を軽減することが、原告を設置して取引に介在させた唯一の目的であったことを端的に意味し、これを自認するものである。』

・・・

事実、日本の資本再編プロジェクトの検討に関する資料において、IBMが源泉税の軽減ではなく、自己株取得による損失取り込みを意図していたことを示すようなものはほとんど見当らないようです。

例えば、APHの借入金に係る利息について、APHには所得がないので支払利息を払っても損金控除ができないという日本側の説明に対し、米国側は『エイ・ピー・ホールディングス(原告)においては課税所得が一切生じないであろうから、 日本においてかかる損金算入することは我々(米国IBM) の目的ではないと答えた』そうです。

他にも、2002年3月の会議にて、『自己株式譲渡を行うと譲渡損が出ることについての報告がされたことがうかがわれるが、仮に米国IBMがその譲渡損の利用に関心があったとすれば、それをどのように利用するかという議論がなされたという記録が残っていてしかるべきであるところ、そのような議論の記載は全くない』のだとか。

国税側は、同日の会議資料にて、『「自己株式取得の影響」、「源泉徴収税の影響」,「法的文書の影響」、「課税年度に関する問題」、「その他の税務問題」、「連結納税の可能性」及び「コミュニケーションに関する問題」の各標題とともに、各標題に関する議論の要旨が記載されており、これらの標題からも、同日に税務上の諸問題が横断的に検討されていることが明らか』と主張します。

しかし、『自己株式取得が行われた場合の配当等の額(正確にはみなし配当の額)に対する源泉所得税の納付時期と還付時期についての説明が記載されているものの,専ら配当等の額(みなし配当の額)に課される源泉所得税の納付時期と還付時期の関係が議論されているだけであって、自己株式譲渡によって生ずる譲渡損の利用(源泉所得税の縮減)をいささかなりともほのめかすような内容は全く含まれていなし、これらの記載自体は米国IBM側の認識としては、どのような時期に日本IBMから利益還元がなされるかには大いに関心があることがわかる反面,上記の利益還元の結果,原告に生じる譲渡損について何らかの関心を持っていたことを示す記載や,平成15年に自己株式取得を延期することによって上記の譲渡損を利用することができる期聞が1年先に延びるというような考慮をしていることをうかがわせる記載は全くない。』と。

国税側は『有価証券の譲渡損の発生を一切想定していなかったことを意味するものでないことは明白』と言いますが、一切想定していなかったことはないはずだと言っても、ちょっと弱いですよねぇ。

・・・

そして、IBMが当初から本件全体を仕組んでいた立証するのが難しい思うもう1つの理由は、日本における税制改正(連結納税制度の導入、繰越欠損金の繰越期間の延長等)との時間軸からです。

米国IBMが日本再編を承認したのは2001年11月、日本では連結納税制度導入の議論が行われていた頃です。

IBM側の主張です。

『「連結納税制度の基本的考え方」が,政府税調によって了承・公表された(平成13年10月16日)以降においても,連結納税制度の導入に反対する意見が根強くあり、同月17日の時点でも、自民党税調において引き続き連結納税制度導入の是非を議論する旨の報道がされるなど,「連結納税制度の基本的考え方」が公表された時点(同月16日)においては,連結納税制度が導入されるのか,導入されたとしてもそこに記載されたとおりの内容となるのかは,予断を許さない状況にあった。』

『時価評価対象から除外される子会社は「長期にわたって100%子会社となっている法人」との記載があったのみで,「長期」がどの程度の期間を意味するかは全く明らかにされていなかった。』
(※日本IBMが時価評価対象になると巨額の課税デメリットが想定される)

『また,平成13年12月19日に平成14年度税制改正大綱が公表されたが,同大綱においても制度の概要が示されるにとどまり,外国法人の子会社が連結親法人として認められるかどうかは明確でなく,かつ,企業が実際に税制適用の是非を検討するために必要な法令,通達,国税庁による執行方針等は全く未定の状況』

『連結納税制度についての改正内容が具体的に明らかにされた法人税法の改正案の閣議決定及び同法案の国会への提出がなされたのは同年5月10日であった。』

『米国IBMが日本再編プロジェクトを承認した時期は,遅くとも2001年(平成13年)11月である上,米国IBMは,上記の法案が国会で法律として成立し,さらに,その法律を受けて関係施行令,施行規則が全て公布されるまでは,いかなる要件を満たせば連結納税制度を利用することが国税庁長官によって承認されるのか,利用した場合にどのようなメリット・デメリットがあるかを判断するために必要な法令の内容を十分に知ることはできなかった』

『このように,米国IBMが日本再編プロジェクトを承認した時点においては,企業が連結納税制度を利用するかどうかを判断するために不可欠な連結納税制度の具体的な要件及び効果のうち重要な部分が依然として明らかとなっておらず,それを定める法律も成立していなかった上,仮に連結納税承認申請をした場合に国税庁長官の承認を得られることを予測することもできなかったところ,そのような不確実な状況の中で、「将来的に連結納税制度を利用して,本件各譲渡により生じる有価証券譲渡損を連結課税所得から控除する」ためだけに日本に中間持株会社を設置することを決定するというのは,合理的な企業の行動・経営判断としておよそあり得ないというべきである。』

繰越欠損金の繰越し期間についても、

『原告による連結納税の最初の連結期間である平成20年12月期において,平成14年12月期に生じた欠損金が連結繰越欠損金として取り扱われることとなったのは,平成16年度税制改正による欠損金の繰越期間延長及びその遡及適用という改正の結果であって、米国IBMが日本再編プロジェクトを承認した時点のみならず,本件株式購入及び本件各譲渡がされた平成14年においても,予測不可能であったものである。』

『平成14年12月期に発生した株式譲渡損失が結果として平成20年12月期以降に日本IBM等の連結子法人の連結所得金額から控除されているという結果から平成14年譲渡当時の原告や米国IBMの主観的意図を推認するのは,誤った結果論でしかないというべきである。』

長々と引用しましたが、要するに、日本再編プロジェクトを決定した時点で、日本の連結納税制度も決まっていなかったし、結果として子会社化後5年経過していれば連結開始時に時価評価が不要という制度になったところ、2002年に発生した株式譲渡損はその5年経過時点では消滅するはずだったのに、その後の税制改正で繰越期間が延長され、巧く連結納税に持ち込める結果になったというわけです。

これを最初から全て仕組むのは不可能です。

連結納税制度がどんな設計になるかわからないけど、巧く使えたらいいな、くらいの意図はあったかも知れませんが、それで否認するのは無茶でしょう。

むしろIBM側では、連結納税制度の設計が不透明なので、例えば日本IBMにもう1社別の株主を置く等により連結納税から外せるようにしておく、といった議論がなされていたようです。

日本IBMでは、2005年にタックスマネージャーが変わり、新しいマネージャーが連結納税の導入を米国に提案したものの、なかなか承認を得られず、ようやく2007年に承認されたそうです。

この時点では、当然、株式譲渡損を連結納税で利用できると踏んでいたのでしょう。ですが、やはりこれを2001年当時から仕組んでいたというのは無理があります。

ちなみに国税の主張にこんなのがあります。

『日本IBM等の資産の時価評価をした上で平成14年譲渡により生じた欠損金の繰越可能期間内に連結納税の適用を開始するなり, 日本IBMを適格合併するなりして,当該欠損金額を現実に使用し得る蓋然性は存在していたから,上記の原告の主張には,論理の飛躍がある。』

時価評価してでも連結納税を開始できたはず、というのはとんでもない話でしょう。

一方で、合併すれば利用できたはず、というのはその通りだと思います。ただ、元々、一応は事業目的があって持株会社をセットしたわけですから合併する理由がないでしょうし、何より、米国でチェックザボックスができる有限会社が必要だったわけなので、株式会社である日本IBMと合併するわけにはいかなかったでしょうね。

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最後に一応ざっくり纏めておくと、国税当局は、日本に持株会社を設置したことに正当な事業目的がない、日本IBMの取得価額がPwCの評価レンジの中でも高いところでおかしい、融資の条件が独立第三社間のものと掛け離れている、自己株取得の際に当初の株式取得時点から価格の見直しを行っていないのはおかしい、連結納税で株式譲渡損を利用することを一切意図していなかったとまではいえない、等々の主張をしますが、いずれも裁判所には認めてもらえませんでした。

しかも、裁判所の認定も消極的で、例えば「必ずしも合理性がないとまではいえない」といった認定が多い感じです。

国税側は控訴していますが、これを覆すのは難しそうな印象ですね。

・・・

さて、今回はここまでです。

まあ、本件で国税が勝てないのだとすると、平成22年の税制改正が妥当だったということなんでしょうかね。かなりの悪法な気もしてはいますが、やはり本件のような節税を認めるべきではないでしょうし、包括的租税回避防止規定なんかが導入されるよりはマシですし。

本当は、同族会社の行為計算否認と、法制度の濫用の議論も面白いんですが、長くなるので、取り敢えずここまでということで。

さて、ついにIBMの自己株取得/連結納税に係る税務訴訟に手を出すことにします。

東京地裁の判決文は400ページ超もあり、とても1回では書ききれませんので、まず今回は、本件の一連の事実関係と、日本・米国での課税関係を整理したいと思います。

・・・

まず事実関係の整理からです。

(資本再編)

米国IBMが日本IBMの資本再編を行ったのは2002年4月です。

元々、米国IBMは子会社の米WT社を通じて日本IBMを100%保有していましたが、2002年4月に、米WTが日本IBMの株式100%を、米WTが間接的に100%保有する日本の有限会社IBM APH(以下APH)に1兆9500億円で譲渡しました。(この株式譲渡対価はPwCに依頼した評価に基づいて決定され、1株当り127万円です)

これで、APHが在日本の持株会社になったわけです。

このAPHは、1999年に日本のデロイトが設立した有限会社で、それを2002年2月に米IBMグループがデロイトから買い取ったものです。APHには専任の役員や従業員はおらず、いわゆる純粋持株会社です。

株式取得に要する資金調達は、米国親会社からの増資資金1318億円、米WTからの借入1兆8182億円となっています。ちなみにこの借入の利率は0.6344%です。

(利益還元)

その後(その前からですが)、日本IBMによる株主への利益還元として、2002年12月に2130億円、2003年12月に229億円、2005年12月に1940億円の自己株取得が行われました。この自己株取得も、資本再編の時と同様に1株127万円で行われており、詳細は後述しますが、これによってAPHにおいて税務上の株式譲渡損失が合計3996億円発生しました。

またこれとは別に、2003年3月に196億円、2004年3月に154億円、2005年3月に164億円の配当を行い、その後も配当を続けています。

(連結納税)

そして、日本IBMはAPHを連結親法人として2008年12月期から連結納税を開始しました。(その他にも連結子法人は10社程度あり)

APHは持株会社で所得がないので、株式譲渡損失約4000億円が繰越欠損金になっていたところ、この連結納税によって、日本IBMの所得(年間1000億円程度)と相殺できるようになりました(2011年12月期に消化完了)。

そして、2010年から2013年にかけて、国税当局より株式譲渡損失による繰越欠損金の控除が認められず、更正処分等を受けたわけです。尚、適用されたのは法人税法132条の同族会社の行為計算否認の規定で、この間のヤフー(132条の2の組織再編の行為計算否認)とは異なります。

・・・

続いて、本件の日本・米国における課税関係を見てみましょう。

(米国の課税関係)

これは色々と疑問だったのですが、今回の判決文でかなり明らかになりました。

2002年の再編以前のストラクチャーでは、米国法人の下に日本IBMがぶら下がっていました。従い、日本IBMが米国親会社に配当する際、日本では10%の源泉税が掛かっていました。(当時の日米租税条約に照らし、源泉税の制限税率は10%)。

本来、源泉徴収されても米国側で外国税額控除を取れれば、実際に税負担(二重課税)は生じないわけですが、米国IBMには十分な控除枠がなく、2002年時点で22億ドルの税額控除の繰越しが発生していたとのこと。

どうやら、米国IBMの日本IBMの資本再編を行った動機はここにありそうです(源泉税による二重課税の回避)。

そして、デロイトから取得したAPHを日本親会社にしたわけですが、問題は米WTにおけるキャピタルゲイン課税です。売却価額は1兆9500億円、税務簿価は不明ですが、かなりの売却益のはずです。この点、APHは有限会社(会社法施行後は特例有限会社)で、米国税法上、チェックザボックスの規定により、法人ではなく、支店として取り扱うことが可能です。

従い、米WTからAPHへの日本IBM株式の売却は、米国税務上は、米WTという同一法人内で本店から支店に株式を移管したに過ぎず、キャピタルゲインは認識されない(正確には課税繰延べになる)わけです。

なので、日本IBMの資本再編は米国では課税されていないようです。

その後、日本IBMは配当/自己株取得による株主還元をAPHに対して行っていますが、逆に、この部分は米国においては米国法人(の支店)が配当等を受けた形になります。自己株取得についても、その出所が日本IBMのE&P(Earnings and Profit)の範囲であれば配当として扱われるようです。

ですので、再編後においても米国では配当として課税対象になります。

但し、日本においては日本親会社であるAPHへの配当となる為、配当に係る源泉税は、日本において所得税額控除として100%の控除(或いは還付)を受けることができます。なので、米国IBMとしては、少なくとも日米での二重課税の状態を回避することができたわけです。

尚、APHは配当/自己株取得によって現金を受領し、それをそのまま米WTへの借入金の返済に充当しています。APHは米WTに利息も支払う必要があり、この部分には日本で源泉税が生じますが、金利率は0.6344%という超低利な設定になっていました。

それと、日本IBMによる自己株取得は2002年、2003年に実施された後、2004年には実施されず、また2005年に大きな金額で実施されています。

これは米国で時限立法として導入されて雇用創出法に基づき、2005年に米国法人が海外から受け取った配当について85%非課税とされた為です。従い、2004年は自己株取得を見送り、この特例の適用を受けられる2005年に回したようです。

補足ですが、2004年の改正日米租税条約では、50%超の親会社に支払う配当については源泉税が免除されることになりました。ですので、結果的には米国IBMの二重課税はこれで救われていたはずです。(ただ、この点は判決文では触れられていません)

ここまでが米国での課税関係です。

(日本の課税関係)

続いて、日本での課税関係に移ります。

2002年4月の資本再編は、日本においてはAPHが米WTから日本IBM株式を1兆9500億円で取得したというものです。米国でのチェックザボックスに拘わらず、当然ながらAPHは日本では法人課税の対象で、日本IBM株式の簿価は取得原価ベースです。

これは、事実上、米国で課税されることなく、日本IBM株式の簿価をステップアップさせたような状況になります。

そして、その後、APHは日本IBMに自己株取得をさせます。

自己株取得によって日本IBMからAPHに支払われる対価は、日本IBMの税務上の1株当りの資本金等の額は株式譲渡の対価とされ、残り(=利益積立金から支払われる部分)は受取配当金として取り扱われます。

受取配当金は親子間なので原則非課税です。もちろん第一回目の自己株取得は資本再編から6ヶ月以上経過しており、保有期間要件もクリアしています。

日本IBMの1株当りの資本金等の額は9万円程度です。また、自己株取得の単価は、当然時価ベースですが、資本再編を行った際の外部評価127万円をその後も継続使用しています。

すると、1株の自己株取得によって、APHでは118万円の株式譲渡損失と受取配当金が税務上認識されるわけです。

仕訳イメージはこうです。
現金 9万円 / IBM株式 127万円
譲渡損 118万円
現金 118万円 / 受取配当 118万円

その結果、APHでは2002年に1982億円、2003年に213億円、2005年に1801億円の株式譲渡損失が発生していました。すごい金額ですね。

尚、受取配当金に対しては源泉税が生じますが、APHにおいて全額還付が受けられますので、実質的に負担はありません。

ちなみに、日本IBMの担当者は2002年に、自己株取得の単価を間違えて31万円で当初計算をしていた事実が認定されています(その後に決議を修正)。この事実は、IBM側に租税回避の意図がなかったと裁判所が判断した根拠の1つになっています(その意図があったら計算を間違えないし、取締役会等でも気付くはず)。

そして連結納税です。

日本における連結納税制度の導入の経緯は、本件の判決において非常に重要なポイントになっています。それは、米国IBMが日本IBMの資本再編を承認した2001年11月時点では、日本における連結納税制度の導入議論は依然流動的で、その制度の詳細は決定していなかったということです。

ま、この辺りの議論は次回に譲ることにしましょう。

結局、日本IBMが連結納税を導入したのは2008年12月期からです。連結納税開始に際し、株式取得後5年を経過していない100%子会社は資産の時価評価課税の対象になります。日本IBMが時価評価対象になると巨額の営業権に対する課税が想定されますので、資本再編から5年以上経過したこのタイミングで導入したわけです。(5年待つこと自体は当然の判断で、何ら糾弾されるものではありません)

また、連結納税開始に際し、連結子法人の繰越欠損金は切り捨てられますが(※現在は一部緩和されましたが)、親法人の繰越欠損金は連結グループに持ち込むことが可能です。

しかも、欠損金の繰越期間は2004年の税制改正で5年から7年に延長されました。

その結果、APHの繰越欠損金は、2002年の自己株取得によって発生したものまで含めて、連結納税に持ち込むことができ、そして日本IBMの所得と通算できることになったわけです。

尚、書くまでもありませんが、2010年の税制改正により、(連結納税の有無に拘わらず)100%親子間の自己株取得や資本剰余金の配当等による株式譲渡損は課税所得には含まれないことになっています。(それでも、例えば99%親子間であれば、依然として自己株取得によって譲渡損が発生する余地は残っています)

・・・

今回はここまでです。

事実関係を整理するだけでもなかなか大変ですが、面白いですねぇ。

地裁判決は納税者勝訴だったわけですが、次回は、国税/IBMの主張と裁判所の判断を纏めていきたいと思います。

ポイントは、上記の一連の行為が、当初から租税回避(自己株式の譲渡損を連結納税で利用すること)を意図した、経済人として不合理・不自然な行為と認定できるのか、です。

こちらも非常に面白いのですが、整理するのが大変そうです。。


先日twitterで、ヤフーの組織再編の否認について、会計処理の観点から、本件が全てソフトバンクの連結グループ内で生じた事象であることが意外と論じられていない、という興味深い指摘を拝見しました。

もちろん、ヤフーはソフトバンクが約40%出資する子会社(実質基準により連結)なわけです。

ということで、早速、本件否認に係る各当事者の会計処理を見てみました。

拠り所は有報とプレスリリースと地裁判決ですが、けっこう詳細の確認できない部分も多く、推測を含みますのでご了承ください。

・・・

では、否認当事者のヤフーから行きましょう。(こちらは連結/単体纏めていきます。)

11/3期のPL上、更正による追徴税額として開示されている金額は、連結274億円、単体265億円です。

これは、2010年6月のヤフーの繰欠引継に係る更正が単体分265億円で、連結で加算されている9億円はIDCFの分と思れます。(IDCFの更正は2011年3月で、第3四半期決算までは連結ベースでも265億円でした)

・・・

まず、この追徴額のカラクリを分析します。

ソフトバンクの更正に係るプレスリリースによれば、265億円は国税/地方税の本税/延滞税等を含む数字で、実際には事業税部分が損金算入される効果17億円を控除した248億円がnetのインパクト(=ソフトバンクが株式譲渡対価の調整として負担する金額)とのことです。

ヤフーの引き継いだ繰越欠損金は543億円でしたので、これに法人税30%、住民税6.2%、事業税7.6%を乗じた本税で238億円、過少申告加算税が法人税の10%で16億円、延滞税/延滞金が法人税・住民税・事業税の本税の4.3%で10億円、合計で264億円になります。ちょうどそんな感じですね。

一方、この内、事業税の本税の損金算入効果は543億円×税率7.6%×実効税率40.7%=17億円なので、これを差し引いた247億円がPLインパクト、となります。

次にIDCFの更正です。

否認された資産調整勘定は100億円です。

ソフトバンクの負担額は、上記同様に法人税・住民税・事業税の本税及び過少申告加算税(IDCFの場合は15%)と延滞税を計算すると、合計で46億円です。

有報によればソフトバンクがヤフーに返還する総額は293億円で、その内ヤフー分247億円を差し引いても46億円になりますので、この計算でちょうど合ってそうです。

但し、2011年3月の更正時点では、資産調整勘定の内、23億円しか償却されておらず、また、償却後のIDCFは欠損だったこともあり、更正による所得の発生額は17億円、これに本税・附帯税等を乗じると9億円分が実際の追徴額になります。

ということで、追徴額ベースではヤフー265億円とIDCF9億円で合計274億円。ヤフーの連結決算の数値(PL上の法人税等の追徴額)と整合しましたね。

一方で、事業税の損金算入効果を考慮した実際のnet PLインパクトとしては、ヤフー分で247億円、IDC分で8億円の合計255億円と思われます。

・・・

これを踏まえて、ヤフーの会計処理を見てみましょう。

まず、09/3期のIDCS/IDCF買収時です。

有報を見るに、この買収によるのれんの発生額は41億円です。また、買収時の時価純資産に含まれる税資産の内、繰越欠損金見合いが221億円、資産調整勘定見合いが41億円(但し、税効果の注記では46億円?)含まれていたものと思います。

買収価額は450億円(IDCFの115億円はIDCSとの入り繰りなので省略)でしたので、仕訳のイメージはこんな感じです。

(借)
諸資産148億円
税資産(繰欠見合い)221億円
税資産(資産調整勘定)41億円
のれん41億円
(貸)
現金450億円

この内、繰欠に係る税資産は全額09/3期に消化されて消滅(PL上は法人税等調整額にチャージ)、また資産調整勘定に係る税資産の一部は2011/3末までの償却で減少します。

2011/3末時点で残っている資産調整勘定見合いの税資産は24億円です(税効果の注記より推測)。

・・・

そして11/3期に更正を受け、ソフトバンクから対価の返還を受けます。

返還の総額は293億円ですが、この内、11/3末時点の入金額は257億円、未収入金として計上されているのが長短合わせて36億円です。この36億円は、資産調整勘定の償却に応じて(=否認される都度)支払っていくイメージのようです。

そして、この返還に伴う会計処理について、ヤフーはこのように開示しています。

『子会社株式の取得価額の修正を行ったことに伴って負ののれんが発生していますが、当該負ののれんは今回の更正に伴いIDCの吸収合併時に計上した繰延税金資産の資産価値が否認されたことによって発生しているという実態を勘案し、当該実態をより適切に表すため、損益計算書上、「法人税等調整額」として計上しております。』

これはなかなか面白いです。

この対価の調整を買収時点の処理に反映させると、負ののれんが発生するものの、その意味合いは繰延税金資産の減少=時価純資産の減少なので、負ののれんより、法人税等調整額とすることが適切という判断ですね。

一方、のれんについては、ヤフーのBS上、10/3末の49億円から11/3末の13億円に不自然な減少を見せています(しかものれんの償却費はマイナス39百万円のみ)。おそらくIDCの正ののれんは、今回の否認に伴って取り崩したものと思われます。当初認識額が41億円でしたので、未償却残高で30億円程度でしょうか。

それから、これは完全に推測ですが、ソフトバンクから受領する293億円の内、資産調整勘定の償却否認より今後発生する追徴税額見合いの36億円(附帯税含む)は、今後の更正によって発生する負担を補填するものなので、PL計上せず、何らかの負債として計上しているのではないかと思います。(資産調整勘定見合いの税資産も取り崩されていませんし)

以上からすると、会計処理はこんなイメージでしょうか。

-更正による法人税負担

(借)
法人税等(追徴)274億円
(貸)
法人税等19億円
現金255億円

-ソフトバンクからの返還

(借)
現金257億円
未収入金36億円
(貸)
その他負債36億円
のれん30億円
法人税等調整額227億円

とすると、結局、ヤフーの連結上、法人税の更正に係るPLインパクトとしては、(正の)のれんの取り崩しに相当する30億円分が残っている感じでしょうかね。

合ってるかどうか、けっこうアヤシイですが。。

・・・

次にソフトバンクです。

単体は極めてシンプルです。

11/3期は関係会社株式売却価格調整損という特別損失で293億円を計上しています。この金額の内訳は上述の通りです。

また税効果の注記では、この価格調整見合いの税資産が119億円計上さています。税率40.7%で割り返すとちょうど293億円になります。(この対価の返還は、税務上は株式売却益の減額ですが、実際に敗訴が確定するまでは一時差異扱い(有税)という整理なのでしょう。)

なので、税資産に対する評価性引当を無視すると、税前▲293億円、税後174億円のPLインパクトです。

仕訳はこんな感じですね。

(借)
特別損失293億円
繰延税金資産119億円
(貸)
現金257億円
未払金36億円
法人税等調整額119億円

・・・

最後にソフトバンクの連結です。

ソフトバンクとヤフーは連結決算上は親子ですので、内部取引は消去されます。

まず未収入金/未払金は当然相殺消去されます。

またソフトバンク単体の特別損失293億円も消去され、その見合いでヤフーが計上したその他負債24億円、のれん30億円、法人税等調整額239億円も消去されるものと思います。(のれんの取り崩しについては、元々のIDCSの売却時点ののれんそのものが内部取引で消去されているはずです)

なので、ソフトバンク連結上残っているのはこの更正の仕訳だけと思われます。

(借)
法人税等(追徴)274億円
(貸)
法人税等17億円
現金257億円

連結PL上もヤフーの追徴税額274億円が残っていますね。

・・・

尚、気になるのはソフトバンク単体で計上した価格調整見合いの税資産119億円の取扱いです。

これが連結上どうなっているのかは連結税効果の注記を見ても確認できません。

2013/3期の税効果の注記では、金額100億円のものが重要性が増したということで個別表示されているにも拘わらず、この価格調整の件は個別表示されていません(税率変更後でも金額は104億円なのですが)。

また、更正時点のプレスリリースでは、ソフトバンクの連結純利益への影響が247億円(ヤフー分のみ)と開示されていたことからすると、この税資産は計上されないことを前提としているようにも思います。

会計整理は難しいですが、ソフトバンクにとっては株式売却益の減額で、ヤフーにとっては株式取得価額の減額ですが、ヤフーはすでにIDCSと合併済みで、これは100%親子間の適格合併なので、株式取得価額が減額になっても、税務上は合併後ヤフーの資本金等の額が増加するだけで、課税インパクトも将来加算の一時差異も発生しないはずです。

とすれば、ソフトバンクでの税資産は連結上も残してもいい気もするんですけど、正直ここがどうなってるかはわかりません。

引き続き注目してみたいですね。

・・・

ということで、今回は以上です。

とりあえず生煮えながら書きましたので、追加で何かわかれば追記します。

しかし、やっぱり仕訳とかも表にしないとわかりにくいっすねぇ。。

トヨタが5年間法人税を支払っていなかった?という話が一部で話題になっています。

繰越欠損金の控除や受取配当金の益金不算入制度を批判するような声もありますが、そもそも、トヨタのタックスポジションってどんな感じなの?というのを有報から見てみました。

ちなみに、本当はグラフやら表を使った方がわかりやすいんですが、加工が面倒なので、とりあえず文章で勝負します。

・・・

まずはトヨタグループの連結データ(親会社及び連結子会社)から見てみましょう。

今時、親会社単体だけの話をしても仕方ないですもんね。

ざっと08/3期以降、過去7年分を見てみました。

いわゆるリーマンショック前の08/3期では、連結ベースで、営業利益2.3兆円、税前利益2.4兆円です。連結ベースでは関係会社からの配当が消去されますので、営業利益と税前利益にさほどの差異は発生しません。この期の法人税は、当期税金(当期の課税所得に対する法人税納付額の見積り)8301億円、税効果会計による繰延税金814億円です。

この内、国内の税前利益は1.5兆円、当期税金4,912億円、残りの海外分で税前利益0.9兆円、当期税金3389億円です。

国内でもしっかり納付してますね。

・・・

しかしその後、リーマンショックやリコール問題等により状況は一変します。

09/3期は税前利益▲5604億円の赤字に転落。10/3期は黒字転換して2915億円、11/3期は5633億円、12/3期4329億円の黒字。そして13/3期は1.4兆円、14/3期は2.4兆円。リーマン前の水準まで業績回復しました。

しかし、国内と海外では様相が違います。

国内事業の税前利益については、09/3期は▲2,250億円の赤字ですが、10/3期以降も▲1146億円、▲2782億円、▲1779億円と2012/3期まで赤字が続きます。ようやく2013/3期に6519億円の黒字に転換、14/3期はまだ有報が開示されていないのでわかりませんが、営業利益ベースで1.5兆円と急回復しており、税前利益も同水準と思われます。

一方、海外事業の税前利益は、09/3期は▲3354億円の赤字ですが、10/3期に4060億円の黒字に転換、その後も8415億円、6107億円、7518億円と2013/3期まで堅調に黒字推移しています。14/3期は営業利益ベースで7819億円です。

こう見ると、海外に比べ、国内事業の利益水準は非常にボラティリティが高くなっています。

・・・

これは、売上高営業利益率で比較するとよくわかります。

08/3~14/3期の7年分の営業利益率の推移を見てみると、国内事業では17%⇒▲3%⇒▲3%⇒▲5%⇒▲3%⇒7%⇒18%となっている一方、海外事業では5%⇒▲2%⇒3%⇒7%⇒5%⇒5%⇒5%です。

海外の方がダウンサイドが少ない代わりに、アップサイドも少ない、という感じです。

トヨタグループの海外展開の詳細は承知していませんが、このデータからすると、海外事業はどちらかというと機能もリスクも限定された事業であり、5%程度の安定した利益率が維持されているのでしょうかね。

一方、国内で事業全体の重要な機能を有し、リスクを負担することで、事業が不調な時は大きな赤字になり、一方で事業が好調な時は大きな黒字になる、というイメージかと思われます。

・・・

一応、結果として、国内事業での税負担(当期税金/連結ベース)は、08/3期の3389億円以降、09/3期657億円、10/3期660億円、11/3期853億円、12/3期1114億円、13/3期1787億円です。繰越欠損金で税負担はないのかと思いきや、中には黒字の子会社もあるのでしょうか、一応、1000億円程度は毎期納税してきたわけです、グループとして。(国内事業とはいえ、納付先が日本とは限りませんが)

そして14/3期は、まだ開示はありませんが、おそらく5000億円を超えるような税負担になるのではないかと思います。

・・・

次にトヨタの単体を見てみましょう。

単体のPLを見ると、おそらく国内事業と思われる営業利益と、国内外の関係会社からの配当が主な構成要素となります。

受取配当金は08/3期~14/3期でざっと3000~5000億円程度の規模です。従前、国内関係会社からの配当は原則非課税でしたが、2009年の税制改正で海外子会社からの配当も原則非課税となったことから、この配当の大半は課税所得を構成しません。

例えば2013/3期の単体業績は、税前利益8562億円、その内、受取配当金は5111億円、さらにその内、関係会社からの配当は4866億円と開示されています。また、税効果の注記では、非課税配当による税率影響が▲21%なので、税前利益に乗じた4706億円が非課税になる配当額とわかります。

ちなみに、言うまでもなく、配当の非課税(益金不算入)は二重課税の排除を目的とした制度です。法人税を支払った後の税後利益の配当に対して、受取側で法人税を課すと二重課税になってしまうという理屈です。

海外の場合も同じです。二重課税排除の方法として、外国税額控除方式とするか海外配当非課税方式とするかは、資本輸出中立vs資本輸入中立といった概念の議論や国家として配当還流を促進するといった政策的なところもあるのでしょうけど、いずれにせよ二重課税は排除されるべきですよね。

ということで、受取配当金の影響で税前利益と課税所得は水準が大きく変わるわけです。

・・・

単体の営業利益の推移としては、08/3期は1.1兆円の黒字ですが、09/3期以降、▲1879億円、▲3281億円、▲4809億円、▲4398億円と赤字が継続。13/3期2421億円の黒字に転換、14/3期には1.3兆円の黒字に急回復しています。

連結ベースの国内事業の営業利益の7~8割程度はトヨタ単体の数値という感じですね。(国内の子会社の営業利益は1000~3000億円程度)

一方、課税所得の予想は難しいですが、トヨタの税前利益に配当の非課税及び一時差異残高の変動等を加味すると、おそらく10/3期までは所得は黒字ではないかと思います。(10/3期は営業利益でも▲3281億円の赤字ですが、リコール対応の製品保証引当や減価償却資産等の有税残高がかなり増加しており、これを除くと所得はギリギリ黒字ベースと推測)

但し、単体の当期税金は、08/3期3993億円でしたが、09/3期、10/3期は235億円、▲36億円ということで、あまり納税は行われていません。

そして11/3期と12/3期は課税所得ベースでも大幅な赤字と思われます。上記同様のざっくり試算をすると各々2000億円、4000億円程度の赤字で、当期税金は多少発生していますが、外国での納付分や外形標準課税等でしょう。

この間、税効果の注記でも、繰越欠損金や繰越外国税額控除の金額が各々1,000億円程度発生しています。繰越欠損金に係る税資産は12/3末で1329億円。連結納税採用なので単純計算は出来ませんが、所得ベースに戻すと3500億円くらいという感じでしょうか。

これが13/3期には所得の試算値で約5200億円(税前利益8562億円、配当非課税4706億円、一時差異変動1100億円、タックスヘイブン・交際費等250億円)となり、繰越欠損金を解消して納付ポジションになっています(当期税金は690億円)。税効果の注記でも、繰越欠損金に係る税資産はありませんが、繰越外国税控除の税資産については引き続き845億円残っています。

14/3期は税前利益1.8兆円、所得の試算でも1.5兆円くらいと思われます。当期税金は4921億円。外国税額控除の繰越控除や試験研究費の税額控除を踏まえてもかなりの納税額になるようですね。

・・・

当たり前ですが、繰越欠損金の控除というのは、過去の赤字と当期の黒字を相殺する制度です。元々、法人の事業年度は1年で区切られますが、その結果、過去の累損が残っているのに、当期に黒字転換したからといって法人税を課すのは不合理なわけです。

トヨタはリーマンショック後の業績低迷で大きな欠損を抱えましたが、業績回復によりこれを解消し、また大きな納税ポジションになっているわけです。

素晴らしいことだと思いますけどね。

・・・

ちなみに13/3期の試験研究費の税額控除は、税効果の注記から約280億円。これは配当や繰越欠損金とは違って優遇税制の類いです。

この金額が大きいかどうかはアレですが、14/3期の法人税は5000億円ですからねぇ。

・・・

さて、今回はここまでです。

やっぱりグラフ、表なしは限界あるなと思いつつ。。。



(6/3少々追記しました)