アリババ上場に係るソフトバンクの会計処理 ~ みなし売却益は300億~6,000億円程度? | Accounting, Tax and M&A

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会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


アリババの上場の話題の第三弾です。

前回 は上場申請書(F-1)からアリババのVIEストラクチャーや税務上の論点について記載しました。

今回はソフトバンクの会計処理についてです。

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よく報道では、アリババの上場でソフトバンクの利益が4兆円とか書かれてますが、もちろんこんな利益が会計上、計上されるわけではありません。

ソフトバンクは株式を売却しない意向のようですし、引き続き持分法投資としてアリババ株を保有します。

IFRS上、時価評価による損益を計上するのは、持分法投資の重要な影響力を喪失した場合か、支配権を獲得して子会社化する時なので、今回はこのような評価替えは起こりません。

また株式の売却を行わない以上、Cashの回収も株式売却益も認識されません。

一方、アリババの新株発行によりソフトバンクの持分比率が低下した場合、みなし売却益が認識される可能性があります。

IFRS上、持分変動によるみなし売却益を認識するかどうかは必ずしも明確ではありませんが(IASBでは、みなし売却益を認識せずに資本剰余金の増減として認識する方向で議論が進んでいましたが、反対意見が多くプロジェクトは延期となっています)、ソフトバンクの会計方針次第で、みなし売却益を計上することも十分考えられます。

ソフトバンクのIFRS移行後の開示資料で、持分法投資のみなし売却の事例がないので何とも言えませんが、きっと認識するような気がします(違ったらごめんなさい)。

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では本題ですが、そのみなし売却益はどの程度の金額になるのでしょう。

不確実な要素が多々あるわけですが、IPO時の株価と発行する新株の数、IPO時のアリババの純資産及びソフトバンクのアリババ株式簿価等を仮定すれば試算することが出来ます。

まず、アリババの純資産は2013/12末で53億ドルです(IPOにより普通株に転換される優先株を含む)。また、IPO時期は未定ですが、8月という噂もあるので、その8ヶ月間の純利益を30億ドルとすると、上場時の純資産は83億ドルとなります。

(この時点でソフトバンクは持分法投資利益で10億ドル(1,000億円)を計上している計算ですが)

そして、ソフトバンクの保有株簿価は、暖簾等の投資差額はないとして、純資産持分34.4%分で29億ドルと仮定しましょう。

これを前提にみなし売却益を試算してみます。(ソフトバンクは株を売却しない前提です)

【ケース1】

まずは控えめな予想です。

F-1によれば上場による調達額は10億ドル、また上場株価は50ドル/株といった話もありましたので、この場合は20百万株が新株として発行されます。

この場合、アリババの発行済株式総数は2320百万株から2340百万株に増え、ソフトバンクの保有株797百万株の比率は34.4%から34.1%に減少します。

そして、新株発行後の純資産93億ドル×34.1%=32億ドルということで、上場前の持分純資産29億ドルとの差額3億ドル(300億円)がみなし売却益になります。

【ケース2】

次に、上場時価総額の予想をアナリスト平均とされる1,410億ドルとすると、株価は61ドルになります。

また、資金調達額は報道では200億ドル超に達するといった話もありますので、その間を取ってざっくり100億ドルとすると、新株の発行は165百万株になります。

この場合、アリババの発行済株式総数は2486百万株、ソフトバンクの比率は32.1%、持分純資産は183億ドル×32.1%で59億ドルになります。

なので、この場合のみなし売却益は30億ドル(3,000億円)ですね。

【ケース3】

最後に強気のケースです。

報道の中でも高めの水準として、上場時価総額2,000億ドルで株価86ドル、調達額200億ドルで新株発行232百万株としてみましょう。

この場合、アリババの発行済株式総数は2553百万株、ソフトバンクの比率は31.2%、持分純資産は283億ドル×31.2%で89億ドルになります。

なので、この場合のみなし売却益は60億ドル(6,000億円)です。

ここまで来ると、さすがにすごい金額です。

尚、これらのみなし売却益を認識した上で、保有株式の含み益はケース1~3で各々、367億ドル、426億ドル、599億ドルといった感じです。

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ということで、おそらくこのみなし売却益はソフトバンクの営業利益には反映されないように思いますが(営業外)、純利益の観点ではかなりの影響がありそうですね。

キャッシュの伴わない会計上の利益ですが。

もちろんこのみなし売却益は課税所得にはなりませんが、税効果会計により税負債を計上する可能性はありそうです。

しかし、もし仮に、例えばアリババが現地で何らかの組織再編を行って、それがソフトバンクの保有株が税務上時価評価課税されるような事象だったとすると、1兆円規模の法人税負担が発生しうるんですかね。。

とか、ちょっと怖い想像をしつつ、今回はここまでです。





(8/18追記)

ソフトバンクの2015/3期の第1四半期決算にて、アリババの優先株関係で巨額の損失が計上されています。

アリババ上場時のみなし売却益にも影響がありそうなので、ちょっと見てみました。

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ソフトバンクの決算短信を見てみましょう。

『アリババが発行している転換優先株(Convertible Preference Shares)については、同社が採用する米国会計基準ではMezzanine Equity に払込金額で計上されるのに対し、IFRS では負債に計上し公正価値測定を行うとともに、公正価値の変動を純損益に認識しています。当第1四半期においては、転換優先株の公正価値が増加したことにより、当社の持分法投資損益に102,996 百万円の損失の影響がありました』

『当該登録届出書によれば、アリババの普通株式1株当たりの公正価値は、2013 年10~12 月期においては1株あたり25 米ドルとなり、2014 年6月においては56米ドルと記載されています』

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なるほど、確かにアリババの上場申請書を見た時に、IPO時に強制転換される条項付きの転換優先株について記載がありました。

普通株への転換価格は1株18.5ドルですが、転換されずに現金で償還される可能性もあることから、IFRS上は資本ではなく負債扱いなのでしょう(IPOすれば強制転換ですが)。

IFRS上負債扱いでFVPLの処理ということは、上場して転換されるタイミングまで時価評価損益を認識し、転換時にその時価をもって資本に振り替えるものと思われます。

この優先株が転換された場合、普通株91百万株になりますが、これを前提にソフトバンクへの影響額を計算すると、91百万株×時価変動31ドル(25ドル⇒56ドル)×ソフトバンク持分36%=10億ドルになります。決算短信では1,030億円と書かれているので、ちょうどそんな感じですね。

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上記のアリババが上場した場合のソフトバンクが会計上認識するみなし売却益分析にはこの影響は織り込めていませんでした(反省)。

少なからず影響があるのですが、ソフトバンクの開示資料での説明にはこうあります。

『同社が株式公開した場合には転換優先株は自動的に普通株に転換され、IFRSでは負債に計上されていた転換優先株は資本に振り替えられることとなります。その結果、それまで転換優先株の公正価値増加に伴い発生した損失のうち当社帰属分については、同社の株式公開時に持分変動利益として当社の連結損益計算書に計上されることとなります。』

なかなか難解ですね。

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ここからわかるのは、まず、ソフトバンクはIFRS上、みなし売却益を認識するということです。

また、その金額についてですが、この優先株は上場時に時価ベースで負債から資本に振り替えられたという処理になり(負債の消滅=払い込みというイメージ)、みなし売却の比率(持分比率の減少割合)が上記の元々の試算より高くなります。

というのも、現状のソフトバンクの持分比率は、上記試算では優先株を普通株扱いすることで34.4%としていましたが、この優先株を分母から除くと35.8%になるからです。

【ケース1の見直し】

(取り敢えず、この優先株の取扱いの見直しだけですのでご了承ください)

ケース1は、上場株価50ドルで20百万株を新規に発行(調達額10億ドル)という控えめなケースでした。

この時、まず優先株の評価替え(56ドル⇒50ドル)による利益(負債の減少)がアリババで5億ドル(ソフトバンク持分35.8%で2億ドルの利益が出ます。この時点でのソフトバンクのアリババ持分法簿価は13億ドル程度と思われます。

その上で新株発行の20百万株と優先株転換の9百万株が50ドルベースで払い込まれる結果、アリババの純資産は93億ドルになります。この数字は、上記の元々の試算値と同じです。(優先株の時価評価部分は、時価評価で損失認識され、その上で資本に振り替えられるので、純資産への影響の合計額としては、結局、現金の払込額だけになるわけですので)

で、持分比率は34.1%に減少しますので(こちらも上記の元々の試算と同じ)、純資産持分で93億ドルになり、差引のみなし売却益は18億ドルになります。

優先株の評価替えと併せて20億ドル(約2000億円)の利益というわけです。

この中には、これまでに認識した優先株の時価評価損の戻りが含まれています。なぜなら、優先株相当の時価での払い込みという扱いによって、①みなし売却部分は譲渡原価の減少として、②継続保有部分についてはみなし売却益の増加として、結局、時価評価損の金額がそのまま利益に振り替えられるからです。なので、ソフトバンクの決算短信での説明は正しいと思います。

(この辺は図解した方がわかりやすいのですが、相変わらず面倒なのでこれはパス)

【ケース2、3】

同じ前提でケース2、3も計算してみました。

詳細は面倒なので省きますが、みなし売却益(IPO時の優先株の評価替え含む)はケース2で47億ドル、ケース3で77億ドルになりました。

さて、IPO実現時の実績はどうなりますかね。楽しみにしたいと思います。


(9/7追記)

IPOの仮価格等が公表されましたね。

新株発行1.2億株と既存株主の売出し2.5億株。ソフトバンクの持分比率(IFRSベース)は35.8%から32.4%に減少。株価60~66ドルということで、ケース2に近い感じ。みなし売却益はざっくり5000億円くらいかなという感じですかね。(もう少しちゃんと計算してみますが、取り急ぎ)

9月中に上場されればソフトバンクの第2四半期決算に計上されるかもです。


⇒アップデート版はこちら

アリババ上場によるソフトバンクのみなし売却益アップデート(IPO仮条件)