(えーと「片手落ち」も、近頃ちょっとヤバイ言葉かも、なんですが・・・)
かつて、私も住んでいたことのある川崎市。いわゆるヘイト禁止条例(正確に言うと「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」)が制定されたそうで。
朝日新聞様は・・・
〈外国にルーツがある市民らを標的にしたヘイトスピーチ(憎悪表現)に刑事罰を科す、全国で初めての条例を川崎市がつくった。12日に開かれた定例市議会本会議で可決、成立した。差別的な言動を繰り返すと、刑事裁判を経て最高50万円の罰金が科される。同様の条例づくりに取り組む全国の自治体のモデルになると注目されている〉
・・・と、とっても嬉しそう。でもって、
〈ただ、インターネット上の書き込みや動画によるヘイト行為については、表現の自由との兼ね合いから罰則の対象を絞り込んだ結果、対象外となり、今後の課題として残された〉
・・・と、ちょっぴり残念そう。
※朝日新聞DIGITAL:川崎市、ヘイトスピーチ禁止条例可決 罰金最高50万円
→https://www.asahi.com/articles/ASMDB6GG9MDBULOB01K.html
一方、産経新聞殿はというと・・・
〈コリアタウンがあり、在日韓国・朝鮮人が多く居住する川崎市では、過去に住人らを誹(ひ)謗(ぼう)中傷する内容のデモが頻発。平成28年の「ヘイトスピーチ解消法」成立の契機となった。市内では誹謗中傷はほぼ見られなくなっているが、市は再発防止と抑止効果を狙い、今回の条例案を提出した。
一方、市内では現在、特定の団体による街宣活動と、それを「ヘイトスピーチだ」と指摘する集団による対立が頻発。条例にはヘイトスピーチに該当する文言が表だって発せられない対立への「抑止力はない」(市担当者)といい、対立を懸念する市側には、新たな対応が求められている〉
・・・うん、まあ、微妙な立ち位置。何しろ「人権」絡みですし、はっきり「評価」するのも、きっぱり「批判」に回るのも、どちらも難しいのでしょう。
※THE SANKEI NEWS:川崎市のヘイト禁止条例案可決・成立 初の刑事罰規定
→https://www.sankei.com/world/news/191212/wor1912120009-n1.html
ちなみにこの条例、前文が付いてまして・・・
川崎市は、日本国憲法及び日本国が締結した人権に関する諸条約の理念を踏まえ、あらゆる不当な差別の解消に向けて、一人ひとりの人間の尊厳を最優先する人権施策を、平等と多様性を尊重し、着実に実施してきた。
しかしながら、今なお、不当な差別は依然として存在し、本邦外出身者に対する不当な差別的言動、インターネットを利用した人権侵害などの人権課題も生じている。
このような状況を踏まえ、市、市民及び事業者が協力して、不当な差別の解消と人権課題の解決に向けて、人権尊重の理念の普及をより一層推進していく必要がある。
ここに、川崎市は、全ての市民が不当な差別を受けることなく、個人として尊重され、生き生きと暮らすことができる人権尊重のまちづくりを推進していくため、この条例を制定する。
・・・だ、そうです。いやあ、何か凄い。凄いんだけれども、参考資料として「制定趣旨」なんてものもありまして・・・
不当な差別のない人権尊重のまちづくりに関し、市、市民及び事業者の責務を明らかにするとともに、人権に関する施策の基本となる事項及び本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組に関する事項を定めることにより、人権尊重のまちづくりを総合的かつ計画的に推進し、もって人権を尊重し、共に生きる社会の実現に資することを目的として、この条例を制定するものである。
・・・ここら辺、冷めた目で読むと「全ての市民」と「本邦外出身者」とを、巧妙に使い分けてる感がないでもないんですよね。
※川崎市:議案第157号 川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例の制定
→http://www.city.kawasaki.jp/980/cmsfiles/contents/0000112/112486/gian_157.pdf
ところで、ほとんどの方が承知していることでしょうけれども、
この条例は、国が定めた「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」)と深〜い関係があります。
※e-Gov:本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律
→https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=428AC1000000068
でもって、この法律、あいちトリエンナーレ絡みの河村たかし(名古屋市長)さんと大村秀章(愛知県知事)さん+津田大介(芸術監督)さんとの論争で、にわかに注目されたりしまして。
「日本人に対するヘイト」で許されないでしょ?
――それは法律で禁止されてないから良いんだもん!
という、例のヤツです。
するとですね、
いやいや「本邦外出身者」以外(つまり日本人)に対するものであっても「差別的言動」が不可であるのは「当たり前」ですよって、例え法律本文で言及されていなくても付帯決議に書いてあるでしょって、指摘した素晴らしい方がいまして。
参議院議員、小野田紀美(岡山選挙区)さん、法務委員会での質問です。
まず初めに、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律、長いんですけど、いわゆるヘイトスピーチ解消法です、こちらについてお伺いをいたします。
この法律の第二条に、本邦外出身者に対する不当な差別的言動という定義が示されているんですけれども、衆議院の附帯決議にもあるように、第二条、この二条が規定するもの以外のものであれば、いかなる差別的言動であっても許されるという理解は誤りであり、あらゆる形態の人種差別に関する国際条約の精神に鑑み、適切に対処することというふうにはっきり明記されております。にもかかわらず、一部で、日本人は本邦外出身者ではないから差別的な扱いをしても問題はないんだというような意見が最近あるんですね。これがちょっと私は非常に残念だと思っております。
本邦外出身者と同様に、日本人、本邦出身者に対してもおとしめたり差別的な言動を取ってもいいということではないんだということを、大臣に改めて確認させていただきたい。
※会議録情報:参議院 第200回国会 法務委員会
→https://online.sangiin.go.jp/kaigirok/daily/select0103/main.html
令和元年11月14日 第4号
※参議院インターネット審議中継
→https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php
2019年11月14日 法務委員会 小野田紀美(自由民主党・国民の声)
その付帯決議というのが、これです。
○衆議院附帯決議(赤字、引用者)
本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案に対する附帯決議
国及び地方公共団体は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一 本法の趣旨、日本国憲法及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の精神に照らし、第二条が規定する「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」以外のものであれば、いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤りであるとの基本的認識の下、適切に対処すること。
二 本邦外出身者に対する不当な差別的言動が地域社会に深刻な亀裂を生じさせている地方公共団体においては、その内容や頻度の地域差に適切に応じ、国とともに、その解消に向けた取組に関する施策を着実に実施すること。
三 インターネットを通じて行われる本邦外出身者等に対する不当な差別的言動を助長し、又は誘発する行為の解消に向けた取組に関する施策を実施すること。
四 本邦外出身者に対する不当な差別的言動のほか、不当な差別的取扱いの実態の把握に努め、それらの解消に必要な施策を講ずるよう検討を行うこと。
※衆議院:第190回国会参法第6号 附帯決議
○参議院付帯決議(赤字、引用者)
本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案に対する附帯決議
国及び地方公共団体は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消が喫緊の課題であることに鑑み、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一 第二条が規定する「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」以外のものであれば、いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤りであり、本法の趣旨、日本国憲法及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の精神に鑑み、適切に対処すること。
二 本邦外出身者に対する不当な差別的言動の内容や頻度は地域によって差があるものの、これが地域社会に深刻な亀裂を生じさせている地方公共団体においては、国と同様に、その解消に向けた取組に関する施策を着実に実施すること。
三 インターネットを通じて行われる本邦外出身者等に対する不当な差別的言動を助長し、又は誘発する行為の解消に向けた取組に関する施策を実施すること。
右決議する。
※法務省:ヘイトスピーチに焦点を当てた啓発活動/附帯決議(参議院法務委員会)→http://www.moj.go.jp/content/001184403.pdf
と、まあ、そんなわけで、川崎市議会でも条例制定にあたって、やはり付帯決議がありましてですね・・・
1 本市における本邦外出身者に対する不当な差別的言動の状況、本条例の目的や施策の内容等について広く市民に周知徹底を図り、市民の理解の下、本条例を円滑に施行していくよう努める事。
2 本邦外出身者に対する不当な差別的言動以外のものであれば、いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤りであるとの基本的認識の下、本邦外出身者「以外の市民」に対しても不当な差別的言動が認められる場合には、必要な施策及び措置を検討すること。
3 前項に掲げるもののほか、不当な差別のない人権尊重のまちづくりを一層推進するため、本市における不当な差別の実態の把握に努め、その解消に向けて必要な施策及び措置を講ずること。
・・・という内容(赤字、引用者)。ほぼ、国会の付帯決議に準じてます。
とは言え、例えば、第2項の末尾「必要な施策及び措置を検討すること」となっているところ、原案では「必要な施策及び措置を講ずる」となっていたのだそうで。
結果としてにトーンダウンしている、みたいに、議会内で色々とせめぎ合った結果できたもののようです。
末永直(中原区、自民党)という議員さんが、こんなことを書いてます。
次策として「附帯決議案」を示しました。文教委員会の委員は(委員長を除く)、自民4、公明1、みらい3、共産2、チーム無所属1。過半数6を獲らなければなりません。自民党会派による原案は他会派が難色を示したため12月9日に持越され、9日に条例案は全会一致で可決。附帯決議案修正案も可決(共産反対)されました。政治は妥協の産物とは言われますが、数は力なりというところでしょうか。
※タウンニュース:疑義多き人権全般条例〜附帯決議案つけ成立
→https://www.townnews.co.jp/0204/2019/12/13/510279.html
忸怩たるものが伝わってきますね。
それでも、もちろん、大村さんや津田さんやその他大勢の皆さんに対して、ちょっとモノ言う材料にはなるわけで、皆さん、それなりに頑張ってくれたんだと思います。
さて、参議院の小野田さん、「ヘイトスピーチ解消法」関連質問の締めとして、こんなことを仰ってます。
やはり、これすばらしい法律ではあるんですけれども、ちょっと誤解が生まれるとちょっと偏った法律になってしまうというところが残念でございまして、アジア人であれ欧米人であれ日本人であれ誰であれ、守られるべきものであって、この法律というのは決して特定の人間だけを守るという法律ではないんだという認識を是非皆様に持っていただきたいなというふうに思います。
う〜ん、「すばらしい法律」かどうかは微妙なんですけれども。
ともあれ、
誰(弱者とかマイノリティとか)がやらかしたにしろ、悪いことは悪いし、誰(強者とかマジョリティとか)に向けられたにしろ、醜いことは醜い。
んじゃないでしょうか。
それは理屈だとか、杓子定規だとか、何なら痩せ我慢だとか(あるいは「レイシスト」だとか「ファシスト」だとか)言われても、そこはね、大人として、社会人として、曲げちゃダメだと私は思うんですのよ。
ああ、何か、また字ばっかになってしまいしたが、ともあれ、ご清読(?)ありがとうございました。
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参議院議員、小野田紀美さんの質問に関しては、こちらの記事で知りました。
※アゴラ:注目の国会:小野田紀美議員「ヘイト規制法は日本人を守らない?」
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自分の記事を書き終えた後、ほぼ、同趣旨の社説(主張)を見つけてしまいました。ちょっと悲しい(嬉しい?)。
〈条例も国の解消法も、日本人を守るべき対象に加えていない欠陥がある。ただ「本邦外出身者」が対象の国の解消法でも、衆参両院の付帯決議は「法が規定する以外のものであればいかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤りである」と明記している〉
※THE SANKEI NEWS:【主張】ヘイト禁止条例 趣旨を正しく理解しよう
→https://www.sankei.com/column/news/191214/clm1912140002-n1.html
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※国会議員にも色々いるようで。参照過去記事。
「節度」とか「良心」とかは何処に?・・・色々「濫用」する人が多くて困ります。
一人区の弊害?・・・国会方面には、言ってることと言ってることが違う人が沢山いるようで。
※あいちトリエンナーレをめぐって、参照過去記事。
脅かされているのは「表現の自由」ではなく「公共の福祉」でしょ・・・あいちトリエンナーレ・その後
「表現の不自由展・その後」架空鑑賞物語・・・『2019年』あるいは『注文の多い展示会』
「表現の自由」を叫び「検閲」被害を騙るアーティスト達へ。『楽園のカンヴァス』&『暗幕のゲルニカ』
※旧ブログ、テーマ「政界人間模様」一覧
https://blog.goo.ne.jp/kawai_yoshinori/c/a6a4d95787cad7743803fca63c674d91