一昨日の夜,我が家周辺は霧に包まれました
あんなに霧が発生するのはめずらしいことでした
霧の中に街灯や信号がボンヤリと鈍い光を放っている
かすかに生暖かい湿った空気が身体にまといつく
まるで初めての場所のような
どこか異国に紛れ込んだかのようでした
ふと「霧のロンドン」という言葉が浮かび
その連想を面白いな,と思っていると
昔見た映画の一場面を思い出しました
それは「第三の男」という映画で
オーソン・ウェルズが演じるハリー・ライムが
はじめてスクリーンに登場する場面です
よく考えると舞台はロンドンではなくウィーンだったと思いますが
その時のハリー(ウェルズ)の表情が印象的で
たった数秒のその場面,その表情を見るために
私は1週間,毎日映画館に通ったのです
もう40年近くも昔の話です
私はその時の自分の気持ちをハリーの表情に重ねたのでしょう
言葉にはなっていない,自分では意識していない気持ちを
何度も繰り返しハリーの表情に見ることで味わっていたのですね
心理の用語では投影といいます
みぞおちの辺りにかすかな震えが起きています
孤独,愛情,恐れ,大胆さ,諦念…
浮かぶ言葉をつぶやきながら
私の隅々まで呼吸が流れていく感じがしています