これまでのお話 実家処分を決意するまで ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦
2022年、秋。母が実家を出て私たちの賃貸マンションのそばのアパートに越してきて、2ヵ月ほど経った。
私は毎日母の世話をしつつ、週に1度か2度の母のサークル活動の送迎をして、母がサークル活動している時間に実家の片付けをしていた。
最初は虚しかった片付けも、回を重ねるごとに段々と折り合いもついて、「マイペースにゆっくりやっていこう。」と思えるようになった。
YouTubeとかネットフリックスとか見ながら、片付けを楽しむようにした。
新しい土地でひとり暮らしを始めた母は、暇である。
友達も周りにいない。
私は毎日訪問するが、それもつかの間である。
このままでは母が認知症にでもなってしまうのではないかと心配した私は、母にデイサービスに通うよう勧めてみた。
母の場合は要支援2なので、介護予防サービスを受けることになる。
(介護予防サービスとは要支援1・2の認定を受けた方に対するサービスです。利用者が要介護状態になることを防ぎ、可能な限り自宅で自立した日常生活を送ることができるよう、利用者の心身機能の維持回復を図り、利用者の生活機能維持又は向上を目指して実施されます。厚生省のホームページより)
しかし、このデイサービスというシステム、母を含むご老人たちの間では、「あそこに行っちゃあ、おしまいよ。」という場所になっているようなのだ。
以前母は、デイサービスに通うようになった人達の話を、「○○さんもデイサービスに通い始めちゃったのよ」と、いつも残念そうに言っていた。
そして、付け加えるのだ。
「お母さんは、そんな所には行きたくないわ」
これは母自身の希望を伝えつつ、「お母さんを、そんな所にやろうとしないでね。」という、私へのけん制でもある。
そして母が若い頃、ボランティア団体のリーダーとして、老人ホームに視察に行った時のことを話し始める。
そこがいかに、高齢者の人権や尊厳を無視した場所だったかを・・・
母の話は段々白熱し、聞いている方も老人ホームが嫌いになりそうになる。
しかし、よく注意して聴いてみると、母の老人ホームの視察の話に、老人ホームの問題を取り上げたテレビのドキュメンタリーの内容や、40年以上も前、祖父が一時期入っていた老人ホームで母が体験した嫌な記憶も混ざっている。
要するに、老人ホームとかデイサービスとか、高齢者向けの施設入る事は、母にとってはプライドが許さないらしい。
自分はまだまだ人に助けてもらうほど落ちぶれていない、と思いたい様だった。
母は、そこに行ったら自分の自尊心が傷つく、と思っている様なのだ。
それでも、私は担当のケアマネさんに、デイサービスを提供してくれる施設のパンフレットを持ってきてくれるよう頼んだ。
そうして母にパンフレットを見せてなんとか説得し、2つの施設の見学にこぎつけた。
ひとつめは規模が小さめで女性が多く、トレーニングマシーンのあるところ。
規模は小さめだが、女性が多いので友達ができやすく、一緒にトレーニングマシーンで体力づくりもできて楽しそうだ。
ふたつめは規模が大きくて、通所者は男性も4割ほどいる。
本人たちの好きなように時間を使える施設だった。
手芸をやってもいいし映画を観てもいい。エクササイズもできるし、囲碁将棋もできる。
グランドゴルフもできる。色々なイベントもあるようだ。
このふたつめのデイサービスは、母の今までの高齢者向け施設に対する印象を塗り替えた。
母に、楽しそうだと思ってもらえたようだった。
そこで、母はその規模が大きい施設のデイサービスにいくことになった。
あれから2年。
母はそこに週2回、今も楽しそうに通っている。
時々は人間関係が思い通りにいかず、愚痴ることもあるが・・・
スタッフの方々も優しくて、とても感謝しているそうだ。
母の人権も尊厳も、無事に守られている様だ。
初めてのものに挑戦する時は、誰でも怖い。
まだ経験をしたことのない人たちの間で、色々な噂がささやかれている。
その噂に惑わされたり、脅かされることもある。
でもまあ、やってみなくちゃ何事も分からない。
デイサービスの件は、私の友人達に訊いてみても、彼女たちの父母、義父母は最初は大抵嫌がるそうだ。
大抵最初は、
「デイサービスに行くようじゃ、おしまいよ。」
的なことを言うらしい。
でも行ってみると楽しくて、皆さん大体満足しているらしい。
母がデイサービスに行ってくれることで、私も安心して外出できるし、母が自宅で入浴する回数が減り、介助が減るので体力的にも助かる。
介護保険を利用しているので、利用料もそれほど高くないし。
高齢の家族がデイサービスを利用することは、家族間の行き詰まりやプレッシャーを緩和させてくれる。
スタッフの方々、本当にいつもありがとうございます。
心から感謝しています。
そして、適したデイサービスを探してくださったケアマネさんにも、心からお礼申しあげます。