(浦島太郎)は、大阪と京都府北部の丹後(たんご)地方の双方にに伝えられています。
多くの人におなじみの丹後地方のお話です。
《 あらすじ 》
昔昔、丹後の国のある村に浦島太郎という名の、とても気立ての良い若者がおりました。
働き者の浦島太郎は毎日、浜で魚を釣(つ)って暮らしていました。
ある日のこと、いつものように釣りをしようと浜に行くと、子どもたちが、何やら騒(さわ)いでいました。
「やいやい、亀よ、亀さんよ、頭を出してみろ」
「手を出せ、足出せよ、尻尾(しっぽ)出せ」
「おい、堅(かた)い甲羅(こうら)に隠(かく)れるな。早く出てこい」
近づいてみると、子どもたちは小さな亀を蹴(け)ったり、たたいたりしていじめています。
浦島太郎が、
「これこれ、やめんか。かわいそうではないか」
と止めると、子どもの一人が言いました。
「おらたちが見つけた亀じゃ、遊んでいるんじゃ」
浦島太郎は、
「それなら、その亀を、わしにくれんか」と言いました。
すると子どもは、
「銭をくれるなら売ってもいいぞ」と言いました。
「それなら銭をやるから、亀を売ってくれ」と浦島太郎は金と引き換(か)えに、子どもたちからその小さな亀をもらいました。
それからすぐに、亀を海へと放してやりました。
亀は浦島太郎にお礼を言うかのように、何度も後ろを振(ふ)り返りながら、沖のほうへと泳いでいきました。
何日かして、いつものように浦島太郎が釣りをしに浜に出かけると、大きな亀が海から上がってきました。
そして、のろのろと浦島太郎のほうに近寄(ちかよ)ってくると言いました。
「浦島太郎さま、私はいつぞやあなたさまに助けていただいた亀です」
突然(とつぜん)亀が人の言葉をしゃべり出したから、浦島太郎は腰(こし)が抜(ぬ)けるほど驚(おどろ)きました。
「浦島太郎さま、驚かせてしまって申し訳ありません。あなたさまに助けていただいたおかげで私はこんなに大きくなることができました。実は、今日は助けていただいたお礼をしたいと思って、参りました。どうか龍宮(りゅうぐう)の城にお起(こ)しくださいませ。龍宮の王がお待ちです。」
「龍宮の城?竜宮の城とは?どこにあるのだ」
浦島太郎が聞き返すと、亀は答えました。
「海の底にございます」
「とんでもない。海の底なんて行けないよ」
浦島太郎が驚くと、
「大丈夫です。浦島太郎さま、どうぞ私の背中にお乗りください。城までご案内いたします。」
と言って、亀は大きな背中をこちらにむけました。
浦島太郎が亀の言うとおり背中に乗ると、亀は沖へと泳ぎ出して、やがて海の底にむかって潜(もぐ)りました。
海の中には美しい珊瑚(さんご)の林があり、魚がたくさん泳いでいます。
浦島太郎が周りの景色に見とれていると、水晶(すいしょう)のように、きらきら光る砂を敷(し)きつめた、広い庭に着きました。
そこには、赤や青、黄金(こがね)色に輝(かがや)く大きな御殿(ごてん)があり、色とりどりの魚たちが浦島太郎を出迎(でむか)えてくれました。
あまりの立派さに驚いている浦島太郎の前に、これまでみたこともないような、たいそう美しい姫(ひめ)が現れ、御殿の奥(おく)へと案内してくれました。
御殿の奥には金色の冠(かんむり)にきらびやかな衣装(いしょう)をまとった龍宮の王が座っていました。
浦島太郎を見ると、深々と頭を下げて言いました。
「この度は、龍宮の者が命を助けていただきまして、ありがとうございます。そのお礼にと、お招きいたしました。どうぞ、ごゆるりとなさってくださいませ」
それから浦島太郎の前には、次々とごちそうが並び、酒が振る舞(ま)われました。
そしてかわいい娘(むすめ)たちが踊(おど)り出し、夢のような時を過ごしました。
日ごと夜(よ)ごとのもてなしに、浦島太郎はわれを忘れるほどでありました。
ある時、ふと、ふるさとのことを思い出しました。
(そろそろ、村に帰ろう。村のみんなが心配しているかもしれない)
浦島太郎は、早速、龍宮の王に帰ることを告げました。
王は大変残念がったが、浦島太郎に着物や巻物などの土産をたくさんくれました。
そして、別れる間際に小さな箱を手渡(てわた)し
「この玉手箱はどんなことがあっても、決して蓋(ふた)を開けてはなりませんぞ」
と言いました。
浦島太郎は王と約束を交わして別れを告げ、亀の背中に乗ると龍宮の城を後にしました。
村に戻(もど)った浦島太郎は、はやる思いで家へとむかいました。
ところが探せど探せど、自分の家がみつかりません。
そして、会う人会う人、誰一人(だれひとり)として知っている人がいません。
どうやら、村の様子もすっかり変わっているようでした。
(いったい、どういうことだ。どうなっているんだ)
途方(とほう)に暮れて浜に行くと、一人の老人が網(あみ)をつくろっていました。
「お尋(たず)ね申します。ここらにあった浦島太郎の家をご存じありませんか」
浦島太郎が聞くと、老人は静かに語り出しました。
「確かにそのむかし、浦島太郎という若者がこの村におったと聞いておる。
ところがある日、大きな亀がやってきて、浦島太郎はその背中に乗って、海の中へと消えてしまったそうじゃ。村の人々は来る日も来る日も探し続けたが、とうとう浦島太郎はそれっきり帰ってくることはなかったという。
この村に、何百年も前から伝えられておる話じゃ」
老人の話を聞き終えた浦島太郎は、愕然(がくぜん)としました。
(なんということだ。龍宮の城にいる間に、何百年もの時が経っていたのか)
その場をやっとの思いで立ち去った浦島太郎は、むかしよく釣りをしていた岩場に行くと、龍宮の王が最後にくれた小さな玉手箱を懐(ふところ)から取り出しました。
そしてあまりの出来事に呆然(ぼうぜん)とし
「決して蓋を開けてはなりません」
という龍宮の王との約束を忘れて、思わず蓋を開けてしまいました。
すると中から真っ白な煙(けむり)がぼっと出てきて、浦島太郎を包みこみました。
たちまち黒々とした髪は真っ白になり、顏はしわだらけになり、浦島太郎は老い果て、よぼよぼのじいさまになってしまいました。
それから、浦島太郎の姿を見たものは誰もいないといいます。
《 わたしの 感想 》
浦島太郎は鶴となり、そして神となって降臨したのは今の京都丹後半島とのことです。
この物語のゆかり(浦嶋神社)があります。
深読みしますと浦島太郎は玉手箱を開けなければ、玉手箱が羅針盤となり龍宮城に誘導する働きがあると思います。
浦島太郎が、乙姫さまとの約束を忘れて(もう、どうでもいいと思ってしまった)のでよぼよぼのじい様になったと思います。
玉手箱は二人の愛を、確かめる働きがあるものだと思います。