10月4日(金)に発売となった、「渡くんの××が崩壊寸前」第8巻に関し、重要と思われる点について先行的に考察します。

今回は「その3」ということで、第8巻における渡直人の態度について考察します。

なお、「その3」についても数回に分けて投稿する予定です。今回はその2回目です。

(第9巻表紙?!今秋発売?!)


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1 松本城前でのシーンまでについて

松本城の前で、渡直人は館花紗月が頑に踏み込むことを拒んできた彼女の家庭に係る話題について踏み込むことを決意します。

(踏み込む決意(8巻第1話))

そして、この決意が8巻における渡直人の言動の方向性を決定付けていくこととなります。

これからは、このシーンに至るまでの渡直人の心境の変化について考察します。

このシーンに至るまでの段階としては、大きく以下の4つの段階に分けられるものと考えます。

第1段階:立川駅で館花紗月を探し求める段階

第2段階:「あずさ21号」の中での段階

第3段階:松本市到着後から松本城までの段階

第4段階:松本城前でのやり取りの段階

以下、それぞれの段階について、渡直人の心境の変化について考察します。

今回は、第1段階の「立川駅で館花紗月を探し求める段階」について、前回から引き続き考察します。

と言うよりも、前回の考察がグダグタだったので一部やり直しますごめんなさい。


第1段階:立川駅で館花紗月を探し求める段階

[考察]

①「お前、また突然オレの前から消える気かよ」と口にしたシーンについて

(浮かび上がる様々な想い(7巻第6話))

渡直人のこの台詞、そしてこの時の表情からは、彼がこの時、館花紗月に対して様々な、そして極めて複雑な想いを抱いていることが窺えます。

この台詞についてですが、表面的な意味合いとして感じられるのは、まずは「怒り」でしょう。この怒りの要因は、必死に館花紗月を探し求め、そしてようやく見つけて呼び掛けた渡直人に対し、「やっほー、直くんどうしたの?」と、真剣味を欠く態度で答えた館花紗月に対する抗議の意があるのだと考えます。

(真剣味を欠いた態度(7巻第6話))

渡直人の必死の努力や懸命の呼びかけを軽く扱われてしまった、と彼は感じてしまったのかもしれませんし、それ故に「怒り」を覚えたのかもしれません。

また、その他の「怒り」の要因としては、その言葉通りのこともあるのでしょう。

6年前、館花紗月は「畑荒し」を為した後、渡直人の前からふっつりと姿を消してしまいました。初恋の相手に突然会えなくなってしまった渡直人は深く傷付き、そしてそのやりきれない想いを6年もの間、引き摺り続けていました。

(6年間抱き続けた想い(4巻第2話))

その悲しみや苦しみを館花紗月からまたも味合わされてしまうことに対し、渡直人は怒りを覚えてしまったのでしょう。

しかしながら、このシーンにおける渡直人の最も大きな想いは、「怒り」というよりは、むしろ館花紗月に対し、彼の前から去らないでくれとの哀願といったほうが妥当なのでしょう。この時、渡直人は頬を赤らめています。また、瞳の色も白くなっています。

表面化させている気持ちは「怒り」でありながらも、胸中の気持ちの中で最も大きな要素は、渡直人の前から立ち去らないでくれとの館花紗月に対する「哀願」といったものなのではないでしょうか。実際、このすぐ後のシーンでは「哀願」めいた口調となっています。

そして、その「哀願」の裏にある渡直人の本音は館花紗月への愛着なのでしょう。その気持ちが顔の赤らみとして現れているのだと思われます。


②「言いたいことあり過ぎてまとまんねぇ!!」と苦悶するシーンについて

(苦悶(7巻第6話))

渡直人は館花紗月に対し「お前、また突然オレの前から消える気かよ」と語り掛けますが、館花紗月は光のない目をして微笑むのみでした。渡直人は「ぐぐっ」と言葉に詰まった後、「言いたいことあり過ぎてまとまんねぇ!!」と悶絶してします。何故、この時、渡直人がこうも悶絶するかについてですが、この時の彼の考えは以下のような流れであったかと考えます。

流れその1:館花紗月の「微笑み」への困惑

渡直人が「お前、また突然オレの前から消える気かよ」と怒気も荒く語り掛けた時、彼としては館花紗月から何らかの弁明があることを期待もしていたのでしょう。しかしながら、館花紗月は虚に微笑むのみで何も言葉を発しませんでした。そのため、渡直人的にはコミュニケーションのターンが彼に回ってきてしまった、と感じたのでしょう。しかしながら、館花紗月の微笑みに困惑し、気勢を削がれたこともあり、先程のような「怒り」を前面に押し出すという選択肢は取れなくなってしまったのでしょう。


流れその2:話したいことが多過ぎる故の困惑

結局のところ、渡直人からしてみたら、館花紗月とのこれまでのコミュニケーションは表層的なものに留まってしまっているのでしょう。

渡直人は館花紗月に何か聞き出したそうな素振りを見せることが往々にしてありますが、常に館花紗月にはぐらかされる、あるいは自分から口籠るなどして中途半端に終わってしまっています。

(言葉を為すことのない疑問(1巻第4話))

しかしながら、それは渡直人が興味を失ったという訳でなく、館花紗月の雰囲気を慮って質問を言葉として口に出すことを憚ったという理由が大きいのでしょう。6年前の畑荒らしの理由、その後に姿を消した理由、そして今になって再び彼の目の前に姿を現した理由、一人暮らしをしている理由、家族の状況。


そして、渡直人に対する彼女の気持ち。


彼にとって館花紗月に問い質したいことは余りにも多く、そしてその個々の疑問への関心は相当に大きいのだと思われます。館花紗月が今まさに「あずさ21号」に乗り込まんとする極めて限られた時間の中で、どの疑問から問い掛けたらいいのか、最早優先順位も付けられず、謂わばある種のパニック状態に陥っているのでしょう。



③「とにかく少し話しようぜ」と頼み込むシーン

「言いたいことあり過ぎてまとまんねぇ!!」と煩悶する渡直人を尻目に、「そんじゃ」と相変わらず「軽い」調子で「あずさ21号」に乗り込もうとする館花紗月。そんな彼女に対して渡直人は語気も荒く「待てよ」と呼び掛け、そして「電車一本遅らせても平気か?」、「とにかく少し話しようぜ」と語り掛けます。

(哀願(7巻第6話))

この時の渡直人の表情は相当に複雑です。困り果てたかのように眉の根を上げ、その瞳は光を失い、左頬は赤らみ、そして汗を浮かべています。4巻第2話において、館花紗月のアパートの前にて渡直人が館花紗月に対し、6年前の想いを口走ってしまった時の表情は、この時のものと似ていると言えるでしょう。

(溢れ出る6年前の想い(4巻第2話))

4巻第2話のこの一連のシーンにおいて、渡直人は、館花紗月が再び彼の目の前から姿を消してしまうのでは?という恐れを抱いていたが故に酷く動揺していました。その結果、渡直人は6年前には館花紗月に愛着を抱いていたことを実質的に告白し、かつ彼女の誘導尋問に引っかかる形で現在も心中では彼女を憎からず思っていることを露見させています。

(誘導尋問(4巻第2話))

8巻第6話のシーンでの渡直人の心境は、4巻第2話のものと相当に類似しているのでしょう、館花紗月が渡直人の前から再び立ち去ってしまうという不安に苛まれているという点において。そして、この場面において館花紗月は目の前の「あずさ21号」で実際に渡直人の前から立ち去ろうとしている訳ですから、渡直人としては、この時よりも切羽詰まった、焦りに苛まれた、そして悲しみに満ちた心境なのでしょう。その気持ちが眉の根を上げさせ、汗を流させるといった切羽詰まった表情に現れているのだと思われます。

この時の渡直人の台詞は、最早、哀願なのでしょう。行かないでくれ、という真意を辛うじて言い繕っているという状況なのだと思います。指定席である特急電車を一本遅らせてくれなどナンセンスな頼み事であると考えます(「あずさ号」ばガッチリ指定席制度です)。


以上、7巻第6話末の渡直人の言動の考察になります。




ここで蛇足となってしまいますが、館花紗月のこの時の言動について少し考察します。


【何故、この時、館花紗月の表情は生気を欠くのか?】

この一連のシーンにおいて、館花紗月の表情は極めて生気を欠いています。また、「あーあ、来ちゃったか」などと追い縋る渡直人を疎ましく思うような言葉すら口にします。

(疎ましさすら漂わせる発言(7巻第6話))

そして、館花紗月は渡直人の言葉に対して微笑みこそ浮かべますが、その瞳には感情の動きが感じられません。普段の館花紗月とは相当に異なる言動と言えるでしょう。以下、その理由について考察します。


理由についてですが、「自己の運命に抗うという考えが希薄である」、「渡直人に対し彼女の感情の揺れを見せたくなかった」そして「半ば自暴自棄になっていた」の3つが大きなものであるのではないかと考えます。以下、それぞれについて述べさせて頂きます。


理由その1:「自己の運命に抗うという考えが希薄である」について

自分自身の運命というものを彼女自身でコントロールすることはできないというある種の「諦念」、それは作中の館花紗月の言動から時折伺えるものです。7巻第5話での石原紫の回想中で館花紗月が示した表情からも、「諦念」の存在がが窺い知れます。

(漂わせる「諦念」(7巻第5話))

ストーリーの時系列的には、館花紗月に戻ってくるよう告げているであろう、彼女の保護者と思しき館花仁・広子からの手紙を受け取る前の出来事でありますが、この時点において、館花紗月は、渡鈴白と秋野菜を作る相談をする前、つまに夏の内には渡兄妹の前から姿を消さねばならないことを分かっていたのだと思われます。館花紗月としては渡直人、そして鈴白の前から姿を消すことを決して望んではいなかったのでしょう。にも関わらず、館花紗月は渡兄妹の前から去らねばならぬという悲しい運命を唯々諾々と受け入れているようであり、そして、その事を渡兄妹に一言も告げずにいます。渡兄妹に近々離別の時が訪れるということを告げない訳、それもまた「諦念」故なのではないでしょうか。二人にそれを告げ、二人がそれに反発したとしても、嘆き悲しんだとしても結論は何一つ変わらない、訪れる運命は変わらない、そんな「諦念」が館花紗月の口を噤ませ、そして彼女の瞳から光を失わせていたのではないでしょうか。


理由その2:「渡直人に対し彼女の感情の揺れを見せたくなかった」について

館花紗月は渡直人に対し、彼女の生々しい気持ちを言語化させない傾向にあります。そもそも、館花紗月は、渡直人の前のみならず、作中全般においても感情の露出を控える傾向にあります。作中において、館花紗月が渡直人に対して最も怒りを抱いていたであろう3巻第6話末においても、その怒りの理由を、悲しみや怒りに満ちているであろうその心の内を言葉として明確に表現することはありませんでした。感情の露出は極めて限定的であり、その怒りの理由の説明についても曖昧な表現に留めています。

(曖昧な感情表現(3巻第6話))

その理由については、館花紗月は彼女が生育した環境において感情表現を発達させる機会に恵まれず、そのため感情表現のスキルに欠けていることが一つに挙げられると思いますが、別の理由として、感情を言葉として明確に表現することにより、渡直人の心情、そして行動を拘束してしまうことを懸念していたこともあるのでないかと考えます。

7巻第6話のこのシーンにおいて、仮に館花紗月が彼女の胸中、渡直人と離れ離れになっていまうことへの悲しみを彼に対してそのまま言葉として表現していたならば、それを聞いた渡直人は深く悲しむでしょうし、そして、おそらくはそれを阻むための行動を取るのでしょう。館花紗月のこととなると、発作的に劇的な行動を取ってしまう渡直人のことですから。

(発作的に館花紗月を庇う渡直人(2巻第4話))

館花紗月の基本的な行動原理は、渡直人のことを第一に考え、彼の為になることをするということにあります。渡直人を悲嘆に暮れさせ、そして館花紗月のために行動させてしまう事態を引き起こさないためにも、敢えて感情の揺れを見せない態度を取っていたものと思われます。

また、館花紗月から事情を聞いた渡直人が悲嘆に暮れてしまうと、それを目の当たりにした館花紗月の感情も刺激を受け、彼女自身が更に感情を露呈する、場合によってはそれが激しいものとなってしまうこともあるのかもしれません。館花紗月が渡直人の悲嘆に巻き込まれるようにして彼女の悲嘆を露わにしてしまうこと、それを避けたいという気持ちもあったのではないでしょうか。


理由その3:「半ば自暴自棄になっていた」について

この一連のシーンでの館花紗月の言動は、普段の彼女のそれと比較すると、相当に「雑」です。必死の思いで館花紗月を探し出した渡直人に対し「やっほー」などと巫山戯た調子で宣ってみたのはその好例でしょうし、語気荒く詰め寄る渡直人に対し、はぐらかすような微笑みを浮かべるのみだったりします。渡直人が館花紗月を探してやって来ることをあまり想定していなかった、意味不意打ちに遭った状況であったため、ある意味、対応の余裕もなかったのかもしれませんが、渡直人の態度を細かく観察し、必要あらば過不足無く心身両面で彼をサポートする普段の彼女のスタンスからしてみると、かなり異例な態度です。

(家族のようなサポート(7巻第3話))

館花紗月が示す「雑」な対応の理由には、館花紗月が感傷的になってしまう前に、それを誘発しかねない、追いすがる渡直人を突き放そうという、謂わば「理由その2」に関連するもの、館花紗月の感情の露出を誘発することを防ぎたいということもあるのかとは思われますが、この時、館花紗月が謂わば「自暴自棄」な心境にあったことも理由としてあるのかと考えます。

館花紗月の願い、それは作中の彼女の言動から察するに、渡直人の側に在ることであり、その関係を深め、行く行くは渡直人と家族のような関係となることであるのでしょう。3巻第6話において館花紗月が渡直人に対して激しい怒りを覚えたのは、渡直人が館花紗月との関わりを軽んじると解釈されても仕方のない発言をしてしまったためと思われます(関連考察:館花紗月の怒りについて)。また、6巻第6話において、館花紗月が作中最も幸せそうな表情を浮かべたのは、彼女が渡直人との間に恰も家族のような、親密な情緒的繋がりを感じたためだったのでしょう。

(「家族」を感じて(6巻第6話))

しかしながら、7巻第6話の館花紗月は、そんな彼女の切なる願いも虚しく、渡直人の側から去ろうとしています。彼女自身の切なる願いが絶たれようとしてしまっている、そんな状況において、館花紗月はある種の自暴自棄な気持ちを抱いていまっていたのではないかと考えます。


そして、この自暴自棄な気持ちが館花紗月をして、この次のシーンに見られる突発的な行動を取らせたのではないでしょうか。

(突発的な行動(7巻第6話))



今回は以上で終わらさせて頂きます。

8巻の考察するぞ!と言いつつ7巻の考察だったという詐欺回でしたごめんなさい。

渡直人考察だぞ!と言いつつ約半分は館花紗月考察でしたすみません。

最後まで読んで下さりありがとうございました。