ルネ・クレマン監督
「持たざる」男が,働かずとも好き勝手に暮らしている「持っている」男を殺害し,全財産を奪い取ろうと完全犯罪をもくろんだお話
フェリーニのアマルコルド(1973)とは音楽担当のニーノ・ロータ1)つながりです
主な登場人物は3人です
主人公トム・リプリー(アラン・ドロン)
その友人でお金持ちのフィリップ・グリーンリーフ(モーリス・ロネ)
そしてフィリップの婚約者マルジュ(マリ-・ラフォレ)
まばゆいばかりの太陽が降り注ぐイタリアが舞台ですが監督も主な出演者も皆フランス人です。
フィリップの父親は息子をサンフランシスコに連れ戻すためトムに成功報酬として5000ドルを約束していました。
しかし,フィリップはアメリカに戻る気はなく,つきまとうトムをパシリとして使っています。
フィリップは自由奔放に日々を過ごし,マルジュには黙ってトムとふたりでローマに遊びに来ました。
ここで会ったフィリップの友人,フレディはトムを嫌っています。
フレディ: 仕事は何をしているんだ。本職はあるのか
トム: 何もしていない。君は?
フレディ: 何もしていない。でも自分には金がある
トム: 僕にも他人の金がある
フィリップにしてもフレディにしても金持ちの傲慢さが目につきます。
金もあり女もあり,何の不自由もないフィリップに対し,トムは何もありません。
それを何度も見せつけられるトム。
フィリップとマルジュがイチャイチャしているとなりの部屋でフィリップの服を着て鏡に向かって「僕のマルジュ,愛してる」と言ってキスをする場面,この時すでにフィリップに成り代わろうと思っていたのでしょうか。
マルジュはフラ・アンジェリコ2)の論文を書いていると言っていました。。
黙ってローマに遊びに行ったのでご機嫌取りに買ってきたのもフラ・アンジェリコの画集でしたね。
映画の中にも代表作のひとつ「受胎告知」が出てきました。
ヨットで出かけた際,ロープに結ばれたボートにのせられ,炎天下の海に放置させられます。
こんな非人道的行為やパワハラまがいの行為,フィリップの上から目線を見るたびに,だんだんボクたち映画を見てるものはトム側の気持ちに傾いていきます。
そして犯行へと向かっていきます。
この映画はアラン・ドロンのための映画だといっている意見がありますが,激しく同意します。
20代のアラン・ドロンの魅力全開の映画だと思います。
アラン・ドロンは1960~1970年代,「世紀の美男子」,「二枚目」,「ハンサム」,という評価で一世を風靡しました。
現在の表現なら「超イケメン」といったところでしょうか。
「日本では自分が美しい男の理想型」と不遜な発言があったと言われていますが,でもその通りだったと思います。
「持たざる」男,トム・リプリーを演じたアラン・ドロンと紹介しましたが,持っていなかったのはお金だけじゃないでしょうか。
こんなイケメンでいい体の男はむしろ恵まれた男といっていいでしょう。
そうはいってもトム・リプリーがブサメンだったらこの映画は成り立たないでしょうね。
特にこの映画では上目遣いの表情が印象的でした。
狙った獲物を仕留めるために虎視眈々とチャンスを窺っている感じがたまりません。
完全犯罪を狙ったサスペンスとしては,結構おもしろい映画ですが,今考えるとこんなことはないだろうというツッコミどころはたくさんあります。
トムがフィリップに成り代わって,パスポートやサインをごまかしていました。
でもマルジュへの電話でフィリップの真似はできないんじゃないでしょうか。
さすがに彼氏の声は聞き分けられるんじゃないかな?
指紋の検証がいい加減
フィリップの部屋にあった指紋とフレディの車の指紋が一致したというだけでフィリップの犯行と決めつけています。
いくら昔の警察でもキチンとフィリップの指紋は調べるでしょうね。
トムがモンジベロに行ってフィリップの遺言を残す細工をします。
バスタブに浸かりながらORARIOGENERALE(時刻表)を見ていました。
この時刻表も不思議?
ローマ~ナポリ(220km)が2時間なのにナポリ~サレルノ(50km強)が2時間もかかるの?
サレルノ~バッティパーリアはいいとしてモンジベロまでさらに2時間?
モンジベロって架空の漁村のようですが,どこに設定したんでしょうか?
いろいろやって,モンジベロ 1:33発,ローマ 10:45着で帰ったってこと?
モンジベロの家に行く時は船を使っていたので島だと思っていました。
だとすると夜中に船で移動したの? 船はどうした?
遺産はマルジュに入りましたが,マルジュとねんごろの仲になる自信があったんでしょうね。
それができなければ全く金が手に入らないです。
最後の場面です。
完全犯罪を成し遂げ,太陽の光をたっぷり浴びて"Meilleur, Meilleur" 「最高,最高」とつぶやきます。
その後の大どんでん返し
ニーノ・ロータのテーマ曲がイイです。
1) ニーノ・ロータ
ぼくらのような映画好きの人間にはたくさんの映画音楽の作曲者としての認識しかありませんが,本職はクラシック音楽の作曲家なんでしょうね。
オペラ,バレエ,管弦楽曲たくさんの楽曲があるようです。
道(1954),フェリーニのアマルコルド(1973)をはじめフェデリコ・フェリーニ監督の映画は,すべてニーノ・ロータが音楽を担当しています。そのほかにもルキノ・ヴィスコンティ監督の若者のすべて(1960),山猫(1963),フランコ・ゼフィレッリ監督のロミオとジュリエット(1968)の音楽を担当しています。
ゴッドファーザーPARTⅡ(1974)でアカデミー賞作曲賞を受賞しています。ちなみにゴッドファーザー(1972)の時も作曲を担当していましたがこの年のアカデミー賞作曲賞はライムライト(1952)のチャールズ・チャップリンでした。なぜ,この古い映画が1973年アカデミー賞作曲賞を受賞したのでしょう。赤狩りでアメリカでの1952年には公開されなかった?
2) フラ・アンジェリコ
この映画の中ではマルジュがゴシックとルネサンスの間と言っていましたが,15世紀前半に活躍しています
修道士です。ですから教会の祭壇画や漆喰に描くフレスコ画など宗教色の強い作品がほとんどです。
有名なものはこの映画の中に出てきた「受胎告知」です。
「受胎告知」とは大天使ガブリエルが聖母マリアを訪ね,聖霊によりキリストを妊娠したことを告げるエピソードです。処女懐胎というアンビリーバブルなできごとですが,これを変にいじるとクリスチャンからの攻撃を受けます。
ゴシック時代からいろいろな画家の題材になっており,レオナルド・ダ・ヴィンチやエル・グレコなども「受胎告知」を描いています。「受胎告知」はフラ・アンジェリコの得意とするモチーフでいくつかのバージョンがあります。
ファミレスのサイゼリアにイタリアンな雰囲気作りのために飾られていることがあるそうです。
最後の絵は一点透視図法(遠近法)がはっきり取り入れられており,ルネサンス期の特徴になっています。