アラン・J・パクラ 1 監督

 

法学の女子学生が最高裁判事の殺人事件を推理して書いた文書がもとで命をねらわれ,新聞記者と一緒にこれを解決していくお話

 

ライトスタッフ」とはサム・シェパード2) つながりです。

 

 

ルイジアナ州ニューオリンズの大学の法科教授であるキャラハン(サム・シェパード)が講義をしています。

「話し合いより暴力の先行する社会は感情が理性より大きな比重を占める。利己主義は自由に対する脅威だ」

これから起こることの暗示のようにも感じられます。

 

ハードウィック裁判についての議論になります。

1986年,自宅で男同士の性行為を行なっていたハードウィックが逮捕されます。ジョージア州では同性愛は違法だったからですが,ハードウィックは法律自体が憲法違反だとして訴えました

学生のダービー・ショウ(ジュリア・ロバーツ)はプライバシー尊重の建国精神に反すると主張していました

キャラハン:州法は合憲だと判断した。どうしてだと言うと

ダービー:バカだから(字幕ではこう意訳してありましたが "They are wrong",彼らは間違っている,直訳はこうですね)

というくだりがありました。

実際,合衆国最高裁は、5対4で合憲との判決を下しています。バウアーズ判決と呼ばれています。

 

ただし,その後も,テキサス州で男性同士の性行為を行ない逮捕されたローレンスが州法が憲法違反だと訴えています。

こちらは,2003年,最高裁で 6対3でテキサス州法が違憲と判断されました。さらにバウアーズ判決を非難し無効であるといっています。

最終的にダービーが言った"They are wrong" の通りになってということです。

この判決によりソドミー法は軍事裁判を除いて撤廃されました。

 

ジュリア・ロバーツは役作りのためにロースクールで実際に授業にも出席したそうです。教室のシーンでの何人かの学生は1994年卒業の実際のロースクールの学生だそうです。いいなあこの学生たち。

 

教授(キャラハン)と生徒(ダービー)が恋人同士ってのも,そうありそうなことではありませんが追及しないことにします

 

 

 

さて,アメリカの最高裁判所は、首席判事と8人の陪席判事から構成されていて,大統領が指名・任命します。

任命には上院による同意が必要です。9人とも終身制のため本人が死亡するか自ら引退するまではその地位を保証されています。

 

そのうちの2人が殺害されたわけですからやっぱり何か裏があると見るのは自然の発想でしょう
法科の学生ダービーがたどり着いたペリカン文書(真実)に他の誰かも通常はたどり着きそうなものですけどねえ。

 

原題はThe Pelican Brief,ブリーフといえば

 

これを思い浮かべるのですが,短い,簡潔,要約,概要という意味です。短い下着なのでブリーフなのでしょう

 

ペリカン文書という言ってみれば,法科の学生のレポートが鍵になっていますが,はじめのうちは内容が明らかにされていませんでした。
ダービーがキャラハンに文書を渡したことから話が展開していきます。

 

 

この文書が大統領首席補佐官のコール(トニー・ゴールドウィン3) )に渡ります。

大統領に多額の献金を行なったマティースが絡んでいると気付いたのでしょう

これが公になれば大統領の再選が不利になります。

 

 

酔ったキャラハンは "Miss Shaw, you take my breath away"「息ができないくらい君に夢中だ」と言って車のエンジンをかけると爆死。

ダービーは恋人の死を目の当たりにし,衝撃と悲愴そして恐怖を感じたでことしょう

ちなみに"Take my breath away"はベルリンが歌った曲でトトップガン(1986)の劇中歌のタイトルです。関係ないとは思いますが・・・


自分が書いたレポートが原因だと直感したダービー。
 

キャラハンの友人でFBI顧問(ジョン・ハード )にレポートの行方を確認します。

この俳優,映画の中でちょっと太めと言って腹の脂を触るシーンがありましたが,アテローム性動脈硬化に伴う心臓疾患で亡くなっています。実生活でも不摂生がたたったんじゃないのかなぁ

 

 

ヘラルド紙の記者グランサム(デンゼル・ワシントン4) )にコンタクトをとり,友人のアリスからPCとフロッピーが盗まれたことを聞きます。

メディアがフロッピーというところに時代を感じますね。あとでグランサムがインタビューの時に録音したのもカセットテープだったし、ガルシアが残したのもVHSのビデオテープでした。20世紀だなぁ。

 

現代との大きな違いは,通信手段として携帯電話もネットもないことにつきると思います。

これはいろんな映画で言えることですが,その時代,時代で時代の先端のものが使われていると思うと,個人と個人の通信が簡単にできるというスマホの存在はとんでもない進歩,恩恵なのだと改めて感じました。

 


さて,なにゆえ,「ペリカン」文書か。

ルイジアナ州の州鳥がペリカンだそうです。思い込みでペリカンなんてアフリカの鳥だと思っていました。

ペリカンの住みかを荒らすことに反対する人たちが,殺意の標的になったと言うことです。

そもそも州鳥なんてあるとは知りませんでした。

ついでに日本でも県鳥っていうのがあるようですね。ちなみに東京はゆりかもめ

 

 

その全貌を知っていてグランサムに一度は連絡してきたガルシアの正体を確かめるためにガルシアの会社でバイトしていた学生を調べます。そのうちの1人で薬物中毒で入院中の学生に面会に行ったりするところはおもしろい展開でした。

ダービーが部屋に入った時,幻覚かと思った。こんな幻覚なら大歓迎だって気持ち

同意します

 

ガルシアが残したビデオを銀行の取りに行き,駐車場で逃げ回る時流れるサスペンス感あふれる音楽は,アポロ13(1995)で再利用されていました。どちらも音楽担当はジェームズ・ホーナーです。

 

そしてビデオを見て全貌が明らかになりました

FBI長官ヴォイルズにも連絡。こんな大物が新聞社に現れます。

原作者のジョン・グリシャムが関係している映画 ザ・ファーム 法律事務所(1993)にも同じ名前のFBI長官が登場しています。

 

そのヴォイルズはダービーと会って発した言葉

"So you're the little lady who started this great brouhaha",あなたがこの騒ぎをおこした女性ですね

 

これは

"So you are the little woman who wrote the book that started this great war"

「あなたがこの大きな戦争を引き起こした本を書いた女性ですね」という言葉のパクリです。

 

本とは「アンクル・トムの小屋」,作者がストウ夫人,大きな戦争とは南北戦争のことです。

「アンクル・トムの小屋」は黒人の奴隷の生涯を描いた小説で奴隷解放やひいては南北戦争に影響したとされています。

これを言ったとされるのはリンカーン大統領です。

 

それに対してダービーはI think you have me confused with the President’s friend.

私を大統領の友人と勘違いしているようだ。

と答えていました。

 

 

デンゼル・ワシントンが演じるグランサム記者は,原作では白人男性として描かれており,ダービーと恋愛関係になっていましたが,映画ではそうではありませんでした。ジュリア・ロバーツは実際にその「ロマンス」を支持しましたが,ワシントンが拒否したようです。その理由は自分のファンが黒人女性で占められており,彼女たちが異なる人種の恋愛に否定的な反応を示すからだそうです。

この映画でのデンゼル・ワシントンはカッコイイですね。まだ30代で今よりもシェイプアップしていてシュッとしていましたね。       

 

ジュリア・ロバーツ,デンゼル・ワシントンはふたりとも後にアカデミー賞主演賞を受賞しています

エリン・ブロコビッチ(2000)でアカデミー主演女優賞を受賞したジュリア・ロバーツが翌年のトレーニング デイ(2001)でデンゼル・ワシントンにアカデミー主演男優賞を贈っています。

 

 

 

1)   アラン・J・パクラ

アイビーリーグのイェール大学で演劇の学位を取得しています

アラバマ物語(1962)などの製作後,ライザ・ミネリ主演のくちづけ(1969)で監督デビューしています

続いて監督したコールガール(1971)では主演のジェーン・フォンダがアカデミー賞主演女優賞を受賞,大統領の陰謀(1976)ではジェイソン・ロバーズが助演男優賞,ソフィーの選択(1982)ではメリル・ストリープが主演女優賞を受賞しています。

交通事故で亡くなっていますが,陰謀を扱った映画を多く監督していたため,次の映画で明らかにしようとした陰謀が関係して抹殺されたのではないかという憶測まで出ました。

 

2) サム・シェパード

俳優であり,ブロードウェイで活躍した劇作家,監督です。

音速のパイロットを演じたライトスタッフ(1983)ではアカデミー賞助演男優賞にノミネートされていますが,実際は飛行機恐怖症でした。

イージーライダーでも流れた ”If You Want to Be a Bird”のザ・ホリー・モダル・ラウンダーズというバンドのドラマーもやっていました。ライトスタッフ(1983)で登場したザ・バンドのリヴォン・ヘルムとはドラマーつながりだったんでしょうか。

ボブ・ディランが1986年にリリースしたディランのアルバムノックト・アウト・ローデッドに収録された "Brownsville Girl "の作詞はボブ・ディランとサム・シェパードの共作です。

いろんな才能があった人ですね。ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病でなくなっています。

 

3)  トニー・ゴールドウィン

ゴースト/ニューヨークの幻(1990)でも悪役で出演していましたね。

最新のアカデミー作品賞を受賞したオッペンハイマー(2023)でも聴聞会でオッペンハイマーを追及する役で出演していましたね。30年の年月を感じました。

彼は出自がスゴイ。サミュエル・ゴールドウィンの孫です。サミュエル・ゴールドウィンとは,映画製作・配給を行った老舗映画スタジオの一つ,MGM(Metro-Goldwyn-Mayer)の真ん中のゴールドウィンさんです。ライオンが吠えるアレです。

 

4)     デンゼル・ワシントン

南北戦争を舞台にしたグローリー(1989)でアカデミー賞助演男優賞を受賞し,トレーニング デイ(2001)で主演男優賞を受賞しています。主演賞,助演賞どちらも受賞しているのは6人目になります。ちなみにほかの俳優はロバート・デ・ニーロ,ジーン・ハックマン,ケビン・スペイシー,ジャック・レモン,ジャック・ニコルソンです。

フィラデルフィア (1993)で共演したトム・ハンクスはデンゼルを見て演技を学び,映画学校に通うようなものだったと語っています。「グローリー」,「フィラデルフィア」はAFIが選ぶ感動的な映画BEST 100(2006)に31位,20位に選ばれています。ほかにもマルコムX(1992),クリムゾン・タイド(1995),戦火の勇気(1996),マーシャル・ロー(1998),アメリカン・ギャングスター(2007),フライト(2012)などに出演し,最近はイコライザー(2014)がシリーズ化されタフガイぶりを発揮しています。