フィリップ・カウフマン監督
米ソの宇宙開発競争が始まった頃の時代を背景に,アメリカ空軍で音速越えに挑んだテストパイロットと有人宇宙飛行を目指したマーキュリー計画のために選抜された7名の宇宙飛行士の物語
「アポロ13」とは宇宙つながり,もう一つ,エド・ハリス1) つながりです。
前半はテストパイロット,チャック・イェーガー(サム・シェパード)が音速を超えるチャレンジが描かれます。
音の壁は地面のように固く破れない,破るやつは死ぬ,と言われ,飛行士たちのたまり場,パンチョの店の壁には亡くなった飛行士の写真が並べられていました。
落馬して肋骨を折ったイェーガーは整備士のリドレーに飛行機のドアを閉められないと相談すると,モップの柄を切り取ってイェーガーに渡しました。
リドレーがモップの柄をクルクル回すところが様になっていますが,彼はリヴォン・ヘルム,ザ・バンドのドラマーです。スティック捌きがうまいわけです。
ガムはあるか。1枚なら。あとで返すからくれ。このやり取りも印象的ですね。
実際にはBeeman'sあるかって聞いています。Beeman's Gumというチューインガムが有名らしいです。
そして音速を超える飛行に成功します。
ほかの人がマッハ2を記録すると,イェーガーはそれを越える飛行をして,さらに悪魔を見たいと無茶します。
1957年,ソ連がスプートニクを打ち上げ,それに対抗する格好でNASAが創設されましたが,有人飛行でもソ連のガガーリンが先手をとり,アメリカは後れをとっていました。
ワシントンではソ連に先を越され,躍起になります。
エドワーズ空軍基地まで宇宙飛行士のスカウトにやってきます
イェーガーがキャッチボールをしているシーンがありましたが,イェーガーの甥のスティーブ・イェーガーはロサンゼルス・ドジャースのバリバリのキャッチャーでした。1981年のワールドシリーズでも活躍し優勝に貢献しています。
イェーガーが最速のタイトル保持者だけど大卒でなければダメ,民間人はダメ…とか言っていると,後ろでウイスキーを勧める老人がいました。この人物,実在のイェーガー本人です。
500人以上の応募者から過酷な身体検査と適性試験
軍隊(海軍,空軍,海兵隊)56名から候補者を呼んで様々なテストを行い7名が選ばれます
飛んだ順番をつけました
1番,アラン・シェパード(スコット・グレン2) )
ホセ・ヒメネスというメキシコ人キャラクターのコメディが大好きで病院での検査でも大男のメキシコ人看護師に絡みますが,人種差別ネタだったため,意地悪され高圧浣腸で漏らしそうになります。尿漏れの伏線ですね
ロケットで出発する時,「がんばれホセ」と言われますが,出発が遅れて尿をがまんできず宇宙服の中に垂れ流してしまうというオチがついてしまいました。わずか15分の飛行でした。
この映画の中で 「俺は絶対,月に行く」と言っていましたが,実際にアポロ14号の船長として人類として5番目に月面に立っています。
2人目はガス・グリソム(フレッド・ウォード3) )
ハッチが爆発してカプセルを回収できなかったので,帰還後の扱いが違いました
ホワイトハウスにも招かれません。
後の検証でハッチの爆発は彼の人為的なミスではなかったことが分かっています
ガスは,その後のアポロ1号の訓練中,火災事故で亡くなっています。当時の宇宙飛行士たちの間ではこの事故がなければ彼が月面を歩いた最初の人間になっていただろうとの見方が強いということです。不運な男です。
アポロ13(1995)でジム・ラヴェル(トム・ハンクス)がNASA所長室に呼ばれ,ケンに風疹の抗体がないことを話している後ろの壁に写真が飾られていましたが,ガス・グリソムら殉職したアポロ1号のクルーです。
3番目はジョン・グレン(エド・ハリス1) )
地球周回飛行を行ないます。
ジョンソン副大統領が奥さんに会わせろと圧力をかけますが "100%" 拒否しています
これは映画の演出かと思いましたが本当の話だったようです。
夜に入る(地球の影に回る)と満月,手が届きそうだ。似たようなことはアポロ13でも言っていましたね。
輝く針のようなもの,光のシャワー。蛍と呼んでいましたが,ロケットから出た凝縮した氷の結晶が太陽光に照らされたもののようです。
7周,回る予定でしたが,遮蔽板が外れかけていることが判明し,3周で終了します。5時間弱の飛行です。
手動操作でRe-Entry(大気圏再突入),大気圏を通過する際,宇宙船は荷電粒子に囲まれるため,地上との交信ができません
これは 「アポロ13」 でも同じ場面がありました。
一方,イェーガーは新しい飛行機に乗ります
ソ連が出した高度35000mを越え,The Right Stuff,正しい資質を実現するものとしてイェーガーはたった1人で大空に舞い上がっていきます。高度計が限界に達した時成層圏のかなたに一瞬宇宙を見ました。
マーキュリー7に戻ります
当初4番目に飛行する予定だったのはディーク・スレイトン(スコット・ポーリン,集合写真では*の人)ですが,心房細動が見つかり,マーキュリー計画では宇宙飛行していません。「アポロ13」 にも登場しています。トム・ハンクス演じるジム・ラヴェルが議員さん(?)の施設見学の際に「マーキュリーセブン」の1人でわれわれのボス,賄賂を受け取り飛行士を指名していると冗談を言って紹介していた人物です。
スレイトンに代わって4人目の飛行士として選ばれたのはスコット・カーペンター(チャールズ・フランク,集合写真では4の人)。グレンと同じく地球を3周しています
5番目,ウォルター・シラー(ランス・ヘンリクセン4) )は地球を6周し,その後のジェミニ計画,アポロ計画でも宇宙飛行を行なっています。この映画ではほとんどセリフがありませんでした。
6番目,ゴードン・クーパー(デニス・クエイド5) ),映画の中では小生意気な役柄でしたが,地球を22周まわり,その後のジェミニ5号では8日間で地球を120周しています。
この映画に出演した多くの俳優はその後有名になりましたが,この映画の公開当時は大物俳優がいませんでした。
それもあるのでしょうか,この映画,イイ映画なのに興行的には失敗した映画になりました。
製作会社はラッド・カンパニーという会社です。ポリスアカデミー(1984)では大成功を収めましたが「ライトスタッフ」の大ゴケで会社をたたんでいます。制作費2700万ドル,興行収入2100万ドル
1984年アカデミー賞作品賞,助演男優賞 (サム・シェパード),撮影賞,美術賞にノミネートされています。アカデミー賞編集賞,音響賞,作曲賞を受賞しています
音楽担当はビル・コンティ6)
またAFIアメリカ映画100年シリーズ,感動の映画ベスト100で19位に選ばれています。
1) エド・ハリス
「ライトスタッフ」後,プレイス・イン・ザ・ハート(1984),アビス(1989),ザ・ファーム法律事務所,アポロ13(1995),ザ・ロック(1996),目撃(1997),トゥルーマン・ショー(1998)に出演しています
「アポロ13」,「トゥルーマン・ショー」ではアカデミー賞助演男優賞にノミネートされています。
2) スコット・グレン
ナッシュビル(1975),地獄の黙示録(1979),アーバンカウボーイ(1980),「ライトスタッフ」,レッド・オクトーバーを追え!(1990),羊たちの沈黙(1991),バックドラフト(1991)などに出演しています。けっこういろんな映画に出ていてよく見かける役者です。
3) フレッド・ウォード
アルカトラズからの脱出(1979),地獄の七人(1984),トレマーズ(1990)とタフな役柄を演じることが多い役者です。アマチュアボクサーとして4度鼻を骨折しています。この映画で共演しているエド・ハリスと仲良しです。
マーキュリー7で演じたガスと同様にこの7人の中では一番早く亡くなっています。
4) ランス・ヘンリクセン
狼たちの午後(1975),未知との遭遇(1977)などの出演していました。
「ライトスタッフ」ではほとんどセリフなしの役でした。一番印象に残る役はエイリアン2(1986)のアンドロイド,ビショップ役でしょう。
5) デニス・クエイド
ヤング・ゼネレーション(1979),ロング・ライダーズ(1980)に出演しています。インナースペース(1987)ではライトスタッフに続きパイロットを演じています。この映画で共演したメグ・ライアンと結婚しました。後,離婚。ケビン・コスナー主演のワイアット・アープ(1994)ではドク・ホリデイ役を演じましたが,この映画は興行的に大失敗でした。
6) ビル・コンティ
ジュリアード音楽院で修士(Master of Music)を取得した作曲家です。
ハリーとトント (1974),グリニッチ・ビレッジの青春 (1976),結婚しない女 (1978)といった1970年代のイイ映画の音楽を担当していますが,何といっても有名な曲はロッキー(1975)のテーマ(Gonna Fly Now)でしょう。1977/07,Billboard Hot 100で1位を記録しています。この曲はアカデミー賞歌曲賞にノミネートされています。
アカデミー賞作曲賞を受賞した「ライトスタッフ」の音楽に基づいた組曲も出版されましたが,2009年まで完全なサウンドトラック・アルバムは発売されませんでした。そのアルバムはコンティがずっと保管していたマスターテープから作られたものなのですが,残念ながらその間に傷んでしまったものもあったようです。案外,ずぼらな人なのかな