ミック・ジャクソン監督

 

女性歌手レイチェル(ホイットニー・ヒューストン)に脅迫状が届き,ボディガードとして雇われたフランク・ファーマー(ケビン・コスナー)が身辺警護にあたります。最初は対立するふたりでしたが,次第に惹かれていくというロマンティック・サスペンス映画です。

 

アンタッチャブル」とはケビン・コスナーつながりです

 

アメリカのシークレットサービスは大統領の警護を行う業務を担当しています。

1980/12にジョン・レノンが凶弾に倒れ,翌年,1981/03,レーガン大統領暗殺未遂事件が起こりました。

フランクはレーガンが大統領だった時のシークレットサービスで,暗殺未遂事件の際は非番だったという設定です。

そのことを気にかけて辞職したと映画の中では言っていますが,非番なんだから責任はないし辞職する理由としては希薄かな

 

この映画はどちらかというとサスペンスというよりサスペンスタッチのロマンス映画なのだと思います。そういう理由で全く評価しない人もたくさんいます。

実際,ラジー賞(ゴールデン・ラズベリー賞でも,ワースト作品賞,ワースト主演男優賞(ケヴィン・コスナー),ワースト主演女優賞(ホイットニー・ヒューストン)にノミネートされています。

確かに最初はいがみ合っていたふたりが愛し合うようになるなんてストーリーはベタな展開と言えますが,王道の展開とも言えます。

 

サスペンスとしては,

Marron Bitch, You have Everything(おまえは全てを手に入れている),I have Nothing(オレは何も持っていない)

そういう異常者(ストーカー)がレイチェルにつきまとい,脅迫状を送ったため,こいつから守るというのがフランクに依頼された仕事です。

レイチェルのベッドでマスターベーションまでされたということは防犯体制が極めて貧弱だということです。

しかも最初はレイチェルに脅迫状のことを伏せていたために,彼女自身があまりに無防備。

ライブハウスで歌い,暴徒化したファンから救い出す所は格好良かったですね。

 

 

 

 

レイチェルを家に連れて帰りキッチンでひとりナイフでなんか(リンゴ?)削って食べているところに,もともとレイチェルを警護していたトニーが現れます。

ライブハウスで自分がこけにされたと思いこみ,逆上してフランクに殴りかかって格闘するところはけっこう好きなシーンです。この映画の一番見所のあるアクションシーンです。

ふたりともレイチェルファーストなのは同じですが,フランクの方が警護の面でも格闘でもSkillが一枚上回っていたということですね。

でもこのあと,トニーはフランクに逆らうことをやめて,イイやつになっています。

 

 

助けられてからレイチェルのフランクに対する気持ちが変わります。

ふたりで映画を見て,そのあと一杯やっている時のセリフ

「守る自信があるのね」

「命がけで来られたらどうしようもない。」

「そうなったら?」

「身代わりになる」      「それが仕事だ」

 

ジュークボックスから "I Will Always Love You" が流れる中,暗い歌詞だといいながらダンスするふたり。

この曲はJohn Doe,ジョン・ドウという歌手が歌っているカントリーミュージックです。

ちなみにジョン・ドウとはアメリカでは名前のない人,名無しの権兵衛という意味です。

皿が割れる音に反応するフランク。レイチェルのセリフ「大丈夫,心配しないで。私が守ってあげる」

 

 

ストーカーからの電話があり,コンサートを中止し,山荘に避難しますがここにも魔の手が届きます。

そしてレイチェルの姉からのまさかの告白

殺人を依頼したのはアンタかい。しかも理由は She has everything,ストーカーからの手紙と一緒やないかい。

 

そして依頼した殺人者に姉は撃たれてしまう

手紙を送った男ストーカーは別人でした

サスペンス映画として弱いのはレイチェルをねらう犯人の動機でしょうか。クライアントが死亡(しかも自分で射殺)したのに仕事をやり遂げる理由は何?

これは最後まで曖昧のまま話は進みます。

 

そしてオスカーの授賞式

誰が犯人かを知り,トニーに知らせようとするけれどできずに体を張るしかありませんでした。

 

飛行場での別れ

飛行機を止めて走るレイチェル       

 

この時,ホイットニー・ヒューストンの歌う "I Will Always Love You",アカペラから始まります。これはケヴィン・コスナーのアイデアです。

歌詞の内容はいわゆるラブソングではなく,別れの曲です。

別れを決意したけど,ずっとあなたのことを思っているわ。あなたの幸せを祈っているわといった内容です。

 

フランクがまた新しいボディガードの仕事(下院議員の警護)として食事会の会場に控えています。

牧師の言葉

危険な試みをする者にも安息を与えたまえ

たとえわれら死の暗き谷を歩むとも主は我らと共にあり我らを導きたもう,Amen。

そして画面の端にフランクの静止画,"And I Will Always…♪" と続きエンドクレジット

 

神懸かり的なホイットニーの歌声と画面が一致しています。この歌声を聞くと,うるうるしますね。

 

 

 

この映画もともとは脚本家のローレンス・カスダン1) が1970年代に書き下ろした作品です。

彼はブリット(1968)のスティーヴ・マックィーンをイメージにした脚本を書いたと言うことです。

 

実際に70年代半ばに企画された時はレイチェルの役はダイアナ・ロスが想定されました。

ただこの時代は「物議を醸しすぎる」として却下されたそうです。物議を醸すのは白人男性と黒人女性の組み合わせと言うことでしょうか。50年近い前の話なので当時の差別意識がどうだったかまでは理解できませんが,マックィーンのファンとしてはマックィーンの「ボディガード」も見たかったなぁ

 

ケヴィン・コスナーは、フランク・ファーマーを演じるにあたってマックィーンを参考にした。役作りのためにマックイーンの髪型をまねて短髪にしています。いい男はどういう髪型にしてもいい男。

 

ローレンス・カスダンは黒澤明のファンでもありました。劇中で足を運んで見た映画は 用心棒(1961)でした。用心棒の英訳は”Bodyguard”。しかもフランクの部屋には日本刀まであってサムライを意識していましたね。レイチェルのスカーフが刀の上に乗せただけで真っ二つというのはちょっとできすぎじゃない。それに映画「用心棒」で演じた三船俊郎の桑畑三十郞はこんなにストイックじゃないと思いました。

 

ケヴィン・コスナーはアンタッチャブル(1987),フィールド・オブ・ドリームス(1989),ダンス・ウィズ・ウルブズ(1990),ロビン・フッド(1991),JFK(1991)と快進撃を続けていました。この映画ではプロデューサーのひとりでもあり,ホイットニー・ヒューストンにレイチェルを演じるよう働きかけたのも彼です。

ホイットニー・ヒューストンにとって初めての映画出演ですが,コスナーに演技のアドバイスを受けた引き換えに撮影現場でケヴィン・コスナーに歌のレッスンをしていたそうです。

 

映画の有名なポスターでコスナーがお姫様だっこしている女性はホイットニー・ヒューストンではなく替え玉です。ホイットニーは撮影の現場を離れていたため替え玉を使って撮影したようです。顔が隠れていて全く分かりませんね

 

この映画,何が有名かって,やっぱり主題歌 "I Will Always Love You"でしょう

この曲の作者ドリー・パートン2) は映画のためにこの曲を使いたいと依頼され,その曲を送ってそのまま忘れてしまっていたそうです。ある日,彼女が車を運転していた時,ラジオからホイットニー・ヒューストンの歌を耳にしました。その歌声の美しさに圧倒されたそうです。

大ヒットしたこの曲,Billboard Hot 100で14週間連続1位でした。

アルバム自体も4200万枚以上という驚異的な売り上げ(サントラ盤売り上げ第一位)でグラミー賞,最優秀レコード賞と最優秀ポップ・ボーカル・アルバム賞の2部門を受賞しています。

ちなみに映画のサントラ盤で2位の売り上げはサタデー・ナイト・フィーバー(1977)です。

AFI(アメリカ映画協会)が2004年に発表したアメリカ映画主題歌ベスト100で65位に選ばれています。

 

しかしアカデミー賞歌曲賞にはノミネートもされていません。映画オリジナルの曲ではないという判断でしょうか。歌曲賞にノミネートされたのはこの映画からは”Run to You”でアカデミー賞歌曲賞を受賞したのが アラジン(1992)の” A Whole New World”でした。

 

 

1)ローレンス・カスダン

スター・ウォーズ/帝国の逆襲(1980),レイダース/失われたアーク《聖櫃》(1981),スター・ウォーズ/ジェダイの帰還(1983)の脚本を担当しています。

白いドレスの女(1981)や再会の時(1983)では脚本のほか,監督も行なっています。この2つの監督作品もいい映画でした。

ただその後,監督したワイアット・アープ(1994)が興行的に失敗してその後は大作の監督は行なっていません。

 

 

2)ドリー・パートン

シンガーソングラーターです。カントリーミュージック界の大御所です。

また映画にも出演しており,コメディ映画の 9時から5時まで(1980)では主題歌 "Nine to Five" がアカデミー賞歌曲賞にノミネートされ,Billboard Hot 100で第一位を獲得し,さらにAFIが選ぶアメリカ映画主題歌ベスト100でも第78位に選ばれています。

 

翌年に出演したテキサス1の赤いバラ(1981)の中で ”I Will Always Love You” を歌っています。この曲はリンダ・ロンシュタットもカバーしており,それだけイイ曲だと言うことでしょうね。CMT(カントリー・ミュージック・テレビジョン)が2004年に選定した史上最高のラブソング・ベスト100ランキングで見事,No.1になっています。

この曲,エルヴィス・プレスリーがデュエットすることに興味を持っていました。

"ロックの帝王 "と歌いたいという願望もありましたが,印税の50%を渡すことになるので,最終的に,この依頼を断ったということです。「ボディガード」でホイットニー・ヒューストンが歌った "I Will Always Love You"の大ヒットで相当な印税が入ったことでしょう。

 

ほかにもオリビア・ニュートン・ジョンが歌ってヒットした ジョリーン(1976)もドリー・パートン作詞作曲のカバー曲です。この曲は All Japan Pop 20,1976/9に1位になっており日本でもヒットした曲です。

ちなみに "Jolene" と "I Will Always Love You" は1973年の同じ夜に書いたそうです。

すごいですね。

 

1996年,世界初のクローン哺乳類として羊のドリーが誕生しました。

乳腺由来細胞から核だけを取り出し,ほかの羊の卵子に移植し,さらにほかの羊の子宮に戻して出産した羊です。

ドリー・パートンにちなんでドリーと命名されましたが,ドリー・パートンが巨乳として有名だったからだと思います