ノーマン・ジュイソン1)監督

 

前作「荒野の七人」とのつながりはもちろんスティーブ・マックイーン2)です。

 

実業家で資産家のトーマス・クラウン(スティーブ・マックイーン)が銀行強盗を成功させ,保険会社の調査員ビッキー(フェイ・ダナウェイ)は彼を疑い近づきます。男女の駆け引きが行なわれますが,しだいに二人は恋仲になっていきます。

もう1度銀行強盗を行なって南米に逃げることを打ち明けられ,一緒に南米に行こうと誘われます。銀行強盗は実行され成功したかに見えましたが金を受け取るべき場所にはビッキーや警察が待ちかまえていました。しかしその時トーマスは飛行機に乗っていました

 

 

この映画の特徴ともなっているオープニングのマルチスクリーン

斬新なスタイルですが,分割画面が採用された本当の理由は,編集者のハル・アシュビー3)が上映時間を短縮することを命じられたからこのようにした苦肉の策だったようです。

 

ミシェル・ルグラン作曲の主題歌「風のささやき(The Windmills of Your Mind)」がまたおしゃれ感を引き立てています。

歌っているのはノエル・ハリソンといい,マイ・フェア・レディでヒギンズ教授を演じたレックス・ハリスンの息子です。

この主題歌はアカデミー賞歌曲賞を受賞しています。

 

なんと言ってもこの映画はマックィーンのためにある映画です。

「大脱走」,「荒野の七人」の野性味あふれる役柄と違い,ハイソサエティーよろしくビシッときまったスーツ姿は素敵ですね。

 

フェイ・ダナウェイもミニスカートやベージュやうすいピンクを基調とするファッションはとても上品な感じです。

 

 

最初に成功した銀行強盗の金を回収する時に着ていたグレンチェックのスリーピースのスーツ,青いサングラス。完璧でしょう。


オークションに参加した時に着ていた細かいストライプのピンホールカラーのシャツ

あこがれます

 

 

ポロをしているところをビッキーがビデオ撮影しています

このビデオのでかいこと。今では考えられません。

1965/06に発売された16mm キャノン スクーピック16です。

当時の定価 295,000円

 

 

主演の二人が海岸で着ていた縄編み柄のセーターはアランセーター4)です。

 

チェスをする場面でビッキーがドレスの胸元に手をやったり,指が触れたり,ビショップの頭をさすったり,とても官能的ですね。

 

 

ロールスロイスやフェラーリを運転し,ポロでは馬を乗りこなし,グライダーまで操縦するという完全な富豪。400万ドルの資産というミリオネアの役柄でした。現在の貨幣価値に換算すると3360万ドルのようです(inflation calculator参照)。

 

それなのに何故,強盗?

それを言ってはドラマにはなりません。

映画の中では「金のためじゃない。この腐った世の中との対決だ」と言っていました。

 

クレプトマニア(窃盗症)に類するものなのでしょうか?

クレプトマニアとは金銭的な目的ではなく,窃盗時の緊張の高まりや成功した時の満足感を目的に万引きなどの窃盗を行ってしまうものです。精神病として分類されています。

この映画では窃盗ではなく強盗ですし,自分では手を下していないのでクレプトマニアとはいえないかもしれませんが,達成感や刺激を求めて犯罪計画を実行したのは間違いないようです。

架空のお話ですので追究してもしょうがないです。マックイーンのカッコ良さだけ見ていればいいのです。

 

 

1)   ノーマン・ジュイソン

僕は今までジェイソンだとばかり思っていましたが13日の金曜日(1980)のJasonとは違いJewisonジュイソンが正しい発音のようです。

シンシナティ・キッド(1965)でマックィーンと組んでいます。

夜の大捜査線(1967)はアカデミー作品賞を受賞した名作です。この作品もいずれ取り上げたいです。

そのほか,トポル主演の屋根の上のヴァイオリン弾き(1971),ロックオペラのジーザス・クライスト・スーパースター(1973),ジェームズ・カーン主演のローラー・ボール(1975),アル・パチーノ主演のジャスティス(1979)などを監督しています。

シェール,ニコラス・ケイジ主演の月の輝く夜に(1987)はベルリン国際映画祭監督賞を受賞しました。

 

2)  スティーブ・マックイーン

1955年,名門俳優養成所のアクターズ・スタジオに合格しました。2000人のうち合格者は2名だけで,もう1人は後にスパイ大作戦で変装の達人の役をやるマーティン・ランドウでした。

 

 マーティン・ランドウ

 

マックイーンの最初のブレイクはTVドラマの「拳銃無宿」です。

その後,戦雲(1959)でジョン・スタージェスと組み「荒野の七人」,「大脱走」とつながっていきます。

シンシナティ・キッド(1965)でノーマン・ジュイソンと最初に仕事をしています。この映画もすごくいい映画。レイ・チャールズの主題歌も最高。

1960年代後半から1970年代前半はマックィーンの絶好調の時代です。

ロバート・ワイズ監督の砲艦サンパブロ(1966)では米海軍水兵を演じアカデミー賞主演男優賞にノミネートされています。

ピーター・イェーツ監督のブリット(1968)では当時としては最高のカーチェイスを行なったサンフランシスコの刑事役を演じています。

栄光のル・マン(1971)は,かなり自分の趣味(車)を優先させた自己中心的な作品です。当初はジョン・スタージェスが監督する予定でしたが,ハリウッド調の明るいエンディングにしたかったスタージェスと,ドキュメンタリー風にこだわったマックィーンの意見が合わずに降りています。案外映画館でも不振を招いていたようですが,サーキットを疾走する映像は迫力があり僕は好きです。

ジュニア・ボナ-(1972)ではサム・ペキンパー監督と組んだロデオライダーを描いた作品です。バイオレンス映画,アクション映画を特徴とするサム・ペキンパーの映画にしてはほのぼのとしたタッチの映画でした。

ゲッタウェイ(1972)でサム・ペキンパー監督と再びコンビを組みますがこの映画もすごく良い。この映画はサム・ペキンパーの真骨頂,ショットガンの乱れうち。

パピヨン(1973)では南米にあるフランスの流刑地の囚人を演じました。共演のダスティン・ホフマンも良かった。ヒトとしての誇りを奪った権力に対するかたくなな抵抗と自由へのあくなき執念を感じ取りました。「大脱走」とはまた違った脱出劇です。マックイーンは”やんちゃな” 少年時代を送り,少年院らしきところから何度か脱走しているという話ですので脱走は得意?

タワリング・インフェルノ(1974)ではサンフランシスコの消防署長役で超高層ビルの火災の消火に奔走します。この映画もスターがたくさん出演していて豪華絢爛でした。

マックイーンは悪性胸膜中皮腫という病気で亡くなっています。石綿(アスベスト)を吸うと発生するといわれています。耐久性、耐熱性に優れていて安価なため建築材料をはじめとする様々な用途に使用されました。マックイーンの米海兵隊時代に行なわれた,船内でパイプからアスベストを取り除く作業が関係あると言われています

トム・ホーン(1980),ハンター(1980)が最後の映画作品になりました。

 

3)  ハル・アシュビー

シンシナティ・キッド(1965),夜の大捜査線(1967)でノーマン・ジュイソンと組んで編集を手がけています。「夜の大捜査線」ではアカデミー賞編集賞を受賞しています。

その後,さらば冬のかもめ(1973),シャンプー (1975),ウディ・ガスリー/わが心のふるさと (1976),帰郷 (1978),チャンス (1979)の監督をしています。

 

4)  アランセーター

フィッシャーマンセーターとも言います。

歴史的にはアイルランド沖のアラン諸島で漁師の女性たちが編んでいたもので水に強い天然ウールでできています。夫の無事と豊漁を願い編み,模様は家紋のように母から娘へと伝えられてきました。ユニークなデザインは遭難して亡くなった際に漁師を特定する手段にもなっていたそうです。

僕も持っていて,分厚くて暖かいのですが,現在社会での室内では暑くてなかなか着る機会がありません。でも電気代も高騰しているのでまた脚光を浴びるかもしれません。