今日は人気だった八太郎の日々を、再掲載しました。
如風流の人類の始まりを書きました。
ダーゥインさん、ごめんなさい。
<八太郎の日々 1話>
尚、登場人物など全てフィクションです。
ベガという恒星がある。
このベガの惑星にKAMIHOTOKE星がある。
この星の環境は、地球と全く同じで大気があり海があり大陸がある。
電力は殆どが原子力による発電。
発電によって多く出る放射能の廃液は海に流されるため、海水温が上昇し海の生態系が乱れるのみならず、北極と南極の氷が解けて海水面が上昇し全体の30%の陸地が25%まで減少してしまった。
当然、住人は追い出されるように残された陸地に集まっていくので、異常な人口密度になっている。
更に、放射能は揮発し大気へと混ざりこみ、真っ黒な雲を形成し、放射能の黒い雨が空から降り注いでしまう。
非常に高い科学力を持っている世界の末路が近づいていた。
そこで人類は、他の星への移住計画が起こった。
そして、見つかったのが25光年離れた所にある太陽系第3惑星のアース。
国連は一つの村がスッポリト入るほどの巨大な宇宙船2機を開発した。
その宇宙船を使った先発隊として、2つのグループが編成される。
1つは「ノア」と名付けられた宇宙船、もう1つは「雲」と名付けられた宇宙船。
両機には、炭酸同化作用装置とよばれる酸素を作り出す機械と、床一面に重力装置、そしてMOXと呼ばれる核燃料をリサイクルする発電機が装備されている。
搭載されるのは3年分の食糧と、小麦、野菜の種と米の稲の苗それぞれ1t。
重要な先発隊のメンバーは50人に絞られた。
VOL48<八太郎の日々 2話>
乗組員の50名の内訳は、衣服を作れる技術者、食品加工の技術者、建築・土木の技術者、航空技術、機械製作技術。農業技術を持っている者、科学者、芸術家、そしてグループリーダーの船長。
勿論、家庭を持っている者は家族を、独身者は恋人や友達も同伴可能という決まりだ。
選ばれた船長は、「ノア」にはアダム。
妻はイブが同伴。
「雲」には八太郎。
妻・ワイフと息子・九太郎夫妻が同伴する。
彼らの使命は、重大。
住めるように街を創らなければ、KAMIHOTOKE星に残された者たちは移住が不可能になってしまう。
今から20万年前、重責を担い、2つの宇宙船は飛び立った。
彼等には大切な守りごとが2つあった。
1つは、移住したことはその後の子孫に極秘にすること。
2つ目は、科学力に頼りからずに文明を創る事。
それは、アースの先住民を大切にする意味につながる、急激な変化を避ける事にある。
ブラックホールの降着円盤に入り、そこから「アイランド」を見つけ、噴き出すジェット気流を推進力に活用したワープ技術が初めて搭載された宇宙船は、離陸から3か月後、アースにたどり着く。
着地点は「ノア」はナイル川上流域の現在のエジプトとスーダンの国境付近、「雲」は黄河上流の現在の中国中央部周辺。
なぜなら、まず命の源である水を確保するために、大きな川が必要だった。
後は高度な科学力が、生活を助けてくれる。
VOL48<八太郎の日々 3話>
さて、ナイル川上流に着陸した「ノア」。
乗組員が、続々と降るとき、先住民であるネアンデルタール人が、石斧、石槍を手に襲い掛かってくる。
船長のアダムは、武器を手に取り全員に戦闘態勢に入るように命じた。
武器の威力に優るアダムたちは、ことごとくネアンデルタール人を殺した。
ネアンデルタール人の攻撃が収まり、アダムたちは家を建て、水道を創り、食料と野菜の種などを分けて生活を始める。
落ち着いたころ、アダムは妻のイブを連れ、抜粋した10名ほどを連れ立ってノアに乗り、北上することにする。
暫く行くと、そこには穏やかで美しい海が有った。
地中海である。
アダムたちは、ノアを飛ばし地中海を渡り、ギリシャに着陸する。
すると、そこにはクロマニョン人たちが住んでおり、またしても侵入者であるアダムたちに襲い掛かってくる。
やむを得ず、アダムは立ち向かう。
クロマニョン人も、ほぼ全滅した。
この時、ノアに無線が入る。
KAMIHOTOKE星の本部からだ。
「原住民を大切にしろ」という規則にアダムは違反していると猛烈な叱咤と罵声が無線のスピーカーから放たれる。
その罵声に怒ったアダムは、無線機を銃で破壊し、そのままノアを離陸させた。
舵は東へ向け、広い土地が見え着陸の準備をする。
そこは「エデン」という土地だった。
VOL48<八太郎の日々 4話>
着陸の前にアダムは、もう原住民を殺したくないという思いでノアに積んでいたミサイルを「ヴァン! ヴァン! ヴァン!」と全て何処に打つともなく地面に放つ。
そのミサイルは正確に一か所に集中して撃ち込まれる。
すると、その着弾地に大きな穴が開き、地下水が噴き出した。
見る見るうちに地下水は湖を作り出し、平らな地面を縫うように2本の川を生み出し、ペルシャ湾へと流れ出た。
アダムは、ミサイルで「ヴァン」と打って出来た湖なので「ヴァン湖」と名付ける。
そして2本の川をティグリス、ユーフラテスと名付ける。
その川の間を「メソポタミア」と名付け、そこにノアを破壊して大きな宮殿のような家を造り、乗り組み員10名と科学を活かして村を作り上げる。
近くの原住民たちも、いつのまにか集まってきて、アダムを神と敬い、大きな集落が出来き文明を作り上げていった。
一方、エジプトに残った人たちは、コツコツと畑を作り、麦の種を撒き、広大な土地で農業に従事した。
パンを作り、野菜を育て、ブドウでワインも作った。
後にやって来るであろうKAMIHITOKE星からの後続隊に分かりやすくするために大きな石を集めサイコロ状に切り、巨大な四角錐の形に積み上げた。
KZMIHOTOKE星の科学力をすれば、たやすい事である。
更に、KAMIHOTOKE星の方角、つまり飛来してきた方向に向け、ライオンの体に人の顔を象ったスフィンクスも作った。
こうして、このエジプトンの地にも文明を開いていった。
やがて彼らは、船を造り、地中海を渡り、ヨーロッパへと足を延ばしたが、エデンが向かったという東の方角には、決して向かわなかった。
そう、彼は反逆人となっていたからである。
VOL48<八太郎の日々 5話>
一方、中国中心部に着陸した八太郎一行は、現地に住み着いていた上洞人(北京原人)たちと、身振り手振りで意思疎通を図り、村を作っていた。
上洞人たちには、空から降ってきた神に八太郎たちは映ったのだろう。
ひれ伏し、敬い奉られ、八太郎は友好的に接し、農耕を教え、黄河の豊富な水を活用し稲を育てるための田を作り、土地を掘り起こして畑で野菜を育て、上洞人たちには喜ばれている。
黄河如流域での暮らしも落ち着いた八太郎は、ワイフと息子九太郎夫婦を連れ、「雲」に乗り西へ向かう。
大陸から突き出た半島を見つけ飛んでいくと、海の向こうに銀色に輝くものが目に入る。
好奇心旺盛の八太郎は、その輝くものに引かれ「雲」を飛ばす。
近寄っていくと其処には陸地が有り、銀色に光っていたものは、山だった。
「雲」を着陸させる平地が無いので、海に着水。
出てみると、驚くことに多くの人達が集まって、何やら拝んでいる。
彼らは、八太郎を「イザナギ」、ワイフを「イザナミ」と呼んで手を合わせているのだ。
八太郎は、「よしなさい」と言うが、彼らは止めない。
そして、「雲」のことを「いずもたいしゃ」と言っている。
その場を何とか切り上げた八太郎一行は、銀入りに光り輝く場所へと歩いた。
そして、行き着いた所は、彼らの言う所の「仙の山」、またある人は「銀峯山(ぎんぶせん)」と言った。
今でいう石見銀山だ。
何と、美しい光景なのだろう。
八太郎は、恐らくこの山を掘れば銀が多く採取されるのだろうと考えた。
しかし、その採取は絶対に争いの元となるので止めるべきだと感じた。
VOL48<八太郎の日々 6話>
八太郎一行が、「雲」が着水している場所に戻ると、集落の人達は祭りの準備をしていた。
「イザナギ」と「イザナミ」を迎えるための祭りだ。
友好的で陽気なこの倭人たちの気性は、八太郎に物凄く溶け込んでいる。
いや。八太郎が溶け込んでいる。
美味しい海の幸と山の幸を倭人たちは八太郎に振舞い、とっておきの酒も用意していた。
八太郎は舌鼓を打ち、酒を飲み、「雲」に積んでいたギターを持ち出して陽気に歌った。
八太郎一行は、此処に永住する事を決める。
ここの住民たちと意気投合したのだった。
山で切り落としてきた木で家を作り、川から水を引き水田を作り、土地を耕し畑で野菜を育てる事を倭人たちに教える。
そして、この地を「日本」と決める。
後にエジプト同様、KAMIHOTOKE星から多くの移住民達が中国に飛来し、八太郎の元にも駆けつけてきた。
彼らは南西の方角に向かい流れの速い海峡を渡り、九州へと足を向けた。
その一行は、九州で「邪馬台国」という名の国を作る。
ここには「熊蘇」という原住民が居て、一部で争いが起こったが、集落を分け隔て共存する。
また、別の一行は、東へと向かい「大和」、「伊勢」を作り、別の一行は南へ向かい「山陽」を作る。
こうして、瞬く間に「日本」の文化が始まっていく。
しかし、この「日本」は四季折々の美しさや、豊かな海産物が獲れるのだが、余りにもその土地は狭かった。
VOL48<八太郎の日々 7話>
人は、狩猟生活を送っている時はともに助け合って生きる。
しかし、農耕が主流となると、食物は安定的に供給できるが、より多くの収穫を得たくなる。
そうなると、より広い土地が必要になり、奪い合いが始まる。
ここに戦い、戦争が起こるようになる。
狭い日本では、それが激化して方々で戦が始まりだす。
隣通しの集落が争い、それに勝利したものは、更に隣を攻撃する。
その事態は、至る所で起きている。
安定的に食料を確保するはずの「農耕」と言う技術は、とんでもない副作用を生じさせることになる。
近代的な武器は誰も持っていないが、石や竹で作られた武器でも当然の如く死者も出た。
八太郎は、「何故、こういう事になる?」
人の「欲」という醜いものを、また、このアースでも引きずっているのか?
あれ程、権力者の私欲のためにKAMIHOTOKE星がすさんでいったことを、もう忘れているのか?
憂いた八太郎は、出雲を出て争いの仲裁に出かける。
お互いの国境(くにざかい)を仕切り、それ以上の侵略を止める様に諭した。
九州、山陽、大和、伊勢と周り、仲裁に尽力する。
その折、山陽の静かな海の向こうに、もう一つ、陸地が有るのを見つけた。
渡ってみると、温暖な気候の様だ。
八太郎は、そこを讃岐と名付け、込み合っている山陽からの移住を促す。
多くの人達が賛同し、讃岐、愛媛、土佐へと拡大していく。
VOL48<八太郎の日々 8話>
一方、九州に居住を見出した文化は発展していく。
九州北部で確立された邪馬台国は南下を進め鹿児島にも大きな集落を築く。
そこを薩摩と名付け、さらに南下し琉球まで辿り着き、そこを占領しようと、また新たな争いを始める事になる。
八太郎は、またも頭を痛める。
どうして、こうも欲が先走るのか。
そこで平和に暮らせば、誰も傷つかずに生活できるはずなのに。
堪忍袋の緒が切れた八太郎は、「雲」に残っていたミサイルを鹿児島南部の海に落として、薩摩の人達を威嚇した。
ミサイルの着弾で爆発し、その威力で海底が隆起し五島列島が出来た。
琉球と薩摩は、島でつながり、まるで隣近所のような形になった。
薩摩は八太郎の威嚇に萎えて、琉球への攻撃を止めた。
その後、薩摩と琉球は、お互いの文化の交流が盛んになり、交易まで行うようになる。
薩摩の人は琉球へ、琉球の人は薩摩へ移る。
その中には相互の婚姻も有り、薩摩、琉球のハーフも多く誕生する。
日本の皆が、平和になっていく。
KAMIHOTOKE星から移住してきた人たちは、その様な平和な日本に、多く流れてくる。
関西から中部へ、そして関東へと広がっていく。
田を作る者、畑を耕すもの、船を造り海に出て魚を漁る者、山で獣を捕獲する者。
木を切って住宅用の建材にするものまで居た。
その中で、鉄鉱石を加工する加治屋も出て、工業も始まった。
VOL48<八太郎の日々 9話>
こちらは、アダムを追放したヨーロッパ組。
エジプトからギリシャに渡った一向は、東はイタリア半島、西はユーラシア大陸を地中海沿いに西へと向かった。
一方、追放されたアダムは、妻のイブと共にティグリス、ユーフラテス川の間にメソポタミアを造り、原住民と共に掟破りの科学を使い、素早く文明を作り上げていた。
しかし、ティグリス、ユーフラテスの2本の川は、平らな地を流れるので、雨期になると度々、氾濫し人々を苦しめた。
そこでアダムは神殿を造り、「ウル」という名を付けて崇めさせる。
しかし、水害は止まず、視察に出かけたアダムは、水に流され大怪我をする。
それ以来、アダムは床に伏した。
そして死ぬ間際にアダムは、側近のマホメッドに
「もし、何者かが侵略してきたなら、闘い抜け。 絶対に負けは許されない。 命を課して守り抜け。 やられたら絶対に、やり返せ。 目には目を、歯には歯を。」
と、言い残した。
マホメッドは、その遺言を忠実に守り、メソポタミアを拡大させるためにトルコ、サウジアラビア、イラン、イラクと勢力を広げていく。
一方、八太郎が中国から日本に移り、残った人たちは中国からヒマラヤを迂回し、インダス川の豊富な水を得てインドで更なる文化を創り上げた。
インドからパキスタン、アフガニスタンと広げて、中国とは異なる文明を立ち上げる。
こうして、アースにはエジプト、中国、インド、そしてアダムの残したメソポタミアに人類は、居場所を造った。
KMIHOTOKE星から25光年も離れた場所で。
青く光る、美しい星で。
VOL48<八太郎の日々 最終話>
さて、日本を開拓した八太郎は、出雲を始め、邪馬台国のある九州各地、山陽、四国、伊勢、大和、関東のそれぞれにリーダーを置き、平和のために管理させる。
中でも、邪馬台国は対馬を中継地として中国と交易を行ない、特に栄えていた。
八太郎は、ふと海を見た。
そこには大きな宇宙船「雲」が、未だに浮かんでいる。
もう、「雲」は必要が無い。
処分しなければ、日本は自立した文化を創れない。
海に、沈めるか・・・。
八太郎は、決心する。
まず、搭載しているMOX燃料。
こんなものは絶対に使ってはいけないと考え、地中深く埋めた。
妻のワイフと九太郎夫婦に「雲」を処分しなければならないことを話す。
八太郎は「雲」に乗り込み、海底に向けて発信した。
雲は、西の方向に向かい勢いよく海底へと向かった。
海底に突っ込むと大きな爆発を起こす。
その振動で両側に島が隆起した。
その島は沖ノ島と、隠岐の島と後に名付けられた。
人々は、沖ノ島を「神の島」と呼び、隠岐の島は「絵にかいたような美しい島」と呼ぶようになる。
その後何年も経ち、邪馬台国は卑弥呼という女王を生み民衆をまとめた。
更に何年もの年が流れ、神武天皇が出て、西の大和を目指す。
途中、山中で迷った時、足が3本の「八咫烏」と出会い、大和までの道案内をしてくれた。
何とか無事に大和にたどり着いた神武天皇は、「大和の国」を築き上げた。
日本の本当の始まりである。