※あくまで個人の考えです。

前回までのお話
さて、毎年、東大の大学入試の合格者で最も女子率が低いのは理科Ⅰ類です。2024年の入試データによると、

女子合格者/全合格者(女子比率)
文Ⅰ:114名/402名(28.4%)
文Ⅱ:63名/355名(17.7%)
文Ⅲ:180名/471名(38.2%)
理Ⅰ:94名/1119名(8.4%)
理Ⅱ:110名/548名(20.1%)
理Ⅲ:21名/98名(21.4%)

こちらのデータを参考にさせていただきました。
また、東大独特のシステム「進学選択」については、下記HPなどをご参照ください。
上記のデータから、東大合格者の中で最も人数が多い理科Ⅰ類が最も女子率が低いというのが、東大の女子率が低い最も大きな原因である考えて良いと思います。理科Ⅰ類は合格者数以前に、受験者数でも女子率が低いです。その原因を推定すると、

1⃣理科Ⅰ類に合格できる学力があれば、東大・京大以外の国立大学医学部には合格できる
女性のライフステージを考えた場合、理科Ⅰ類を経て研究者・エンジニア・サラリーマン・公務員をやるより、医者の方が生きやすいと考える女子学生が少なくない。また東大の数学の入試問題の難易度が高く、数学がそこまで得意でない女子受験生が高難易度の数学に対処することを考えたら、中難易度の問題で高得点をとればいい医学部入試の方が合格するのは楽。

2⃣理科Ⅰ類から進学できる学部・学科で女子学生の興味の対象となるものが多くない
入学後の進学選択で、女子学生に人気のある薬学部や化学系は理科Ⅰ類、Ⅱ類のどちらからでも進学できるし、生物系は理科Ⅱ類の方が定員が多い。それでいて、大学入試では合格最低点が理科Ⅰ類の方が理科Ⅱ類より10点以上高い年があるので、工学部や数物系の学科に進学したいという強い意志がないと、入試で理科Ⅰ類を受験するインセンティブがない。

…書いていて、理科Ⅰ類の女子比率を上げるのは無理じゃないか、という気がしてきました(苦笑)。根本的には「男女関係なくガチで勉強しろ」という啓蒙活動と並行して、「工学や数物系に興味を持つ女子学生を増やす」という取り組みを、日本全国津々浦々で粘り強くやるしかないのですが、多くの先人が頑張ってきたにも関わらず、成果を上げているとは言い難い状況です。
だからといって、*工業大学のように「女子枠」「女子加点」などはやるべきではないと思います。あれはエンジニアの仕事で言うと「性能未達・納期未達になりそうだから検査データを改竄する」ようなものです。根本原因を解決せず目先の数値合わせをしていると、後で手痛いしっぺ返しがくることが予想できるはずなのですが。

以前に当ブログでも書いた状況を短期間で変えるのは無理でしょう。これは関係者が地道に「工学や数物系に興味を持つ女子学生を増やす」努力を続けるしかないと、本当に思います。



また、男女で数理系の能力差はあるのか、と時々提起される疑問について、私見を述べておきたいと思います。個人的には「最上位層で男女の能力差があることを否定するのは難しい」と考えています。

「その筋の人たち」が、OECDのデータを根拠に「日本人の数理能力の男女差はない」みたいなことを言っていたりしますが、OECDの数理系の設問は日本の中学生の標準的な数学能力を考えると「標準問題」であり、難問ではありません(日本の中学・高校の数学教育は、世界的に見るとかなり高いレベルを要求していると言われています)その標準的な問題で男女の平均点が変わらないからと言って、高難易度の問題を解く能力に男女差がないとは言えません。

男女の学業成績でよく言われていることですが、同じ平均点でも男子の方がばらつきが大きい(標準偏差が大きい)ことが多いです。この標準偏差の違いを、男子1.3、女子1.0くらいでざっくりモデル化してグラフにすると次のようになります。


たとえ平均点が男女で変わらないとしても、男子の方ができる生徒もできない生徒も広く分布しているといえます。そして、このモデルでは最上位層での男女分布は次のようになります。


自分はこのモデルを裏付ける実測データを持っていませんが、東大理系の数学ⅠAⅡB範囲の問題を高校3年生の全ての生徒に解かせたら、50%以上の得点の取れる生徒の男女比は、グラフの偏差値80あたりの男女比になるのではないか、と思います。

勿論、「個人差」はあり数学が極めて得意な女子は存在しますが、その絶対数は男子の方が有意に多い結果になると思います。学問的に「脳」の「性差」があるのかどうかは定かでなくとも、統計的にはこういう傾向があるのを否定するのは難しく、また統計に表れた傾向を「社会的・文化的なジェンダーバイアスの結果」だと断定するのは、言い過ぎではないかと自分は考えます。

ちなみに、こういう統計の話をしている時に、個別の例外を示して反論した気になって「勝利宣言」するのは、数学と統計のセンスを疑われるのでオススメしません。

事象例
疫学的知見からは、喫煙者は非喫煙者よりも平均寿命が短い
反論(?)例
俺の爺さんはヘビースモーカーだったが、100歳まで生きた

少なくとも、研究者を自称する人間が主張することではないと思います。



というわけで、ガチで勉強しても「東大入試の理系数学がサクサク解ける」領域に至ることができる女子は、男子ほど多くないと自分は思います。
「数学女子」は存分にその特技を存分に生かした入試戦略を取ればいいのですが、そこまで得意でない場合は、数学(と物理)で男子と同等の得点を取ることを前提とした受験戦略は得策ではありません。
幸いにも、東大の入学試験(理系)は英語・数学・理科が120点、国語が80点という構成な上、文系科目(英語、国語)は数学や物理ほどの難易度はないので、これらの科目でも並み以上の点数を取る「オールラウンダー戦略」が女子に適していると言えます。統計的にも、英語や国語は女子の方が得意である、と言われていますし。

東大の理系に合格する為には、英語と国語「も」頑張りましょう

という月並みな結論になりましたが、これが現実解ではないかと自分は考えます。

↓の戦略は女子向けではないかもしれません。
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