*あくまで個人の感想です。
*結論が身も蓋もないです(笑)。
*事実誤認があれば、ご教示いただければ幸いです。

しばらく前に、人種を基にしたアファーマティブ・アクションはフェアじゃないだろう、というアメリカの最高裁の判決がありました。
人種、性別、門地など本人が自分で選択できない要素を根拠に、合理性のない不当な扱いをすべきではない、というのがこういう活動の当初の理念だったと思うのですが、いつの間にか「今まで自分たちは不当に扱われてきたから、これからは自分たちを優遇しろ」という、おおよそ「公平・公正」とは思えない主張をし実行させるようになり、それをやりすぎたが故の揺り戻しかな、と思います。

そんなアメリカに対し、周回遅れの、しかも「女性」という1つの特性のみで、アファーマティブ・アクションを「これから」導入しようという学校も本邦にはあります。

東京工業大学が総合型・学校推薦型選抜で143人の「女子枠」を導入
近年、東大の推薦入試とか、京大の特色入試とか、「別にやらなくて良くない?」と思うような入試がありますが、東工大の推薦枠は、規模と方向性で「さすがにそれはやめといたら?」と自分は思います。

東工大を「数理系の科目を極めて進学する大学」から「そこまでやらなくても入れる裏口が開いた大学」にしていこうというわけで、さすがに「勉学に励んで東工大を目指している学生」や「学業の研鑽を積んだ在校生、OB・OG」に失礼でしょう。
大学の入試改革で、最も積極的に取り組むのが工学部(最も消極的なのが法学部)と言います。エンジニアらしく、試行錯誤してより良いものに近づければ良い、という発想なのかもしれません。ただ残念ながら、材料・機材を新たに調達すればいろんな試行錯誤ができる理工学の実験と違って、失った「信用」は戻りません。

更に言うと、この女子推薦枠の導入で、優秀な女子ほど一般入試を含めて、逆に東工大を敬遠するようになると自分は予想しています。理由は「推薦入試で入学した(学力で劣る)学生と、自分が同レベルの学生だと思われたくないから」
個々の事情は別にして、総論的には、優秀層の男子と女子は、そもそも勉強する「目的意識」が違うと思うのです。他人の評価より自分の世界観や思いで突っ走っていくのが男子、周囲の人間から認められ承認要求が満たされることが重要な女子、と言いましょうか(その違いは、大学入試の合格体験記を読むとよく感じます)。そんな、能力と覇気のある才媛にとって「裏口から入る大穴が空いた大学」は行く価値がないのです。
結果として、東工大は推薦枠でも一般試験でも「最上位層の女子生徒」には相手にされず、理工系への進学を考える才媛は、今以上に東大の理系を目指すようになるでしょう。統計的には、女子の方が男子よりも国語の成績が優れていると言われているので、理系でも二次試験に国語がある東大入試の方が女子に有利、と考えることもできます。



話は変わりますが、東工大の女子学生が少ないのと、東大の女子学生が増えないことの、根本的な原因は同じだと思います。東大の女子学生が少ない最大の原因は、最も定員の多い理科Ⅰ類(東大の定員の約1/3)で、女子の志願者・合格者の比率が少ない(10%弱)からです。
女子の優秀層がそもそも理工系学部を選択しないとも言えます。じゃあ、女子の優秀層はどこにいったのか?…は言わずもがなの「医学部」でしょう。

現在、理工系は修士課程までは出ることが「当たり前」になっています。その6年間で学業・多少なりとも「研究」をして、メインの就職先は「文系職と給与の差がないメーカー」です。(新卒時に年齢2歳分の差はあるが、給与計算のテーブルは同じです)更にメーカーは事業所の立地から「勤務地が都会ではない」ことが多々あるし、残念ながら給与水準も高いわけではありません。
コスパうんぬんの議論は自分はあまり好きではありませんが、「仕事での待遇/学業に投入したリソース」を考えたら、科学者・エンジニアは本当に「ろくでもない」仕事です。

理工系の学部を出てシリコンバレーに撃って出るとか、高給のコンサルティングファームで働くとか、ハイリスク・ハイリターンの人生を送るつもりがないなら、「高い学習能力」を「金銭」に変える効率と確実性が高い「医者」という職業は、男女を問わず理系の優秀層には魅力的な選択肢です。

「医療なめんな」「医者はそんなに儲からない」と医者をやってる方々から反論されそうですが、だったら(若手の修行ではなく恒常的な仕事として)地方の県庁所在地から更に離れた僻地でコメディカルと同じ給料で医者の仕事するか?都市部勤務でいいから今の給料の1/2〜1/3の額で医者やるか?、と逆に聞いてみたいです。診療報酬が法定価格である恩恵は大きいですよ?

また、さんざん言い尽くされたことではありますが、男子がどうやっても代替不可能な、妊娠・出産というライフステージが想定される女子にとって、復職しやすい医療系資格職、その中でも医者は魅力的な職業でしょう。

そんなわけで、理工系の女子学生を増やす効果的な方法は、「理工系の学部を医学部より魅力あるものにする」、更に言うと性別関係なく「理系の研究者・エンジニアを魅力ある職業・待遇にする」ではないかと考えます。
しかし、戦後の左翼系「平等主義」のルサンチマンもあって、我が国全体が文系理系問わずに「頭を使う人間に金を払わない」「能力のある人間を安く使い倒す」で成り立っているので、改善されることはないでしょう。上述のように、医者は仕事が法定価格で保護されているから、他より高給なだけとも言えます。

能力と覇気がある人はアメリカに撃って出よう、そこまでの野心がないなら国内で医者をやって「小金持ち」になろう、学業の優秀層がそう考えるのも無理からぬことかな、と思います。