ギディオン・フェル博士シリーズの長編第3作。書斎に部屋の主の死体。事件当夜は雷雨だったのに部屋の窓は開け放たれている。停電。謎の訪問者。米国からやって来た常習犯罪者。主教や作家たちとの推理合戦。[???]

ギデオン・フェル博士:探偵
ハドリー:警部
マーチ:警部
ジョージ・ベルチェスター:警視監

スタンディッシュ大佐:出版社の出資者, <グレーンジ荘>の主
モー・スタンディッシュ:大佐の妻
モーリー・スタンディッシュ:大佐の息子
パトリシア:大佐の娘
ヒルダ・ドフィット:メイド
ディブズ:執事
ケニングス:使用人頭

ヒュー・ドノヴァン・シニア:主教
ヒュー(・アンスウェル)・ドノヴァン・ジュニア:主教の息子

セプティマス・デッピング:スタンディッシュの隣人
ベティ・デッピング:セプティマスの娘, モーリーの婚約者
レイモンド・ストーラー:デッピングの使用人
アキル・ジョーンズ:デッピングのコック
テセウス・ラングドン:デッピングの弁護士

ヘンリー・モーガン:作家
マデリン・モーガン:ヘンリーの妻

ルイス・スピネリ:犯罪者
J・R・バーク:出版関係者, 作家発掘・資金調達の名人だが本は嫌い, 売れる本を見分けるデッピングの才能を高く評価している
ジョージ・プリムリー:牧師
レディ・ラングウィッチ:強硬な婦人参政権論者
フォーダイス:医師
ケンヴィス夫人:宿屋<チェッカーズ>のおかみさん



<グレーンジ荘>の離れであるゲストハウスに住むセプティマス・デッピングが、その書斎で死体となって発見された。事件当夜、この地域は激しい雷雨だった。にも関わらず、なぜか書斎の窓は全開になっており、雨が吹き込んでいた。

デッピングが死んだ夜、ほかにも少々奇妙なことがあった。彼は帰宅するなり書斎に籠り、午後8時半頃に夕食を部屋に運ばせた。そして11時過ぎに雷雨があり、停電した直後に玄関に訪問者が来た。応対した使用人が、主人は今夜は誰にも会わないと告げたが、訪問者は主人に尋ねてみろと言う。そこで玄関の通話管を使って書斎にいる主人に伝えると、その人物と会うから通せと言うので、それに従った。

その後、使用人は書斎の前で声を漏れ聞いたが、どうやら二人は親しい間柄のようだった。そして謎の訪問者は行方をくらまし、その正体もわからない。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



ディクスン・カー作品を愛し、彼の作品は傑作がある一方でひどい駄作も多いという論を強く否定する二階堂黎人でさえも、一般的には駄作であろうと認めざるを得ないものの一つが本作w 江戸川乱歩も、カー作品中では最もつまらない部類に入るとしている。ハウダニットを得意とするカーが、エラリー・クイーンに触発され、あえてフーダニットに主眼を置いたという説もあるが、ポルターガイストの話など、物語の装飾的な部分がまったく機能しておらず、無駄に話が長くなり、肝心の犯人の正体には驚きよりも拍子抜けといった具合で、結果的には擁護者がほとんど見当たらぬほどの失敗作になってしまっている。(それでも「好き」という者はいるがw)


ハヤカワの文庫版の解説では総勢5人の探偵が競い合うと書かれているが、その趣向があまりにも中途半端。解説の指摘を目にするまでは、それをほとんど意識しない読者もいるのではないだろうか?w

犯罪学マニアの主教とその息子ヒュー、ミステリ作家モーガン、本職のマーチ警部、そしてフェル博士が探偵たちだが、その中のマーチ警部はほとんど出番なし。彼は巻頭の登場人物表にその名すらないw そしてヒューは探偵よりも、どちらかと言えばワトソン役に近い。というわけで実質的には目立った活動をする探偵は3名。しかししょせんモーガンはサポート役的な扱い、主教は捜査を邪魔する場面が目に付くばかりで、どちらもフェル博士のライバルとしてはまったく力不足。結局のところ、フェル博士の独壇場になっている。

事件現場に意味ありげに落ちていた、そして本作の題名にもなっている「剣の八」のカードに大した意味がないのも減点材料。

警察が死体の胃の内容物をさっさと調べない点もちょっと気になるねぇw



[1 主教の奇行] 犯罪学に通じたヒュー・ドノヴァン主教はスタンディッシュ大佐の屋敷<グレーンジ荘>に滞在中している。その彼が階段の手すりを滑り降りたり、屋根の上に登り、お尋ね者を見つけたと主張したり、あるメイドが鬘を付けて変装していると言って、その髪を引っ張るなど、奇行が目立つ。ジョージ・プリムリー牧師は屋敷に滞在した際、インク壷をぶつけられるというポルターガイスト現象に遭遇している。
[2 「頭を撃ち抜かれて――」] 主教の息子・ヒュー・ドノヴァン・ジュリアが帰郷する。彼は米国で犯罪学を学んでいるが、己の力量不足を悩んでいる。
[3 剣の八] <グレーンジ荘>の離れであるゲストハウスに住んでいる、セプティマス・デッピングが書斎で射殺されているのが発見された。使用人ストーラーの証言。「デッピングは帰宅すると、自室に閉じ籠った。彼に夕食を運んだのが午後8時半頃。誰が来ても取り次がないように命じられる。激しい雷雨があり、停電した。蝋燭を運ぼうとしたとき、誰かが訪ねてきた。口髭を生やし、派手な服装をした、アメリカ訛りのある見知らぬ男だった。デッピングは今夜は誰にも会うつもりはない旨を告げたが、その男は「彼は会ってくれるはずだ。訊いてみてくれ」と、玄関脇の通話管を指した。そこで主人に尋ねてみると、「通せ」という返事。書斎には蝋燭はあるから持って来なくてもいいという。書斎の前で主人と客の話を漏れ聞いた感じでは、内容は不明なものの二人は親しい間柄のようだった。停電は電線が切れたのではなく、ヒューズを交換するだけで直るものだった。寝床に就いたがなかなか寝付けず、午前0時15分頃に銃声のような音を聞いたが、そのときは雷鳴だろうと思ってた。(※監察医の報告でも、デッピングが死んだのは午前0時15分頃となっている) 朝になり、書斎の様子を確かめると返事がない。扉には内側から鍵が掛かっていた。窓から中を覗くと、デッピングが倒れていたので窓を開けて室内に入った。彼は銃で頭を撃ち抜かれており、凶器は見当たらなかった」 実は主教は常習犯罪者のスピネリをマークしており、その彼こそがその訪問客だと言う。死体のそばには、8本の剣が描かれたカードが置かれていた。
[4 「ボタンフックを探しなさい」] デッピングの部屋の机の抽斗に彼自身の銃があった。それが彼の命を奪った凶器。最近二発の銃弾が撃たれた形跡がある。一発は彼の頭の中だが、もう一発が見つからない。犯罪捜査に熱心な主教に対し、作家ヘンリー・モーガンは「ボタンフックを探しなさい」と言う。
[5 何者かの足跡] デッピングは女癖が悪かった。自分の孫であってもおかしくない年齢の娘にまで手を出していた。ゲストハウスへの煉瓦道に足跡。それはモーリー・スタンディッシュの靴跡と同じもの。ただし同じ靴底は、スタンディッシュ宅の倉庫には大量にあり、持ち出すのはさほど難しくない。
[6 ちがう訪問者] 死体発見時、書斎の外への窓はすべて全開になっていた。その夜は雷雨だったので、その付近のカーテンも床もずぶ濡れ。コックのアキル・ジョーンズは、書斎の中の二人が窓を全開にしたままカーテンを揺らしているのを目撃している。デッピングは自分を洗練された上流な人物と見せたがっていたが、根は紳士とは言いかねる人物だった。デッピングはアキルが作るザリガニのスープを特に好んでおり、死んだ日の夕食もそのメニューだった。ところがなぜかそれは手付かずのままなのに、そのほかの料理はほとんどすべて食べ尽くしていた。スピネリの写真をストーラーに見せたところ、訪問客は断じてその男ではないという。バルコニーへの鍵はなくなっている。ボタンフックが見つかる。フェル博士の話によると、誰かがそれを用いて意図的に電気をショートさせ、停電を招いたという。
[7 「誰がぼくの椅子に坐ったの?」] フェル博士の推論。「本来は単にデッピングがこっそりと家を出て、スピネリを殺害するためのアリバイ作りが目的だった。デッピングともう一人の人物は事前に通じていて、デッピング不在時に彼が書斎にいる振りをする役目。しかしバルコニーの鍵をなくしたか、あるいは書斎内の人物の策略により、デッピングは玄関から入って来ざるを得なくなり、さらにトリックが必要になった。そこで書斎の人物が意図的に停電を引き起こし、家の中を暗くして人物の見分けを困難にしたところで、変装したデッピングが訪問客として玄関から入った」
[8 チェッカーズ・インにて] スピネリは生きており、宿屋<チェッカーズ>に滞在していたところを捕まる。事件の夜、彼は午後9時半頃に家に戻ったが、その後10時頃にこっそりと窓から部屋に戻るのを目撃されており、その間、どこにいたのかは不明。まだ雨も降っていないのにずぶ濡れだった。そして服を着替え、再び部屋を抜け出している。午後11時にはゲストハウスに辿り着くことも可能。
[9 おなじみジョン・ゼッドの推理] デッピングの、隣人からの評判は悪いが、殺そうとまでするような人物は見当たらない。
[10 鍵の問題] バークの意見。「デッピングは自分の評判を何よりも気にしていた。仮に彼が犯罪に深く関わっていたとして、それをネタに恐喝して来たスピネリを殺すことになったとしても、そのために近隣の誰かに協力を求めるなどあり得ない。そんなことをしたら、彼の弱みを握る人物をまた新たに増やしてしまう」 さらにバークが言うには、彼は午後8時45分頃、仕事上の話のためにバルコニーから書斎に入り、デッピングと話している。玄関を通らずにバルコニーから入ったのは、単にそのほうが簡単だったから。訪問した際、デッピングは驚いていた。とても誰かの訪問を予期していたとは思えない。ただ、デッピングは妙に時間は気にしており、バークはすぐに部屋を出た。
[11 ポルターガイストと赤い手帳] <グレーンジ荘>のガラクタ部屋にはちょっとした隠し通路があり、庭に通じている。特に秘密でもない。「H・M」のイニシャル入りの赤い手帳が落ちている。
[12 スピネリ、タロットを読む] デッピングの弁護士ラングドンはスピネリの弁護士でもある。スピネリの話によると、デッピングは割と迷信深い質で、タロットにも入れ込んでいた。「剣の八」の意味は「正義の裁き」。
[13 防弾チョッキ] ラングドンの話によると、デッピングはある女を連れ、近々この地を去るつもりだった。スピネリの話によると、デッピングは米国の大悪党だった。スピネリも悪党だが、デッピングのせいで刑務所に入れられた恨みがある。そこを出て英国に渡り、デッピングを恐喝しようとしたが、銃撃されて川に落ちた。用心のために防弾チョッキを着けていたので死なずに済んだ。
[14 悪魔とスタンディッシュ夫人] デッピングが大悪党と聞かされ、モー・スタンディッシュはショックを受けた様子。デッピングにはフランスに預けていたが、最近こちらに呼び戻した娘ベティがおり、彼女はモーリーの婚約者。
[15 闇を歩く男] 一緒にこの地を去るほどに、デッピングが特に親しくしていた愛人については誰も心当たりがない。
[16 靴の謎] ヒュー、スピネリを尾行。スピネリは殺人者を恐喝しようと目論んでいる様子。
[17 防弾チョッキは役に立たず] スピネリが誰かと遭遇。連続する三発の銃声。スピネリが倒れた。撃たれた人物がもう一人。確かめてみると、それはラングドン。
[18 フェル博士、殺人者と会う] 殺人者は<グレーンジ荘>から閉め出されてしまった。誰かの部屋が空っぽになっていると判明するのは時間の問題。
[19 ありそうな話] 犯人は、デッピングの夕食を平然と食べた人物。
ギディオン・フェル博士シリーズの長編第2作。ロンドンでは帽子を盗み、それを晒しものにするという事件が街の話題となっていた。そんな頃、胸に矢が刺さった死体がロンドン塔で見つかる。被害者は帽子盗難事件の犯人を“帽子収集狂”と命名し、それを報じていた新聞記者ドリスコルという人物だったが、死体となった彼は服装に合わぬ帽子を被っていた。それは“帽子収集狂”によってドリスコルの叔父ビットン卿から盗まれた帽子だった。ビットン卿は帽子盗難だけでなく、貴重な稿本の盗難事件の被害者でもあった。[???]

ウィリアム・ビットン卿:隠退した保守党政治家
レスター・ビットン少佐:ウィリアム卿の弟, 実業家
ローラ・ビットン:レスターの妻
シェーラ・ビットン:ウィリアム卿の娘
フィリップ・ドリスコル:ウィリアム卿の甥, 新聞記者
メースン将軍:ロンドン塔副長官
ロバート・ダルライ:将軍の秘書, シェーラの婚約者
パーカー:将軍の従卒
ジューリアス・アーバー:アメリカの古書収集家
アマンダ・ジョージェット・ラーキン夫人:女探偵
セオフィラス・マークス:ビットン邸の執事
ホッブス:同
ワトスン:医師
ハドリー警部:ロンドン警視庁主任警部
ギディオン・フェル博士:老年の私立探偵
タッド・ランポール:博士の助手格のアメリカ人青年



ロンドンで奇妙な騒動が持ち上がっていた。社会的地位のある者の頭から帽子の類を盗んではそれを別の場所で晒しものにする、謎の人物が街を徘徊していたのだ。その怪人物は“帽子収集狂(マッド・ハッター)”と命名された。

その被害者の中の一人にウィリアム・ビットン卿がいた。しかし彼が抱えているもう一つの問題に比べれば、帽子盗難被害などは取るに足らぬ些細なことだった。彼の抱えた大きな問題とは、彼の宝である、エドガー・アラン・ポオの発掘原稿が自宅から消え失せたことだった。

ビットン卿は知り合いのハドリー警部に相談した。ハドリーはこういう奇妙な事件にピッタリな人物としてギディオン・フェル博士も同席させた。

ちょうどそのとき、ハドリー警部のもとに殺人事件の報が入った。場所は観光地ロンドン塔の逆賊の門。被害者は胸に矢を受け、なんとビットン卿の盗まれた帽子を被っていた。そしてその被害者の名はフィリップ・ドリスコル。彼はビットン卿の甥であり、“帽子収集狂”の命名者にして、その事件を追っていた新聞記者でもあった。


殺される直前のドリスコルは何か非常に困った問題を抱えていたらしく、友人のロバート・ダルライに相談に乗ってもらおうとしていた。そのため、午後1時にロンドン塔にある彼のオフィスを訪ねる約束をしていたのだが、ちょうど面会時刻の頃に、電話で予定変更を告げて来た。ダルライにドリスコルの自宅アパートまで来てほしいという。仕方なくダルライは車を修理工場に置いて来るついでにドリスコルの部屋を訪ねることにした。

ところがダルライがロンドン塔を出発してから15分ほどして、ドリスコルが塔のオフィスにやって来た。最初に電話を受けたパーカー本人に対し、そんな電話はしていないと言う。ともかくこれ以上すれ違いになるのはまっぴらと、ドリスコルはそこで待ち、ダルライに連絡するために数分置きに自宅に電話することにした。

ドリスコルはオフィスで待つ間、窓の外を眺めたりしていたが、ちょっと出て来ると言い、電話はパーカーに任せてオフィスを出た。その後、パーカーは窓の外に、タバコを吸うドリスコルの姿を見ている。彼は誰かと話していた様子だったが、霧が濃いため、その相手の正体はわからなかった。それが午後1時35分。生きているドリスコルが確認されたのはそれが最後だった。彼が殺されたのは、その1時35分から1時50分頃までの間と見られる。

ところでその頃のダルライはと言えば、ドリスコルの部屋で彼を待っていた。そこにパーカーから電話が来て、事情を聞いたのである。ダルライはやれやれとばかりに工場から車を引き取り、塔に戻ることにしたが、その途中でたまたま上司のメースン将軍に出会った。二人が車に同乗し、一緒に塔に到着したのが午後2時半。そして将軍がドリスコルの死体を発見したのだった。


死体が見つかり、ロンドン塔を訪れていた客は一時足止めされることになった。その中に、被害者と関係の深い者が一人混じっていた。ローラ・ビットン――ビットン卿の弟の妻である。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



カーの代表作の一つで、日本でのその知名度は特に高い。(狭い世界の中でだがw) その要因の一つは、江戸川乱歩がカーのベストの一つとして特に薦めていたことだろう。だが密室のような、設問自体はシンプルな謎を主眼に置いたものではなく、帽子盗難事件、稿本紛失事件、殺人事件の三つが絡み合って行くところに面白さがある本作は、カー初心者向きではないとも言われる。乱歩はカー作品の中にチェスタトン風味を見出しており、それが強いものを好む傾向があったようで、彼のお薦めは入門編としてはやや偏っていた。それがあるいは日本におけるカーの不遇(長編の邦訳文庫版は未だにすべては出揃っていない…はず)の一因とも。


殺人犯が用いるのはアリバイ・トリック。これは元々計画されたものではなく、突発的な犯行からのとっさのものだったが、偶然の出来事を利用して、それがさらに強固になる。成り済ましも用いているが、こちらはちょっとどうかな~、気付かれないものかな~、と。

レスターの死も、あまりにもあっさりしすぎてるんじゃないかな~、と。若いカップルには目が届くフェル博士は、若くないカップルには無頓着なのだろうかw


ともかく今回のラストはフェル博士だけじゃなく、ハドリー警部もすっかり人情派。



[1 弁護士の鬘をかぶった馬] ロンドンに妙な帽子泥棒が出没している。社会的地位のある者の頭に載った物を盗み、街の別の場所にそれを飾るという手口。
[2 稿本と殺人] ウィリアム・ビットン卿は二度に渡って帽子を盗まれた。古いものは既に執事マークスに下げ渡してしまったので、被る帽子がないと立腹。帽子盗難以前に、彼は貴重な稿本(ポオの原稿)も盗まれている。それは屋敷に置いていたときに盗まれた。客人のジューリアス・アーバーは古書収集家。マークスは新参者ながら、愚鈍で小心者なだけで、盗みを働くような人物ではないとビットン卿は判断した。ビットン卿の甥のフィリップ・ドリスコルは、例の帽子泥棒の記事も書く新聞記者。ただしそのセンスはないというのが大方の見方。
[3 逆賊門の屍体] 濃霧の中、ロンドン塔の逆賊門でドリスコルの死体が発見される。胸に刺さった金属の矢が背中まで貫いている。服装に合わぬ、ビットン卿のもとから盗まれたトップハットを被っている。ドリスコルは衛視とも顔見知りで、まだ生きている彼が塔に姿を見せたとき、彼は服装に見合った鳥打帽を被っていた。ビットン卿は観劇からの帰宅中、停車したときに窓の外から伸びた手によって帽子を盗まれていた。ビットン卿はドリスコルにギリギリの食い扶持しか与えなかったことを悔やむ。
[4 尋問] ロバート・ダルライの証言。「早朝、取り乱した様子のドリスコルが電話してきた。私に助けてもらいたいことがあり、昼の1時に塔に訪ねて来るという。ところが塔に出勤して記録室で仕事をしていたとき、またもやドリスコルから電話が掛かって来た。電話を受けたパーカーはすぐに私のところに回線を切り替えた。ドリスコルは自分のアパートに来てくれと、予定変更を言い出した。それで仕方なく、車を修理工場に置いて来るついでにそちらにも寄った。工場に車を預けると、そこからドリスコルの部屋まで歩いて行った。ドリスコルは留守だったが、鍵を持っているので、中で待った。パーカーの話によると、私がロンドン塔を出てすぐにドリスコルがやって来て、予定変更の電話などしていないと騒ぎ立てた」
[5 手すりによる影] ダルライの証言の続き。「ドリスコルの部屋で待っていると、パーカーから電話が掛かって来て、ドリスコルの言い分を伝え聞いた。そこで工場から車を引き取り、塔に戻る途中で上司のメースン将軍に出会ったので、彼とともに車で塔に戻った」 その後、将軍がドリスコルの死体を見つけた。ダルライもパーカーも、電話の声はドリスコルのものでまず間違いないと言う。塔にやって来たドリスコルは再び行き違いになることを恐れ、待つことにした。そこでダルライに繋がるまで何度も自宅に電話を掛けることにしたのだが、その途中でそれをパーカーに任せ、塔内の広場へ散歩に出て、それきり戻らなかった。
[6 遊覧記念の鋼の矢] ドリスコルの死体が被っていたトップハットは、ビットン卿のものにしては少々大きすぎる。ビットン卿が言うには、購入する際、帽子屋には確かに少々大きなサイズの帽子がもう一つあったが、屋敷に届いた帽子は実際に被ってみたのだから大きすぎるはずはないと言う。(帽子にはビットン卿のネーム入りなので、帽子屋の残りの在庫とは考えられない) ドリスコルの死体が発見され、塔内の足止めされた客の中にはビットン卿の弟レスターの妻ローラもいた。ドリスコルとは会わなかったし、来ていることも知らなかったという。凶器の矢は土産物で、ローラがフランス旅行で購入した物。
[7 ラーキン夫人の袖口] 矢は鑢で先端が尖らせてある。いかにも土産物という「遊覧記念」の文字も途中まで削られている。ワトスン医師の推定によるとドリスコルが死亡したのは午後1時50分前後数分の誤差。ドリスコルの所持品の中に手紙。「ロンドン塔へ1時半に。怪しまれたら、最後よ。メアリー」 メモ。「最適の場所? ロンドン塔? 帽子を追う トラファルガー 突き通せず 木 生垣か柵 調査」 塔内に足止めされた客の一人、ラーキン夫人はどうやら私立探偵。
[8 アーバー氏をとりまくもの] アーバーはビットン卿がポオの原稿を所持しているのをとっくに承知で、可能ならば買い取ろうと考えていた。ビットン卿は原稿を不法な手段で入手しており、その法的な所有権は既にアーバーにある。しかしアーバーは騒動を嫌う性格であり、強引な方法を用いれば原稿そのものを破棄される可能性もあるため、ビットン卿に対しては何も言っていない。探りを入れた感じでは、ビットン卿は絶対に原稿を誰にも譲るつもりはない様子。ビットン卿は原稿の所持すら秘密にしているつもりだが、秘密を守ってると思ってるのは当人のみ。周囲の者は大体のところは察している。死体の主がドリスコルと知らされたアーバーは、傍目にも明らかなほど、強いショックを受けた様子。晩餐で一度会っただけだという。アーバーは鳥打帽を被った男を見かけていたが、それがドリスコルだったとは気づいていない。1時35分に若い婦人とぶつかった。
[9 三つの示唆] もしドリスコルが原稿を盗み出し、アーバーにそれを買い取るように持ち掛けたならば、それは両者にとって都合がいい。ドリスコルは年中カネに困っていたし、法的所有権を持つアーバーはとにかく現物さえ入手してしまえば、ビットン卿ももうどうにもできないであろう。しかしフェル博士はそれを否定する。なぜなら決して臆病者ではないドリスコルが最も恐れていたのは、自身を援助してくれる叔父ビットン卿の寵愛を失うことだから。この取引で多少の金銭を得ることで、遺産配分まで失ってしまう愚は犯さないであろうという。フェル博士のヒント。「第一に、ドリスコルが死んだのは、パーカーが生きている彼を目撃した最後の時刻1時30分から医師による死亡推定時刻1時50分頃までの間と見られる。第二に、矢に書かれた文字をなぜ途中までしか消してないのか? 第三に、ビットン卿の帽子は、なぜ彼の頭にピッタリだったのか?」
[10 鏡に光る目] ドリスコルの部屋に女が侵入し、中は荒らされていた。部屋の中には部屋の主に似つかわしくない二つの石膏像(フィリップ2世とメアリ・テューダー)がある。女はローラで、ドリスコルはその浮気相手と見られる。アーバーは誰かに命を狙われていると感じている様子。ドリスコルの部屋にまた侵入者。その正体はレスターで、石膏像を叩き壊していた。
[11 小さな石膏人形] ハドリー警部、ローラの逮捕をちらつかせ、レスターに圧力を掛ける。
[12 X十九号について] レスター、警部のブラフに屈し、雇っていた探偵ラーキン夫人に証言させる。「ローラが塔に着いたのは1時10分。それから喫茶室に入り、そこから出て歩き出したのが1時20分。逆賊門のところでローラはドリスコルと会った。二人は会話していたが、ドリスコルは何やら用事を思い出し、5分以内に戻るからと、立ち去った。ローラも少し遅れて歩き出した。それが1時35分。結局ドリスコルは戻って来なかったが、ずっとラーキン夫人はローラを尾行していたので、ローラが犯人ではないと太鼓判」
[13 ビットン嬢のおしゃべり] ダルライはシェーラ・ビットンと婚約者だが、カネもなくポーカー好きの彼を、ビットン卿は娘の相手としては気に入っていない。ドリスコルはダルライの声を真似てシェーラにイタズラ電話したりすることもあった。ドリスコルは冗談で、もし死ぬならトップハットを被って死にたいと言ったことがある。
[14 シルクハットをかぶって死にたい] ビットン卿のトップハットのサイズが間違ってることに気づいたマークスは、何とかそれを誤魔化そうと、とっさに細長く畳まれた紙片を帽子の裏革に挟み込んでサイズ調整した。ところがその後、その紙片こそがポオの原稿であることに気づいた。しかしとても言い出せるようなことではなく、帽子が盗難に遭ってしまってはもうどうにもできなかった。
[15 ゴム鼠事件] 帽子泥棒はドリスコルだった。記者として手柄が欲しくて事件をでっち上げたのだ。ところが盗んだ帽子の中に叔父の大切な原稿を見つけ、窮地に陥った。返却すればドリスコルが犯人だとバレてしまう可能性が高い。そこで彼は頼りにしているダルライに相談を持ち掛けるとともに、自力での解決も試みた。すなわちビットン卿の車の中に、盗んだトップハットを押し込もうとした。しかし運悪くビットン卿に見つかりそうになってしまったので、とっさにそこにあった別の帽子を盗み出し、単なる帽子泥棒に見せかけようとした。矢はドリスコルが盗んだ帽子を街に飾るために使おうとしていたもの。文字はまだ消そうとしている途中だった。
[16 暖炉の中に] ドリスコルの部屋の暖炉から、一部燃えてしまった原稿が見つかった。レスターは拳銃自殺した。
[17 ビットン邸の死] レスターは片手に拳銃、もう一方にローラの写真を握って死んでいた。
[18 アーバー氏の聞いた声] アーバーはドリスコルらしき人物から電話で原稿の取引を持ち掛けられ、それを受け入れた。ところがその取引が成立する前に殺人事件に巻き込まれた。被害者がドリスコルであると知ったのもショックだったが、その後もう一つのショックを受けた。電話で聴いたドリスコルと思しき声を、彼の死後、また聴いたのだ。
[19 血塔の下でか?] ハドリー警部、事件についての推理を語る。
[20 殺人者の告白] フェル博士が沈黙を勧めたにも関わらず、殺人者は告白する。
[21 未解決] ドリスコルが死んだのは、月に一度、ビットン卿が来訪する日だった。今回、ビットン卿はそれを取り止めていたのだが、ドリスコルはそれを知らなかったために死んだ。
現実世界と夢の世界、二つの世界での殺人(猫)事件。現実世界では編集長が軽井沢へ出かけて、死体となって発見される。夢の世界ではチェシャ猫が密室で殺される。二つの世界を編集者・綿畑克二が行き来する。(「・ω・)「にゃおー [???]

綿畑克二:<幻想館>の雑誌「コミカ」の編集者
明野重治郎:同編集長
芳賀聡:<幻想館>の社長
井垣早苗:<文英社>の雑誌「少年ウィークリー」の編集者
新谷:同編集長
苫田錠司:<文英社>の専務, 第二編集部長
那珂一兵:劇画家
獏谷らむ:漫画家
吾妻ひでお:マンガ家
友竹建夫:劇画家
桜井香奈:明野の娘, らむの婚約者
川添笙子:<大枚製紙>の秘書課勤務, 克二の隣人
近江由布子:スナック<蟻巣>のママ, アニメ声優
中込:広告代理店の社員, 由布子の夫
チェシャ:スナック<蟻巣>に居着いた猫坂部:水道設備店の店主の息子
上島:長野県警の刑事
清水:浅間署の刑事

アリス
チェシャ猫
女王
伴俊作(ヒゲオヤジ)
ニャロメ
三月兎
鉄人28号



綿畑克二は結婚式を迎えていた。相手は幼い頃より彼の理想像だった、ふしぎの国の“アリス”。選りに選ってそんなときに殺人(?)事件が発生し、なんと彼はその容疑者として法廷に呼び出されることになってしまった。

被害者はチェシャ猫。前頭部に受けた一撃により死亡、彼の死体は小屋の中で倒れていた。そのとき彼はしょっちゅうそうしてるように透明状態だったので、死体を調べるのも大変だったが、そんなことよりも大きな問題なのは、彼が死んでいた小屋は密室状態だったのである。


夢から目覚めた綿畑克二は馴染みのスナック<蟻巣>にいた。彼は普段は対人恐怖症と言っていいくらいなのに、酒を飲むと気が大きくなり、自分が好きな児童文学について語り出したりして、そしてすぐに眠ってしまう。そんな彼の癖はよく知られており、今日もまたいつも通りにそうなってしまっていたのである。

彼は幼い頃より児童文学――特に「ふしぎの国のアリス」――が好きで、雑誌社<幻想館>でもその分野を志望していた。なのに彼はまったく興味のない、畑違いの漫画雑誌「コミカ」の担当を命じられてしまい、くすぶっていた。先ほども鬼編集長の明野重治郎に激しく説教されたばかりである。

翌朝、出社した克二は驚いた。昨夜、<蟻巣>で克二を説教し、そして誰かと面会の約束があると言って軽井沢へ出掛けた明野編集長が、その軽井沢の別荘にて背中をナイフで刺された死体となって発見されたとの知らせを聞いたからだった。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



主人公・克二はナンセンスな夢の世界「ふしぎの国」と現実世界を往復し、二つの事件に遭遇する。ふしぎの国では密室でチェシャ猫が殺害された事件の容疑者にされ、ほとんどその状況を眺めるのみで、探偵役は別にいる。現実世界では上司が殺害された事件に巻き込まれ、こちらでは探偵役の半分くらいはこなしてる。

どちらの世界の事件にもトリックが用いられているが、どちらも割と簡単なもの。ただ、現実世界の事件は主要登場人物の大半に後ろ暗いところがあるせいで、複雑化してしまってる。ふしぎの国の事件は、現実ではありえない登場キャラたちがあくまでも現実世界の物理法則に従うというところがポイント。(突き詰めて考えると悩ましい話だが)

ふしぎの国の密室殺人の真相はユーモラスなものであり、現実世界の殺人事件はハート・ウォーミングな展開を見せる。主人公にはささやかなロマンスらしきものもあり、ライトな「いい話」を予感させる。

――途中までは。

第4章の後半から、現実は克二を徹底的に打ちのめし、作品世界はハッピーでもありダークでもある結末を迎える。


本編も凝った構成になっているが、文庫本ではそれに負けじと新保博久もまた凝った(あるいは、悪ふざけの)巻末解説を書いている。それは「ゲームブック風」のもので、たぶんゲームブックはこの文庫が発売された1990年当時の流行り物だったのだろう。その構成は面白いとも思えず、単に読みづらいだけですw

本作はもちろんルイス・キャロルの「ふしぎの国のアリス」を題材にしている。解説によると、作者・辻真先は海外の児童文学をリライトする仕事をしていたこともあり、「ふしぎの国のアリス」にもかなり詳しいらしい。キャロルが別作品「シルヴァーとブルーノ」の巻頭詩に初恋の女性名を織り込んだことに習い、本作のふしぎの国パートにも作者の初恋の女性名を織り込んでいるという。僕には見つける根気がなかったけどw

スナック<蟻巣>は辻真先の作品世界ではお馴染みとなる場所で、本作にて初登場。



[第Ⅰ章 だれがアリスと結婚するの?] 綿畑克二、アリスとの結婚式を迎えた。ところが、不意に強烈な衝撃を受け、気絶した。
[第1章 鬼編集長の闘志 1] スナック<蟻巣>にはチェシャという猫が居着いている。克二は普段は気弱だが、酒を飲むとすぐ酔って持論を語り始め、そして眠りに落ちてしまう。
[2] 編集者・克二は児童文学志望で、漫画には興味がない。にも関わらず、鬼編集長・明野重治郎に目を付けられ、新創刊の漫画雑誌「コミカ」の担当になってしまい、それに不満を抱いている。
[3] <蟻巣>にて。客の一人、漫画家・獏谷らむが特注のキャンピング・カーの自慢をしている。その詳細はまだ明野しか知らないらしく、皆に見せたがっている。酩酊した克二、明野と意見が衝突する。明野はカウンターの上にあったナイフまで振りかざして克二に説教する。
[4] 「少年ウィークリー」の編集者・井垣早苗、来店。明野は会社を移籍する前には彼女の上司だった。明野、らむにネームを書くように厳命し、軽井沢へと出かける。面会の約束とのことだが、その相手については話さず。らむ、鬼がいなくなってシメシメと、さっそく自慢の愛車を取って来ようとする。そんなことよりも早くネームを書けと、彼を止めようとする克二だったが、酒が廻って意識を失う。
[5] 克二、早苗に起こされる。らむのネームが出来たという。らむは疲れて寝ていたらしく、呼びかけに対する返事だけが聞こえる。自分の腕時計を見ると、時刻は11時5分。まだ酔いが抜けておらず、世界はまだ揺れている。先ほど明野が振りかざしたナイフの行方がふと気になったが、どうやら明野は立腹すると手近な物を持ち帰ってしまう癖があるらしい。小型テレビの画面には、克二好みの「オズの魔法使い」が流れている。しかし有線放送の音量が高いのが気になる。コーヒーを飲んだが眠気は消えない。克二は再び眠りに落ちた。
[6] 克二が次に目覚めたのは自宅アパートの部屋だった。アパートは2階が住居部、1階は住人のためのガレージとなっている。克二は運転できないので車を持っておらず、隣の部屋の住人である川添笙子の車を眺める毎日だった。その隣人・笙子が怒鳴りこんできた。どうやららむと新谷が克二を部屋に運び込んだのだが、その際の騒ぎがうるさかったらしい。笙子は自室に戻り、らむたちも帰って行った。克二はまた寝転がった。笙子の飼い猫のものらしい鳴き声を聞いた。
[第Ⅱ章 密室殺人てなんのこと? Ⅰ] 克二、ニャロメが二本の角を生やした小さな箱を手にしているのを目にする。ニャロメがそれを操作すると、鉄人28号が動き出した。地面が大きく震えた。
[Ⅱ] 克二、チェシャ猫殺しの容疑が掛かっていると、ヒゲオヤジから告げられる。現場へと連れて行かれる。そこには木造の小さな小屋。中に入るが、死体は見当たらない。チェシャ猫は姿を消すことができる。触ってみると、確かにその死体の感触がある。
[Ⅲ] チェシャ猫を捜していたニャロメは見知らぬ小屋を発見したが、扉も窓も施錠されていた。そこに通りかかったのが三月兎。二人は扉を破って侵入した。そこは家具もない空っぽの家。床もなく、絨毯代わりに草が生えている。二人はそこに、前頭部に打撃を受け倒れたチェシャ猫の死体を見つけた。つまり事件現場の小屋は密室状態だった。克二、また鉄人の脚に激突し、気絶した。
[第2章 女と男の歴史 1] 克二、明野が軽井沢の別荘で殺されたと聞かされる。
[2] 明野の死体の背中にはナイフが刺さっており、それが致命傷。
[3] 克二、かつてはヒット作も出したが、今では完全に落ちぶれた劇画家・友竹建夫と知り合う。早苗は明野と愛人関係だった。明野と中込は医学部の同期。
[4] 克二は笙子に恋心を抱いているが、一流企業の<大枚製紙>に務める彼女に対して劣等感も感じていることもあり、その距離は縮まらなかった。しかし先日、彼女が彼の部屋に怒鳴り込んだ一件を機に、二人は接近した。
[5] 克二、明野が軽井沢へ出掛けた晩、<蟻巣>で眠り込み、目覚めたとき、チェシャの姿が見当たらなかったことを思い出す。らむに婚約者・桜井香奈を紹介される。彼女は明野の娘。
[6] 推理小説好きだという笙子は事件にのめり込む。彼女に促され、克二は動機のある者を挙げていく。家族を顧みなかった父・明野を憎んでいる香奈。漫画家生命を絶たれた者たち――たとえば友竹――。新雑誌のために起用された明野のせいで出世のチャンスを逃したと僻む<幻想館>の社員。新雑誌によって影響を受けるライバル社の社員―たとえば新谷――。笙子はもう一人の名を挙げた。鬼編集長にしごかれ怨んでいた人物――克二――。笙子は楽しそうに笑った。
[第Ⅲ章 アリスの花聟たすかるの? Ⅰ] 克二を断罪する法廷が開く。
[Ⅱ] 証人第一号、第二号が出廷。ナンセンスな証言。
[Ⅲ] チェシャ猫は自殺から最も遠い者。証人第三号を呼び出すと、地響きとともに鉄人28号が動き出した。それは三月兎のいたずら。ニャロメ、操縦機を取り返す。
[Ⅳ] 証人たちは現実世界の克二についても責める。
[第3章 大型パーティーの趣旨 1] <文英社>のパーティー。会場には出版関係者たちが集まっている。克二、専務の苫田錠司と知り合う。克二、笙子の姿を一瞬見かける。
[2] らむの自慢の愛車はエンジン不調のために工場行きになっているという。明野は香奈とらむの仲を知っていた。表面上は怒っている様子だったが、内心では嬉しそうでもあったという。
[3] 克二、苫田は女癖が悪いと、友竹から聞く。友竹はその相手の一人の顔を知っていて、その女をこの会場でも見かけたという。その女はもう会場を後にしたらしく、その姿を見つけることはできなかった。
[4] 明野が殺されたのは、死体発見現場の別荘ではないが、その場所はまだ不明。軽井沢の別荘へと向かった明野の目撃情報がなく、その足取りがまったく掴めない。警察は、犯人が明野を自家用車で運んだ可能性が高いと見ている。暖房の作用により死亡推定時刻はその幅を広げ、死体発見前夜、つまり明野が<蟻巣>を出て軽井沢へ向かったとされる夜10時から1時となっている。明野と面会予定だった人物は、その頃軽井沢近辺にいた人物なのではないかと警察は睨んでいる。条件に当てはまるのは<幻想館>社長の芳賀聡と、<文英社>専務の苫田錠司。ただしその二人にとって有利な点として、彼らは運転免許を持っていない。そこで警察は共犯者として、苫田の愛人に目を付けている。克二、劇画家の友竹と面識がない出版関係者として、笙子が当てはまることに気づく。
[第Ⅳ章 なぜあの人が犯人かしら? Ⅰ] ヒゲオヤジ、真犯人を突き止めたと宣言。事件現場の小屋は「オズの魔法使い」のドロシーが住んでいた小屋と同型。小屋を竜巻に飛ばされた後、彼女の伯父が再び建てたもの。また竜巻が来ても大丈夫なように、小屋の中身は半地下状態にして、外枠だけ飛ばされるように改良した。そしてそれがふしぎの国に飛んで来た。だがそこは事件現場ではない。
[Ⅱ] 鉄人の操縦機は、元々は女王のもの。しばらくいじっていたが、女王の操縦がヘタだったため鉄人は姿を見せなかった。そのうちにアリスの結婚式の時間となったので操縦機を置き忘れて、ニャロメの手に渡った。
[Ⅲ] 女王のテキトーな操縦によって、鉄人は小屋を持ち上げ、他の場所へと運んだ。それを置いた場所が、チェシャ猫が透明になって眠っていた草原だった。何が起きたのか驚いたチェシャ猫は盲滅法走り出し、小屋の中の壁に激突して死んだ。チェシャ猫は透明になっていたので、光はその目も透過してしまう。つまり視覚を失っていた。
[Ⅳ] 費用は女王持ちで、克二とアリスの結婚式をやり直すことになる。
[第4章 追われる者の詩 1] 友竹が見た、苫田の愛人は香奈。2年ほど前のことだという。
[2] 克二、ひとまず友竹を口止めする。苫田の愛人ではないかと疑っていたことを笙子に告白し、謝る。香奈にはアリバイがあり、共犯者としては不適当。いくら不仲だったとはいえ、実の父を殺した人物の共犯を務めるだろうかという疑問もある。
[3] 笙子、<蟻巣>での一夜について、チェシャの行方、照明の変化、移動したパチンコ玉などを指摘する。そして克二がすぐに酩酊して眠ってしまう癖も。
[4] 克二、<蟻巣>で真相を知る。
[5] 克二、苫田に呼び出され、彼のマンションの部屋へ行く。苫田だけではなく、芳賀と友竹も待っていた。友竹は苫田に買収されており、愛人のことについては勘違いだと主張した。芳賀も苫田とある取引をした。三人はお互いの利益のため、既に話をまとめていた。芳賀は克二に新雑誌についての提案をする。部屋にはバルコニーがあり、その下にはプールが見えた。
[6] 香奈の車に同乗するらむ、克二を見かけたような気がした。
[7] 克二、笙子の部屋へ。
[第V章 ふしぎの国はめでたしめでたし] 克二とアリスの結婚式。死んだはずのチェシャ猫も出席している。