現実世界と夢の世界、二つの世界での殺人(猫)事件。現実世界では編集長が軽井沢へ出かけて、死体となって発見される。夢の世界ではチェシャ猫が密室で殺される。二つの世界を編集者・綿畑克二が行き来する。(「・ω・)「にゃおー [???]

綿畑克二:<幻想館>の雑誌「コミカ」の編集者
明野重治郎:同編集長
芳賀聡:<幻想館>の社長
井垣早苗:<文英社>の雑誌「少年ウィークリー」の編集者
新谷:同編集長
苫田錠司:<文英社>の専務, 第二編集部長
那珂一兵:劇画家
獏谷らむ:漫画家
吾妻ひでお:マンガ家
友竹建夫:劇画家
桜井香奈:明野の娘, らむの婚約者
川添笙子:<大枚製紙>の秘書課勤務, 克二の隣人
近江由布子:スナック<蟻巣>のママ, アニメ声優
中込:広告代理店の社員, 由布子の夫
チェシャ:スナック<蟻巣>に居着いた猫坂部:水道設備店の店主の息子
上島:長野県警の刑事
清水:浅間署の刑事

アリス
チェシャ猫
女王
伴俊作(ヒゲオヤジ)
ニャロメ
三月兎
鉄人28号



綿畑克二は結婚式を迎えていた。相手は幼い頃より彼の理想像だった、ふしぎの国の“アリス”。選りに選ってそんなときに殺人(?)事件が発生し、なんと彼はその容疑者として法廷に呼び出されることになってしまった。

被害者はチェシャ猫。前頭部に受けた一撃により死亡、彼の死体は小屋の中で倒れていた。そのとき彼はしょっちゅうそうしてるように透明状態だったので、死体を調べるのも大変だったが、そんなことよりも大きな問題なのは、彼が死んでいた小屋は密室状態だったのである。


夢から目覚めた綿畑克二は馴染みのスナック<蟻巣>にいた。彼は普段は対人恐怖症と言っていいくらいなのに、酒を飲むと気が大きくなり、自分が好きな児童文学について語り出したりして、そしてすぐに眠ってしまう。そんな彼の癖はよく知られており、今日もまたいつも通りにそうなってしまっていたのである。

彼は幼い頃より児童文学――特に「ふしぎの国のアリス」――が好きで、雑誌社<幻想館>でもその分野を志望していた。なのに彼はまったく興味のない、畑違いの漫画雑誌「コミカ」の担当を命じられてしまい、くすぶっていた。先ほども鬼編集長の明野重治郎に激しく説教されたばかりである。

翌朝、出社した克二は驚いた。昨夜、<蟻巣>で克二を説教し、そして誰かと面会の約束があると言って軽井沢へ出掛けた明野編集長が、その軽井沢の別荘にて背中をナイフで刺された死体となって発見されたとの知らせを聞いたからだった。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



主人公・克二はナンセンスな夢の世界「ふしぎの国」と現実世界を往復し、二つの事件に遭遇する。ふしぎの国では密室でチェシャ猫が殺害された事件の容疑者にされ、ほとんどその状況を眺めるのみで、探偵役は別にいる。現実世界では上司が殺害された事件に巻き込まれ、こちらでは探偵役の半分くらいはこなしてる。

どちらの世界の事件にもトリックが用いられているが、どちらも割と簡単なもの。ただ、現実世界の事件は主要登場人物の大半に後ろ暗いところがあるせいで、複雑化してしまってる。ふしぎの国の事件は、現実ではありえない登場キャラたちがあくまでも現実世界の物理法則に従うというところがポイント。(突き詰めて考えると悩ましい話だが)

ふしぎの国の密室殺人の真相はユーモラスなものであり、現実世界の殺人事件はハート・ウォーミングな展開を見せる。主人公にはささやかなロマンスらしきものもあり、ライトな「いい話」を予感させる。

――途中までは。

第4章の後半から、現実は克二を徹底的に打ちのめし、作品世界はハッピーでもありダークでもある結末を迎える。


本編も凝った構成になっているが、文庫本ではそれに負けじと新保博久もまた凝った(あるいは、悪ふざけの)巻末解説を書いている。それは「ゲームブック風」のもので、たぶんゲームブックはこの文庫が発売された1990年当時の流行り物だったのだろう。その構成は面白いとも思えず、単に読みづらいだけですw

本作はもちろんルイス・キャロルの「ふしぎの国のアリス」を題材にしている。解説によると、作者・辻真先は海外の児童文学をリライトする仕事をしていたこともあり、「ふしぎの国のアリス」にもかなり詳しいらしい。キャロルが別作品「シルヴァーとブルーノ」の巻頭詩に初恋の女性名を織り込んだことに習い、本作のふしぎの国パートにも作者の初恋の女性名を織り込んでいるという。僕には見つける根気がなかったけどw

スナック<蟻巣>は辻真先の作品世界ではお馴染みとなる場所で、本作にて初登場。



[第Ⅰ章 だれがアリスと結婚するの?] 綿畑克二、アリスとの結婚式を迎えた。ところが、不意に強烈な衝撃を受け、気絶した。
[第1章 鬼編集長の闘志 1] スナック<蟻巣>にはチェシャという猫が居着いている。克二は普段は気弱だが、酒を飲むとすぐ酔って持論を語り始め、そして眠りに落ちてしまう。
[2] 編集者・克二は児童文学志望で、漫画には興味がない。にも関わらず、鬼編集長・明野重治郎に目を付けられ、新創刊の漫画雑誌「コミカ」の担当になってしまい、それに不満を抱いている。
[3] <蟻巣>にて。客の一人、漫画家・獏谷らむが特注のキャンピング・カーの自慢をしている。その詳細はまだ明野しか知らないらしく、皆に見せたがっている。酩酊した克二、明野と意見が衝突する。明野はカウンターの上にあったナイフまで振りかざして克二に説教する。
[4] 「少年ウィークリー」の編集者・井垣早苗、来店。明野は会社を移籍する前には彼女の上司だった。明野、らむにネームを書くように厳命し、軽井沢へと出かける。面会の約束とのことだが、その相手については話さず。らむ、鬼がいなくなってシメシメと、さっそく自慢の愛車を取って来ようとする。そんなことよりも早くネームを書けと、彼を止めようとする克二だったが、酒が廻って意識を失う。
[5] 克二、早苗に起こされる。らむのネームが出来たという。らむは疲れて寝ていたらしく、呼びかけに対する返事だけが聞こえる。自分の腕時計を見ると、時刻は11時5分。まだ酔いが抜けておらず、世界はまだ揺れている。先ほど明野が振りかざしたナイフの行方がふと気になったが、どうやら明野は立腹すると手近な物を持ち帰ってしまう癖があるらしい。小型テレビの画面には、克二好みの「オズの魔法使い」が流れている。しかし有線放送の音量が高いのが気になる。コーヒーを飲んだが眠気は消えない。克二は再び眠りに落ちた。
[6] 克二が次に目覚めたのは自宅アパートの部屋だった。アパートは2階が住居部、1階は住人のためのガレージとなっている。克二は運転できないので車を持っておらず、隣の部屋の住人である川添笙子の車を眺める毎日だった。その隣人・笙子が怒鳴りこんできた。どうやららむと新谷が克二を部屋に運び込んだのだが、その際の騒ぎがうるさかったらしい。笙子は自室に戻り、らむたちも帰って行った。克二はまた寝転がった。笙子の飼い猫のものらしい鳴き声を聞いた。
[第Ⅱ章 密室殺人てなんのこと? Ⅰ] 克二、ニャロメが二本の角を生やした小さな箱を手にしているのを目にする。ニャロメがそれを操作すると、鉄人28号が動き出した。地面が大きく震えた。
[Ⅱ] 克二、チェシャ猫殺しの容疑が掛かっていると、ヒゲオヤジから告げられる。現場へと連れて行かれる。そこには木造の小さな小屋。中に入るが、死体は見当たらない。チェシャ猫は姿を消すことができる。触ってみると、確かにその死体の感触がある。
[Ⅲ] チェシャ猫を捜していたニャロメは見知らぬ小屋を発見したが、扉も窓も施錠されていた。そこに通りかかったのが三月兎。二人は扉を破って侵入した。そこは家具もない空っぽの家。床もなく、絨毯代わりに草が生えている。二人はそこに、前頭部に打撃を受け倒れたチェシャ猫の死体を見つけた。つまり事件現場の小屋は密室状態だった。克二、また鉄人の脚に激突し、気絶した。
[第2章 女と男の歴史 1] 克二、明野が軽井沢の別荘で殺されたと聞かされる。
[2] 明野の死体の背中にはナイフが刺さっており、それが致命傷。
[3] 克二、かつてはヒット作も出したが、今では完全に落ちぶれた劇画家・友竹建夫と知り合う。早苗は明野と愛人関係だった。明野と中込は医学部の同期。
[4] 克二は笙子に恋心を抱いているが、一流企業の<大枚製紙>に務める彼女に対して劣等感も感じていることもあり、その距離は縮まらなかった。しかし先日、彼女が彼の部屋に怒鳴り込んだ一件を機に、二人は接近した。
[5] 克二、明野が軽井沢へ出掛けた晩、<蟻巣>で眠り込み、目覚めたとき、チェシャの姿が見当たらなかったことを思い出す。らむに婚約者・桜井香奈を紹介される。彼女は明野の娘。
[6] 推理小説好きだという笙子は事件にのめり込む。彼女に促され、克二は動機のある者を挙げていく。家族を顧みなかった父・明野を憎んでいる香奈。漫画家生命を絶たれた者たち――たとえば友竹――。新雑誌のために起用された明野のせいで出世のチャンスを逃したと僻む<幻想館>の社員。新雑誌によって影響を受けるライバル社の社員―たとえば新谷――。笙子はもう一人の名を挙げた。鬼編集長にしごかれ怨んでいた人物――克二――。笙子は楽しそうに笑った。
[第Ⅲ章 アリスの花聟たすかるの? Ⅰ] 克二を断罪する法廷が開く。
[Ⅱ] 証人第一号、第二号が出廷。ナンセンスな証言。
[Ⅲ] チェシャ猫は自殺から最も遠い者。証人第三号を呼び出すと、地響きとともに鉄人28号が動き出した。それは三月兎のいたずら。ニャロメ、操縦機を取り返す。
[Ⅳ] 証人たちは現実世界の克二についても責める。
[第3章 大型パーティーの趣旨 1] <文英社>のパーティー。会場には出版関係者たちが集まっている。克二、専務の苫田錠司と知り合う。克二、笙子の姿を一瞬見かける。
[2] らむの自慢の愛車はエンジン不調のために工場行きになっているという。明野は香奈とらむの仲を知っていた。表面上は怒っている様子だったが、内心では嬉しそうでもあったという。
[3] 克二、苫田は女癖が悪いと、友竹から聞く。友竹はその相手の一人の顔を知っていて、その女をこの会場でも見かけたという。その女はもう会場を後にしたらしく、その姿を見つけることはできなかった。
[4] 明野が殺されたのは、死体発見現場の別荘ではないが、その場所はまだ不明。軽井沢の別荘へと向かった明野の目撃情報がなく、その足取りがまったく掴めない。警察は、犯人が明野を自家用車で運んだ可能性が高いと見ている。暖房の作用により死亡推定時刻はその幅を広げ、死体発見前夜、つまり明野が<蟻巣>を出て軽井沢へ向かったとされる夜10時から1時となっている。明野と面会予定だった人物は、その頃軽井沢近辺にいた人物なのではないかと警察は睨んでいる。条件に当てはまるのは<幻想館>社長の芳賀聡と、<文英社>専務の苫田錠司。ただしその二人にとって有利な点として、彼らは運転免許を持っていない。そこで警察は共犯者として、苫田の愛人に目を付けている。克二、劇画家の友竹と面識がない出版関係者として、笙子が当てはまることに気づく。
[第Ⅳ章 なぜあの人が犯人かしら? Ⅰ] ヒゲオヤジ、真犯人を突き止めたと宣言。事件現場の小屋は「オズの魔法使い」のドロシーが住んでいた小屋と同型。小屋を竜巻に飛ばされた後、彼女の伯父が再び建てたもの。また竜巻が来ても大丈夫なように、小屋の中身は半地下状態にして、外枠だけ飛ばされるように改良した。そしてそれがふしぎの国に飛んで来た。だがそこは事件現場ではない。
[Ⅱ] 鉄人の操縦機は、元々は女王のもの。しばらくいじっていたが、女王の操縦がヘタだったため鉄人は姿を見せなかった。そのうちにアリスの結婚式の時間となったので操縦機を置き忘れて、ニャロメの手に渡った。
[Ⅲ] 女王のテキトーな操縦によって、鉄人は小屋を持ち上げ、他の場所へと運んだ。それを置いた場所が、チェシャ猫が透明になって眠っていた草原だった。何が起きたのか驚いたチェシャ猫は盲滅法走り出し、小屋の中の壁に激突して死んだ。チェシャ猫は透明になっていたので、光はその目も透過してしまう。つまり視覚を失っていた。
[Ⅳ] 費用は女王持ちで、克二とアリスの結婚式をやり直すことになる。
[第4章 追われる者の詩 1] 友竹が見た、苫田の愛人は香奈。2年ほど前のことだという。
[2] 克二、ひとまず友竹を口止めする。苫田の愛人ではないかと疑っていたことを笙子に告白し、謝る。香奈にはアリバイがあり、共犯者としては不適当。いくら不仲だったとはいえ、実の父を殺した人物の共犯を務めるだろうかという疑問もある。
[3] 笙子、<蟻巣>での一夜について、チェシャの行方、照明の変化、移動したパチンコ玉などを指摘する。そして克二がすぐに酩酊して眠ってしまう癖も。
[4] 克二、<蟻巣>で真相を知る。
[5] 克二、苫田に呼び出され、彼のマンションの部屋へ行く。苫田だけではなく、芳賀と友竹も待っていた。友竹は苫田に買収されており、愛人のことについては勘違いだと主張した。芳賀も苫田とある取引をした。三人はお互いの利益のため、既に話をまとめていた。芳賀は克二に新雑誌についての提案をする。部屋にはバルコニーがあり、その下にはプールが見えた。
[6] 香奈の車に同乗するらむ、克二を見かけたような気がした。
[7] 克二、笙子の部屋へ。
[第V章 ふしぎの国はめでたしめでたし] 克二とアリスの結婚式。死んだはずのチェシャ猫も出席している。