ギディオン・フェル博士シリーズの長編第3作。書斎に部屋の主の死体。事件当夜は雷雨だったのに部屋の窓は開け放たれている。停電。謎の訪問者。米国からやって来た常習犯罪者。主教や作家たちとの推理合戦。[???]
ギデオン・フェル博士:探偵
ハドリー:警部
マーチ:警部
ジョージ・ベルチェスター:警視監
スタンディッシュ大佐:出版社の出資者, <グレーンジ荘>の主
モー・スタンディッシュ:大佐の妻
モーリー・スタンディッシュ:大佐の息子
パトリシア:大佐の娘
ヒルダ・ドフィット:メイド
ディブズ:執事
ケニングス:使用人頭
ヒュー・ドノヴァン・シニア:主教
ヒュー(・アンスウェル)・ドノヴァン・ジュニア:主教の息子
セプティマス・デッピング:スタンディッシュの隣人
ベティ・デッピング:セプティマスの娘, モーリーの婚約者
レイモンド・ストーラー:デッピングの使用人
アキル・ジョーンズ:デッピングのコック
テセウス・ラングドン:デッピングの弁護士
ヘンリー・モーガン:作家
マデリン・モーガン:ヘンリーの妻
ルイス・スピネリ:犯罪者
J・R・バーク:出版関係者, 作家発掘・資金調達の名人だが本は嫌い, 売れる本を見分けるデッピングの才能を高く評価している
ジョージ・プリムリー:牧師
レディ・ラングウィッチ:強硬な婦人参政権論者
フォーダイス:医師
ケンヴィス夫人:宿屋<チェッカーズ>のおかみさん
<グレーンジ荘>の離れであるゲストハウスに住むセプティマス・デッピングが、その書斎で死体となって発見された。事件当夜、この地域は激しい雷雨だった。にも関わらず、なぜか書斎の窓は全開になっており、雨が吹き込んでいた。
デッピングが死んだ夜、ほかにも少々奇妙なことがあった。彼は帰宅するなり書斎に籠り、午後8時半頃に夕食を部屋に運ばせた。そして11時過ぎに雷雨があり、停電した直後に玄関に訪問者が来た。応対した使用人が、主人は今夜は誰にも会わないと告げたが、訪問者は主人に尋ねてみろと言う。そこで玄関の通話管を使って書斎にいる主人に伝えると、その人物と会うから通せと言うので、それに従った。
その後、使用人は書斎の前で声を漏れ聞いたが、どうやら二人は親しい間柄のようだった。そして謎の訪問者は行方をくらまし、その正体もわからない。
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
ディクスン・カー作品を愛し、彼の作品は傑作がある一方でひどい駄作も多いという論を強く否定する二階堂黎人でさえも、一般的には駄作であろうと認めざるを得ないものの一つが本作w 江戸川乱歩も、カー作品中では最もつまらない部類に入るとしている。ハウダニットを得意とするカーが、エラリー・クイーンに触発され、あえてフーダニットに主眼を置いたという説もあるが、ポルターガイストの話など、物語の装飾的な部分がまったく機能しておらず、無駄に話が長くなり、肝心の犯人の正体には驚きよりも拍子抜けといった具合で、結果的には擁護者がほとんど見当たらぬほどの失敗作になってしまっている。(それでも「好き」という者はいるがw)
ハヤカワの文庫版の解説では総勢5人の探偵が競い合うと書かれているが、その趣向があまりにも中途半端。解説の指摘を目にするまでは、それをほとんど意識しない読者もいるのではないだろうか?w
犯罪学マニアの主教とその息子ヒュー、ミステリ作家モーガン、本職のマーチ警部、そしてフェル博士が探偵たちだが、その中のマーチ警部はほとんど出番なし。彼は巻頭の登場人物表にその名すらないw そしてヒューは探偵よりも、どちらかと言えばワトソン役に近い。というわけで実質的には目立った活動をする探偵は3名。しかししょせんモーガンはサポート役的な扱い、主教は捜査を邪魔する場面が目に付くばかりで、どちらもフェル博士のライバルとしてはまったく力不足。結局のところ、フェル博士の独壇場になっている。
事件現場に意味ありげに落ちていた、そして本作の題名にもなっている「剣の八」のカードに大した意味がないのも減点材料。
警察が死体の胃の内容物をさっさと調べない点もちょっと気になるねぇw
[1 主教の奇行] 犯罪学に通じたヒュー・ドノヴァン主教はスタンディッシュ大佐の屋敷<グレーンジ荘>に滞在中している。その彼が階段の手すりを滑り降りたり、屋根の上に登り、お尋ね者を見つけたと主張したり、あるメイドが鬘を付けて変装していると言って、その髪を引っ張るなど、奇行が目立つ。ジョージ・プリムリー牧師は屋敷に滞在した際、インク壷をぶつけられるというポルターガイスト現象に遭遇している。
[2 「頭を撃ち抜かれて――」] 主教の息子・ヒュー・ドノヴァン・ジュリアが帰郷する。彼は米国で犯罪学を学んでいるが、己の力量不足を悩んでいる。
[3 剣の八] <グレーンジ荘>の離れであるゲストハウスに住んでいる、セプティマス・デッピングが書斎で射殺されているのが発見された。使用人ストーラーの証言。「デッピングは帰宅すると、自室に閉じ籠った。彼に夕食を運んだのが午後8時半頃。誰が来ても取り次がないように命じられる。激しい雷雨があり、停電した。蝋燭を運ぼうとしたとき、誰かが訪ねてきた。口髭を生やし、派手な服装をした、アメリカ訛りのある見知らぬ男だった。デッピングは今夜は誰にも会うつもりはない旨を告げたが、その男は「彼は会ってくれるはずだ。訊いてみてくれ」と、玄関脇の通話管を指した。そこで主人に尋ねてみると、「通せ」という返事。書斎には蝋燭はあるから持って来なくてもいいという。書斎の前で主人と客の話を漏れ聞いた感じでは、内容は不明なものの二人は親しい間柄のようだった。停電は電線が切れたのではなく、ヒューズを交換するだけで直るものだった。寝床に就いたがなかなか寝付けず、午前0時15分頃に銃声のような音を聞いたが、そのときは雷鳴だろうと思ってた。(※監察医の報告でも、デッピングが死んだのは午前0時15分頃となっている) 朝になり、書斎の様子を確かめると返事がない。扉には内側から鍵が掛かっていた。窓から中を覗くと、デッピングが倒れていたので窓を開けて室内に入った。彼は銃で頭を撃ち抜かれており、凶器は見当たらなかった」 実は主教は常習犯罪者のスピネリをマークしており、その彼こそがその訪問客だと言う。死体のそばには、8本の剣が描かれたカードが置かれていた。
[4 「ボタンフックを探しなさい」] デッピングの部屋の机の抽斗に彼自身の銃があった。それが彼の命を奪った凶器。最近二発の銃弾が撃たれた形跡がある。一発は彼の頭の中だが、もう一発が見つからない。犯罪捜査に熱心な主教に対し、作家ヘンリー・モーガンは「ボタンフックを探しなさい」と言う。
[5 何者かの足跡] デッピングは女癖が悪かった。自分の孫であってもおかしくない年齢の娘にまで手を出していた。ゲストハウスへの煉瓦道に足跡。それはモーリー・スタンディッシュの靴跡と同じもの。ただし同じ靴底は、スタンディッシュ宅の倉庫には大量にあり、持ち出すのはさほど難しくない。
[6 ちがう訪問者] 死体発見時、書斎の外への窓はすべて全開になっていた。その夜は雷雨だったので、その付近のカーテンも床もずぶ濡れ。コックのアキル・ジョーンズは、書斎の中の二人が窓を全開にしたままカーテンを揺らしているのを目撃している。デッピングは自分を洗練された上流な人物と見せたがっていたが、根は紳士とは言いかねる人物だった。デッピングはアキルが作るザリガニのスープを特に好んでおり、死んだ日の夕食もそのメニューだった。ところがなぜかそれは手付かずのままなのに、そのほかの料理はほとんどすべて食べ尽くしていた。スピネリの写真をストーラーに見せたところ、訪問客は断じてその男ではないという。バルコニーへの鍵はなくなっている。ボタンフックが見つかる。フェル博士の話によると、誰かがそれを用いて意図的に電気をショートさせ、停電を招いたという。
[7 「誰がぼくの椅子に坐ったの?」] フェル博士の推論。「本来は単にデッピングがこっそりと家を出て、スピネリを殺害するためのアリバイ作りが目的だった。デッピングともう一人の人物は事前に通じていて、デッピング不在時に彼が書斎にいる振りをする役目。しかしバルコニーの鍵をなくしたか、あるいは書斎内の人物の策略により、デッピングは玄関から入って来ざるを得なくなり、さらにトリックが必要になった。そこで書斎の人物が意図的に停電を引き起こし、家の中を暗くして人物の見分けを困難にしたところで、変装したデッピングが訪問客として玄関から入った」
[8 チェッカーズ・インにて] スピネリは生きており、宿屋<チェッカーズ>に滞在していたところを捕まる。事件の夜、彼は午後9時半頃に家に戻ったが、その後10時頃にこっそりと窓から部屋に戻るのを目撃されており、その間、どこにいたのかは不明。まだ雨も降っていないのにずぶ濡れだった。そして服を着替え、再び部屋を抜け出している。午後11時にはゲストハウスに辿り着くことも可能。
[9 おなじみジョン・ゼッドの推理] デッピングの、隣人からの評判は悪いが、殺そうとまでするような人物は見当たらない。
[10 鍵の問題] バークの意見。「デッピングは自分の評判を何よりも気にしていた。仮に彼が犯罪に深く関わっていたとして、それをネタに恐喝して来たスピネリを殺すことになったとしても、そのために近隣の誰かに協力を求めるなどあり得ない。そんなことをしたら、彼の弱みを握る人物をまた新たに増やしてしまう」 さらにバークが言うには、彼は午後8時45分頃、仕事上の話のためにバルコニーから書斎に入り、デッピングと話している。玄関を通らずにバルコニーから入ったのは、単にそのほうが簡単だったから。訪問した際、デッピングは驚いていた。とても誰かの訪問を予期していたとは思えない。ただ、デッピングは妙に時間は気にしており、バークはすぐに部屋を出た。
[11 ポルターガイストと赤い手帳] <グレーンジ荘>のガラクタ部屋にはちょっとした隠し通路があり、庭に通じている。特に秘密でもない。「H・M」のイニシャル入りの赤い手帳が落ちている。
[12 スピネリ、タロットを読む] デッピングの弁護士ラングドンはスピネリの弁護士でもある。スピネリの話によると、デッピングは割と迷信深い質で、タロットにも入れ込んでいた。「剣の八」の意味は「正義の裁き」。
[13 防弾チョッキ] ラングドンの話によると、デッピングはある女を連れ、近々この地を去るつもりだった。スピネリの話によると、デッピングは米国の大悪党だった。スピネリも悪党だが、デッピングのせいで刑務所に入れられた恨みがある。そこを出て英国に渡り、デッピングを恐喝しようとしたが、銃撃されて川に落ちた。用心のために防弾チョッキを着けていたので死なずに済んだ。
[14 悪魔とスタンディッシュ夫人] デッピングが大悪党と聞かされ、モー・スタンディッシュはショックを受けた様子。デッピングにはフランスに預けていたが、最近こちらに呼び戻した娘ベティがおり、彼女はモーリーの婚約者。
[15 闇を歩く男] 一緒にこの地を去るほどに、デッピングが特に親しくしていた愛人については誰も心当たりがない。
[16 靴の謎] ヒュー、スピネリを尾行。スピネリは殺人者を恐喝しようと目論んでいる様子。
[17 防弾チョッキは役に立たず] スピネリが誰かと遭遇。連続する三発の銃声。スピネリが倒れた。撃たれた人物がもう一人。確かめてみると、それはラングドン。
[18 フェル博士、殺人者と会う] 殺人者は<グレーンジ荘>から閉め出されてしまった。誰かの部屋が空っぽになっていると判明するのは時間の問題。
[19 ありそうな話] 犯人は、デッピングの夕食を平然と食べた人物。
ギデオン・フェル博士:探偵
ハドリー:警部
マーチ:警部
ジョージ・ベルチェスター:警視監
スタンディッシュ大佐:出版社の出資者, <グレーンジ荘>の主
モー・スタンディッシュ:大佐の妻
モーリー・スタンディッシュ:大佐の息子
パトリシア:大佐の娘
ヒルダ・ドフィット:メイド
ディブズ:執事
ケニングス:使用人頭
ヒュー・ドノヴァン・シニア:主教
ヒュー(・アンスウェル)・ドノヴァン・ジュニア:主教の息子
セプティマス・デッピング:スタンディッシュの隣人
ベティ・デッピング:セプティマスの娘, モーリーの婚約者
レイモンド・ストーラー:デッピングの使用人
アキル・ジョーンズ:デッピングのコック
テセウス・ラングドン:デッピングの弁護士
ヘンリー・モーガン:作家
マデリン・モーガン:ヘンリーの妻
ルイス・スピネリ:犯罪者
J・R・バーク:出版関係者, 作家発掘・資金調達の名人だが本は嫌い, 売れる本を見分けるデッピングの才能を高く評価している
ジョージ・プリムリー:牧師
レディ・ラングウィッチ:強硬な婦人参政権論者
フォーダイス:医師
ケンヴィス夫人:宿屋<チェッカーズ>のおかみさん
<グレーンジ荘>の離れであるゲストハウスに住むセプティマス・デッピングが、その書斎で死体となって発見された。事件当夜、この地域は激しい雷雨だった。にも関わらず、なぜか書斎の窓は全開になっており、雨が吹き込んでいた。
デッピングが死んだ夜、ほかにも少々奇妙なことがあった。彼は帰宅するなり書斎に籠り、午後8時半頃に夕食を部屋に運ばせた。そして11時過ぎに雷雨があり、停電した直後に玄関に訪問者が来た。応対した使用人が、主人は今夜は誰にも会わないと告げたが、訪問者は主人に尋ねてみろと言う。そこで玄関の通話管を使って書斎にいる主人に伝えると、その人物と会うから通せと言うので、それに従った。
その後、使用人は書斎の前で声を漏れ聞いたが、どうやら二人は親しい間柄のようだった。そして謎の訪問者は行方をくらまし、その正体もわからない。
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
ディクスン・カー作品を愛し、彼の作品は傑作がある一方でひどい駄作も多いという論を強く否定する二階堂黎人でさえも、一般的には駄作であろうと認めざるを得ないものの一つが本作w 江戸川乱歩も、カー作品中では最もつまらない部類に入るとしている。ハウダニットを得意とするカーが、エラリー・クイーンに触発され、あえてフーダニットに主眼を置いたという説もあるが、ポルターガイストの話など、物語の装飾的な部分がまったく機能しておらず、無駄に話が長くなり、肝心の犯人の正体には驚きよりも拍子抜けといった具合で、結果的には擁護者がほとんど見当たらぬほどの失敗作になってしまっている。(それでも「好き」という者はいるがw)
ハヤカワの文庫版の解説では総勢5人の探偵が競い合うと書かれているが、その趣向があまりにも中途半端。解説の指摘を目にするまでは、それをほとんど意識しない読者もいるのではないだろうか?w
犯罪学マニアの主教とその息子ヒュー、ミステリ作家モーガン、本職のマーチ警部、そしてフェル博士が探偵たちだが、その中のマーチ警部はほとんど出番なし。彼は巻頭の登場人物表にその名すらないw そしてヒューは探偵よりも、どちらかと言えばワトソン役に近い。というわけで実質的には目立った活動をする探偵は3名。しかししょせんモーガンはサポート役的な扱い、主教は捜査を邪魔する場面が目に付くばかりで、どちらもフェル博士のライバルとしてはまったく力不足。結局のところ、フェル博士の独壇場になっている。
事件現場に意味ありげに落ちていた、そして本作の題名にもなっている「剣の八」のカードに大した意味がないのも減点材料。
警察が死体の胃の内容物をさっさと調べない点もちょっと気になるねぇw
[1 主教の奇行] 犯罪学に通じたヒュー・ドノヴァン主教はスタンディッシュ大佐の屋敷<グレーンジ荘>に滞在中している。その彼が階段の手すりを滑り降りたり、屋根の上に登り、お尋ね者を見つけたと主張したり、あるメイドが鬘を付けて変装していると言って、その髪を引っ張るなど、奇行が目立つ。ジョージ・プリムリー牧師は屋敷に滞在した際、インク壷をぶつけられるというポルターガイスト現象に遭遇している。
[2 「頭を撃ち抜かれて――」] 主教の息子・ヒュー・ドノヴァン・ジュリアが帰郷する。彼は米国で犯罪学を学んでいるが、己の力量不足を悩んでいる。
[3 剣の八] <グレーンジ荘>の離れであるゲストハウスに住んでいる、セプティマス・デッピングが書斎で射殺されているのが発見された。使用人ストーラーの証言。「デッピングは帰宅すると、自室に閉じ籠った。彼に夕食を運んだのが午後8時半頃。誰が来ても取り次がないように命じられる。激しい雷雨があり、停電した。蝋燭を運ぼうとしたとき、誰かが訪ねてきた。口髭を生やし、派手な服装をした、アメリカ訛りのある見知らぬ男だった。デッピングは今夜は誰にも会うつもりはない旨を告げたが、その男は「彼は会ってくれるはずだ。訊いてみてくれ」と、玄関脇の通話管を指した。そこで主人に尋ねてみると、「通せ」という返事。書斎には蝋燭はあるから持って来なくてもいいという。書斎の前で主人と客の話を漏れ聞いた感じでは、内容は不明なものの二人は親しい間柄のようだった。停電は電線が切れたのではなく、ヒューズを交換するだけで直るものだった。寝床に就いたがなかなか寝付けず、午前0時15分頃に銃声のような音を聞いたが、そのときは雷鳴だろうと思ってた。(※監察医の報告でも、デッピングが死んだのは午前0時15分頃となっている) 朝になり、書斎の様子を確かめると返事がない。扉には内側から鍵が掛かっていた。窓から中を覗くと、デッピングが倒れていたので窓を開けて室内に入った。彼は銃で頭を撃ち抜かれており、凶器は見当たらなかった」 実は主教は常習犯罪者のスピネリをマークしており、その彼こそがその訪問客だと言う。死体のそばには、8本の剣が描かれたカードが置かれていた。
[4 「ボタンフックを探しなさい」] デッピングの部屋の机の抽斗に彼自身の銃があった。それが彼の命を奪った凶器。最近二発の銃弾が撃たれた形跡がある。一発は彼の頭の中だが、もう一発が見つからない。犯罪捜査に熱心な主教に対し、作家ヘンリー・モーガンは「ボタンフックを探しなさい」と言う。
[5 何者かの足跡] デッピングは女癖が悪かった。自分の孫であってもおかしくない年齢の娘にまで手を出していた。ゲストハウスへの煉瓦道に足跡。それはモーリー・スタンディッシュの靴跡と同じもの。ただし同じ靴底は、スタンディッシュ宅の倉庫には大量にあり、持ち出すのはさほど難しくない。
[6 ちがう訪問者] 死体発見時、書斎の外への窓はすべて全開になっていた。その夜は雷雨だったので、その付近のカーテンも床もずぶ濡れ。コックのアキル・ジョーンズは、書斎の中の二人が窓を全開にしたままカーテンを揺らしているのを目撃している。デッピングは自分を洗練された上流な人物と見せたがっていたが、根は紳士とは言いかねる人物だった。デッピングはアキルが作るザリガニのスープを特に好んでおり、死んだ日の夕食もそのメニューだった。ところがなぜかそれは手付かずのままなのに、そのほかの料理はほとんどすべて食べ尽くしていた。スピネリの写真をストーラーに見せたところ、訪問客は断じてその男ではないという。バルコニーへの鍵はなくなっている。ボタンフックが見つかる。フェル博士の話によると、誰かがそれを用いて意図的に電気をショートさせ、停電を招いたという。
[7 「誰がぼくの椅子に坐ったの?」] フェル博士の推論。「本来は単にデッピングがこっそりと家を出て、スピネリを殺害するためのアリバイ作りが目的だった。デッピングともう一人の人物は事前に通じていて、デッピング不在時に彼が書斎にいる振りをする役目。しかしバルコニーの鍵をなくしたか、あるいは書斎内の人物の策略により、デッピングは玄関から入って来ざるを得なくなり、さらにトリックが必要になった。そこで書斎の人物が意図的に停電を引き起こし、家の中を暗くして人物の見分けを困難にしたところで、変装したデッピングが訪問客として玄関から入った」
[8 チェッカーズ・インにて] スピネリは生きており、宿屋<チェッカーズ>に滞在していたところを捕まる。事件の夜、彼は午後9時半頃に家に戻ったが、その後10時頃にこっそりと窓から部屋に戻るのを目撃されており、その間、どこにいたのかは不明。まだ雨も降っていないのにずぶ濡れだった。そして服を着替え、再び部屋を抜け出している。午後11時にはゲストハウスに辿り着くことも可能。
[9 おなじみジョン・ゼッドの推理] デッピングの、隣人からの評判は悪いが、殺そうとまでするような人物は見当たらない。
[10 鍵の問題] バークの意見。「デッピングは自分の評判を何よりも気にしていた。仮に彼が犯罪に深く関わっていたとして、それをネタに恐喝して来たスピネリを殺すことになったとしても、そのために近隣の誰かに協力を求めるなどあり得ない。そんなことをしたら、彼の弱みを握る人物をまた新たに増やしてしまう」 さらにバークが言うには、彼は午後8時45分頃、仕事上の話のためにバルコニーから書斎に入り、デッピングと話している。玄関を通らずにバルコニーから入ったのは、単にそのほうが簡単だったから。訪問した際、デッピングは驚いていた。とても誰かの訪問を予期していたとは思えない。ただ、デッピングは妙に時間は気にしており、バークはすぐに部屋を出た。
[11 ポルターガイストと赤い手帳] <グレーンジ荘>のガラクタ部屋にはちょっとした隠し通路があり、庭に通じている。特に秘密でもない。「H・M」のイニシャル入りの赤い手帳が落ちている。
[12 スピネリ、タロットを読む] デッピングの弁護士ラングドンはスピネリの弁護士でもある。スピネリの話によると、デッピングは割と迷信深い質で、タロットにも入れ込んでいた。「剣の八」の意味は「正義の裁き」。
[13 防弾チョッキ] ラングドンの話によると、デッピングはある女を連れ、近々この地を去るつもりだった。スピネリの話によると、デッピングは米国の大悪党だった。スピネリも悪党だが、デッピングのせいで刑務所に入れられた恨みがある。そこを出て英国に渡り、デッピングを恐喝しようとしたが、銃撃されて川に落ちた。用心のために防弾チョッキを着けていたので死なずに済んだ。
[14 悪魔とスタンディッシュ夫人] デッピングが大悪党と聞かされ、モー・スタンディッシュはショックを受けた様子。デッピングにはフランスに預けていたが、最近こちらに呼び戻した娘ベティがおり、彼女はモーリーの婚約者。
[15 闇を歩く男] 一緒にこの地を去るほどに、デッピングが特に親しくしていた愛人については誰も心当たりがない。
[16 靴の謎] ヒュー、スピネリを尾行。スピネリは殺人者を恐喝しようと目論んでいる様子。
[17 防弾チョッキは役に立たず] スピネリが誰かと遭遇。連続する三発の銃声。スピネリが倒れた。撃たれた人物がもう一人。確かめてみると、それはラングドン。
[18 フェル博士、殺人者と会う] 殺人者は<グレーンジ荘>から閉め出されてしまった。誰かの部屋が空っぽになっていると判明するのは時間の問題。
[19 ありそうな話] 犯人は、デッピングの夕食を平然と食べた人物。