らふりぃの読書な雑記-59
学生アリスシリーズ。“モアイ・パズル”への挑戦とバカンスを兼ねて訪れた南の島で、殺人事件に遭遇。密室内で、父に折り重なるように倒れた娘。二人とも銃弾によって命を奪われており、その周囲に銃はない。自殺と見るなら、そこに銃がないのがおかしいし、他殺と見るなら、犯人がどのように密室から立ち去ったのか不明。連続殺人事件。[???]

江神二郎:英都大学・推理小説研究会部長
有栖川有栖:英都大学・推理小説研究会部員
有馬麻里亜:英都大学・推理小説研究会部員

有馬鉄之助:故人, 麻里亜の祖父, 「モアイ・パズル」の作者
有馬竜一:麻里亜の伯父
有馬英人:竜一の長男
有馬礼子:竜一の養女, 英人の元婚約者
有馬和人:竜一の次男
有馬竜二:麻里亜の伯父
有馬竜三:麻里亜の父

牧原完吾:鉄之助の義理の息子
牧原須磨子:完吾の娘
牧原純二:須磨子の夫

犬飼敏之:鉄之助と妾の間の息子
犬飼里美:敏之の妻

園部祐作:医師
平川至:画家



英都大学・推理小説研究会の一員である有馬麻里亜からのバカンスの誘いに、同会員の有栖川有栖と江神二郎は飛びついた。南国の孤島・嘉敷島での宝探しである。麻里亜の話によると、彼女の祖父・有馬鉄之助はパズル好きで、島のどこかに5億円相当の宝石を隠し、その秘密を25体のモアイ像に託したらしい。そのモアイ像というのは、もちろんイースター島の本物ではなく、それを模して作った木彫りの像で、それが島じゅうに点在している。その謎を解いてやろうと、意気揚々と島に乗り込んだ一行だったが、滞在する「望楼荘」で変死事件が発生し、それどころではなくなってしまう。

牧原完吾・須磨子父子はライフルで撃たれたことにより死亡したようなのだが、その室内にその凶器は見当たらなかった。そして窓は施錠され、出入口の扉には掛け金が掛けられていたこともわかっている。仮に自殺だとしても、他殺だとしても、おかしな状況だった。

次の事件が起きたのは、島のもう一つの邸宅・魚楽荘。その持ち主である画家・平川至が死んだ。こちらは明らかに何者かの手による射殺だった。現場には、半分ほど完成していたはずのジグソーパズルが壊され、バラバラに散らばっていた。

そして、またもや新たな死体が。

現場には、告白書が残されており、そこには牧原父子と平川を殺したのは自分だと書かれていた。しかし、それは署名に至るまですべてワープロで打たれたもので、信憑性は疑わしい。そしてさらに、江神が壁に飾られたパズルに撃ち込まれた銃痕の異状について指摘すると、もはや自殺説を肯定する者は居なかった。連続殺人犯は、まだこの中に居る――。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



アリスとマリアの間に恋愛感情はありません。お互いがはっきりと否定しています。それは決して嘘ではないでしょう。でもわれわれは、そこに素敵なロマンスを見るのです。甘酸っぱくて、せつなくて、そしてちょっぴり苦い――もう過ぎ去ってしまった、あの遠い夏の日々を――

…ごめんなさい。ちょっぴりふざけてしまいましたが、これ以上は無理ですw

学生アリスシリーズの第2作。本格物では定番の、閉ざされた孤島での連続殺人事件。

嘉敷島は「U」字型の島で、その両端にそれぞれ、望楼荘と魚楽荘が建てられている。両者は海を挟んで目と鼻の先だが、陸地を通るとかなりの遠回りとなる。その手段としては、海を越えるなら泳ぎかボート、陸を行くなら徒歩か自転車となるが、島にはあまり多くないとはいえハブが生息しているので、徒歩は(特に夜は)なるべく避けるべきである――というのが、重要なデータのひとつ。

第一の殺人での不可能状況の解決はちょいと物足りない。これは犯人にとってもまったく想定外の事態で発生してしまったもので、真相を知って納得はできるが、肩透かしを食らった気分。咄嗟によくもそこまで考えて行動できるものだと…。「なるほどっ!」と、膝を打つ読者はどれほど居るだろう…。

第二の殺人でのジグソーパズルのダイイング・メッセージは面白い。でも、ジグソーパズルを組み立てたことのあるひとならわかるだろうけど、これをやろうとするなら結構細かい作業になる。少々慎重にやらないと、余計なピースが大量にくっついてきたりしちゃうこともあるし。素直に血文字を残せば良かったのに。壁にも床にもテーブルにも残すことが無理なら、自分の服か体にでも。

振り返ってみると、この犯行は計画段階から大した工夫もなく、かなり杜撰。第一・第二の殺人については特殊な工作を何もしておらず、奇妙な状況を生み出してしまったのは、まったくの誤算とその対処によるもの。第三の殺人の際は偽遺書を使ったが、それはあまりにも稚拙なもので、その場であっさりと見破られる。

しかし、良いパズラーには、名探偵に対する“名犯人”を必ずしも要するわけではないことを本作は証明している。道に落ちていた紙片から犯人の動きと、そうせざるを得なかった事情を推理し、以前に目撃した些細な出来事と組み合わせて、それを成し得た人物を特定する手際は鮮やか。平川至の死体を発見する直前での、推理小説研究会の三名のやりとりはギラリと光っているw しかし、他の人物が、誰の目にも触れずにコソーリ行動することに成功したという可能性を、完全に否定したとは言い切れないかも知れない…。

宝の在り処は、隠し場所としてはちょっと目立ち過ぎなのではないだろうか。手当たり次第の探索でも、割とすぐに発見されそうな…。



① 宝の在り処を示す、モアイ・パズル。
② 牧原完吾と須磨子が密室内で死亡(銃)。現場には銃がない。
③ 平川至が死亡(銃)。現場にパズルのピースが散乱。
④ 有栖川有栖が自室にてハブに襲われる。
⑤ モアイ・パズルの解読成功。宝は既になかった。
⑥ 有馬和人が死亡(銃)。死体の傍に銃と遺書。

らふりぃの読書な雑記-58
学生アリスシリーズ。矢吹山でキャンプする学生グループが、噴火によって、帰る道を閉ざされる。ある者は姿を消し、ある者は殺される。殺人者によるものだけではなく、なかなか治まらない噴火活動によっても、命の危険に晒される。[???]

[英都大学・推理小説研究会]
江神二郎
望月周平
織田光次郎
有栖川有栖

[雄林大学・ウォーク]
北野勉
司隆彦
戸田文雄
竹下正樹
晴海美加
菊地夕子
嵐竜子

[雄林大学・ゼミ仲間]一色尚三
見坂夏夫
年野武

[神南学院短期大学・英文科の友人グループ]
山崎小百合
深沢ルミ
姫原理代



矢吹山のキャンプ場に集まったのは4つのグループで、総勢14名。偶然知り合った初対面の者たちも打ち解けあい、大いに楽しんだ。元々は2泊3日の予定だった英都大学・推理小説研究会も、その滞在を一日伸ばすことにしたほどだった。

3日目の朝を迎えると、先に帰るとの書き置きを残し、山崎小百合が姿を消していた。前日まで特に変わった様子もなかった彼女が、なぜ急にここを発ったのか、その理由は誰にもわからないようだった。ともかく、女の子一人で下山するのは心配と、その後を追おうとしたそのとき、大きな異変が起きた。

噴火が始まった。

地の底から轟音が上がり、空からは猛烈な勢いで石の雨が降り注いだ。それが止まったとき、深沢ルミが右脚を負傷したものの、その場の全員が生存していたのは奇跡とも言えるほどだった。しかし、辺りの様子を調べると、喜んではいられなかった。山は大きく崩れ、下りる道は塞がれており、自力での脱出は困難と見られる。そして、もうひとつの怖ろしいことが想像された。状況から考えると、小百合は山の崩落に巻き込まれている可能性が高いのだ。

――いずれ救助が来ることは間違いない。だが、それまで命が保つだろうか。食料の問題を別にしても、噴火が完全に収まったとは限らないのだ―― 不安を抱えたまま迎えた4日目の朝。新たな恐怖が訪れた。戸田文雄が殺されていたのだ。大地に伏した彼の背中には、刃物による刺し傷。そしてその右手の先の地面には、アルファベットの小文字の「y」のように見える、斜めの線が二本描かれていた。――犯人のイニシャルだろうか―― その場に居合わせた者のうち、該当するのは菊地夕子ただひとり…。

再び噴火が始まり、それが小康状態になってみると、大きな怪我を負った者は居ないように思われたが、一色尚三の姿が見えなかった。辺りを探索してみても見当たらない。まさか崖から落ちたのだろうか。

しばらくして、森から尚三の歌声が聴こえてきた。いったい何事と、何名かがその元を辿ると、そこにはテープレコーダー。その声はキャンプファイヤーのときに録音したものだった。この悪戯の間に、望月周平のカメラの中身が抜き取られることになった。フィルムを持ち去ったのは殺人犯なのだが、持ち主である望月には、そこに犯人にとって都合の悪いものが写っているという心当たりがまったくなかった。

次の犠牲者は北野勉。彼の持ち物のスケッチブックには、筆記体の「y」のような血文字が残されていた。前回とは違い、はっきりとそう読める。そして死体の着衣には、犯人が自身の右手に付いた血を拭ったと思しき血痕。しかし、血は拭った程度で簡単にその痕跡を消せるものではない。犯人は川に血を洗い落としに行った可能性が高い。小川への道を辿ると、それを裏付けるかのように、マッチの空箱のほかに、マッチの燃えさしが点々と落ちている。真っ暗な道を照らすのに用いたのだろう。ただ、この道を往復するには数が少なすぎるとも思えるが…。マッチ箱にもマッチにもこれといった特徴は見られない。これと同種のものは皆の間で出回っていて、誰のものか特定することはできなかった。

犯人からの終息宣言と受け取れるメッセージが書かれた紙片が発見された。しかしたとえそれが事実としても、火山活動はいつ収まるとも知れず、救援隊が来るのもいつになるかわからない。もう限界であった。残された者たちは、自力での下山を決意する。

山を下りる道すがら、晴海美加が「y」についての推論を語り出した。イニシャルが「y」なのは夕子だけではない、もうひとり居るではないか、と。美加は、最初に姿を消した山崎小百合を名指しする。下山したと見せかけて、どこかに密かに潜んでいたのだ、と。

だが、この説はあっさりと否定された。小百合はここから姿を消してすぐに、麓の近くで火山弾の直撃を受けて死んでいたと、ラジオのニュースが伝えていた。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



原型は作者・有栖川有栖が高校生のときに書いた短編で、その後、「Yの悲劇'78」、「Yの悲劇'86」と改題しつつリライトし、長編となった。それは江戸川乱歩賞こそ取り逃したものの、鮎川哲也らの協力もあり、「月光ゲーム Yの悲劇'88」という形で、めでたく発表されることとなった。これ以前にも鮎川哲也編のアンソロジーに作者の短編が収められており、本作をデビュー作と見做すのは厳密には誤りなのだが、通常はそのように称されることも多い。

噴火によって、皆は危機に晒されており、たとえ殺人犯の正体が判明しても、その命が助かるわけではない。その設定は、作中でもその題名が挙げられるように、エラリー・クイーンの「シャム双子の謎」を想起させる。青春小説の匂いこそ本家とは異質なものの、副題からも、ダイイング・メッセージからも明らかなように、クイーンを意識したロジカルなパズラーになっている。

何が素晴らしいかと言えば、まずはやはり手掛かりの提示の仕方だろう。目的のためには不足と思われるマッチの燃えさしと、そこに特徴がないという事実。フィルムを抜き取られたカメラ。他はそのままにしておいたのに、尚三の死体だけは現場に残さなかった理由、等々。そこにスポットライトを当て、読後も記憶に残る手掛かりの数々は、まさしくクイーンのごとし。ダイイング・メッセージにはやや拍子抜けだが、クイーンのダイイング・メッセージもしばしば物議を醸すものだw

欠点を挙げれば、犯人の動機の弱さがあるが、そんなことよりも気になるのが、登場人物の多さ。序盤からワラワラと総勢17名が登場するが、なかなか把握しきれない。全員が大学生で、それぞれの属性にあまり違いがなく、個々の人物像を掴みづらく、覚えづらい。推理小説研究会の面々を登場させるのは仕方ないとしても、筋書き的には、これだけの人数を揃える必要性はないだろう。単独で注目を浴びる場面がロクにない者も多い。三坂夏夫や晴海美加の推理は、彼らがその役目を引き受けなくてもいいだろうし、菊地夕子は単にイニシャルが「y」というだけ。嵐竜子も、この事件現場での彼女自身の行動はまったく控えめなもの。竹下正樹に至っては、山崎小百合の訃報をラジオで聴いたことと、終盤でラジオを川に落としてなくしちゃった場面くらいしか印象に残らない…。

深沢ルミの“ルナティック”な言動が事件の謎に絡んでくれば、もっと良かったなぁ。



① 山崎小百合が突然にキャンプ地から去る。
② 火山活動開始。
③ 戸田文雄が死亡(刺)。「y」らしきダイイング・メッセージ。
④ 一色尚三が失踪。
⑤ 録音された尚三の歌声が流れる。
⑥ 北野勉が死亡(刺)。血文字の「y」。
⑦ 望月周平のカメラからフィルムが抜き取られていることが発覚。
⑧ 勉の死体のポケットの中に尚三の指を発見。
ネロ・ウルフシリーズの最終作。ウルフの自宅で発生する“内輪の事件”。[??]

ネロ・ウルフ:私立探偵
アーチー・グッドウィン:ウルフの助手
フリッツ・ブレンナー:ウルフの料理人
シオドア・ホルストマン:ウルフの園芸係
ソール・パンサー:ウルフの使う私立探偵
フレッド・ダーキン:同
オリー・ギャザー:同
ピエール・デュコー:ラスターマン料理店の給仕
レオン:ピエールの父
ルシール:ピエールの娘
フェリックス・マウア:ラスターマン料理店のオーナー
フィリップ・コーレラ:同給仕
ハーヴェイ・H・バセット:NATELEC社社長
アルバート・O・ジャッド:弁護士
フランシス・アッカーマン:同
ローマン・ヴィラー:安全保障会社社長
アーネスト・アークハート:ロビイスト
ウィラード・K・ハーン:銀行家
ベンジャミン・アイゴー:電子工学技術者
ドラ・バセット:バセット夫人
リリー・ローワン:グッドウィンのガールフレンド
ナサニエル・パーカー:ウルフやグッドウィンの弁護士
クレイマー:警部
パーリー・ステビンズ:クレイマーの部下
ロウクリッフ:同
ダニエル・F・コギン:地方検事補



ネロ・ウルフの事務所をピエール・デュコーが訪れたとき、時刻はもう深夜1時になろうとしていた。馴染みの店の給仕が事務所に、ましてやこんな時刻に訪ねてくるなどというのは、ウルフの助手であるアーチー・グッドウィンにとってはまったく意外な出来事だった。事情を尋ねるアーチーだったが、ピエールはウルフにしか話せないと言う。それでは11時にウルフに面会を、ということになったが、ピエールは命の危険を感じているらしく、外に出たくないでのここで一晩明かしたいと言う。アーチーはそれを聞き入れ、ピエールに一室を与えた。そしてアーチーが自室に引き上げると、すぐに凄まじい音と振動が伝わってきた。ピエールの部屋を見ると、その中のものの多くは残骸と化していた。爆発の中心はどうやらピエールらしく、その顔はパイの直撃を食らった直後のような状態。もちろん、彼は呼吸をしていなかった。

誰かの依頼によるものではないが、何せウルフの事務所で起きた“A family affair (身内の事件)”である。ウルフは警察によってではなく、自らの手で事件を決着しようと、調査を開始する。

爆殺事件を探るうちに、これに関わりがありそうな、もう一つの殺人事件が浮上する。ピエールが死ぬ数日前に、NATELEC社社長のハーヴェイ・バセットが射殺された事件である。バセットは死ぬ前に、6名の客を招いた夕食会を開いており、その給仕を務めていたのがピエールだった。ピエールは誰かから代金を受け取る際に、盆の上に紙幣だけではなく、一枚の紙片が混入していたことに気づいたが、客たちは既に引き上げてしまっていた。それはある人物の名と住所が書かれた紙片で、ピエールはそれを預かることにしたが、どうした理由によるものか、その後、彼はその紙片と引き換えに100ドルを手に入れたという。ウルフが夕食会の客たちにその紙片について尋ねると、そのことを知ると答えた者は居なかった。

アーチーは、ウルフの様子がどこかおかしいと感じていた。警察に対して常に礼儀正しいわけではないのはいつものことながら、それにしても奇妙なほどに頑固に非協力的だった。それはピエールの娘・ルシールが射殺されても同様で、アーチーもウルフも逮捕されるまでに至った。保釈された後も、ウルフの態度は決して好ましいものではなく、アーチーは彼の元を離れようと決断した。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



89歳で本作を執筆したのを最後に作者・レックス・スタウトは亡くなり、これが遺作となった。それが関係あるのかないのか、「ネロ・ウルフ」物に付き物の漫才的なやり取りは抑えられ、全体的に陰鬱で重い、異色な作風となっている。原題は「A FAMILY AFFAIR」。

作中ではウォーターゲート事件について意味ありげに語られたりもするが、これはまったくオマケの部分。その点を差し引いても、ミステリとしての完成度が高いと言うのは難しい。紙片がピエールの手に渡った詳細も、バセット夫人の立ち位置もよくわからない。犯人のそれまでの言動からすると、いずれ彼女も殺す必要に迫られるのではとも思えるが…。犯人についての推論は、ミステリ作品ではしばしば勇み足の警察が序盤で提示する、誤った推論レベルの「仮説」だろう。結局のところ、読者がその「仮説」を信じるには、紙片に書いてあった名前と、その名指しされた人物のその後の行動に頼るしかないのでは。

そういった嫌いはあるが、それでもこれはとても最晩年に書いたものとは思えぬ、なかなかの力作。スタウトはひとつの場面場面を面白く描くことは上手くても、中心となる筋書きを面白く読ませるタイプではない。だが、本作ではユーモアを抑えた結果なのか、後者に近い物語を書いている。個性をロクに描かれることもないゲスト登場人物が、無駄に多いのは相変わらずだが。(筋書きに絡ませる気がないのなら、夕食会の客も減らせばいいのに…)