ネロ・ウルフシリーズの最終作。ウルフの自宅で発生する“内輪の事件”。[??]

ネロ・ウルフ:私立探偵
アーチー・グッドウィン:ウルフの助手
フリッツ・ブレンナー:ウルフの料理人
シオドア・ホルストマン:ウルフの園芸係
ソール・パンサー:ウルフの使う私立探偵
フレッド・ダーキン:同
オリー・ギャザー:同
ピエール・デュコー:ラスターマン料理店の給仕
レオン:ピエールの父
ルシール:ピエールの娘
フェリックス・マウア:ラスターマン料理店のオーナー
フィリップ・コーレラ:同給仕
ハーヴェイ・H・バセット:NATELEC社社長
アルバート・O・ジャッド:弁護士
フランシス・アッカーマン:同
ローマン・ヴィラー:安全保障会社社長
アーネスト・アークハート:ロビイスト
ウィラード・K・ハーン:銀行家
ベンジャミン・アイゴー:電子工学技術者
ドラ・バセット:バセット夫人
リリー・ローワン:グッドウィンのガールフレンド
ナサニエル・パーカー:ウルフやグッドウィンの弁護士
クレイマー:警部
パーリー・ステビンズ:クレイマーの部下
ロウクリッフ:同
ダニエル・F・コギン:地方検事補



ネロ・ウルフの事務所をピエール・デュコーが訪れたとき、時刻はもう深夜1時になろうとしていた。馴染みの店の給仕が事務所に、ましてやこんな時刻に訪ねてくるなどというのは、ウルフの助手であるアーチー・グッドウィンにとってはまったく意外な出来事だった。事情を尋ねるアーチーだったが、ピエールはウルフにしか話せないと言う。それでは11時にウルフに面会を、ということになったが、ピエールは命の危険を感じているらしく、外に出たくないでのここで一晩明かしたいと言う。アーチーはそれを聞き入れ、ピエールに一室を与えた。そしてアーチーが自室に引き上げると、すぐに凄まじい音と振動が伝わってきた。ピエールの部屋を見ると、その中のものの多くは残骸と化していた。爆発の中心はどうやらピエールらしく、その顔はパイの直撃を食らった直後のような状態。もちろん、彼は呼吸をしていなかった。

誰かの依頼によるものではないが、何せウルフの事務所で起きた“A family affair (身内の事件)”である。ウルフは警察によってではなく、自らの手で事件を決着しようと、調査を開始する。

爆殺事件を探るうちに、これに関わりがありそうな、もう一つの殺人事件が浮上する。ピエールが死ぬ数日前に、NATELEC社社長のハーヴェイ・バセットが射殺された事件である。バセットは死ぬ前に、6名の客を招いた夕食会を開いており、その給仕を務めていたのがピエールだった。ピエールは誰かから代金を受け取る際に、盆の上に紙幣だけではなく、一枚の紙片が混入していたことに気づいたが、客たちは既に引き上げてしまっていた。それはある人物の名と住所が書かれた紙片で、ピエールはそれを預かることにしたが、どうした理由によるものか、その後、彼はその紙片と引き換えに100ドルを手に入れたという。ウルフが夕食会の客たちにその紙片について尋ねると、そのことを知ると答えた者は居なかった。

アーチーは、ウルフの様子がどこかおかしいと感じていた。警察に対して常に礼儀正しいわけではないのはいつものことながら、それにしても奇妙なほどに頑固に非協力的だった。それはピエールの娘・ルシールが射殺されても同様で、アーチーもウルフも逮捕されるまでに至った。保釈された後も、ウルフの態度は決して好ましいものではなく、アーチーは彼の元を離れようと決断した。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



89歳で本作を執筆したのを最後に作者・レックス・スタウトは亡くなり、これが遺作となった。それが関係あるのかないのか、「ネロ・ウルフ」物に付き物の漫才的なやり取りは抑えられ、全体的に陰鬱で重い、異色な作風となっている。原題は「A FAMILY AFFAIR」。

作中ではウォーターゲート事件について意味ありげに語られたりもするが、これはまったくオマケの部分。その点を差し引いても、ミステリとしての完成度が高いと言うのは難しい。紙片がピエールの手に渡った詳細も、バセット夫人の立ち位置もよくわからない。犯人のそれまでの言動からすると、いずれ彼女も殺す必要に迫られるのではとも思えるが…。犯人についての推論は、ミステリ作品ではしばしば勇み足の警察が序盤で提示する、誤った推論レベルの「仮説」だろう。結局のところ、読者がその「仮説」を信じるには、紙片に書いてあった名前と、その名指しされた人物のその後の行動に頼るしかないのでは。

そういった嫌いはあるが、それでもこれはとても最晩年に書いたものとは思えぬ、なかなかの力作。スタウトはひとつの場面場面を面白く描くことは上手くても、中心となる筋書きを面白く読ませるタイプではない。だが、本作ではユーモアを抑えた結果なのか、後者に近い物語を書いている。個性をロクに描かれることもないゲスト登場人物が、無駄に多いのは相変わらずだが。(筋書きに絡ませる気がないのなら、夕食会の客も減らせばいいのに…)