らふりぃの読書な雑記-62
オランダで日本人のバラバラ死体が発見される。被害者である水島智樹の友人、山尾恭司は事件を調べ始める。彼らも参加していた、麻薬愛好の会「盆栽クラブ」の面々にはアリバイがあるが…。[??]

[盆栽クラブ]
ロン・ヤヌス
アニタ・ヤヌス:ロンの妹
正木遥介
正木美鈴:遥介の妹
久能健太郎
水島智樹
山尾恭司

[警察関係者]
ヘルトヤン・スタフォルスト:警部
ヤネット:ヘルトヤンの妻
フランク・ノーナッカー:巡査部長
モル:課長
スミット:警察医
アントン:水上警察フロッグマン

[その他]
橘:恭司のバイト先である「ミカド」の店長
オットー・スターン:「ブルームーン」店主
ムスタファ:同店員
ヨハン・オーフェルマース:棺桶職人, 死体の発見者の一人



オランダはアムステルダムにて発生したバラバラ殺人事件。死体の主はは水島智樹と特定される。被害者が日本人ということもあり、彼の友人でもある恭司の前に、すぐに刑事が話を訊こうと現れたのも当然であった。もっともそれは恭司に特に強い嫌疑を掛けているというわけではなく、通り一遍のごく通常のもので、死亡推定時刻の恭司のアリバイを確認すると、あっさりと引き上げた。そのときに恭司が二回目の麻薬吸引を試していたことは、同席していたロンと遥介によって裏付けられた。

恭司は水島に好感を持っていた。美鈴を巡っては恋のライバルだったとしても、恭司のその気持ちは変わらない。ふたりは美鈴が本気で心配するほどの激しい議論を交わしたりもしたが、お互いの間では、それは表面的な対立にすぎない娯楽だったのだ。そんなことももうできないかと思うと、悲しくなるのだった。美鈴も落ち込んでいる。同じ悲しみを彼女と共有していることを密かに喜んでいるのではないか――恭司は冷徹に自問したりもしていた。水島とは反りが合わなかったロンや遥介は、恭司ほどには悲しんでいないかも知れない。だが、彼に恋心を抱いていたらしいアニタは、相当のショックを受けているようだ。水島の死は、やはり大きな悲劇と言うしかなかった。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



有栖川有栖のノン・シリーズ作品で、本格物のイメージが強い作者にしては、少々異色な印象を受ける作品。全体的に乾いた陰鬱さが漂う。悲劇でありながら、妙に冷めた雰囲気の中で、物語は淡々と進んでいく。

作品は三部構成となっており、大阪~アムステルダム~再び大阪と、舞台を移す。メインの事件はアムステルダムでのバラバラ殺人だが、ほかに二つのバラバラ殺人も描かれる。そのひとつは大阪で、もうひとつは恭司作の小説の中で。

本作に異色という印象を与える要素のひとつは、はっきりと解答を得られない謎がいくつか残るというもの。美鈴の「すごく欲しかったもの」とは何だったのか? それは単に自らの終わりを与えてくれるものだったのだろうか。それとも、兄と同じ「幻視」の力だったのだろうか。あるいは、最後の望みを叶えてくれる存在だったのだろうか。

もっとシンプルな謎としては、アムステルダムのバラバラ殺人についても、正解は示されていない。殺害した動機も、バラバラにした理由も曖昧なまま、そして犯人についても、ひとつの推測が語られるのみである。

裏表紙の紹介文には、「有栖川有栖裏ミステリー・ベスト1の傑作」などとあり、なんとなく予感するものがあって、事前にいくつかのレビューに軽く目を通しておいたのでショックはなかったけど、予備知識なしで本作を読んだら、たぶん落胆してた。



① 山尾恭司が初めての麻薬パーティーに参加。
② 恭司がバラバラ殺人を題材とした小説の序盤を水島智樹に披露。
③ 恭司が2回目の麻薬パーティーに参加。
④ 水島の胴体、左腕、左脚が、それぞれ運河の別々の場所で発見される。それを知った警察の大規模な捜索により、頭部もすぐに運河から発見される。後頭部に鈍器で打撃を受けた上、首を紐で絞められ窒息死し、その後、四肢と頭部を切断されたと断定。

らふりぃの読書な雑記-61
作家アリスの国名シリーズ。輝くばかりに美しく、愛らしい少年だったルネが死んでから3年半という歳月が過ぎ、すっかり落ち着きを取り戻した“スウェーデン館”で殺人事件が発生。現場に残る足跡は、被害者と第一発見者のもののみという、“雪の密室”。[???]

[スウェーデン館の滞在者]
乙川リュウ:童話作家, 家主
乙川ヴェロニカ:リュウの妻
乙川流音(ルネ):リュウとヴェロニカの息子, 故人
乙川育子:リュウの母
ハンス・ヨハンソン:ヴェロニカの父
葉山悠介:リュウの従弟
綱木淑美:画家
綱木輝美:画家, 淑美の妹
等々力末臣:建設会社社長

[ペンション・サニーデイの滞在者]
迫水春彦:オーナー
迫水倫代:春彦の妻
迫水大地:春彦と倫代の息子
有栖川有栖:推理作家, 滞在客

[その他]
島野:福島県警警部
小山内:同刑事
火村英生:臨床犯罪学者, 有栖の友人



金色の髪を夏の陽に輝かせた少年は、その姿を見た者を、まるでおとぎの国に迷い込んでしまったような気にさせたものだった。だが、その光景はもう見ることができない。

小さく、可愛らしいルネは、沼に浮かんでいた。誰よりも早くその姿を見つけた姉妹は、涙を流した。ルネの母も激しく泣いた。父は呆然と佇むのみだった。客人たちは言葉もない。

それから3年半が経ち、取材旅行のために、作家・有栖川有栖がその地を訪れたとき、彼はその悲劇を知らなかった。

彼が滞在するペンションの主人夫婦の人柄は素晴らしく、その傍に建つ、通称「スウェーデン館」の住人たちとも親睦を深めることができた。その居心地の良さのために、すぐにこの地を発つのも惜しいなどと、彼が思い始めていた矢先、「スウェーデン館」にて殺人事件が起きる。

離れに残された、綱木淑美の死体。現場にはほかに誰もおらず、降り積もった雪に残された足跡は、被害者のものと思しき片道のものと、第一発見者である乙川リュウの往復のもののみ。現場の状況からするとリュウ以外には犯行を成し得ないようであるが、彼には淑美の死亡推定時刻のアリバイがあった。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



それまでの作者の長編作品の中で最も早く書き上げられたものとのこと。内容は本格物の定番のひとつである、「雪の密室」を巡る、推理の一問題。こういう作品なのに、現場の詳細な図面が付されてないことから、おそらくはあまり複雑な機械トリックではないだろうと、まず推測されるw そして、小さな足跡を大きな靴で踏み消す手法では、上手く足跡を残せないことが実証され、他の作家が過去の作品で用いたトリックに疑問が投げ掛けられるw

犯人の意図は、不可能状況を作ることではなく、離れの裏の森から犯人が逃げ去ったのだと思わせることだった。しかし、警察の捜査によって、犯人が森に入って足跡を消すことはできるが、その森から出たら痕跡は残さざるを得ない、すなわち犯人は森を抜けて逃亡などしてはいない、ということになってしまった。地の利がある人物としては、いささか間抜けな計画だ。そしてその計画は、ある人物の習性を把握しているからこそ行い得たものだが、それにしても確実とは言えず、もしその途中で異変に気づかれたら、果たしてどうするつもりだったのであろうか。もはやこれまでと観念したのか、あるいは…。

これは二つのトリックを組み合わせている。その一つは、これまた「雪の密室」の定番トリック。ズバリ、このピースだと当てを付ければ、ほとんどこのパズルが解けてしまう危険性もあり、このトリックはなかなか大胆。

ハンス・ヨハンソンとの会話の中の手掛かりの出し方は、クイーンというよりもカーっぽいだろうか。大地少年の目撃情報を巡る推論は、作者からの駄目押しのヒントなのかも。



① 乙川流音が沼にて死亡。
② 離れにて綱木淑美が死亡(頭部に打撃)。囲む雪に残る足跡に謎。
③ 離れにて綱木輝美が頭部に打撃を受け、意識不明。

らふりぃの読書な雑記-60
作家アリスシリーズ。福井県小浜の海岸で、作家・赤星楽が死体となって発見される。彼は取材旅行へと旅立つ直前に、“海のある奈良”へ行くと言っていた。赤星の死後すぐに、彼の従弟の近松ユズルも、毒入りウィスキーで命を落とす。[???]

火村英生:犯罪学者

有栖川有栖:推理作家, 火村の友人
赤星楽:推理作家
朝井小夜子:推理作家

片桐光雄:有栖川の担当編集者
塩谷:赤星と朝井の担当編集者
多賀:赤星の担当編集者

穴吹奈美子:シレーヌ企画社長
霧野千秋:同社プロデューサー
大茂拓司:同社脚本家
近松ユズル:同社アルバイト, 赤星楽の従弟

新崎:警視庁捜査一課警部補
麻生:警視庁杉並署刑事
清田:同
池田:福井県警小浜署警部
千葉:同刑事
岡崎:海上保安部職員
金山:同

篠宮時絵:火村の部屋の大家



福井県小浜の海岸で、死体が発見される。死体の主は、推理小説作家の赤星楽。どうやら取材旅行の最中に殺害されたらしいが、彼は旅立つ直前に、同業者の有栖川有栖に意味ありげに言い残していた。“海のある奈良”へ行ってくると。

小浜は「海のある奈良」として有名であるのだから、赤星がこの地を取材のために訪れて、そこで何者かに殺されてしまったと見ても、何ら不都合はない。だがもしや、小浜以外にも“海のある奈良”として相応しい地があるのでは――。有栖とともに事件を調べていた火村英生はそう指摘した。そんなときに、赤星の従弟である近松ユズルの死が伝えられた。

近松は薬物中毒で死んだ。現場のテーブルの上にあった、ウィスキーのボトルとグラスからは青酸カリが検出された。遺書がなかったこと、テレビが点けっ放しだったこと、レンタルしたばかりのホラー・ビデオがデッキの中に入っていたことなどから、自殺の線は薄く、誤って自ら毒物をボトルに入れてしまったとも考えづらい。何者かが殺意を持ってボトルに毒物を混入させていたという線が濃かった。

このボトルは、元々はお歳暮として赤星が貰ったものの、当時の彼は体調を崩していたので、近松に譲った物だった。ところがこんな事態となり、元の送り主にそれを確認してみると、先方はそれを送っていないことが判明した。となれば、やはり何者かが名を騙って、毒入りウィスキーを送ったと見るのが妥当だろう。つまり犯人は、元々は赤星の毒殺を狙ったものの失敗し、第二の殺害計画を成功させたということか。

果たして近松は巻き添えで殺されただけなのだろうか? それとも、犯人はいずれは両方とも殺すつもりで、予想外の展開をそのまま利用したのだろうか? 本来はあまり好みではなく、飾っておくに留めていたウィスキーを、従兄の死んだばかりのこのタイミングで、近松が急に飲む気になったのは偶然なのだろうか?


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



設定には多くの「人魚」が絡んでいる。作者初の連載小説とのこと。割と広い範囲を移動してまわり、まるで観光案内のように、その土地土地の風習などにも触れており、2時間サスペンスにも使えそうな作品となっているw まるで人魚の肉でも食べたかのように若い外見を保ち、「二十世紀の驚異」(本作が書かれた当時はまだ二十世紀だった)と評される、可憐で美貌の女社長・穴吹奈美子なんてのも、テレビドラマ向きじゃないだろうかw あ、でも、「何でも韓国起源説」を小馬鹿にする場面はカットされるかなww

“海のある奈良”の特定をサブ・プロットとして事件と絡めたり、「人魚」を共通のテーマとして用いるなど、面白く読むには読めたのだが、読み終わってみると、どうにも物足りない。事件解決にキレがなく、モヤモヤしたものばかりが残る。

某人物が本来知るはずのないことを知っていた、という点に火村が気づき、その嘘を暴く手順は鮮やかだが、作品が鋭く光っているのはそこだけという気も。近松にウィスキーを飲ませたトリックは、実際に可能なのかなぁ。効果は怪しいという説も聞くし。もし確率が低いとしたら、リターンの割に、犯人が負うリスクが高過ぎる。放っといても、いずれ勝手に飲むかもしれないんだし、痕跡を残してまでやらなくても、と。近松を排斥することは、もはや一刻も待てないほどだった、と解釈すべきか。

犯人が赤星の行動を誘導するのがこの殺害計画のミソなのだが、「そんな上手くいくものかね?」と言いたいくらいに、あまりにも都合良く進行する。それはともかくとしても、計画自体がいまいちなような。これは別の場所で殺害した赤星を、小浜で殺されたように偽装することによる、アリバイ・トリック。だが、赤星の死体が移動させられたことはすぐに特定されており、殺害現場が小浜近辺だろうという推測は、「海のある奈良へ行ってくる」という赤星の言葉にのみ拠るもので、とても断定できるようなものではない。(彼の所持品を近くに残すという細工もしているが、これは補強材料としても弱い) 殺害現場が小浜と断定されない以上は、アリバイも何もあったものじゃない。つまり、アリバイを偽装する利点が少々弱いのだ。

なんとなく有栖川有栖に期待したものではないような感じで、これがたとえば内田康夫が書いたのなら、もうちょっと印象も良かったのかも知れないなぁ。



① 赤星楽が若狭にて客死(絞)。
② 近松ユズルが死亡(毒入りウィスキー)。