作家アリスシリーズ。福井県小浜の海岸で、作家・赤星楽が死体となって発見される。彼は取材旅行へと旅立つ直前に、“海のある奈良”へ行くと言っていた。赤星の死後すぐに、彼の従弟の近松ユズルも、毒入りウィスキーで命を落とす。[???]
火村英生:犯罪学者
有栖川有栖:推理作家, 火村の友人
赤星楽:推理作家
朝井小夜子:推理作家
片桐光雄:有栖川の担当編集者
塩谷:赤星と朝井の担当編集者
多賀:赤星の担当編集者
穴吹奈美子:シレーヌ企画社長
霧野千秋:同社プロデューサー
大茂拓司:同社脚本家
近松ユズル:同社アルバイト, 赤星楽の従弟
新崎:警視庁捜査一課警部補
麻生:警視庁杉並署刑事
清田:同
池田:福井県警小浜署警部
千葉:同刑事
岡崎:海上保安部職員
金山:同
篠宮時絵:火村の部屋の大家
福井県小浜の海岸で、死体が発見される。死体の主は、推理小説作家の赤星楽。どうやら取材旅行の最中に殺害されたらしいが、彼は旅立つ直前に、同業者の有栖川有栖に意味ありげに言い残していた。“海のある奈良”へ行ってくると。
小浜は「海のある奈良」として有名であるのだから、赤星がこの地を取材のために訪れて、そこで何者かに殺されてしまったと見ても、何ら不都合はない。だがもしや、小浜以外にも“海のある奈良”として相応しい地があるのでは――。有栖とともに事件を調べていた火村英生はそう指摘した。そんなときに、赤星の従弟である近松ユズルの死が伝えられた。
近松は薬物中毒で死んだ。現場のテーブルの上にあった、ウィスキーのボトルとグラスからは青酸カリが検出された。遺書がなかったこと、テレビが点けっ放しだったこと、レンタルしたばかりのホラー・ビデオがデッキの中に入っていたことなどから、自殺の線は薄く、誤って自ら毒物をボトルに入れてしまったとも考えづらい。何者かが殺意を持ってボトルに毒物を混入させていたという線が濃かった。
このボトルは、元々はお歳暮として赤星が貰ったものの、当時の彼は体調を崩していたので、近松に譲った物だった。ところがこんな事態となり、元の送り主にそれを確認してみると、先方はそれを送っていないことが判明した。となれば、やはり何者かが名を騙って、毒入りウィスキーを送ったと見るのが妥当だろう。つまり犯人は、元々は赤星の毒殺を狙ったものの失敗し、第二の殺害計画を成功させたということか。
果たして近松は巻き添えで殺されただけなのだろうか? それとも、犯人はいずれは両方とも殺すつもりで、予想外の展開をそのまま利用したのだろうか? 本来はあまり好みではなく、飾っておくに留めていたウィスキーを、従兄の死んだばかりのこのタイミングで、近松が急に飲む気になったのは偶然なのだろうか?
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
設定には多くの「人魚」が絡んでいる。作者初の連載小説とのこと。割と広い範囲を移動してまわり、まるで観光案内のように、その土地土地の風習などにも触れており、2時間サスペンスにも使えそうな作品となっているw まるで人魚の肉でも食べたかのように若い外見を保ち、「二十世紀の驚異」(本作が書かれた当時はまだ二十世紀だった)と評される、可憐で美貌の女社長・穴吹奈美子なんてのも、テレビドラマ向きじゃないだろうかw あ、でも、「何でも韓国起源説」を小馬鹿にする場面はカットされるかなww
“海のある奈良”の特定をサブ・プロットとして事件と絡めたり、「人魚」を共通のテーマとして用いるなど、面白く読むには読めたのだが、読み終わってみると、どうにも物足りない。事件解決にキレがなく、モヤモヤしたものばかりが残る。
某人物が本来知るはずのないことを知っていた、という点に火村が気づき、その嘘を暴く手順は鮮やかだが、作品が鋭く光っているのはそこだけという気も。近松にウィスキーを飲ませたトリックは、実際に可能なのかなぁ。効果は怪しいという説も聞くし。もし確率が低いとしたら、リターンの割に、犯人が負うリスクが高過ぎる。放っといても、いずれ勝手に飲むかもしれないんだし、痕跡を残してまでやらなくても、と。近松を排斥することは、もはや一刻も待てないほどだった、と解釈すべきか。
犯人が赤星の行動を誘導するのがこの殺害計画のミソなのだが、「そんな上手くいくものかね?」と言いたいくらいに、あまりにも都合良く進行する。それはともかくとしても、計画自体がいまいちなような。これは別の場所で殺害した赤星を、小浜で殺されたように偽装することによる、アリバイ・トリック。だが、赤星の死体が移動させられたことはすぐに特定されており、殺害現場が小浜近辺だろうという推測は、「海のある奈良へ行ってくる」という赤星の言葉にのみ拠るもので、とても断定できるようなものではない。(彼の所持品を近くに残すという細工もしているが、これは補強材料としても弱い) 殺害現場が小浜と断定されない以上は、アリバイも何もあったものじゃない。つまり、アリバイを偽装する利点が少々弱いのだ。
なんとなく有栖川有栖に期待したものではないような感じで、これがたとえば内田康夫が書いたのなら、もうちょっと印象も良かったのかも知れないなぁ。
① 赤星楽が若狭にて客死(絞)。
② 近松ユズルが死亡(毒入りウィスキー)。