推理小説の大家・田宮竜之介の久々の新作「螺旋館の殺人」の完成原稿を、担当編集者の沢本が封筒ごと紛失してしまう。編集部に持ち帰る途中の列車の中で、隣席した見知らぬ女の封筒とすり変わってしまったらしい。なんとか田宮に書き直してもらうことになったのだが、新人賞受賞作「サーキュラー荘の殺人」を読んだ沢本は愕然とする。それは、沢本の知る「螺旋館の殺人」と同内容だったのである。その作者こそあの原稿をすり替えて奪った相手と知り、沢本は彼女に接触する。そしてさらに詳しい話を訊こうと彼女の部屋を訪れると、既に彼女は死んでいた。現場には田宮への謝罪のメッセージが残されていた。[??]
田宮竜之介:推理作家
白河レイコ(鈴子):「ミステリー創作講座」受講生, 鈴田美也子
大久保晃司:レイコの恋人
沢本和彦:「月刊推理」編集者
藤井茂夫:「月刊推理」副編集長, 田宮の元担当
竹山:「月刊推理」編集長
石田ゆかり:「月刊推理社」総務課社員
おヨネ:田宮の山荘の通いのお手伝い
若林貞男:営林署署員
「ミステリー創作講座」の講師を引き受けたことは、田宮竜之介にとっては大きな収穫となった。若い情熱との触れ合いは、創作意欲を失ってもう十年にもなる老大家に、再び活力を与えたのである。さっそく彼は旧知の出版社に連絡を取り、新作の執筆に入った。そんな折、彼は「ミステリー創作講座」での教え子の一人、白河レイコと深い仲になってしまう。
躁鬱を抱える田宮ゆえ、何度も停滞を迎えるのも当然だったが、それを乗り越え、その新作、「螺旋館の殺人」はようやく担当編集者・沢本和彦の手に渡った。ところがその原稿の入った封筒は、沢本が編集部に持ち帰る途上で、謎の女のものとすり替わってしまう。それは田宮に書き直してもらうことになり、安堵した沢本だったが、「月刊推理」新人賞の受賞作「サーキュラー荘の殺人」を読んで愕然とする。それは間違いなく、彼が途中まで読んでいた、「螺旋館の殺人」とほぼ同一のものだったからである。
改めて新人賞作家・鈴田美也子の顔を見れば、これは沢本と隣席し、「螺旋館の殺人」の原稿入り封筒をすり替えた、あの謎の女だ。さては盗作かと、沢本が美也子を問い質そうとするが、詳しい話を訊く前に、彼女は自宅マンションの浴室で死んでいた。仕事場らしき部屋にあるワープロの画面には、「田宮先生、ごめんなさい」と表示されていた。
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
作品全体が複雑に構成されており、たとえば「“夢を見た夢”を見た夢」のような多重構造になっていて、なんとなく「胡蝶の夢」だw 文庫の解説もまた、それに便乗したものとなっている。
レイコの死についてはいかようにも採れるものであり、作中の事件の結末にも、曖昧な印象が残る。
この構成はやり過ぎると読者にそっぽ向かれそうだが、本作で意識したかどうかはさておき、作者にとっては大きなメリットもある。それは記述にちょっとしたうっかりミスがあっても、作者はその多くをミスではないと主張できることだ。もし辻褄の合わない部分や、登場人物の不自然な行動を読者に指摘されても、「うむ、よくぞ気づいた。その矛盾こそ正に真相への手掛かりである」と、堂々と言い張れるw
本作では、盗作騒動を軸に据えた物語が描かれているが、「犯人は誰か?」というような、具体的な謎が読者に提示されるでもなく、「読者への挑戦状」が挿入されることもない。奇想天外なトリックを用いる殺人犯も、奇怪な状況に置かれた死体も登場せず、誰かが謎のメッセージに怯えることもなく、遠き過去にまで遡る根深い因縁話があるでもない。題名から、奇妙な屋敷で起こる、陰惨な連続殺人を期待してしまうと残念な作品。
① ミステリ小説の老大家・田宮が、久々の新作に挑むため、かつての仕事場である山荘に籠る。
② 「ミステリ創作講座」の教え子・レイコがやって来る。彼女の原稿に目を通す。
③ 田宮とレイコが深い仲になる。
④ 沢本、「螺旋館の殺人」の完成原稿を田宮から受け取る。列車で編集部へ向かう。見知らぬ女が隣の席に座る。彼女から勧められたコーヒーを飲むと眠くなる。目覚めると、彼女は居ない。原稿の入っていた封筒がすり替わっている。
⑤ 沢本、編集長とともに田宮に頭を下げ、書き直してもらうことに成功。
⑥ 沢本、発売寸前の「月刊推理」新人賞受賞作「サーキュラー荘の殺人」に目を通し、それが「螺旋館の殺人」と同一と言っていいほどの内容と知る。作者・美也子こそが列車で封筒をすり替えた人物と気づく。盗作は明らかと、彼女を問い質す。
⑦ 沢本、詳しい話を訊こうと、彼女の自宅マンションを訪ねると、死体となった彼女を発見する。田宮への謝罪らしき文章がワープロで打たれている。彼女の死は自殺として処理される。
⑧ 「サーキュラー荘の殺人」掲載誌は発売前に回収。田宮作「螺旋館の殺人」は、諸事情により、「中田礼」という名義で発表される。
⑨ 事前に、「田宮竜之介の新作発表」を銘打っていた「月刊推理社」としては、田宮名義の作品もどうしても必要と、沢本が山荘を訪れる。「螺旋館の殺人」で義理は果たし、しばらくのんびりするつもりだった田宮だったが、事情を知らぬ読者には田宮自身の不名誉と映るやも知れぬことでもあるし、依頼を引き受ける。
⑩ 田宮に取り入り、山荘に大久保が入り込む。山荘内の捜索の末、田宮の不正を示す証拠を発見。
⑪ 大久保、盗作者はレイコではなく田宮のほうだと糾弾し、恐喝する。
⑫ 田宮、大久保殺害を狙うが返り討ちされ、崖から転落。
⑬ 大久保、田宮の財産を奪って逃げようと、山荘に戻り、捜索開始するも、貯金通帳はなかなか見つからない。
⑭ 大久保、田宮に成り済まし、ゆかりの来訪をやり過ごす。山荘の地下室発見。その中で、見覚えのある男に遭遇する。
⑮ 田宮、山荘に戻る。相打ちとなった沢本と大久保の死体を発見する。本物の田宮は⑨以降、温泉で療養中であり、その代わりを沢本が務めていたのである。
田宮竜之介:推理作家
白河レイコ(鈴子):「ミステリー創作講座」受講生, 鈴田美也子
大久保晃司:レイコの恋人
沢本和彦:「月刊推理」編集者
藤井茂夫:「月刊推理」副編集長, 田宮の元担当
竹山:「月刊推理」編集長
石田ゆかり:「月刊推理社」総務課社員
おヨネ:田宮の山荘の通いのお手伝い
若林貞男:営林署署員
「ミステリー創作講座」の講師を引き受けたことは、田宮竜之介にとっては大きな収穫となった。若い情熱との触れ合いは、創作意欲を失ってもう十年にもなる老大家に、再び活力を与えたのである。さっそく彼は旧知の出版社に連絡を取り、新作の執筆に入った。そんな折、彼は「ミステリー創作講座」での教え子の一人、白河レイコと深い仲になってしまう。
躁鬱を抱える田宮ゆえ、何度も停滞を迎えるのも当然だったが、それを乗り越え、その新作、「螺旋館の殺人」はようやく担当編集者・沢本和彦の手に渡った。ところがその原稿の入った封筒は、沢本が編集部に持ち帰る途上で、謎の女のものとすり替わってしまう。それは田宮に書き直してもらうことになり、安堵した沢本だったが、「月刊推理」新人賞の受賞作「サーキュラー荘の殺人」を読んで愕然とする。それは間違いなく、彼が途中まで読んでいた、「螺旋館の殺人」とほぼ同一のものだったからである。
改めて新人賞作家・鈴田美也子の顔を見れば、これは沢本と隣席し、「螺旋館の殺人」の原稿入り封筒をすり替えた、あの謎の女だ。さては盗作かと、沢本が美也子を問い質そうとするが、詳しい話を訊く前に、彼女は自宅マンションの浴室で死んでいた。仕事場らしき部屋にあるワープロの画面には、「田宮先生、ごめんなさい」と表示されていた。
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
作品全体が複雑に構成されており、たとえば「“夢を見た夢”を見た夢」のような多重構造になっていて、なんとなく「胡蝶の夢」だw 文庫の解説もまた、それに便乗したものとなっている。
レイコの死についてはいかようにも採れるものであり、作中の事件の結末にも、曖昧な印象が残る。
この構成はやり過ぎると読者にそっぽ向かれそうだが、本作で意識したかどうかはさておき、作者にとっては大きなメリットもある。それは記述にちょっとしたうっかりミスがあっても、作者はその多くをミスではないと主張できることだ。もし辻褄の合わない部分や、登場人物の不自然な行動を読者に指摘されても、「うむ、よくぞ気づいた。その矛盾こそ正に真相への手掛かりである」と、堂々と言い張れるw
本作では、盗作騒動を軸に据えた物語が描かれているが、「犯人は誰か?」というような、具体的な謎が読者に提示されるでもなく、「読者への挑戦状」が挿入されることもない。奇想天外なトリックを用いる殺人犯も、奇怪な状況に置かれた死体も登場せず、誰かが謎のメッセージに怯えることもなく、遠き過去にまで遡る根深い因縁話があるでもない。題名から、奇妙な屋敷で起こる、陰惨な連続殺人を期待してしまうと残念な作品。
① ミステリ小説の老大家・田宮が、久々の新作に挑むため、かつての仕事場である山荘に籠る。
② 「ミステリ創作講座」の教え子・レイコがやって来る。彼女の原稿に目を通す。
③ 田宮とレイコが深い仲になる。
④ 沢本、「螺旋館の殺人」の完成原稿を田宮から受け取る。列車で編集部へ向かう。見知らぬ女が隣の席に座る。彼女から勧められたコーヒーを飲むと眠くなる。目覚めると、彼女は居ない。原稿の入っていた封筒がすり替わっている。
⑤ 沢本、編集長とともに田宮に頭を下げ、書き直してもらうことに成功。
⑥ 沢本、発売寸前の「月刊推理」新人賞受賞作「サーキュラー荘の殺人」に目を通し、それが「螺旋館の殺人」と同一と言っていいほどの内容と知る。作者・美也子こそが列車で封筒をすり替えた人物と気づく。盗作は明らかと、彼女を問い質す。
⑦ 沢本、詳しい話を訊こうと、彼女の自宅マンションを訪ねると、死体となった彼女を発見する。田宮への謝罪らしき文章がワープロで打たれている。彼女の死は自殺として処理される。
⑧ 「サーキュラー荘の殺人」掲載誌は発売前に回収。田宮作「螺旋館の殺人」は、諸事情により、「中田礼」という名義で発表される。
⑨ 事前に、「田宮竜之介の新作発表」を銘打っていた「月刊推理社」としては、田宮名義の作品もどうしても必要と、沢本が山荘を訪れる。「螺旋館の殺人」で義理は果たし、しばらくのんびりするつもりだった田宮だったが、事情を知らぬ読者には田宮自身の不名誉と映るやも知れぬことでもあるし、依頼を引き受ける。
⑩ 田宮に取り入り、山荘に大久保が入り込む。山荘内の捜索の末、田宮の不正を示す証拠を発見。
⑪ 大久保、盗作者はレイコではなく田宮のほうだと糾弾し、恐喝する。
⑫ 田宮、大久保殺害を狙うが返り討ちされ、崖から転落。
⑬ 大久保、田宮の財産を奪って逃げようと、山荘に戻り、捜索開始するも、貯金通帳はなかなか見つからない。
⑭ 大久保、田宮に成り済まし、ゆかりの来訪をやり過ごす。山荘の地下室発見。その中で、見覚えのある男に遭遇する。
⑮ 田宮、山荘に戻る。相打ちとなった沢本と大久保の死体を発見する。本物の田宮は⑨以降、温泉で療養中であり、その代わりを沢本が務めていたのである。