ソーンダイク博士シリーズの短編集。科学捜査探偵。倒叙物の先駆け。[???]

ジョン・イヴリン・ソーンダイク:法医学者, 探偵
クリストファ・ジャービス:医師
ナサニエル・ポルトン:時計師, ソーンダイクの研究所の助手
アンスティ:ソーンダイクたちの友人
ミラー警視:ソーンダイクの馴染みの警官
バジャー警部:同

「計画殺人事件」:警察犬を使った捜査を誤魔化す。
「歌う白骨」:パイプを巡る推理。
「おちぶれた紳士のロマンス」:上着の埃の分析。
「前科者」:指紋偽装。
「青いスパンコール」:意外な凶器。
「モアブ語の暗号」:暗号ではない暗号文。
「アルミニウムの短剣」:脱出困難な部屋に刺殺体。
「砂丘の秘密」:二人の人物のものが混じった遺留品。

※以下の反転表示部はネタバレ注意。




倒叙ミステリの先駆けとなった短篇集「歌う白骨」の作品を中心として、再編集したもの。ソーンダイク譚は、当時としては比較的フェアプレイ傾向が強い。探偵・ソーンダイクの捜査手法はシャーロック・ホームズを彷彿させる部分もあるが、先人と違って彼にはエキセントリックな要素がほとんど見られない。




「計画殺人事件」
ルーファス・ペンバリー:フランシス・ドップズ, 脱獄囚
プラット:ポートランド刑務所の元看守
ジャック・エリス:警察署の臨時雇い, かつてポートランド刑務所に勤務, プラットとは不仲
オゴーマン将軍:警察犬使いの名人



脱獄囚であることとを隠して財を成し、今や静かな生活を営んでいたペンバリーの前に元看守プラットが現れ、彼を恐喝する。表面上はその要求を受け入れたものの、ペンバリーは恐喝者にカネを払うことはまったくの無駄と心得ていたので、当然ながらプラットを殺そうと決心した。そのためにナイフを別の店で1本ずつ、太いステッキ、財布、鉄火箸、麝香エッセンス、鼠の死体などを買い込んだ。そして彼は鼠の血と麝香エッセンスをナイフに塗りたくった。麝香エッセンスを染み込ませた脱脂綿を、加工したステッキの先に取り付けた。ナイフは鉄火箸を用いて慎重に扱った。

プラットとの面会は、人目を避けられるような並木道が選ばれた。ペンバリーはその面会の前に下準備を行なった。近くの木に血の付いたナイフと鉄火箸を隠し、そこからステッキの先の麝香エッセンスを地面に付けながら警察署の前を通り、もう少し進むとステッキの先を財布の中に突っ込み、そしてそれを道に落とした。すると、いつもこの時間帯にやって来るエリスがそれを拾って、ポケットに押し込んだ。ペンバリーはプラットとの面会に臨み、もう一本のナイフで彼を何度も刺し、格闘の末、殺害した。木に隠しておいたほうのナイフを鉄火箸で扱って、現場に残した。オゴーマン将軍は警察犬を使い、ナイフに残された臭いを追わせた。エリスが逮捕された。



ソーンダイクは、警察犬は犯罪捜査にはあまり役に立たないという持論を展開する。なぜなら、警察犬の能力とは、相手が何者なのかわかっていればこそのものであり、何者かわからぬ相手を探すものではないからと。警察犬が示すのは、二つの臭いが同一ということだけであって、それについての説明はできないからというのである。

ソーンダイクは足跡を調べ、鉄火箸などを発見し、指紋を取り、ナイフの臭いを嗅ぎ取ると、即座に計略を見破った。エリスは解放されたが、既にペンバリーは逃亡した後だった。しかしソーンダイクは、恐喝され犯行に及んだペンバリーにやや同情的で、そして彼が警察犬への信仰を打破してくれたことには、密かな喜びすら覚えていた。




「歌う白骨」
トム・ジェフリーズ:ジェフリー・ローク, 殺人犯
ジェームズ・ブラウン:燈台守:エイモス・トッド, トムの共犯者, 裏切り者



ブラウンは燈台守の仕事を得たが、その初日、たまたま彼を燈台へ送り届ける人手がなかった。ブラウンは漁船を借りて、燈台へと向かった。漁船は、ブラウンと交代する燈台守が乗って戻ってくればいいのだ。ところがそのとき燈台では、二名の燈台守の一方が負傷し、通り掛かった船に乗せられて去ってしまっていた。ブラウンは燈台に到着したが、これでは船を戻す者がいない。しかしそんなことよりももっと重要なことは、そこにいたのは、かつてブラウンが裏切った相手だったのである。

ジェフリーズは驚いた。交代要員としてやって来た人物こそ、彼の犯罪の共犯者であり、その後に自分の減刑と引き換えに彼を裏切った相手だったからだ。まるで隠れ潜むように彼がこの燈台に閉じ籠っている理由の一つは、このブラウンを怖れていたためなのである。

しかしジェフリーズの不安に反して、ブラウンは彼を警察に売り渡したりする気はないらしい。あまつさえ、もうそれは水に流して、昔のように仲良くしようとまで言ってくる。ブラウンはパイプに嗅ぎ煙草を吸い始めたが、パイプが詰まっているらしい。ジェフリーズがつい親切心を起こして、固形煙草を詰めたばかりの自らのパイプをブラウンに渡した。ブラウンは素直に礼を行ってそれを受け取った。

そんなことをしているうちに、ブラウンは自分と交代する者の姿がないことに気づき、ジェフリーズにそれを問い、ここには彼ら二人だけしかいないことを知ったのだ。その途端にブラウンは動揺し、その後の成り行きから、ブラウンのナイフがジェフリーズを負傷させ、ジェフリーズはブラウンを突き落とすことになってしまった。ブラウンは燈台の鉄骨に頭をぶつけ、そして海へと沈んでいった。

ブラウンは燈台に到着する前に船とともに海へと沈んだと、ジェフリーズは工作した。



発見されたブラウンの死体のポケットの中には、パイプや、もぐらの皮製の煙草入れ、ばらのマッチなどが入っていた。煙草入れには嗅ぎ煙草が入っているが、パイプには固形煙草が詰められている。港からの目撃情報によると、船の上でブラウンは嗅ぎ煙草をパイプに詰めていた。パイプに残る噛まれた跡などからも、これがブラウンの物ではないと、ソーンダイクは見破る。そして燈台へ行き、パイプ掛けに掛けられた物の中に、ブラウンのものと推測される一本を見つけた。ブラウンの頭部の傷も、彼がこの燈台に到着していたことを推測させるものだった。ブラウンの死体が所持していたパイプの本来の持ち主を指摘するのは、ソーンダイクにとってはさほど難しいことではなかった。



(「・ω・)「にゃおー




「おちぶれた紳士のロマンス」
オーガスタス・ベーリイ:元将校, 除隊後は悪事で生計を立てている
ジェヒュー・B・チェーター夫人:米国人の資産家



かつては輝く世界に身を置いたこともあるベーリイだが、もはや彼はすっかり落ちぶれ果て、コソ泥に成り下がっていた。そんな彼が、潜り込んだ夜会にて、かつて知った顔を見つけてしまったことは、懐かしさとともに今の己の惨めさを再確認させるものだった。“仕事”のためにも顔を合わせるのは避けたかったが、結局はお互いに――ベーリイは変名を――名乗り合うことになってしまった――彼女は彼の名前こそ覚えていなかったが、顔ははっきり覚えていて、その眼差しには熱いものさえ宿っていた――。

ベーリイが一人木陰のベンチに座り、さてどうしたものかと思案していると、図らずも彼女が近くにやって来た。彼には気づいていない。彼女は歯が痛むらしく、クロロフォルムと綿を用いて治療を行なっていた。彼女が身に着けた宝石の輝きが、彼を発作的な行動に導いた。クロロフォルムの瓶と綿を手にすると、彼女に襲い掛かった。彼女が動かなくなると、そこで彼は我に返った。――殺してしまった。優しく友情の手を差し伸べてくれた彼女を―― もう彼は宝石のことなどどうでも良かった。預けておいたコートを急いで受け取ると、すぐに夜会を後にした。まさか自分のコートが他人のものと入れ替わっていたとは、彼は思いもしなかった。



コートから発見された埃を分析したソーンダイクは、難なく持ち主の住む地域を絞り込む。ポケットには持ち主の家の鍵が入っており、地域さえ絞り込んだ後は手当たり次第で、目的の家を探し当てた。

ところで実はチェーター夫人は失神しただけで、死んではいなかった。ソーンダイクたちは、復讐心に燃える夫人も伴い、犯人を待ち構えた。この家の中の様子を見るだけでも彼の窮状は窺え、一瞬、彼女は相手への同情心を示したが、己への仕打ちを思い出すとすぐに怒りを思い起こした。しかし戻って来た男の顔を見ると、彼女は彼を犯人ではないと言い張り、告訴を取り下げた。ベーリイは本名を彼女に告げ、彼女はすぐに手紙を送ると答えた。二人とも涙を浮かべていた。「私を感傷的な馬鹿だと思うでしょう?」と問う彼女に、ソーンダイクはいつになく柔らかい表情を浮かべていた。




「前科者」
フランク・ベルフィールド:前科者
コードウェル:殺人事件の被害者, 盗品売買のほかに警察への密告も行なっていた
ジョゼフ・ウッドソープ:動物園の飼育係



かつてソーンダイクによって捕えられたベルフィールドがソーンダイクのもとを訪れた。今は真っ当な暮しを営んでいる彼だが、自分がキャンバーウェルの殺人事件の容疑者として指名手配されてると知り、頼れるのはソーンダイクしかいないと、慌ててやって来たのだ。ソーンダイクは馴染みのミラー警視からベルフィールドの指名手配の理由を訊き出した。現場の窓に、五指の指紋がべったりと並んで残っていたのだという。

その指紋ははっきり残っていた。しかしソーンダイクから見れば、これはあまりにもはっきりし過ぎている。さらに親指の指紋が真正面を向いているとなれば、これはもう彼の指紋を転写した偽造指紋である疑いが強い。そして残された指紋が現在の彼のものとは違う――彼は1年ほど前に指を負傷し、その傷跡が残っている――ことを証明すると、ミラー警視も納得した。



ソーンダイクはキャンバーウェルの殺人事件の解決に乗り出す。偽装指紋と警察の指紋台帳とを比較すると、親指を除く四指の位置関係はほぼ同一で、前者は後者を元に作られたものだろう。指紋台帳に残された採取者の名前は「ジョゼフ・ウッドソープ」とある。事件現場にはベルフィールドの名が入ったハンカチもあった。血痕も残っている。それはラクダの血だった。

動物園を訪れてみれば、果たしてウッドソープなる腕の良い写真家でもある飼育係がいるという。ベルフィールドにハンカチについての話を訊けば、彼は動物園でラクダが怪我した際にウッドソープにハンカチを貸し、それを特に気をつけて確認もせずに返してもらい、そのまま自宅の洗濯籠に放り込んだという。最初に訪れた動物園で目的の人物を見つけられたことは幸運だったが、先にベルフィールドからハンカチについて訊き出していれば、ロンドンじゅうの動物園を回ろうなどと考えなくても良かったのである。




「青いスパンコール」
エドワード・ストップフォード:弁護士
ハロルド・ストップフォード:画家, エドワードの弟
エディス・グラント:ハロルドの元恋人



エディス・グラントが殺害された。その頭部には鋭角な器具で突かれたらしき深い穴。金目の物がそのまま残されていたことから、物盗り目的ではなさそうである。その現場である一等車室にはほかに誰もおらず、誰にも目撃されずに出入りすることは難しい。彼女と一緒にいた最後の人物と思われる、ハロルドが容疑者となる。彼はその少し前に彼女と激しく言い争う姿が目撃されている上に、凶器にぴったりの石突きの付いた傘を所持していた。



ソーンダイクは一等車室を調べ、列車の近くにある空っぽの家畜車を眺めた後、近くの肉屋の家畜小屋へ行き、並んだ牛の角を順番にステッキで軽く叩き始めた。一頭だけ明らかに反応が違っていた。その一頭の角を詳しく調べたソーンダイクは、エディスが窓から顔を出していたときに牛の角で突かれ、その事故で命を落としたと断じた。



「モアブ語の暗号」
アドルフ・シェーンベルク:事故死した男が所持していた手紙の相手
バートン:ハルケット, 犯罪一味の一員
ポッペルバウム教授:古文書学者



正体不明の男が事故死した。その男の持っていた封筒の宛先には「アドルフ・シェーンベルク」とある。そこでシェーンベルクなる人物を訪ねると、彼は策を弄して逃亡した。これは明らかに後ろ暗い人物だと、封筒を開けてみれば、そこには見慣れぬ文字が並ぶ紙片が入っていた。それはクリーム色のごく普通のノート用紙で、そこにモアブ文字が製図家が使うような耐水性インクによって書かれている。専門家であるポッペルバウム教授によって、「呪い、町、虚偽、盗賊、獲物…」などという単語が見出されたが、まったく意味がわからない。

その紙片をソーンダイクが所持していると誤解した怪しげな一団が、彼を誘い出し、部屋を探索するが、その策はあっさり見抜かれ、あえなく御用となった。彼らは大掛かりな宝石泥棒への関与が疑われる連中だった。



ミラー警視から正式な調査依頼を受けたソーンダイクは、それならばと一枚の紙片を彼に渡した。そこには盗まれた宝石の隠し場所が書かれていた。こうしてモアブ文字の暗号については片付いた。

ところが悩み続ける者がまだ一人。未だにどのように暗号を解読したのかわからぬポッペルバウム教授である。ついに自力での解決を諦め、ソーンダイクのもとを訪れたのだが、その説明を聞くと、彼は腹立たしげに帰って行った。

「まず私の興味を引いたのはインクでした。なぜ耐水性のインクを使ったのか?」 ソーンダイクが問題の紙片を水に浸すと、そこには見慣れた普通のアルファベットが透かしのように浮かび上がっていた。




「アルミニウムの短剣」
アルフレッド・ハートリッジ:殺人の被害者
レオナード・ウルフ:アルフレッドの親友, 遺産相続人
ヘスター・グリーン:アルフレッドの関係者



アルフレッド・ハートリッジが殺害された。背中にはアルミニウム製の細身の短剣が捻るように深く刺さっており、これが彼に致命傷を負わせた。その部屋は三階にあり、開いた窓の外に足場はなく、出入口の扉は施錠されている上に掛け金まで掛かっていた。犯人がどのようにこの部屋を抜け出したのかが謎だった。



ソーンダイクは短剣の大きさを正確に測定し、そっくりな複製品を作り上げた。そしてそれをごくありふれた小銃の先に差し込むと、いとも容易く標的を撃ち抜いた。殺害現場付近には、短剣を内部で噛み合わせるためのワッシャーが落ちていた。



名前のある登場人物が短編としては多めで、人間関係もちょっと複雑。少々変わった遺言、犯人に仕立て上げられるヒロイン、イタリアのマフィアを思わせる脅迫者、マンションの前で奇妙な騒ぎを連日引き起こす連中など、盛り沢山な内容になっているが、それらは単なる飾りみたいなもので、結局のところ、本作は短剣のトリックの一点に尽きる。

どうもよくわからないことが多い。脅迫がまったくの偽装だとしたら、なぜアルフレッドはそれにあっさりと屈したのか? 心当たりがあったのか? 馬鹿騒ぎに関わった女はヘスターなのか? ウルフとヘスターが友好的な仲間関係なら、なぜ遺言でウルフに対してヘスターと結婚してくれと頼む必要があるのか?




「砂丘の秘密」
P・ロスコフ:クラブの臨時会員
ケープス:画家
ジョセフ・バートランド:画家



休暇を過ごした海辺で、ソーンダイクは奇妙なものを見つける。丘と丘の間の窪地に、海水浴客の物と思しき衣服類が置かれていて、しかもそれは長時間に及んでいる様子。この持ち主は海に入り、溺れてしまったのだろうか。



ソーンダイクは、衣類に残る砂の違いから、それは一人の人物のものではなく、二人の人物のものが混じっていると喝破する。一方は殺人者、もう一方はその被害者のものであった。被害者は衣類が置かれていた近くから掘り起こされた。



うーむ、何度読んでも内容がほとんど理解できない…。ソーンダイクが窪地の遺留品からその持ち主の特徴を推理する部分以外は、何がどうなったのやら…。

これは恐喝者に脅されたロスコフが、その相手を殺したという事件らしいが、いったいどのような経緯で成されたものなのかさっぱりわからない。

ロスコフが窪地で小柄な恐喝者を殺し、彼と自分の衣類を置いて海に入り、別の場所から上がり、シャツは恐喝者のものを身に着けて逃げた(シャツは窪地まで取りに戻ったのだろうか?)――つまりロスコフが自分の着衣を置いて去ったのは、自分が海に入り死んだと偽装したということでいいのだろうか。ならばなぜ恐喝者の所持品と特定されやすいナイフなどまで残していく? なぜ死体とともに埋めてしまわないのか? そもそも死体を埋めるということは、しばらくは殺人自体を隠蔽するつもりだろう。わざわざ自分が海で溺死したなどと偽装する必要があるのか? しかもロスコフは変名であり、作中でも姿を消したきりその正体すら判明しないような人物だ。死体と衣類を埋めて、ロスコフは自分の服を着たまま、さっさと立ち去るだけでいいと思うのだが。

『ツイードの上衣とズボン、(略)、パンツ、これらの品物にはインクで「P・ロスコフ」のマークがついていた』
『上衣、ズボン、ソックス、靴は、寸法から見て、小柄な、ややがっしりした男のものと考えた』
『小柄な男の服には、どこにもマークがついていないが』
これはどういうことなんだ? 遺されていた上衣とズボンにはマークが付いてるのか、付いてないのか、どっちなんだ? 指し示すものを作者が間違えたのか、あるいは誤訳?

ソーンダイクはどのようにして、ケープスが捜している人物はロスコフではなく、もう一方の人物と断定したのだろう。ふたりのうち、わかっているほうの特徴を挙げただけなのだろうか。

とにかく、何もかもさっぱりわかりませんっ!><
推理能力を持つ猫。再会した元恋人の失踪。(「・ω・)「にゃおー [??]

[マウス・ハウスの住人]
ジム・クィララン:新聞記者
ココ:クィラランの飼い猫
ヤムヤム:同
ジョイ・グレアム:陶芸家, クィラランの元恋人
ダン・グレアム:陶芸家, ジョイの夫
ラク:ジョイの飼い猫, 行方不明
ロバート・マウス:弁護士
マックス・ソレル:レストラン“金色のラムチョップ”のオーナー
ローズマリー・ホワイティング
ヒクシー・ライス
シャーロット・ループ
ウィリアム・ヴィテロ:ハウスボーイ
マロン夫人:家政婦

アーチ・ライカ:クィラランの上司
オッド・ブンスン:カメラマン
ジャック・スミス:美術批評家
インガ・ベリー:美術学校の教師
ゾウイ・ランブレス:画家
ヒュー・ペニマン:マウス・ハウスの元所有者, 故人
バージル・ペニマン:ヒューの息子
ベイリー・ペニマン:同
コップ夫人:クィラランの元の家の家主



ごく身近な者しか知らないが、飼い猫・ココには推理能力があり、いくつかの事件を解決に導いている。――少なくとも、その飼い主であるジム・クィラランはそう信じている。

さて、クィラランは偶然にもかつての恋人、ジョイと再会した。よりを戻そうというつもりではないが――彼女にはもう夫がいるのだ――、さっそく彼は彼女の住むマウス・ハウスへと引っ越した。それで彼女と昔のことなどを話していたのだが、どうやら彼女は夫と別れるつもりらしい。ある人にとっては大きな価値がある古い書類を見つけたので、それを使ってささやかな恐喝をするの――などと話す彼女をたしなめたりしてるうちに、クィラランは彼女に750ドルの小切手を渡してしまった。

そして彼女はいなくなった。

どうやらジョイからの絵葉書が彼女の夫には届いたらしい。彼女は今、シンシナティにおり、いずれフロリダ州マイアミへと行くつもりだという。だがクィラランは彼女の行方に疑惑を抱いていた。彼女は日光に弱いし、フロリダを嫌っていたはずだ――


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



クィラランとその飼い猫・ココを主人公とするシリーズの第4作。米国版“三毛猫ホームズ”?w 猫のココは、いずれタイプライターまで使いこなすような勢いだ。そうなれば、猫だけで事件解決できるなw

読了して驚いた。

事件の真相が、そのまんまやんw


レストランへの嫌がらせの件や、昔の事件なども絡めて、犯人以外にも怪しげな振る舞いをさせたりしている。しかし結局最後までなんの捻りもなく、最初から最も怪しかった人物による、やっぱりかという方法での犯行が判明。なんなんだ、これはw

こんな犯人は、放っといてもすぐに捕まるだろ。「ねこかわいい」というだけの作品だなw



(1) クィララン、かつての恋人・ジョイと再会。彼女は、夫・ダンとの別れを望んでいること、素晴らしい釉薬を発明したこと、屋根裏部屋で発見した書類を用いてのささやかな脅迫を企んでいることなどを語る。クィララン、彼女に750ドルの小切手を渡す。
(2) クィララン、深夜に悲鳴のような音を聞く。ジョイ、失踪。
(3) 翌朝、グレアム夫妻の工房は施錠されていた。
(4) クィララン、ダンと会話。ダンによると、ジョイが作業中に髪を電動ろくろに巻き込んでしまい、悲鳴を上げたという。
(5) クィララン、川縁で「J・G」と刻まれた、陶製のスカラベを拾う。
(6) ジョイは電動ろくろを使わない主義。
(7) 誰かが“金色のラムチョップ”の悪い噂を流している。不審火もあった。
(8) ウィリアムがクィラランの留守中に彼の部屋に入っていた。
(9) ダンはクィラランがジョイに750ドルの小切手を渡したことを知っている。
(10) ウィリアムは探偵業に憧れている。彼は、ジョイがペニマン兄弟に書類を売りつけようとしていたことをクィラランに話す。
(11) ダン、クィラランにジョイから絵葉書が届いたと話す。彼女はマイアミに行くつもりだという。
(12) ジョイはフロリダを嫌っている上に、日光アレルギー傾向。
(13) ウィリアム、失踪。彼の車は家に戻っている。
(14) 何者かが深夜、川に大きな袋を捨てる。
(15) クィラランの自室に覗き穴。そこからグレアム夫妻の工房が見える。
(16) クィララン、策略を用いて工房に入る。床の落とし戸の中には泥漿タンクがあり、強烈な臭気を発している。ダン、自身が発明したという釉薬を披露する。炉内温度の急上昇は、焼いている作品の破損を招く。表紙に「釉薬」と記されたノートには、ジョイの筆跡。
(17) クィラランの振り出した750ドルの小切手が、1750ドルと偽造され使われる。ジョイの偽造署名が用いられた。
(18) 川から陶器の破片が見つかる。
金田一耕助シリーズの短編。ネクロフィリア。[??]

金田一耕助(きんだいちこうすけ):探偵
等々力:警部
井川:警部補, S署捜査主任
山内:S署T派出所詰め巡査
石川:同

樋口邦彦(ひぐちくにひこ):画家
瞳(ひとみ):邦彦の妻, 元ダンサー, 肺病
正直(まさなお):邦彦のいとこ
水木加奈子(かなこ):バー“ブルー・テープ”のマダム
しげる:同女給, 加奈子の養女
原田由美子:“ブルー・テープ”の女給
河野朝子(こうのあさこ):同
川口定吉(かわぐちさだきち):加奈子のパトロン
清水浩吉(こうきち):酒屋の小僧
村上章三:アトリエの隣家の住人
山本:天命堂病院医師
沢村:同看護婦
松浦三五郎:怪人物



そのアトリエに住む樋口夫婦の熱愛ぶりは、近所でも評判だった。しかしそれはかなり度が過ぎたもので、そのために、肺に病を抱える妻・瞳の体はまったく快方へ向かうことはなかった。医師は彼らに別居を強く勧めたほどであるが、妻は笑って取り合わず、夫も決して彼女を離そうとはしなかった。

そのうちに誰も瞳の姿を見なくなった。邦彦に瞳の状態を問えば、近頃はだいぶ良くなったと、ニコニコしながら答える。

そんな様子に疑惑を抱いたのが、酒屋の小僧の浩吉。評判のいたずら小僧である。そしてついに邦彦の外出を待ち、アトリエに侵入した。窓も雨戸もぴったり閉め切られた室内には、なんとも言えぬ嫌な匂い。浩吉は震えた。恐怖ではない。自分が隠された犯罪の発見者になるのではという武者震いである。彼の望みは叶えられた。おびただしい蝿が飛び交う中心には、子供の目にも明らかな腐乱死体があった。

邦彦は逮捕されたが、彼が妻を殺害したのではないことは認められた。彼女の命を奪ったのは病魔であり、彼の罪はその死亡の届け出を怠ったまま、死体を手許に置き続けたことである。だがその死体に死後も愛撫されたらしき形跡があったことは、それを知った者たちを慄然とさせた。

説明を求められた邦彦は答えた。「瞳は息を引き取る前に、私にこう言ったのです。死んでも火葬せずに、いつまでもそばに置いて愛し続けてくださいと」

邦彦は有罪判決を受け、刑務所に入った。


事件から数年が経ち、放置され、荒れ果てていたアトリエの前で、またもや事件が起きた。巡回中だった巡査が刃物で刺され、その事情を語った後に死亡したのである。彼の説明によると、不審人物が目に留まり、呼びとめたところ、そいつは樋口邦彦を名乗った。さらに詳しい話を訊こうとしたが、いきなり刺され、逃げ去る相手の背中を眺めるしかできなかったという。

その事件がきっかけとなり、アトリエを調べると、女の死体が発見された。それは先日に病院から盗まれた、河野朝子の死体であるとわかった。


以前にも同様の事件を引き起こしているゆえ、当然今回も樋口邦彦こそが第一の容疑者とされた。最初の事件で味を覚え、そういう習性が付いてしまったのではないかと。警官を刺殺するほど暴力的になっているとすれば、その禁断症状も非常に激しいものであろう。つまりまた死体が狙われる可能性が高いということになる。しかし死体はそう易々といくらでも手に入れられるものでもあるまい。もし手に入れられなかったら――

探偵・金田一耕助は言った。「自分の手で死体を作ろうと考えだすんじゃないかと…」


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



登場人物たちの多くが変態的な要素を持っているw 邦彦は単に妻を強く愛していただけであって、気の毒なようでもある。終盤にマダムの情夫の正体には唐突感もあるが、序盤にちゃんと伏線らしきものが書かれてるんだよね。一度ならず二度までも、間取りを知っていることを強調してる点だ。

実際に彼と会い、後にびっこの偽装までしている人物が、彼のびっこに気づかなかったと証言したのは、意図的に嘘をついたと解釈するしかないだろう。なぜそんな嘘をついたのだろうかと考えてみると、「警察が邦彦に目を付けるのをもっと後にしたかったのでは」と推測できる。ならばその理由として適当なのは、「死体をまだアトリエに運んでいなかったから」ということだろうか。だがもしそうなら、「その間、死体はどこにあったのだろうか」という疑問も浮かぶ。せっかく盗んだ死体を長期間別の場所に置いておくのも不安だろうから、やはり病院から盗んですぐにアトリエに運び込んだと解するのが自然なような気もする。一方で、「じっくり良い機会を窺うために、別の場所に隠しておいた」というのもいかにもありそうなことだ。

警官殺しの夜、犯人はアトリエで何をしていたのかが、はっきり書かれてないんだよね。そのときに死体を運び込んだとも、既にそこに置かれていた死体に悪戯していたとも取れる。あえて警官殺しのリスクを負う必要もなさそうだから、すべて計画通りとも考えづらいが、いったいどこからが犯人にとってのハプニングなのだろうか。

なんか一応、いろいろと合理的な解釈は付けられるけど、「ズバリこれだ!」という解答が僕の中では得られてない。もっと詳しい説明を書いて欲しかったw


\男の娘!/



(1) 町の評判のいたずら小僧の浩吉、様子を怪しみ、邦彦のアトリエに侵入、瞳の腐乱死体を発見。他殺ではなく病死。
(2) 邦彦、瞳の遺志により、火葬せずにそばに置いて愛していたと証言。彼は有罪となり、刑務所へ。アトリエは放置されたまま、数年が経過。
(3) 山内巡査、アトリエにて、出所したばかりの樋口邦彦を名乗る人物を問い質そうとして、刃物で刺される。数分後、通り掛かった村上により、山内巡査は病院へ運び込まれ、事情を伝えるも、その後に死亡。
(4) 井川警部補、アトリエを調査。病院から盗まれた朝子の死体を発見。
(5) 死体盗難は11月2日の22時頃。犯人は顔を隠し、左脚にびっこ。邦彦は刑務所内での負傷以来、びっこになっている。
(6) バー“ブルー・テープ”での、耕助による観察。マダム・加奈子の年齢は35くらいか、それ以上。派手な顔立ちと濃い化粧は、豊満な肉体と調和している。加奈子の養女・しげるはすらりと伸びた長い手脚に、均整の取れた身体。小柄であることがまったく気にならない。年齢は20の少し前だろうか。女としての成熟が見られず、綺麗ながら色気が足りない。女給・由美子は平凡。締りのない体つき、臆病そうな目、丸い鼻。よほど気が小さい様子。加奈子やしげると比べると、明らかにぼんやり。
(7) 加奈子の証言。瞳と仲が良かったので、邦彦とも旧知。11月2日、朝子の死に水を取っての帰路に邦彦と出会った。その夜に病院に死体を引き取りに行くことを伝えた。21時頃から胃痙攣により寝室へ退く。痛みが治まらぬため、23時頃にしげるに指示して、死体引き取りの延期を伝えさせた。
(8) しげるの証言。11月2日の21時半頃、邦彦が来店。それ以前にも何度か彼は家を訪れたことがあるので、既に顔見知り。加奈子は体調不良で寝ているので、今夜病院へ行くのは難しいだろうと、彼に話した。
(9) 加奈子、しげる、ともに邦彦のびっこについては気づかなかったと証言。
(10) 由美子の証言。邦彦は何度か来店しているので、既に顔見知り。11月2日の21時半頃の彼の来店には、たまたま席を外していたのか、気づかず。彼がびっこであることは気づいていた。
(11) 邦彦は10月8日の出所以来、住処を転々としていた。10月28日、証券類を換金し、600万円の現金を入手。
(12) 11月17日、松浦三五郎という人物が貸間を借りた。自動車でやって来ると、体調不良だという妻を抱えて部屋に入った。11月20日、部屋に松浦の姿なし。青酸カリで殺害され、腐敗が進んだ、由美子の死体が残っている。
(13) 11月20日夜、加奈子の証言。11月15日の昼過ぎ、由美子の代理を名乗る男からの電話を、しげるが受けた。4~5日間ほど店を休むと告げ、電話を切った。今朝からしげるが帰らない。
(14) しげるは11月20日の朝、銀行で10万円引き出していた。
(15) 12月25日、マンホールから腐乱死体が発見された。顔は腐敗によるだけではなく、打ち砕かれた疑いがある。着衣と所持品から、しげると判断された。死亡は11月20日前後と推定。
(16) かつて加奈子のパトロンだった川口の証言。加奈子の店の経済状態は悪い。加奈子が情夫を抱えるのは気にしないが、その相手の見当がつかないのが気味が悪く、こんな女を相手にしていたら、いずれ手酷く騙されるかもしれないと、手を切った。

[表面上の時系列]
(数年前)病死した妻の死体を死亡届も出さずにアトリエ内にて放置した樋口、有罪となり刑務所へ。
(10/08)出所した邦彦、いとこの正直のもとへ身を寄せる。その後転々とする。
(10/28)邦彦、証券類を現金化。600万円。
(11/02/正午)朝子、死亡。
(11/02)加奈子、道中で邦彦と逢う。びっこには気づかず。
(11/02/21時)加奈子、胃痙攣。寝室へ。
(11/02/21時半)しげる、来店した邦彦と会う。びっこには気づかず。
(11/02/22時)びっこの男、死体を引き取る。
(11/02/23時)しげる、加奈子の指示で病院へ電話。
(11/02/23時半)しげる、由美子、病院に到着。
(11/05/夜)山内巡査、邦彦により刺殺。
(11/06/10時)耕助、アトリエを調査。