金田一耕助シリーズの短編。殺害現場の金魚鉢に残った指紋。[??]

金田一耕助:蝙蝠男
繁:蛞蝓女
湯浅順平:アパートの2階の住人
山名紅吉:アパートの3階の住人
剣突剣十郎:アパート経営者
加代:剣十郎の姪



湯浅順平は蝙蝠が嫌いだった。だから彼に蝙蝠を思い起こさせる隣人の金田一耕助のことも当然快く思っておらず、密かに蝙蝠男まどと呼んでいた。気に食わぬと言えば、裏手に住む蛞蝓女、つまり繁だってそうだ。彼が想っている加代や、その加代と明らかに親密さを増している紅吉も気に食わぬ。つまり彼の周囲には、彼が気に食わぬ者ばかりだったのである。

その鬱憤の捌け口をせめて紙の上だけにでも見出そうとしたのか、順平は蛞蝓女・繁を殺し、その罪を蝙蝠男・耕助になすり付ける内容の小説を書き始める。しかしすぐに飽きてしまい、書きかけの原稿を本箱に放り込むと、そのこともすっかり忘れていた。

ある日、学校からアパートに帰って来ると、何やら様子がおかしい。表には人相の悪い見知らぬ男が並んでおり、紅吉や加代は順平の顔を見た途端に怯えた態度を示す。はて何があったのかと思いつつ部屋に入ろうとすると、例の人相の悪い男たちによって彼は引き留められた。繁が本当に殺され、現場に置かれた金魚鉢に順平の指紋が残っていたので、彼はその第一容疑者にされていたのである。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



探偵小説ではあるが、ストーリー上の伏線は張られていても、事件解決の重要な手掛かりは読者に提示されず、分量的にも内容的にも、いかにも掌編。ちょっとした小噺という感じだw

指紋トリックは無理とは言わないが、もうちょい工夫しないと苦しい。現場に残された短刀と血痕のある寝間着は、まったく雑なものなので無視していい。



(1) 順平、気に食わぬことばかりでイライラ。密かに想っている加代が紅吉と親密になっているのも気に食わぬし、他の隣人たちも気に食わぬ。中でも引っ越してきたばかりの耕助に対しては、どことなく順平が嫌っている蝙蝠を思い起こさせるので蝙蝠男、裏手に住む繁を指しては、ジメジメした蛞蝓を思わせるので蛞蝓女などと称して陰口を叩いていた。
(2) 繁はカネが不足してくると、毛筆を持ち出し縁側に出て、悲しげに書き置きする。その様子を見た順平は、最初こそ同情もした。しかし彼女はカネが入るとニコニコし、またカネがなくなると悲しげに書き置きすることを繰り返す。それを眺めていた順平は、次第に焦り焦りするようにさえなってしまった。
(3) 順平、蛞蝓女を殺し、その罪を蝙蝠男になすり付ける小説の冒頭部分を一気に書き上げた。金魚鉢を置く場所や、鉢の中の水量さえも毎回物差しで測って所定の位置に合わせるという、彼女の偏執的な行動にイラだった主人公(順平)が、ついに計画的犯行に及ぶという内容である。しかし翌日にそれを読み返してみると、前日の情熱はどこへやら、まったく阿呆らしく思える。本箱にその原稿を放り込んでしまうと、そんなものを書いたことさえも、いつの間にかすっかり忘れてしまっていた。
(4) 本当に繁が部屋の中で殺害されてしまう。現場には凶器である順平の短刀が落ちていた。金魚鉢の水は、犯人がそれで血を洗い流したらしく真っ赤に染まっている。そして決定的なことに、金魚鉢に順平の指紋が残っていたのである。
(5) 順平にはまったく心当たりがなく、繁を殺したことも、金魚鉢に触れたことも否認する。しかし彼の寝間着には血痕がある上、あの原稿が発見されたこともあって、彼は窮地に陥る。
(6) そんな順平の前に現れたのが蝙蝠男・耕助。順平が事件の前日に加代に頼まれて、真っ暗な彼女の部屋で電灯の修繕を手伝ったことを思い出させると、事件の真相を話し始めた。
(7) その日から順平は蝙蝠が好きになった。
金田一耕助シリーズの短編。紛失した被害者の外出着。寝室に置かれた死体は寝間着を着けずに半裸だった。[???]

金田一耕助:探偵
久保銀造:耕助のパトロン
磯川:警部
志賀泰三:米国で財を成した資産家, 小島の“竜宮城”の主
静子:泰三の妻
イヴォンヌ:泰三の先妻, 故人
秋:志賀家の使用人
佐川春雄:志賀家の運転手
樋上四郎:泰三の友人, イヴォンヌを殺害しての服役を終えた
村松恒:医師, 泰三の親戚
安子:恒の妻
徹:恒の長男
滋:恒の次男, 故人
田鶴子:恒の長女



親戚の村松滋の通夜の席で、志賀泰三は衝撃的なことを告げられる。なんと彼の妻・静子は生前の滋との密通を続けていたというのである。ショックを隠しきれずに泥酔した泰三が、村松家の長男・徹の運転する船で帰宅すると、当の静子は体調不良で早くに床に入ったという。彼女と話すのはとりあえず後回しと、泰三や客人たちも床に入る。

翌朝、静子が自身の寝床で死体となって発見される。昨日の話のこともあり、泰三に疑いが掛かる。死体は腰巻きを身に着けただけの半裸姿で、寝間着は所定の場所、寝具の下に畳まれたままだった。そしてなぜか、死体のそばには滋の義眼が落ちていた。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



犯行の状況をイメージすると、ブラックでもあり、なかなか面白いが、メイントリックの基本的な部分はシンプルな死体移動。移動部分の最後では、犯人は結構な困難を抱えそうにも思えるが、当時の田舎の深夜なんて皆寝入ってしまっていて、さほどでもなないのだろうか。

気になるのは泰三帰宅時の展開。状況からすると、泰三はすぐに静子に面会する可能性も低くはないように思える。もしそうなったら当然部屋は空っぽとなっているわけで、犯行計画はまったく崩れてしまうこともあり得る。

死体のそばに落ちていた義眼や、先妻を殺した友人などは単なる飾り程度な扱い。もしこれが長編だったら、もうちょい本筋に絡んでいたんだろう。



(1) 泰三、村松家の通夜に出席。死んだ滋は生前に静子と姦通しており、彼女の腹の子は滋のタネによるものである可能性を、大勢の客の前で告げられる。泰三、泥酔。徹が運転する船で小島の自宅へと帰る。耕助と銀造も同乗。町との行き来は陸伝いでも可能だがかなりの遠回り。
(2) 使用人の秋によると、静子は体調不良のため早くから休んでいるという。徹の勧めもあり、泰三は静子との面会は先延ばしにする。
(3) 翌朝、泰三の悲鳴。静子、寝室で死んでいる。扼殺。腰巻一つの裸体。寝間着は所定の場所である寝具の下に、畳まれて置かれている。死体のそばに滋の義眼が落ちている。大量の出血などを伴ったと見える割には腰巻きや周囲の汚れが少ない。
(4) 徹、とりあえず帰宅するために泰三宅の自転車を借りようとするが、ハンドルが曲がりペダルが一つ取れているなど、自転車が壊れている。仕方なく徒歩で帰る。
(5) 町へ出るつもりだった耕助は、船に乗せてもらう。運転手の春雄から、なぜ昨夜は彼が船を運転しなかったのか訊き出す。彼によると、昨夜は徹が自転車で泰三を迎えに来て、自転車と泰三を船に乗せ、自分で運転して行った。
(6) 耕助、村松家に到着。田鶴子は左手を負傷している。滋の死体から義眼がなくなったのは、通夜の最中。
(7) 船の中に静子の腕輪が落ちている。静子が最後にこの船に乗ったのは1ヶ月ほど前のはず。もしそのときの落し物だとしたら、春雄はほぼ毎日船内を掃除しているため、気づかぬはずがない。(静子が腕輪をこの前日にも着けていたことが後に確認される) 春雄は今朝は船内が掃除されていたため、ざっと見ただけだった。昨夜、泥酔した泰三が吐瀉したので掃除しておいたと、徹が言っていたという。しかし耕助はそんな事実はなかったことを知っている。腰掛けの下の収納箱はまだ乾いていない。蓋の裏に長い毛髪が付いている。
(8) 静子は寝室に下がった後に何処かへ外出していた。黒のスーツと靴が一足紛失している。
金田一耕助シリーズの短編。義眼が失われていた死体。[???]

金田一耕助:探偵
御子柴由紀子:美貌の娘
啓吉:由紀子の弟
北神浩一郎:由紀の婚約者
西神康雄:由紀を巡って浩一郎と争い、敗れる
北神九十郎:引揚者, 敗戦ボケ
勘十:水車小屋での米搗きの順番を浩一郎と交換
志賀恭平:村長
秋子:恭平の後妻
儀作:由紀子が水車小屋のほうへむかうのを目撃した老人
磯川:警部
清水:巡査
木村:刑事



村の有力家である北神家と西神家とは、もはやその原因もよくわからぬようになった今でも、何事につけ対立していた。だから北神家の浩一郎が御子柴由紀子を狙っているとなると、自然、西神家も自分の家の康雄を応援する。しかし軍配が浩一郎に上がると、元々御子柴家との縁が深く、有利な立場であった西神家の悔しさは、なおのこと一層激しいのだった。これは一騒動は避けられないという折、由紀子が失踪した。

後の調べで、由紀子は偽手紙で水車小屋に呼び出されていたことがわかった。しかしその水車小屋には、その呼び出しに名前を使われた、当の浩一郎が米搗きをしており、由紀子も誰も来なかったという。

手紙が発見された際の状況には、何者かによる作為が窺えた。これは浩一郎に罪を負わそうとしているようにも思われるが…。

由紀子の死体は、九十郎という敗戦ボケしたような引揚者の小屋で発見された。湖で見つけて持ち帰り、寂しさを紛らわしていたのだという。由紀子の左目が義眼であることを知る者は、そのときまではほとんどいなかっただろう。ともかくその義眼は九十郎が死体を見つけたときには既になかったという。

ところで由紀子がいなくなった晩、村長の妻・秋子もいなくなっており、後にしたいとなって発見された。現場には義眼が埋められていたような跡が残っていた。この2件の事件の間に、繋がりがはっきりと見えたのである。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



小さな罪を自白して、より大きな罪は隠すという話。金田一耕助は、犯人が一旦手放した義眼を取り戻したことを指して、「栓を必要とするものは、その栓のしっくり合う容器の持ち主だ」という西洋の格言を引用して、その人物を追い詰める。僕はそんな格言知らんけどw

犯人は康雄に一服盛ったり、村長の服に密告状を忍び込ませたりと、なかなか忙しい。しかもそのインヴィジブル・マンっぷりも大したものだw



(1) 10月3日、由紀子、隣村の祭りへ出掛け、その最中に失踪する。気分が優れぬ様子だった。
(2) 同日、村長・志賀恭平の妻・秋子も姿を消している。隣村へと出掛けていた恭平、秋子の姦通を仄めかす文書に気づき帰宅したときには、彼女は既にいなくなっていた。
(3) 10月4日、久しぶりの雨。
(4) 10月5日、由紀子の自宅の庭にて、浩一郎の名で由紀子を3日の晩に水車小屋に呼び出す手紙が発見される。手紙は偽筆。庭に落ちていたのに雨に晒された様子がない。水車小屋で由紀子の紙入れが発見されるが、4日にそこを掃除した際にはそれはなかった。
(5) 九十郎が自宅にて由紀子の死体を隠匿。4日の晩に湖から引き揚げ、弄んでいた。由紀子の左目は義眼で、それが紛失している。
(6) 浩一郎、3日の晩は水車小屋にいたと当初は言い張るが、実は村長宅へ行き、秋子と姦通しており、その間は小屋を空けていたと白状する。
(7) 偽手紙を書いたのは康雄。浩一郎の婚約に嫉妬する秋子の計略に乗せられたという。それは腹いせに由紀子を康雄に襲わせようというもの。手紙は秋子に渡し、彼女はそれを別の誰かに届けせた。康雄は決行の日、祭りの最中に睡眠薬を盛られ、水車小屋へ向かう途上で強い睡魔に襲われ眠ってしまう。目覚めたときには道を外れた場所に移動させられていた。
(8) 赤土掘りの横穴にて秋子の死体が発見される。濡れた枯れ草などで隠されていた。その近くの土には、一旦埋めておいた義眼を掘り出したような跡が残っている。
(9) その義眼を必要とする人物は――
(10) 由紀子の死体を湖に沈めたのは浩一郎。村長宅から戻ってきてそれが残されていることに気づき、慌てて行なった。