ソーンダイク博士シリーズの短編集。科学捜査探偵。倒叙物の先駆け。[???]

ジョン・イヴリン・ソーンダイク:法医学者, 探偵
クリストファ・ジャービス:医師
ナサニエル・ポルトン:時計師, ソーンダイクの研究所の助手
アンスティ:ソーンダイクたちの友人
ミラー警視:ソーンダイクの馴染みの警官
バジャー警部:同

「計画殺人事件」:警察犬を使った捜査を誤魔化す。
「歌う白骨」:パイプを巡る推理。
「おちぶれた紳士のロマンス」:上着の埃の分析。
「前科者」:指紋偽装。
「青いスパンコール」:意外な凶器。
「モアブ語の暗号」:暗号ではない暗号文。
「アルミニウムの短剣」:脱出困難な部屋に刺殺体。
「砂丘の秘密」:二人の人物のものが混じった遺留品。

※以下の反転表示部はネタバレ注意。




倒叙ミステリの先駆けとなった短篇集「歌う白骨」の作品を中心として、再編集したもの。ソーンダイク譚は、当時としては比較的フェアプレイ傾向が強い。探偵・ソーンダイクの捜査手法はシャーロック・ホームズを彷彿させる部分もあるが、先人と違って彼にはエキセントリックな要素がほとんど見られない。




「計画殺人事件」
ルーファス・ペンバリー:フランシス・ドップズ, 脱獄囚
プラット:ポートランド刑務所の元看守
ジャック・エリス:警察署の臨時雇い, かつてポートランド刑務所に勤務, プラットとは不仲
オゴーマン将軍:警察犬使いの名人



脱獄囚であることとを隠して財を成し、今や静かな生活を営んでいたペンバリーの前に元看守プラットが現れ、彼を恐喝する。表面上はその要求を受け入れたものの、ペンバリーは恐喝者にカネを払うことはまったくの無駄と心得ていたので、当然ながらプラットを殺そうと決心した。そのためにナイフを別の店で1本ずつ、太いステッキ、財布、鉄火箸、麝香エッセンス、鼠の死体などを買い込んだ。そして彼は鼠の血と麝香エッセンスをナイフに塗りたくった。麝香エッセンスを染み込ませた脱脂綿を、加工したステッキの先に取り付けた。ナイフは鉄火箸を用いて慎重に扱った。

プラットとの面会は、人目を避けられるような並木道が選ばれた。ペンバリーはその面会の前に下準備を行なった。近くの木に血の付いたナイフと鉄火箸を隠し、そこからステッキの先の麝香エッセンスを地面に付けながら警察署の前を通り、もう少し進むとステッキの先を財布の中に突っ込み、そしてそれを道に落とした。すると、いつもこの時間帯にやって来るエリスがそれを拾って、ポケットに押し込んだ。ペンバリーはプラットとの面会に臨み、もう一本のナイフで彼を何度も刺し、格闘の末、殺害した。木に隠しておいたほうのナイフを鉄火箸で扱って、現場に残した。オゴーマン将軍は警察犬を使い、ナイフに残された臭いを追わせた。エリスが逮捕された。



ソーンダイクは、警察犬は犯罪捜査にはあまり役に立たないという持論を展開する。なぜなら、警察犬の能力とは、相手が何者なのかわかっていればこそのものであり、何者かわからぬ相手を探すものではないからと。警察犬が示すのは、二つの臭いが同一ということだけであって、それについての説明はできないからというのである。

ソーンダイクは足跡を調べ、鉄火箸などを発見し、指紋を取り、ナイフの臭いを嗅ぎ取ると、即座に計略を見破った。エリスは解放されたが、既にペンバリーは逃亡した後だった。しかしソーンダイクは、恐喝され犯行に及んだペンバリーにやや同情的で、そして彼が警察犬への信仰を打破してくれたことには、密かな喜びすら覚えていた。




「歌う白骨」
トム・ジェフリーズ:ジェフリー・ローク, 殺人犯
ジェームズ・ブラウン:燈台守:エイモス・トッド, トムの共犯者, 裏切り者



ブラウンは燈台守の仕事を得たが、その初日、たまたま彼を燈台へ送り届ける人手がなかった。ブラウンは漁船を借りて、燈台へと向かった。漁船は、ブラウンと交代する燈台守が乗って戻ってくればいいのだ。ところがそのとき燈台では、二名の燈台守の一方が負傷し、通り掛かった船に乗せられて去ってしまっていた。ブラウンは燈台に到着したが、これでは船を戻す者がいない。しかしそんなことよりももっと重要なことは、そこにいたのは、かつてブラウンが裏切った相手だったのである。

ジェフリーズは驚いた。交代要員としてやって来た人物こそ、彼の犯罪の共犯者であり、その後に自分の減刑と引き換えに彼を裏切った相手だったからだ。まるで隠れ潜むように彼がこの燈台に閉じ籠っている理由の一つは、このブラウンを怖れていたためなのである。

しかしジェフリーズの不安に反して、ブラウンは彼を警察に売り渡したりする気はないらしい。あまつさえ、もうそれは水に流して、昔のように仲良くしようとまで言ってくる。ブラウンはパイプに嗅ぎ煙草を吸い始めたが、パイプが詰まっているらしい。ジェフリーズがつい親切心を起こして、固形煙草を詰めたばかりの自らのパイプをブラウンに渡した。ブラウンは素直に礼を行ってそれを受け取った。

そんなことをしているうちに、ブラウンは自分と交代する者の姿がないことに気づき、ジェフリーズにそれを問い、ここには彼ら二人だけしかいないことを知ったのだ。その途端にブラウンは動揺し、その後の成り行きから、ブラウンのナイフがジェフリーズを負傷させ、ジェフリーズはブラウンを突き落とすことになってしまった。ブラウンは燈台の鉄骨に頭をぶつけ、そして海へと沈んでいった。

ブラウンは燈台に到着する前に船とともに海へと沈んだと、ジェフリーズは工作した。



発見されたブラウンの死体のポケットの中には、パイプや、もぐらの皮製の煙草入れ、ばらのマッチなどが入っていた。煙草入れには嗅ぎ煙草が入っているが、パイプには固形煙草が詰められている。港からの目撃情報によると、船の上でブラウンは嗅ぎ煙草をパイプに詰めていた。パイプに残る噛まれた跡などからも、これがブラウンの物ではないと、ソーンダイクは見破る。そして燈台へ行き、パイプ掛けに掛けられた物の中に、ブラウンのものと推測される一本を見つけた。ブラウンの頭部の傷も、彼がこの燈台に到着していたことを推測させるものだった。ブラウンの死体が所持していたパイプの本来の持ち主を指摘するのは、ソーンダイクにとってはさほど難しいことではなかった。



(「・ω・)「にゃおー




「おちぶれた紳士のロマンス」
オーガスタス・ベーリイ:元将校, 除隊後は悪事で生計を立てている
ジェヒュー・B・チェーター夫人:米国人の資産家



かつては輝く世界に身を置いたこともあるベーリイだが、もはや彼はすっかり落ちぶれ果て、コソ泥に成り下がっていた。そんな彼が、潜り込んだ夜会にて、かつて知った顔を見つけてしまったことは、懐かしさとともに今の己の惨めさを再確認させるものだった。“仕事”のためにも顔を合わせるのは避けたかったが、結局はお互いに――ベーリイは変名を――名乗り合うことになってしまった――彼女は彼の名前こそ覚えていなかったが、顔ははっきり覚えていて、その眼差しには熱いものさえ宿っていた――。

ベーリイが一人木陰のベンチに座り、さてどうしたものかと思案していると、図らずも彼女が近くにやって来た。彼には気づいていない。彼女は歯が痛むらしく、クロロフォルムと綿を用いて治療を行なっていた。彼女が身に着けた宝石の輝きが、彼を発作的な行動に導いた。クロロフォルムの瓶と綿を手にすると、彼女に襲い掛かった。彼女が動かなくなると、そこで彼は我に返った。――殺してしまった。優しく友情の手を差し伸べてくれた彼女を―― もう彼は宝石のことなどどうでも良かった。預けておいたコートを急いで受け取ると、すぐに夜会を後にした。まさか自分のコートが他人のものと入れ替わっていたとは、彼は思いもしなかった。



コートから発見された埃を分析したソーンダイクは、難なく持ち主の住む地域を絞り込む。ポケットには持ち主の家の鍵が入っており、地域さえ絞り込んだ後は手当たり次第で、目的の家を探し当てた。

ところで実はチェーター夫人は失神しただけで、死んではいなかった。ソーンダイクたちは、復讐心に燃える夫人も伴い、犯人を待ち構えた。この家の中の様子を見るだけでも彼の窮状は窺え、一瞬、彼女は相手への同情心を示したが、己への仕打ちを思い出すとすぐに怒りを思い起こした。しかし戻って来た男の顔を見ると、彼女は彼を犯人ではないと言い張り、告訴を取り下げた。ベーリイは本名を彼女に告げ、彼女はすぐに手紙を送ると答えた。二人とも涙を浮かべていた。「私を感傷的な馬鹿だと思うでしょう?」と問う彼女に、ソーンダイクはいつになく柔らかい表情を浮かべていた。




「前科者」
フランク・ベルフィールド:前科者
コードウェル:殺人事件の被害者, 盗品売買のほかに警察への密告も行なっていた
ジョゼフ・ウッドソープ:動物園の飼育係



かつてソーンダイクによって捕えられたベルフィールドがソーンダイクのもとを訪れた。今は真っ当な暮しを営んでいる彼だが、自分がキャンバーウェルの殺人事件の容疑者として指名手配されてると知り、頼れるのはソーンダイクしかいないと、慌ててやって来たのだ。ソーンダイクは馴染みのミラー警視からベルフィールドの指名手配の理由を訊き出した。現場の窓に、五指の指紋がべったりと並んで残っていたのだという。

その指紋ははっきり残っていた。しかしソーンダイクから見れば、これはあまりにもはっきりし過ぎている。さらに親指の指紋が真正面を向いているとなれば、これはもう彼の指紋を転写した偽造指紋である疑いが強い。そして残された指紋が現在の彼のものとは違う――彼は1年ほど前に指を負傷し、その傷跡が残っている――ことを証明すると、ミラー警視も納得した。



ソーンダイクはキャンバーウェルの殺人事件の解決に乗り出す。偽装指紋と警察の指紋台帳とを比較すると、親指を除く四指の位置関係はほぼ同一で、前者は後者を元に作られたものだろう。指紋台帳に残された採取者の名前は「ジョゼフ・ウッドソープ」とある。事件現場にはベルフィールドの名が入ったハンカチもあった。血痕も残っている。それはラクダの血だった。

動物園を訪れてみれば、果たしてウッドソープなる腕の良い写真家でもある飼育係がいるという。ベルフィールドにハンカチについての話を訊けば、彼は動物園でラクダが怪我した際にウッドソープにハンカチを貸し、それを特に気をつけて確認もせずに返してもらい、そのまま自宅の洗濯籠に放り込んだという。最初に訪れた動物園で目的の人物を見つけられたことは幸運だったが、先にベルフィールドからハンカチについて訊き出していれば、ロンドンじゅうの動物園を回ろうなどと考えなくても良かったのである。




「青いスパンコール」
エドワード・ストップフォード:弁護士
ハロルド・ストップフォード:画家, エドワードの弟
エディス・グラント:ハロルドの元恋人



エディス・グラントが殺害された。その頭部には鋭角な器具で突かれたらしき深い穴。金目の物がそのまま残されていたことから、物盗り目的ではなさそうである。その現場である一等車室にはほかに誰もおらず、誰にも目撃されずに出入りすることは難しい。彼女と一緒にいた最後の人物と思われる、ハロルドが容疑者となる。彼はその少し前に彼女と激しく言い争う姿が目撃されている上に、凶器にぴったりの石突きの付いた傘を所持していた。



ソーンダイクは一等車室を調べ、列車の近くにある空っぽの家畜車を眺めた後、近くの肉屋の家畜小屋へ行き、並んだ牛の角を順番にステッキで軽く叩き始めた。一頭だけ明らかに反応が違っていた。その一頭の角を詳しく調べたソーンダイクは、エディスが窓から顔を出していたときに牛の角で突かれ、その事故で命を落としたと断じた。



「モアブ語の暗号」
アドルフ・シェーンベルク:事故死した男が所持していた手紙の相手
バートン:ハルケット, 犯罪一味の一員
ポッペルバウム教授:古文書学者



正体不明の男が事故死した。その男の持っていた封筒の宛先には「アドルフ・シェーンベルク」とある。そこでシェーンベルクなる人物を訪ねると、彼は策を弄して逃亡した。これは明らかに後ろ暗い人物だと、封筒を開けてみれば、そこには見慣れぬ文字が並ぶ紙片が入っていた。それはクリーム色のごく普通のノート用紙で、そこにモアブ文字が製図家が使うような耐水性インクによって書かれている。専門家であるポッペルバウム教授によって、「呪い、町、虚偽、盗賊、獲物…」などという単語が見出されたが、まったく意味がわからない。

その紙片をソーンダイクが所持していると誤解した怪しげな一団が、彼を誘い出し、部屋を探索するが、その策はあっさり見抜かれ、あえなく御用となった。彼らは大掛かりな宝石泥棒への関与が疑われる連中だった。



ミラー警視から正式な調査依頼を受けたソーンダイクは、それならばと一枚の紙片を彼に渡した。そこには盗まれた宝石の隠し場所が書かれていた。こうしてモアブ文字の暗号については片付いた。

ところが悩み続ける者がまだ一人。未だにどのように暗号を解読したのかわからぬポッペルバウム教授である。ついに自力での解決を諦め、ソーンダイクのもとを訪れたのだが、その説明を聞くと、彼は腹立たしげに帰って行った。

「まず私の興味を引いたのはインクでした。なぜ耐水性のインクを使ったのか?」 ソーンダイクが問題の紙片を水に浸すと、そこには見慣れた普通のアルファベットが透かしのように浮かび上がっていた。




「アルミニウムの短剣」
アルフレッド・ハートリッジ:殺人の被害者
レオナード・ウルフ:アルフレッドの親友, 遺産相続人
ヘスター・グリーン:アルフレッドの関係者



アルフレッド・ハートリッジが殺害された。背中にはアルミニウム製の細身の短剣が捻るように深く刺さっており、これが彼に致命傷を負わせた。その部屋は三階にあり、開いた窓の外に足場はなく、出入口の扉は施錠されている上に掛け金まで掛かっていた。犯人がどのようにこの部屋を抜け出したのかが謎だった。



ソーンダイクは短剣の大きさを正確に測定し、そっくりな複製品を作り上げた。そしてそれをごくありふれた小銃の先に差し込むと、いとも容易く標的を撃ち抜いた。殺害現場付近には、短剣を内部で噛み合わせるためのワッシャーが落ちていた。



名前のある登場人物が短編としては多めで、人間関係もちょっと複雑。少々変わった遺言、犯人に仕立て上げられるヒロイン、イタリアのマフィアを思わせる脅迫者、マンションの前で奇妙な騒ぎを連日引き起こす連中など、盛り沢山な内容になっているが、それらは単なる飾りみたいなもので、結局のところ、本作は短剣のトリックの一点に尽きる。

どうもよくわからないことが多い。脅迫がまったくの偽装だとしたら、なぜアルフレッドはそれにあっさりと屈したのか? 心当たりがあったのか? 馬鹿騒ぎに関わった女はヘスターなのか? ウルフとヘスターが友好的な仲間関係なら、なぜ遺言でウルフに対してヘスターと結婚してくれと頼む必要があるのか?




「砂丘の秘密」
P・ロスコフ:クラブの臨時会員
ケープス:画家
ジョセフ・バートランド:画家



休暇を過ごした海辺で、ソーンダイクは奇妙なものを見つける。丘と丘の間の窪地に、海水浴客の物と思しき衣服類が置かれていて、しかもそれは長時間に及んでいる様子。この持ち主は海に入り、溺れてしまったのだろうか。



ソーンダイクは、衣類に残る砂の違いから、それは一人の人物のものではなく、二人の人物のものが混じっていると喝破する。一方は殺人者、もう一方はその被害者のものであった。被害者は衣類が置かれていた近くから掘り起こされた。



うーむ、何度読んでも内容がほとんど理解できない…。ソーンダイクが窪地の遺留品からその持ち主の特徴を推理する部分以外は、何がどうなったのやら…。

これは恐喝者に脅されたロスコフが、その相手を殺したという事件らしいが、いったいどのような経緯で成されたものなのかさっぱりわからない。

ロスコフが窪地で小柄な恐喝者を殺し、彼と自分の衣類を置いて海に入り、別の場所から上がり、シャツは恐喝者のものを身に着けて逃げた(シャツは窪地まで取りに戻ったのだろうか?)――つまりロスコフが自分の着衣を置いて去ったのは、自分が海に入り死んだと偽装したということでいいのだろうか。ならばなぜ恐喝者の所持品と特定されやすいナイフなどまで残していく? なぜ死体とともに埋めてしまわないのか? そもそも死体を埋めるということは、しばらくは殺人自体を隠蔽するつもりだろう。わざわざ自分が海で溺死したなどと偽装する必要があるのか? しかもロスコフは変名であり、作中でも姿を消したきりその正体すら判明しないような人物だ。死体と衣類を埋めて、ロスコフは自分の服を着たまま、さっさと立ち去るだけでいいと思うのだが。

『ツイードの上衣とズボン、(略)、パンツ、これらの品物にはインクで「P・ロスコフ」のマークがついていた』
『上衣、ズボン、ソックス、靴は、寸法から見て、小柄な、ややがっしりした男のものと考えた』
『小柄な男の服には、どこにもマークがついていないが』
これはどういうことなんだ? 遺されていた上衣とズボンにはマークが付いてるのか、付いてないのか、どっちなんだ? 指し示すものを作者が間違えたのか、あるいは誤訳?

ソーンダイクはどのようにして、ケープスが捜している人物はロスコフではなく、もう一方の人物と断定したのだろう。ふたりのうち、わかっているほうの特徴を挙げただけなのだろうか。

とにかく、何もかもさっぱりわかりませんっ!><