雪の密室の首なし死体。歪んだ館。自死したカリスマと、彼女が出演した幻の映画。暗い過去を引きずる男。(「・ω・)「にゃおー [?]

如月烏有(きさらぎうゆう):雑誌社の準社員, 和音島の同窓会の取材担当者
舞奈桐璃(まいなとうり):烏有のアシスタント, 出席日数不足の高校三年生女子

真宮和音(まみやかずね):女優, 故人
水鏡三摩地(みずかがみみまち):大富豪, 和音島の主人, 車椅子生活
結城孟(ゆうきはじめ):老舗呉服屋の次男, 副社長
小柳寛(こやなぎひろし):パトリク神父, 元医学部生
村沢孝久(むらさわたかひさ):貿易会社経営
村沢尚美(なおみ):孝久の妻
武藤紀之(むとうのりゆき):尚美の兄, 和音の肖像画の作者, 故人

真鍋道代(まなべみちよ):使用人
真鍋泰行(やすゆき):同, 道代の夫



21年前に「春と秋の奏鳴曲」という映画が公開された。と言っても、それはたった一軒の小さな映画館で一週間だけ上映されただけであり、またその著作権やマスターフィルムはそのプロデューサーである資産家・水鏡三摩地が握っていてソフト化もされていないため、実際にそれを観た者はほとんどいない。そしてその公開当時の数少ない批評では酷評されている。

なのにこれが一部マニアの間で幻の作品として噂が語り継がれるのは、本作を唯一の出演作とする主演女優・真宮和音に熱狂的に惹かれた数名の者が、彼女とともに“和音島”での1年間の共同生活を送ったためである。それほどまでに彼らを惹きつける真宮和音とは何者なのかという、部外者の興味が満たされることはなかった。彼女の本名や経歴は一切不明なままであった。彼女の死から20年を経た今でも。


如月烏有のそれまでの人生において、真宮和音という名は何の意味も持っていなかった。雑誌社の一介の準社員である彼が和音島の20年ぶりの同窓会の場に立ち会うのは、単に編集長から取材を指示されたからである。その話を聞き付けた舞奈桐璃とともに、烏有は和音島へと上陸した。


“和音館”に滞在を始めてから3日目の朝。季節は夏なのに外は一面の銀世界。どうやら深夜に2時間ほど異常気象による降雪があったらしい。中庭にも美しい新雪が積もっている。そしてその中央のテラスには首なし死体が置かれていた。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



おそらく作者はその頭の中にきちんと解決を得ているのだろう。しかし読者にはそれははっきりとは提示されず、最後に探偵・メルカトル鮎の登場によって重大な示唆がされるのみである。これはたとえばエラリー・クイーンが最後の一行で真相を指し示すのみで、以降の解説を不要としているようなものとはまったく異なり、ただ一つの正解ではなく、多くを読者の解釈に委ねている。(ぐぐっても完全に納得できる回答は得られなかった) 何はともあれ文庫版裏表紙にある「メルカトル鮎の一言がすべてを解決する」は“偽”だろう

本作は雪の密室トリックや煙草の焼け焦げ跡の手掛かりなど、ミステリとしての体裁は整えつつも、その主眼は別のところに置いているように思える。であるならば、これは衒学的・神学的・哲学的…と何を載せても構わないが、ミステリではなくミステリの体裁を用いた別物とも捉えられる。もしこれをミステリとして評価するなら、個人的にはあまり高く見ることはできない。こういうのって作者の手抜きに思えるんだよね。仮に作者が作った解決に実は矛盾や穴があろうとも、多くを曖昧にして読者に解釈を委ねることで、それを読者が勝手に補完して作者のミスがバレずに済むから楽だし。(シャーロキアンたちがコナン・ドイルが作った設定の齟齬を自主的に埋めてくれるようなものだw)

“わかりやすい”謎についてとなると、前述の雪の密室、周囲を雪に囲まれた首なし死体だが、これは自然のいたずら・神の意志と言うべきもので、読者が作中でこれと断定できるようなものでもなく、満足度は低い。映画と烏有・桐璃との重ね合わせはあまりにも不自然で、神を持ち出さねばとても成立するものではない。だからこそこのような形式でしか成立しない作品とも言える。

パトリク神父の名が終盤まで伏せられた理由や、鈴の意味もいまいちわからないなぁ…。



[Ⅰ 8月5日 0] まだ若い青年の葬儀。
[Ⅰ 8月5日 1] 和音島での共同生活から既に20年。島での同窓会へと向かう船上。
[Ⅰ 8月5日 2] 和音館に到着。至るところが歪み、錯視を起こさせるような奇妙な家。桐璃の希望で彼女は海側、烏有は山側へと、それぞれの部屋を交換する。
[Ⅰ 8月5日 3] 烏有、桐璃、水鏡との初対面。
[Ⅰ 8月5日 4] 夕食会。黒のフォーマルスーツを着て化粧した桐璃を見て烏有以外の面々が凍りつく。水鏡が「和音」と呟く。
[Ⅰ 8月5日 5] 烏有、自室で先ほどの夕食会の録音テープを再生。きっかけを失って無断で録音したもの。桐璃も一緒に聞く。様子がちょっと奇妙。
[Ⅱ 8月6日 0] 烏有と桐璃との出会いの回想。烏有、川縁に立つ桐璃を毎日見掛けた。ある日、黒のフォーマルスーツを着た彼女と初めて会話した。
[Ⅱ 8月6日 1] 烏有、和音の肖像画を見る。前夜の夕食会の際の桐璃に酷似。和音はよく絵を描いていた。彼女自身をモデルにした4枚のキュビズム画が館内に飾られている。パトリクは和音の美しさを褒め称える。
[Ⅱ 8月6日 2] 20年前、和音はテラスから海中に落ちて消えた。死体は上がらなかった。彼女の墓碑は質素で、あまり手入れもされていない。その近くには武藤の墓。烏有、金メッキの小さな鈴を拾う。途端に結城はそれをもぎ取り、海に向かって投げ捨てる。鈴は海には届かずに昼顔の群れの中に消える。
[Ⅱ 8月6日 3] 烏有、中庭に出る。定期的に交換されているらしき美しい真っ白な砂に覆われている。テラスから館を眺める。窓の中に人影を見る。館に入り、その場所へ向かうが、そこには和音の肖像画が掛かった壁。画をずらすと隠し扉。その奥にはずっと施錠されたままだという和音の部屋。
[Ⅱ 8月6日 4] 孝久は和音の歌声を賛美する。その様子を眺める尚美はどこか冷めている。パトリクはかつて和音の肖像画を描いたが、和音の本質を描いてないとして、皆で話し合った末にそれを破棄した。
[Ⅱ 8月6日 5] 和音の肖像画がその左眼を中心に×印に切り裂かれている。
[Ⅱ 8月6日 6] 村沢夫妻の言い争い。未だに和音を想う夫に妻が我慢できない様子。桐璃、烏有に真新しい金メッキの小さな鈴を贈る。
[Ⅲ 8月7日 0] 烏有、夢を見る。雪が降っている。雪が赤く染まる。それが身体にまとわりつく。
[Ⅲ 8月7日 1] 島には雪が降り積もっている。テラスの中央に首なし死体。そのそばに孝久が立ちすくんでいる。死体の右手に引き攣り。水鏡のものと推定。烏有、真鍋夫妻の離れへと向かう。玄関前には足跡のない新雪が積もっている。彼らの姿はない。船もない。電話は通じない。
[Ⅲ 8月7日 2] 死体を地下室に安置。パトリク、水鏡は4時半前後に別の場所で殺され、その後にテラスにその死体は運ばれ、鉈で首を切断されたと推定。雪は1時から3時に掛けて降った。村沢、死体の周りに足跡はなかったと証言。
[Ⅲ 8月7日 3] 桐璃、料理中。事件を推理する。
[Ⅲ 8月7日 4] 孝久、烏有に犯人調べの協力を依頼する。
[Ⅲ 8月7日 5] 水鏡の書斎から二挺の拳銃が紛失している。真鍋夫妻の離れの中は綺麗に片付けられている様子。20年前の様々な新聞のスクラップ記事が保管されている。どれも同時期のもので病院長夫婦による幼児売買を扱っている。犯人夫婦の顔写真は真鍋夫妻に似ている。和音の墓が掘り返されている。金メッキの小さな鈴が落ちていた。
[Ⅲ 8月7日 6] 武藤の部屋の調査。彼の死体は発見されておらず、その死の瞬間を誰も目撃していない。書架には様々な学問の本などが並んでいる。英語やドイツ語の原書もある。
[Ⅲ 8月7日 7] キュビズムについて。
[Ⅲ 8月7日 8] 烏有、かすかなピアノの音を聞く。
[Ⅳ 8月8日 0] 烏有の回想。桐璃の紹介で雑誌社のアルバイトを始める。
[Ⅳ 8月8日 1] 烏有、目覚める。桐璃から結城と孝久の口論を知り、様子を見に部屋を出る。
[Ⅳ 8月8日 2] 和音の“プライヴェート”な部屋。結城の後悔。烏有、結城からキュビズムについての本を手渡される。
[Ⅳ 8月8日 3] 烏有、パトリクと対話。
[Ⅳ 8月8日 4] 烏有、渡された本を読む。
[Ⅳ 8月8日 5] 烏有、桐璃、武藤の部屋にて彼の脚本“黙示録”を捜索するが発見できず。
[Ⅳ 8月8日 6] 結城や孝久は自分たちが和音を殺したと漏らしている。
[Ⅳ 8月8日 7] 桐璃、パトリクが死体の首を切断した正体不明の道具を「鉈」と発言したことを烏有に指摘。「ジキル博士とハイド氏」について問答。
[Ⅴ 8月9日 0] 和音島の風景。確か、殺された者は大富豪の水鏡三摩地。
[Ⅴ 8月9日 1] 烏有、発熱。結城、姿を消す。
[Ⅴ 8月9日 2] 強い地震。停電。主電源がオフになっていた。
[Ⅴ 8月9日 3] 桐璃、停電について孝久のトリックを疑う。
[Ⅴ 8月9日 4] 夜の展望台にて。パトリク、キュビズムを用いて烏有に語る。和音に神を求めた。
[Ⅴ 8月9日 5] 水鏡の死体、消失。
[Ⅴ 8月9日 6] 孝久、烏有を有名な探偵と誤解してる様子。烏有、それに乗る。
[Ⅴ 8月9日 7] 桐璃、烏有に再び二重人格の話を持ち出す。
[Ⅵ 8月10日 0] 烏有の目の前を黒猫が歩いている。黒猫は呼び声を上げている。烏有、一歩を踏み出す。
[Ⅵ 8月10日 1] 結城の死体が浜に打ち上がる。右手に金メッキの小さな鈴が握られている。和音の墓が再び埋め戻されている。烏有、桐璃に貰った鈴を向日葵の群れの中に捨てる。
[Ⅵ 8月10日 2] 烏有、パトリクの告白を聞く。絶対化に失敗したことに気づき、和音を殺害した。先日の「降雪と密室」に和音の復活の奇蹟を見出している。尚美、前々夜に和音が結城の部屋から出るのを見たという。そのとき烏有は桐璃の部屋を見張っていたのだから、彼女が結城の部屋に行けたはずはない。烏有、孝久から和音島での一年の共同生活について訊き出す。武藤の持ち掛けた話の代償に、水鏡は性欲の捌け口として尚美を求めた。和音が死んだとき、水鏡は会の解散を決めた。武藤は水鏡の説得に失敗し、彼を殺害した。武藤は水鏡に成り済まし、島と館を護る計画を孝久に告げる。孝久は結城とパトリクの同意を取り付ける対価として尚美を得た。
[Ⅵ 8月10日 3] 烏有、和音の部屋のほうを見てそこから窓が失われ、ただの壁になっていることに気づく。桐璃は体調不良の様子で自室に籠る。烏有、映画「春と秋の奏鳴曲」を観る。主人公“ヌル”は自分を助けるために死んだ青年の人生の代わりを務めるかのように、彼の人生を必死にトレースし始める。しかしヌルは医大への受験に失敗したりするうちに、大きな挫折感を味わい、虚無的になってしまう。そんなときに“真宮和音”という少女に出会い、それをきっかけに雑誌社で働くようになり、ある島での同窓会の取材へと向かう。映画を見た烏有は混乱する。それはまったく彼自身を描いたものだった。そして劇中の“真宮和音”は彼が肖像画で見た真宮和音ではなく、村沢尚美だった。
[Ⅵ 8月10日 4] 桐璃の悲鳴。烏有、彼女の部屋に向かう。桐璃は左眼を抉り取られており、意識を失う。
[Ⅶ 8月11日] 桐璃は意識を失ったまま。高熱が続く。烏有に助けを求めるように譫言を呟いている。
[Ⅷ 8月12日 1] 尚美、姿を消す。桐璃、意識を取り戻す。
[Ⅷ 8月12日 2] 烏有、和音の部屋の扉を開く。目の前には青空と水平線が広がっており、足元に中庭のテラスが見える。扉は館の外壁に付いていた。和音の肖像画の引き裂かれた左眼の部分に桐璃の目が嵌め込まれている。
[Ⅷ 8月12日 3] 2発の銃声。
[Ⅷ 8月12日 4] 雪の密室の謎が解かれる。烏有、島を脱出。
[エピローグ [補遺]] メルカトル鮎、登場。

らふりぃの読書な雑記-97
“蒼鴉城”に暮らす一族が次々と殺される。死体はどれも首を切断されている。見立て殺人。二名の探偵。[??]

[今鏡家]
多野都(たのと):今鏡グループの創立者, 故人
多侍摩(たじま):多野都の息子, 故人
絹代(きぬよ):多侍摩の妻, 故人
椎月(しいつき)
伊都(いと):多侍摩の長男, 殺人の被害者
有馬(ありま):伊都の息子, 競走馬好き, 殺人の被害者
万里絵(まりえ):有馬の娘, 双児の一人, 外見と言動は純真無垢な少女
加奈絵(かなえ):同
御諸(みもろ):多侍摩の次男, 故人
夕顔(ゆうがお):御諸の養女, 眼鏡の知的・和風美人
静馬(しずま):御諸の息子, 木更津たちを敵視するような態度を示す
畝傍(うねび):多侍摩の三男, 横柄で癇が強そうな老人
菅彦(すがひこ):畝傍の息子, 父とはまったく正反対に温和で頼りない様子
霧絵(きりえ):菅彦の娘, 庶子, 体の弱そうな少女, 数ヶ月前に母を亡くし蒼鴉城に引き取られた

久保(くぼ)ひさ:家政婦
山部民生(やまべたみお):作男
木更津悠也(きさらづゆうや):探偵
香月実朝(こうづきさねとも):私
辻村(つじむら):警部
堀井(ほりい):刑事
中森(なかもり):刑事
由比籐(ゆいとう):警官
メルカトル鮎(あゆ):銘探偵

マリア・クッチャラ:霧絵の母, 故人
龍樹茂久(たつきしげひさ):椎月の駆け落ち相手
ミハイル・イヴァノヴィチ・メドヴェージェフ:今鏡家に滞在していた亡命ロシア人, 作曲家, 故人
下中西(しもなかにし):多侍摩の弁護士
中道(なかみち):教授, 神経医学の第一人者
清原(きよはら):木更津探偵社社員



巨大企業・今鏡グループはその主を失ったばかり。探偵・木更津悠也はその一族の一員・今鏡伊都から相談に来て欲しいとの手紙を受け取った。しかしその直後、今鏡家の邸宅、通称“蒼鴉城”には近づくなという警告文が何者かから送られてきたのだった。木更津は香月実朝を伴って蒼鴉城へと向かった。

ところが彼らが蒼鴉城に到着すると、そこには馴染みの辻村警部の姿があった。木更津に相談を依頼した当の相手、伊都が既に殺されていたのである。しかも死体には頭部がなかった。

死体の頭部はあっさり見つかった。だがその頭部は伊都のものではなく、その息子・有馬のものであった。そこで伊都がしばしば籠っていたという通称“地獄の門”という部屋に入ると、そこにはギロチン台。そして伊都の生首と有馬の首から下が置かれていた。二人の首は死んでから切り落とされたものではなく、生きているうちに刎ねられたことが後に判明した。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



かの有名な「黒死館殺人事件」をモチーフにしてるらしいが、そっちは僕はまだ未読。本棚のどっかに埋もれてるはずなんだけど…。

副題にあるとおり、本作はこの作者のデビュー作にしてシリーズ探偵・メルカトル鮎の最後の事件。そんなところからも窺えるように、微妙な意味合いを含んでしまうが、“凄い”作品であることは間違いないw まるで哲学を語るような大仰な台詞など、“大真面目に”本格ミステリのパロディを描いてるかと思えば、登場人物たちの命名や、時折唐突に挿入される特撮TVドラマの台詞などの明らかに小ネタ的なふざけた場面も散見される。

二転三転の解決編はもはやギャグと紙一重、あるいはそっち側に思いっきりはみ出しているかも知れないw 第9章での推理は驚天動地。そこで示される“真相”は不気味なものであるにも関わらず、「ごめんなさい。こんなとき、どんな顔をすればいいのかわからないの」としか言いようがないトンデモ推理w

見立ての推理には呆れつつも拍手喝采w そしてそれを覆す超展開には呆然。フェアかアンフェアかと問われれば後者に傾くが、推理自体には整合性が取れており、前章での“見立て”の穴を突く部分はファンならニヤリとするだろう。

喜んで騙される善良さと、心に余裕を持ち合わせ、かつ生真面目すぎない読者向けの本格推理物。



[第1章 発端] 蒼鴉城。頭部と足首の先がない死体。足の部分には甲冑の靴を履いている。右手薬指に喰い込んだ指輪から伊都と推定。帽子掛けに有馬の頭部。
[第2章 プロローグ] 巨大企業・今鏡グループの創立者・今鏡多野都と、彼亡き後にそれを継いだ多侍摩はいずれも傑人だった。多侍摩が死んで1ヶ月ほど後、事件の幕が開く。
[第3章 死と乙女] 立てられた円筒のような部屋、“地獄の門”。伊都の生首。その脇に有馬の首なし死体。その周辺に夏蜜柑の種が数個散らばっている。死体は施錠されていたこの部屋の鍵を左手に握っている。合鍵は今回使用されるまで使われた形跡がなかった。伊都の部屋のデスクの抽斗から彼の両足を発見。その上には有名な探偵・河原町祇園宛ての封筒などの書類が載っていた。伊都は木更津だけではなく、別の探偵にも依頼していたことになる。口は糊付けされ、開封された形跡なし。有馬の部屋。競走馬好きらしく、壁を埋め尽くすように馬の写真が飾られている。有馬は自身も馬主だった。レコード・プレーヤーにLPレコードが載せられたままになっている。表はドヴォルザークの“アメリカ”、裏はシューベルトの“死と乙女”の洋盤。伊都、有馬、ともに鋭利な刃物で首を刎ねられたことが死因。伊都の両足切断はその死後に行われたもの。地獄の門の床には伊都と有馬の血痕。伊都の部屋の絨毯からは有馬の大量の血液。有馬の死体の左腕に痙攣の跡。
[第4章 邂逅] 香月と今鏡家の娘たちとの邂逅。
[第5章 レクィエム] 2階の畝傍の自室のチェストの上に彼自身の生首。その顔に白い顔料が塗られている。1階の貯蔵庫に首なし死体。撲殺。首の切断は死後。
[第6章 ルクナノワ書] 静馬の自室に付した浴室に彼の首なし死体。全裸。頭部はその脇に転がっている。後頭部への強打による撲殺。第一発見者は夕顔。彼女の話によると、死んだ畝傍らしき人物が静馬の部屋に入るのを目撃し、気になりそこを早朝に訪れ、死体を発見した。教会の机の中にラテン語と英語で記された“ルクナノワ書”。伊都は生前にはこれに似た物と木の枝を手にし、黒装束で地獄の門にしばしば入っていたという。木更津、多侍摩生存犯人説を唱え、納棺所の棺を開く。棺には多侍摩の死体。首が切断されている。木更津、山に籠る。
[第7章 メルカトル登場] 多侍摩の死亡時期は公式発表どおり。しかし病死ではなく毒殺と判明。首の切断は死後三日後。頭部は長らく冷蔵庫に保存されていた様子。湖に浮かぶボートに万里絵・加奈絵の死体。両者ともに首が切断されている。服に手紙が入っている。湖を示す簡略図と「2じ」「ひみつ」という文字が記されている。その翌朝、ひさの部屋に彼女の首なし死体。頭部は“死と乙女”のLPレコードに載っている。右手薬指に喰い込んだ指輪にアルファベットが刻印されている。「SHIITSUKI」
[第8章 イマカガミ] メルカトルが自室で首なし死体となっている。頭部はテーブルの上。
[第9章 カタストロフィ] 教会のロシア十字架に菅彦の首なし死体が磔にされている。
[第10章 エピローグ] ワトソンあるいはヘイスティングスが語る真相。
金田一耕助シリーズ。団地に撒かれる怪文書。いなくなった男。タールの中に上半身を突っ込んだ死体。死体の主と思われる女は生前からその正体を隠していた。[??]

金田一耕助(きんだいちこうすけ):私立探偵
S・Y先生:詩人, 金田一の友人
宇津木慎策:毎朝新聞の記者。
等々力:警視庁警部。
新井:警視庁刑事。
山川:所轄S署警部補, 捜査主任
志村:同刑事
三浦:同刑事
江間:刑事。
保科:検死医

[日の出団地の住人]
宮本寅吉:15号館(1518号室)の住人, 映画館”の支配人
宮本加奈子:寅吉の妻
宮本タマキ:寅吉の娘, タンポポ洋裁店の針子
姫野三太:15号館の住人, 俳優のタマゴ
岡部泰蔵:17号館(1723号室)の住人, 高校教師
戸田京美:泰蔵の義理の姪, タンポポ洋裁店の針子
榎本民子:17号館の住人
榎本謙作:民子の息子, 俳優のタマゴ
根津伍市:18号館(1801号室)の住人, 5号区(17~20号館)の管理人, 謄写版刷り業, カラスの“ジョー”の飼い主
根津由紀子:伍市の娘
須藤順子:18号館(1821号室)の住人, バー“スリーX”の元ホステス・ハルミ, 旧姓・緒方, タンポポ洋裁店の針子, 金田一の知人
須藤達雄:順子の夫, 保険会社の外交員
水島浩三:18号館の住人, 画家

伊丹大輔:商店街の家主
片桐恒子:タンポポ洋裁店のマダム
河村松江:タンポポ洋裁店の通いのお手伝い
岡部梅子:泰蔵の亡妻
白井寿美子:泰蔵の婚約者, 中学教師
白井直也:寿美子の兄
立花隆治:石油会社社長, 泰蔵の後輩
辻村あき子:伍市の先妻
日疋恭助:Q製薬会社の重役, 順子のパトロン
一柳忠彦:政治家, 弁護士
一柳洋子:忠彦の妻, 故人
佐山豊:日の出団地の建設の現場監督
藤野:同屋上塗装の責任者



日の出団地では怪文書事件が発生していた。その中の一通は須藤順子が昔の男と通じているという内容で、それを読んだ彼女の夫・達雄は家を出てしまった。新聞雑誌の切り抜きで作られ、「Ladies and Gentlemen」から始まる怪文書の内容は、残念ながら事実であった。

ともかく夫に帰って来て欲しいので、順子はたまたま会った古い知人の金田一耕助に相談した。ちょうどそのとき、団地で死体が発見された。

死体はその上半身をタールの中に沈めており、それが誰なのか判断することは困難だったが、服装などからタンポポ洋裁店のマダム・片桐恒子であろうと推定された。

恒子の部屋を調べた金田一はある雑誌に目を留めた。それを手に取りページを開くと、そこにはまさにあの「Ladies and Gentlemen」の文字があった。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



内容的にはいつものような陰惨な事件だと思うが、その舞台がいつものような田舎屋敷の血塗られた一族を扱ったものではないためか、やや軽く感じられる。プロローグ/インターバル/エピローグに登場する、ユーモラスなS・Y先生の存在もまた軽い印象を強めている。分量的にはかなり重いが。

でもその分量の割には満足感はないなぁ。複数の思惑が絡み合うパターンだが、いくらなんでも特異な状況が重なりすぎで、ただただゴチャゴチャしてるだけではないだろうか。金田一耕助にはやっぱり田舎屋敷が似合うと再確認できる作品かねw

金田一や捜査陣以外の人物が勝手にうろちょろ動き回る展開が鬱陶しい。それらは元々連載という形式で書かれたという事情があるのかも知れないが、読んでいて気になるところ。映像作品ならそれも良いのかなぁ。

最後の展開の唐突さや、解決編の説明不足も感じるなぁ。怪文書を作るのに、「Ladies and Gentlemen」を切り抜いて使った理由も省略していい部分じゃないと思う。



[プロローグ] 愛犬とともに散歩中のS・Y先生、双眼鏡で日の出団地を覗く男を目撃。
[第1章 Ladies and Gentlemen] 順子、団地内での怪文書事件とそれに伴った夫・達雄の家出について自宅で金田一に相談。怪文書は新聞雑誌の切り抜きで作られており、「Ladies and Gentlemen」で始まっている。その最中に外で死体が発見される。
[第2章 タールの底] 死体は団地の共同ダストシュートの下のゴミ箱に頭から突っ込んでいる。ダストシュートには屋上で工事のために使用されている釜の底に空けられた穴から漏れたタールが流れ込み、死体の上半身はタールに埋もれてしまっており、死体の主の特定が困難。服装などから恒子と推定される。釜の穴は自然に空いたものではない。
[第3章 孤独な管理人] 順子、怪文書について根津に相談。
[第4章 タンポポ洋裁店] 洋裁店内に血痕。英語の雑誌がある。その中の「Ladies and Gentlemen」という文字が怪文書にあったものと酷似。破り捨てられた紙片。残った文字に「白と黒と」と読み取れる。
[第5章 マダムX] 恒子の素性は怪しい。知人もおらず、写真を撮られるのも嫌がり、一枚もない。
[第6章 処女膜を調べろ] 「Ladies and Gentlemen」から始まる、別の怪文書。岡部と京美の男女の関係をほのめかす内容。
[第7章 AとB] 死体の血液型はA型。洋裁店内の血痕はB型。
[インターバル] 達雄の血液型はB型。
[第8章 渦] 岡部、寿美子にプロポーズ。
[第9章 どん栗ころころ] 「東西、東西」から始まる怪文書。「どん栗コロコロ」から始まる怪文書。
[第10章 逃亡] 水島、逃亡。
[第11章 池の底から] 池から「Ladies and Gentlemen」が切り抜かれた雑誌と達雄の死体を発見。
[第12章 暴露] 根津は麻薬中毒。
[第13章 死体運搬人] 根津、洋裁店にあった達雄と恒子の死体を運んだことを認める。恒子には性交の痕跡らしき様子があったが、達雄にはなかった。
[第14章 その後の経過] 伊丹は恒子に強引に肉体関係を結んだが、どうしても先に果ててしまっていた。
[第15章 カラス] タマキ、首を絞められた上、額を割られて殺害される。
[第16章 白と黒] 恒子は同性愛傾向があった。
[第17章 最後の一撃] 由紀子、殺人犯に襲撃される。
[エピローグ] 金田一、S・Y先生から、双眼鏡で団地を覗いていた人物について知る。