開運童子のブログ -93ページ目

雨のあとに虹 その83

「経営は良くないままなの?」

寿子が言うと

「努力はしているけど悪いね。」

純一は言った。

「俊之さんをうまく利用できないの?」

寿子が言うと

「こちらから縁を切っておいてそれは難しいよ。」

純一は言って珈琲を飲んだ。

「こうして喫茶店で珈琲を飲む余裕はあるからまだ良いわよ。」

寿子は言った。石井園からそれほど離れていたい小さな喫茶店である。

「金づるからお金を貰えるから成立っているけどね。」

純一は言った。

「これからも会いに来ていいよね?」

千晴が言うと

「僕は構わないよ。」

俊之は言った。

「また会いに来るよ。」

千晴は言った。

「時間があったらいつでも会いにおいでよ。」

俊之が言った。

「それじゃ!」

千晴が言った。

「いつでも気軽に連絡をしなさい。」

俊之が言った。

「携帯に電話するよ。」

千晴は言った。

「具体的にはすれば良いのですか?」

久美子は翔太の提案を聞いて言った。

「そこが難しくてまだ考えがまとまっていない状態です。」

翔太は言った。

「そこが肝心ですよ。」

久美子は言った。

「急ぐ必要もないので年明けくらいには決めますよ。」

翔太は言った。

「翔太さんも俊さんと同じで女心が解からないみたいですね。」

久美子が言うと

「言われてしまった。」

少し大げさに翔太が言うと

「女ってその気がないと男の人には優しくしないものですよ。」

といたずらっぽく久美子が言った。

 喫茶店を出た俊之は早めに帰宅をする事にした。手塚たちと町内の見回りをするのである。町内会長の手塚や隣に住む絹枝など8人程度のメンバーで町内を巡回するのだ。下着泥棒や小学生に暴行を加える事件などが年末は特に危険が多くなっている。町内の見回りは少しでも事件の抑止力になるようにと俊之が手塚に提案したのだった。俊之はここ数年不幸が続いたが年が明ければ心機一転で良い事もあるだろうと考えていた。これからは数年ぶりにやっと運気を上げられるような気配を感じていた俊之だった。千晴があんなに大人の考えを持つようになったとは俊之は驚いていた。それは嬉しくもあったのである。決して静江や純一を嫌いでなわけではないが価値観が違う人間と付合うのは大変な事である。静江や純一たち夫婦とは縁が切れたのにその子供である千晴は平気で自分に会いに来てくれている。人の縁とは不思議なものだった。

「この夕日を見るのもあとわずかで終わるのね。」

春香はロンドンの町並みを見て言った。

「もうすぐ日本に帰れるよ。」

夫の白仁大介が春香の横で言った。時計台の見上げた春香はそっと目をつむってみた。すると過去の様々な出来事が春香の脳裏を走るのだった。

「高村さんにいよいよ会えるわ。」

春香は言った。

「高村さんは春香がお世話になった人だね。」

大介は言った。

「お世話なんてものではないわ。」

春香はそっと呟いた。その言葉に俊之との歳月の長さをうかがわせた。

「3年ぶりの日本だね。」

大介は言った。

「早く帰りたいわね。」

春香は時計台を見上げた。

雨のあとに虹 その82

「お先に失礼します。」

久美子は言った。

「お疲れ様でした。」

小百合が言った。店を出て純子が入院する病院へ向かった。幸いに母体に影響は少なかった。すぐに退院できると医者も言っていた。純子を勇気づけて早く嫌な事を忘れさせてあげたいと久美子はそう思っていた。病院へはバスが便利だが駅周辺は渋滞していた。少し歩いてふたつ先の停留所からバスに乗った方が早いかもしれない。久美子は細い道を抜けて近道をする事にした。久美子はモデルというほどの派手さはないが美人系でスタイルも良い。遠くからでもすぐに見分けがついた。久美子が大通りを曲がって細い路地にひとりになった時である。後ろから足音が近づいて来たのだ。その足音は久美子を追い越すようなことはしなかった。常に一定の距離を置いてついて来た。久美子は昼間から嫌な予感がしたが歩く速度を変えなかった。やがて大通りが先に見えてきた。その時である。その足音が速度を上げて久美子に近づいて来た。久美子のそばに近づいてバッグをひったくろうとした瞬間であった。

「危ない。」

翔太が物陰から出て来て素早く犯人を蹴り上げていた。走って逃げようとする犯人を関口たち4人が取押えていた。

「笹川さん!」

久美子は言った。

「気をつけてくださいよ。」

翔太は言って軽く会釈をした。関口たちも久美子に会釈をした。

「昨日はす挨拶出来ずにごめんなさい。」

久美子は言った。

「いいえ気にしないでください。」

翔太は言った。

「先日もストーカーから助けていただいたのにそのままでした。」

久美子は言った。

「それが僕の仕事のようなものですよ。」

翔太は言った。

「そちらの方は夜中にテレビ局の前でもお見かけしましたよね。」

久美子は関口に言った。

「みんな元気でやっているかい?」

俊之は千晴に言った。千晴に声をかけられて空いている喫茶店に入ったのである。

「お父さんもお母さんも相変わらずだよ。」

千晴は言った。

「純一くんや静枝は僕に会ってはいけないと言ったのだろう?」

俊之は言った。

「そうだけど。」

千晴は言った。

「僕に会っていいのかい?」

俊之は言った。

「構わないよ。」

千晴は言った。

「それならいいけどね。」

俊之は言った。

「お父さんはいつもの事しか考えてない。

千晴は言った。

「純一くんも悪い人ではないけれどね。」

俊之が言うと

「あれではお母さんがかわいそうよ。」

千晴は言った。

「千晴はなぜそう思うの?」

俊之は言った。

「決まっているじゃないの。」

千晴は言った。

「決まっている?」

俊之はあえて千晴に言った。

「相手の都合も考えないで自分の意見だけ主張していつも自分の都合に合わせてくれと言うだけ。」

千晴は言った。

「そうだね。」

俊之は言った。

「地球はお父さんを中心に回っているわけではないからね。」

千晴は言った。俊之は千晴のはっきりした言動に感心していた。

「私の方こそ失礼しました。」

翔太は久美子に言った。

「昨日は純子の事で手一杯できちんとご挨拶ができませんでした。」

久美子が言うと

「それは気にしないでください。」

翔太は言った。久美子は関口の方を見て

「そちらの方のヘアスタイルが特徴的だったので覚えていました。」

と言った。関口は少し照れたように

「その時は恐い思いをさせてすみません。」

と言った。

「私は堀川久美子です。」

久美子が言うと

「僕は関口久夫です。」

関口が言った。

「いつになく丁寧な言い方だな。」

翔太は関口に言った。

「本当にありがとうございました。」

久美子が言うと関口たちは初めて報われたように思ったのだった。

雨のあとに虹 その81

「その仕込みは後ろの棚です。」

久美子は小百合に言った。

「この珈琲豆の在庫は?」

小百合が言うと

「それは後ろの倉庫です。」

久美子は言った。ひとみがいないと解からない事が多いのだ。通常はひとみが休みの時には前日に指示があって引継ぎが行われる。ところが今日は突然の有休であった。久美子はひとみが風邪でも引いたのか?と心配であったがそんな余裕もないほど店は忙しかったのである。

「いらっしゃいませ。」

小百合が横で言った。今日はお客がひっきりなしに来ている。店としては大変良い事であった。

「パスタはあとでお席にお持ちいたします。」

久美子はお客に優しく言った。

「どうでしたか?」

野村は俊之に言った。

「織田さんは頑固だね。」

俊之は言った。俊之は野村に本当の事を言っても良いものか返事に困ったのである。

「社長は物事を自分に都合が良い様にしか理解していないでしょ?」

野村が言った。

「織田さんの考えも理解はできるけどね。」

俊之は言った。

「社員は弱者ですからね。」

野村は哀願するように言った。

「僕ができる事はサポートするから何でも遠慮しないで言ってください。」

俊之はそこまで言うのがやっとであった。

「沢田くん。」

山本は言った。

「はい!」

沢田が言った。

「私は決心したよ。」

「山本は言った。

「何をご決心なされたのですか?」

沢田が言うと

「この際だから負の資産は整理しようと思う。」

山本は言った。

「遂に始めますか?」

沢田が言った。

「私の役員としての権限を最大限に発揮してより良い職場にするよ。」

山本は言った。

「具体的に何を?」

沢田が言いかけた言葉をさえぎるように

「年明け早々に発表するから待っていなさい。」

と山本は言った。年末のせわしない空気が漂う中で山本は窓の外を見た。

「準備をしておきます。」

沢田は言った。

「高村くんに変わる人材はいるだろうか?」

山本は呟いた。

 都心は人の動きが速さを増して年末の賑わいを見せていた。俊之は歩く速度を速めていた。思ったより織田のところで時間を取ってしまったのである。今日は純子を見舞ってから太田のところへ顔を出そうと思っていたが予定は変更である。都心を散歩しながら自分の考えを整理したかった。会社というものは規模や売上げだけの大小で決まるのではない。如何にチームワークで仕事をこなすかも大事である。だからと言って馴れ合いでは困るのだ。ひとりひとりが問題意識をもって前向きに取り組まなければならない。一日過ぎれば給料が出ると思われては会社が衰退してしまう。経営陣はその部分を如何にうまくマネージメントするかで真価を問われるのだ。三友商事のように社員が何もしなくても給料がもらえる会社は珍しいのだ。織田のイーエンジニアのように社員が会社に将来を託せるようになれないのも不幸な事であると俊之は考えていた。俊之が人混みを抜けて駅に向かった時である。

「おじさん。」

と千晴は言った。俊之は振り返った。