開運童子のブログ -91ページ目

雨のあとに虹 その89

「おはようございます。」

久美子が言って店に入って来た。

「おはよう!」

ひとみが言った。

「店長。」

久美子が言うと

「昨日は休んでごめんね。」

ひとみは言った。

「お客さんが多かったですよ。」

久美子は言った。

「大石さんから聞いたわよ。」

ひとみは言った。

「大石さんもパニックでしたよ。」

久美子は言った。

「堀川さんの助かりましたよ。」

小百合が横から言った。

「堀川さんは頼りになるものね。」

ひとみは言うと

「そんな事はないですよ。」

久美子は言った。

「すっかり迷惑をかけたわね。」

ひとみが言うと

「仕事だから構わないですよ。」

久美子は言いながらひとみの反応を見ていた。榊原に見せたそれは今のひとみには無かったのである。

「かえってご迷惑をかけたようですみません。」

直子は俊之に言った。

「そんな事はないよ。」

俊之は言った。

「雰囲気が読めない人は困りますよね?」

直子は言った。

「あのように迷惑なナンパ男も多いみたいだね。」

俊之が言うと

「多いですよ。」

と直子が言った。都心に帰って来る電車の中である。

「そうなの?」

俊之が言うと直子は

「あの人はいい方ですよ。」

と言った。

「それは知らなかったよ。」

俊之が言った。

「あの。」

直子が言うと

「何か?」

俊之が笑顔で直子を見て言った。

「時間があったら珈琲を飲みながらもっとお話しませんか?」

直子も俊之の目を見て言った。

「いらっしゃいませ。」

久美子は言った。久美子は慣れたしぐさで接客をしていた。

「ブレンドをひとつ。」

若い男の客が言った。

「お砂糖とミルクは如何なさいますか?」

久美子が言うと

「いるよ。」

と若い男は無愛想に言った。

「すみません。」

久美子は言った。こう言われると謝ってしまうのだった。お昼の忙しさが終わって少し楽になった時間である。

「堀川さん。」

ひとみが言った。

「はい。」

久美子が言ってひとみの方に顔を向けた

「休憩に入っていいわよ。」

ひとみが言うと

「解りました。」

久美子は言った。隣に居る小百合も

「早く休憩に入った方がいいわよ。」

と言った。

「お先にね。」

久美子は言って休憩に入った。久美子は休憩室に入ってひとりで昼食をとる事にした。昼食をとりながら久美子は考えていた。外見はアイドル系のいわゆるイケメンの男が増えているのだが言葉遣いは乱暴な人が多いようだ。先ほどの男の客もそうであった。優しいような顔をしていて意外と乱暴であった。自分の事でいっぱいなのであろうか?それともクールを気取っているのだろうか?俊之と対比させてみると違いは大きい。年齢だけを考えれば俊之は中年である。顔も精悍ではあるが特別なイケメンではない。俊之より良い顔の男は世の中にはたくさんいると久美子も思っている。それでも俊之にはイケメンにはない何かがあるように思えた。その何かと総合力と言えそうある。俊之なら決してあのような乱暴な言葉は使わないと久美子は思った。翔太も同じで言葉遣いはしっかりしていた。翔太も俊之と同じでしっかりとした心の強さが伺えたのである。俊之は自分の事をどう思っているのだろうかと久美子考えていた。

雨のあとに虹 その88

「先日もご一緒でしたね。」

女性から声をかけられて俊之はその方を見た。20代半ばのモデルのような女性が立って微笑んでいた。以前に撮影で一緒だった女性である。俊之は女性と視線を合わせて

「海岸でのCM撮影で一緒でしたね。」

俊之は言った。

「私は久保田直子と言います。」

直子はしっかりとした口調で言って俊之のとなりに座った。

「高村俊之です。」

俊之は言った。

「このお仕事は長いのですか?」

直子が言った。

「3年くらいですね。」

俊之は言った。

「3年ならベテランですね。」

直子が言うと

「そんな事はありませんよ。」

俊之が言うと

「3年といえばベテランですよ。」

直子は言った。

「僕の本業は経営コンサルタントだからね。」

俊之は言った。

「経営コンサルタントをなさるなんて頭が良くて羨ましいですよ。」

直子が言った。

「そんなことはないよ。」

俊之は言った。

「大変な仕事でしょう?」

直子が言った。

「それは状況によりますね。」

俊之は言った。ふたりはまるで恋人同士みたいな雰囲気になってきたのである。そこに

「こんにちは!」

と言って同じ撮影に参加していた30歳くらいの男が直子に声をかけてきた。 いつの間にか男は直子の隣に座っていたのである。た直子を挟んで俊之と男が座る形になった。

「近いうちにどこかの撮影で会えるといいね。」

男は俊之を無視して直子に言った。直子は

「そうですね。」

と言っただけで男を無視している。

「このあと時間あるの?」

男は言った。」

「これから?」

直子が言うと

「僕は暇だけどね。」

男が言った。男の話がまだ続きそうだったが

「すみません。」

直子が言うと男は

「はい?」

と明るく言った。

「遠慮してもらえますか?」

直子は男の目を見据えて冷たく言った。男はがっかりしたように暗い顔になって

「えっ?」

と言った。

「私はこちらの高村さんと落着いて話がしたかったのです。」

直子は言った。

「そうですか。」

男は言った。

「あなたは名前も知らない見ず知らずの人ですよね?」

直子が言うと

「それはそうだけどね。」

男はいった。

「お話したいのなら他の人となさってください。」

直子はきっぱりと言った。俊之は驚いて直子の顔と男の顔を交互に見ていた。

「それは失礼しました。」

男は言った。

「私はナンパする男は嫌いですから!」

直子ははっきりと言った。

「そうですか。」

男は言ったきりである言葉がなかったので席を立って去って行くほかはなかったのである。

「向こうに女性がたくさんいますよ。」

直子が言うと

「何だよ。」

男は呟いて歩いて行った。

「若い女性は強いね。」

口の中で小さく言った。

雨のあとに虹 その87

 自分の部屋でパソコンを叩いた俊之はメールに目を通した。返事を書いて操作を終えると夜も遅くなっていた。自然と久美子の事が頭をよぎった。46歳の自分が20歳の久美子を愛して本当に良いものなのだろうか?と思いながらも一線を超えてしまった。久美子に対してはもちろんだが誰に対しても誠実でいようと思っているのは今も変わらない。あの夜に久美子と男と女の関係になってから照れくさい気持ちと同じくらいに不安な気持ちも俊之にはあったのである。

「麗子さんの事はまだ解決していない。」

俊之は言った。心のわだかまりが大きく俊之を支配していたのである。夜は静かに更けていくのだった。それはやがて来る朝に向かって確実に近づいていった。ちょうど俊之の携帯がなった。俊之が出ると

「明日は純子が退院する日ですけど私が一緒に手続きをします。」

久美子がいうと

「純子さんによろしく伝えてよ。」

俊之は言った。

「帰りの準備は大丈夫?」

久美子は言った。退院の手続きを済ませて仕度を整えたところであった。

「大丈夫だよ。」

純子が言った。

「思ったより早く退院できてよかったね。」

久美子が励ますように言った。おそらく純子は精神的にもかなり落ち込んでいるはずである。それは俊之に言われるまでもなく久美子にも解かっていたことである。だから純子が

「何もする事がなくて病院は退屈だったよ。」

と強がりを言っても素直には受取れない久美子だった。

「俊さんも顔を出したいけれど男も僕が行ってもかえって純子さんが気を使うからって来なかったのよ。」

久美子が言うと

「高村さんにはお世話になったよね。

純子は言った。

「俊さんがよろしくって言ったよ。」

久美子は言った。

「笹川さんにもお礼を言わなくてはね。」

純子は言いながら俊之や翔太に感謝の気持ちを強くするとともに落着いたらゆっくり会いたいと思っていた。

OK!」

監督の大きい声が響いた。

「みなさんお疲れ様でした。」

スタッフが言った。俊之はエキストラの仕事を終えたところである。昨夜パソコンを開いたら急に依頼がメールで入っていたのである。集合時間は早かったが予定通り撮影は進んでいた。

「これでみなさんの出番は終了になります。」

スタッフが言った。

「これで終了ですか?」

俊之が言うと

「お弁当を配りますので隣の公園で各自召上ってから帰ってください。」

スタッフが言った。

「解りました。」

俊之が言うと

「1時間ほど風景の撮影をしてから撤収しますのでお弁当はゆっくり食べてください。」

スタッフは言った。みんなは弁当とペットボトルに入ったお茶をもらって公園のなかで思い思いにベンチに座りだした。都心から少し離れた広い公園である。俊之はちょうど3人がけのベンチの右隅に座って時計を見た。今日は時間に余裕があった。撮影はもっと時間がかかると思ったが予定通り終わる時もあるのだ。