虹の約束♪ -12ページ目

虹の約束♪

「いつも喜んでいなさい・・・」

・・・

 

サブがプント人に声を飛ばした。

「何をぐずぐずしている。砂漠のハイエナが聞いて呆れるぜ。それとも恥ずかしいのか?」

みんな笑った。

 

 

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プント人は微かに眉を寄せる。初めて見せた表情だ。

アルの方は全く表情を変えずに、相手が仕かけるのをただ待っていた。

 

プント人の足が動いた。

短刀を右手に左手にと交互に握り替える。そして左手でまた握った。

腰を低くし、小刻みに足を動かすとアルに徐々に迫る。

あたかも獲物を狙うハンター、ハイエナのようだ。

アルの背後で男の足がピタリと止まった。

そこで攻撃を仕掛けるものと誰もが思ったが、なおも小柄なプント人は手を出さず、再びアルの正面に立つ。

 

 

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アルは男がどう小細工しようと、剣を構えたまま微動だにしない。

プント人の額に汗が滲んだ。周りから揶揄と罵倒が飛んだ。

いよいよ覚悟を決めたプント人が、アルの正面から攻撃を仕掛けた。

 

それは一瞬だった。

突然蒼い光が現れ、みんなの眼が眩んだ。瞬きするような一瞬の出来事だった。

全員が眼を凝らし見ると、勝負は決まっていた。

 

 

 

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小柄なプント人の左手から短刀がこぼれ落ち、まるで腰を抜かしたように尻餅をついていた。

哀れなその姿は小鳥のように怯えていて、戦闘意志を完全に喪失していた。

 

アルは表情もなく、構えていた剣を下した。

 

サブの眼はきらりと光沢を放った。

「ラーモセ見たか?これがこの女の正体だ。剣を一振りもせず、相手を倒した。人間にそんなことできるか?

以前人食いライオンが眼の前に現れたときもこうだった。こいつは間違いなく魔女だ。悪魔の化身に違いない」

 

一斉に視線がアルに注がれた。プント人はますます怯え震えていた。

 

サブはなおも言った。

「アル、このプント人を殺せ。そうすればラーモセは自由だ。それがお前の望みだろう」

 

 

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アルは真っすぐプント人の前に行き、。

もはやプント人は抵抗する気力も失せ気絶するように倒れた。

剣は男の顔の真横に突き刺さった。

 

アルはゆっくりサブに顔を向けた。

「殺したければ自分でやればいい。でも、約束は守ってもらう。ラーモセは自由にして」

 

 

 

 

「パピルスの詩」

 

 

 

 

 

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・・・

 

自分の使命が何なのかわからない。

だが何からも逃げないと自分に誓った。

この戦いは自分とのけじめだ。

 

 

 

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天が自分の命を要求するのなら、渡してもかまわない。

かえってアルはほっとしていた。やっと終われる、そう思った。

 

「剣を貸してやれ」

 

アルに手渡された剣は一メートルもあり、青銅で作られているためかなり重い。

構えるだけでも大変だ。ましてや振り回すなど無理だった。

小学校の頃剣道を習っていた。北辰一刀流という流派で、六年稽古に通った。

構えは何とかなるにしても、当然真剣勝負などしたこともない。

 

勝てるはずがなかった。端からそんな気もない。

他人を傷付けるくらいなら死んだ方がましだ。

 

 

 

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アルの前には、縄の解かれたプント人がいた。

短刀を左手に持ち、相変わらず表情もなく気味が悪い。

 

アルの顔にはむしろ穏やかな笑みが乗せられた。

サブは鈍く光る眼でアルを見据えた。

 

エセはラーモセを見た。死人のように表情がない。

顔を伏せ、アルから視線を避けていた。

こんな弱気なラーモセを見るのは初めてだった。

 

エセはアルを連れて来たことに、今さらながら後悔した。

でも全てが手遅れだった。

 

サブが片手を上げると、取り巻いていた連中が円を描くように後ずさりした。

決闘の始まる合図だった。しばらく両者は動かない。

 

 

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ハプがラーモセの側で小声で囁いた。

「驚いたな、あの子なかなかやるな。あのプント人を動けなくしている。

構えも様になっているし、攻める隙がない。何なんだ、あの子の持つあの力は。

もしかするとこの勝負まだわからないぜ。ラーモセ、見てみろよ」

 

ラーモセが顔を上げた。まだ両者一歩も動かずだ。

プント人の顔に微かに焦りが見えた。

 

アルは真っすぐ眼の前のプント人に視線を注いでいる。

アルは死を覚悟しているとラーモセは感じた。余計に腹が立った。

肩から力が抜け、頭が真っ白になると思考が止まった。

 

 

 

「パピルスの詩」

 

 

 

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・・・

 

「笑わせるぜ。何の権利があってそんな真似をする?

ラーモセは自分の意思でやっている。ガキじゃないんだ。俺の前から失せろ」

 

「ラーモセのお母様はこんなこと望まなかったわ。他の生き方をさせたい。あなたにだって他の生き方があるはず、もうやめて」

 

サブの眼が鈍く光った。表情が完全に消えた。

 

エセが、もうやめてと耳元で囁く。

 

「帰らない。ラーモセを連れて帰るまでは」

 

 

 

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そのとき、暗がりから声が飛んだ。「帰れ。お前には関係ない」

 

それが誰の声だかすぐにわかったが、アルは微動だにせず、ただサブを真っすぐに捉えていた。

ラーモセがあ姿を現した。

 

「聞こえたか?お嬢ちゃん」サブは片方の眉を上げ、肩をすくめた。

 

アルは動かない。

 

狂気の沙汰としか思えないアルの無謀さに、ラーモセじゃ怒りを込めた。

「何しに来た?帰れと言ったのが聞こえないのか?お前の来るところではない。帰れ」

 

アルは笑顔でラーモセを振り返る。「一緒に帰ろう」

 

ラーモセは声も出ない。

 

 

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サブが眼で合図を送ると、男たちがラーモセの腕を掴んだ。

ラーモセは必死に抵抗したが、さすがに大男が四人ラーモセの両腕を捕らえていたので、身動きが取れない。

 

サブは残忍な笑みを浮かべた。

「そこまで言うには、相当な覚悟があると見た。それを称えて、一度だけ機会をやろう。

脱会させてやってもいいが、俺達には俺たちの掟がある。

それに従うというなら考えてもいい。どうだ?今なら逃げられるぜ」

 

ハブ、ケン、パネブ、サフは眉根を寄せ、アハとバ、ジャウは黙って成り行きを見守っていた。

 

その他の連中は揶揄し歓声を上げて楽しんでいた。

この連中はアケトの仲間ではなく、今度の仕事に人手が足りなく、急ぎで搔き集めたならず者の集団だった。

 

 

 

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「止めろアル、帰れ。サブ、止めてくれ。エセ、あいつを連れて帰れ。頼む」

ラーモセは叫んだ。必死の抵抗も空しく、身体は羽交い絞めにされ手出しができない。

 

「わかった。条件を言って」アルのこの答えにラーモセは顔から色を失った。

 

ラーモセはサブに言う。

「わかった。それなら俺を好きにしろ。殺すなり煮て焼くなり何でもやれ。

その代わりこいつには手を出すな。

もし手を出すなら、俺はお前を一生許さない。これは最後の警告だ」

 

サブの顔を歪み、ラーモセを睨んだ。エセは眼を伏せ何もできない。イウイアの眼に涙が滲んだ。

 

アルはラーモセに言った。「私は大丈夫。必ず一緒に帰ろう」

 

 

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「頼むアル、止めろ。本当に怒るぞ」

 

アルは視線をラーモセからサブに移す。すでに覚悟はあった。

 

サブは怒りで震えていた。「あいつを連れて来い」

 

何人かの男が紐で縛られた男を連れて来た。

その男は小柄だったが、その目は死人のように虚ろだった。

表情は全くないが、漂う空気は底知れぬ気味の悪さがあった。

 

さすがのアルも凍りついた。さらにラーモセの表情は怒りと恐怖で蒼白だ。

 

 

 

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サブは笑う。

「さっきの勢いはどうした?今ならまだ後戻りできる。

ただし、ラーモセや俺たちの前から消えろ。二度と俺たちの眼の前に現れるな」

 

アルの足は震えていた。でも逃げようとはしなかった。

 

サブは畳みかけるように言った。

「この顎髭の小男は、プント(東アフリカのスーダンあるいはエチオピア地域)出身で、俺たちの仲間ではないが同業者だ。

だが、ハイエナのように陰険でしつこいのさ。狙った獲物は必ず仕留める。

今回俺たちが苦労して手にした品を、横から盗もうとしたので捕らえた。その名はまさに砂漠のハイエナだ。

出身以外この男に関しては知る者は誰もいない。テーベではこいつの首に賞金がかけられている。

だから差し出して金を頂くつもりだったのに、気が変わった。こいつと勝負させてやる。

勝った方の望みを叶えてやる。ハイエナが勝てば逃がしてやる。お前が勝てば、ラーモセを自由にしてやる。

この男はやる気満々だ。さて、お前はどうする?

この男は今までも何人もの人間を殺している。お前を殺すのなんか何とも思わない。

表情一つ変えずに首を掻っ切るだろう。小柄だが腕も確かだ。どうする?」

 

アルは喉が渇いて声が出ない。緊張で身体も動かない。

 

 

 

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ラーモセが静かに言う。

「こんなことして俺が喜ぶとでも思ったのか?感激して礼を言うとでも?

ふざけるな、お前に何がわかる。もう俺の前から消えてくれ。

二度とこの地に来るな。これでお前と俺とは何の関係もない。

アル、お前を今初めて憎いと思った。

それでも死にたいと言うなら、勝手に死ね。もう俺には関係ない」

 

「ラーモセはああ言ってるいるぞ」サブは冷やかすようにアルを見た。

 

誰もがアルは諦めるて帰ると思った。

 

「ここへ来たのは自分のため。ラーモセのためだけではない。だからこの勝負やるわ」

 

これで死ねるのなら本望だった。

 

 

 

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「パピルスの詩」

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

遠くに灯りが見えた。エセが言う。

「きっとあそこに彼らはいるわ。この時間だと今日の仕事は終えているはずよ」

 

 

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アルは立ち止まり、その光を見つめた。

 

「どうする?朝になるまで待つ?彼らはもう寝ているかもしれないわ」

 

エセの問いにアルは淀みなく答えた。「いいえ、行くわ」

少なくともラーモセは眠っていない。アルはそう直感した。

 

朝になれば彼らを止められないような気がする。

止めるなら闇が降りている今だと確信した。

覚悟はできていた。

 

 

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「行きましょう」今度はアルが先に歩いた。

 

やはり彼らは眠っていなかった。盗んだ品物が積まれている。

サフが優しい音色を奏でていた。

各々何をするでもないが、火の周りに休んでいる。

イウイアの姿もあった。

アルはみんなの前に姿を出した。

 

サブはまるで予感していたように、にんまりと笑った。

「これはこれは、珍客のお出ましだ。エセの気配しか感じなかったので少々驚きだ。

いつの間にか気配を消し、忍ぶ術も覚えたのか」

 

辺りを見回すとラーモセの姿がない。むしろかえって都合がいいとアルは考えた。

前にラーモセの家に来た仲間だけではなく、見たことのない男たちもたくさんいた。

 

 

 

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全員アルに注目し囲むように視線を注いでいた。

中には、耐えられないような、嫌らしく舐めるような目線でアルを品定めする男もいた。

 

しかしアルはそれでも怯まず、サブを直視した。

サブは依然口元を歪ませている。

 

「大した度胸だと誉めてやりたいところだが、あまり余計なことをすると痛い目に遭うぞ。

このまま家に帰りな、お嬢ちゃん」

何人かが嘲笑した。

 

アルはサブに言う。

「ラーモセをアケトから抜けさせて。もうこんなことを続けさせたくない」

 

全員笑った。イウアイだけは笑わなかった。

 

 

 

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「お嬢ちゃん、これが最後の警告だ、帰れ。あんたの出る幕じゃない。目障りなんだよ。

それでも帰らないなら、この連中があんたに何をするかわからないぜ。

何せ、血と女とに餓えている奴らばかりだ。

俺とて止められやしない。怪我しないうちに消えな。エセ、連れて行け」

 

エセがアルの腕を掴むと、アルはそれを拒んだ。

強い意思を湛えた眼光を放ち、サブを見据えた。

 

サブから揶揄の笑みがすっと消えた。

 

 

 

「パピルスの詩」

 

 

 

 

 

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・・・

 

 

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「それでもやはりラーモセにはしてほしくない。

他の生き方を見つけてほしい。

盗賊のみんなを非難する権利を私は持っていない。

きっと私はそれよりもひどい人間だもの。

生きられるのに生きることを諦めてしまった。でも理屈じゃないの。

私の心が、ラーモセには幸せになってもらいたいって思ってしまうの。

どうしたらいいのかわからないけど、とにかくやるだけやってみるわ」

 

 

 

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エセは溜め息を洩らした。

 

「アルが羨ましい。だからあなたに嫉妬してしまう。

今もアルのことを好きにはなれない。

だって、私たちからラーモセを奪ったんだもん。

でもラーモセがアルを必要としていることはわかっている。多分サブもね。

きっとサブは簡単にはラーモセを渡してはくれないわよ。

覚悟しておいた方がいいわ」

 

アルは迷いのない声で答える。

「うん、わかっている。ありがとう」

 

 

 

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再び二人は出発した。

突然風が強まり気温が下がった。砂漠では常にそうだ。

 

陽が沈むと同時に闇が降りてくる。

 

 

 

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当時のエジプト人は太陽神ラーを崇拝していた。

しかし夜になればラーは姿を変え、そこは冥界への入り口とされている。

即ち夜の砂漠は死の場所とも呼ばれていた。

エジプトにおいて砂漠は、間に流れるナイル川よりも高い位置にあるという意味で、

異国と示されていたのだ。

砂漠は通行不可能ではないものの、エジプトを周辺諸国から守る防壁でもあり、

鉱山や採石場で働く奴隷や強制労働者たちが生涯を終えるために送り込まれる荒野、流刑地でもある。

犯罪者が逃げ込む場所であり、墓場なのだ。それで一般的には恐れられていた。

しかし商人たちが陸地を通って、交易のために行き交う路でもある。

二人の足は次第に重く大分遅れた。

 

 

 

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「パピルスの詩」