音海星吾は美術サークルに所属する大学生。中学生時代、不良に絡まれた星吾は、彼を助けようとして身代わりに刺された青年を見捨てて逃げてしまう。青年はその後死亡したため、星吾はネット社会を中心とした世間の誹謗中傷を浴び続ける。
大学入学後も星吾は心を閉ざして生きていたが、ある日、ホームから飛び降りようとした中年男性に「そんなに死にたいなら、夜にやってよ。朝やられると迷惑なんだ」と心無い言葉をぶつけてしまう。現場を目撃していた同じ大学の学生・紗椰にその言葉を批判されるが、それがきっかけで星吾は彼女と交流を持つようになる。星吾は心惹かれるようになった紗椰に思いを告げようとするが、自らの過去の重みのため、踏み出すことができない。コンビニのバイト仲間の吉田光輝、美術サークルの顧問・宇佐美ら周囲の人間との交流を通して、徐々に人間らしい心を取り戻しかける星吾。
そんななか、星吾を狙うように美術室の花瓶が投げ落とされ、さらに信号待ちの際、車道に突き飛ばされるという事件が起こる。星吾を襲う犯人の正体は? そして星吾の選択とは――。
星吾を助けようとして、刺されて死んだ青年。その家族や恋人の悲しみや怒り。
その矛先は、 救急車を呼ばず、置き去り人した星吾に向けられる。
悪いのは、加害者である少年たちなのに~
星吾は、誹謗中傷に耐え、ひっそりと日々を送っていた。
嫌がらせに耐え、幻想に悩まされている星吾の姿は読んでいてつらかった。
事件が起きると被害者、加害者、その両方の家族の運命が変わってしまうことは、とてもつらい出来事だ。
星吾は、同じ大学の沙倻や光輝、美術顧問の宇佐美らと関わっていくうちに変化が~。
恋、友情は、本物なのか。それとも……
ラストに涙した。
だれもが何かの後悔や心の闇を抱えているのではないか。
許しあえる日がくることを願う。
お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐
競争の番人 内偵の王子
新川帆立 講談社 2022年8月

謎の脅迫状に巨大カルテル、恋の予感も……この業界も私もヤバい。 ドラマも絶好調! 霞が関でも話題沸騰の「公取委」ミステリー。 著者より)全国の働き者に捧げます。仕事帰りの豚骨ラーメンのような一冊です。―新川帆立 公正取引委員会の審査官、白熊楓は、九州事務所への転勤を命じられる。ところが配属先は、前任者が次々と離職しているいわくつきの部署だった。上司のパワハラ、人員不足、慣れない土地での生活に苦しみながらも、内偵業務のエース、常盤とともに、呉服業界の内偵に乗り出す。内偵を進めるなかで、巨大なカルテルの可能性が浮上。本局第六審査長(通称ダイロク)のメンバーたちも博多にやってきて、調査を開始するが……。呉服業界を覆うぶ厚い雲を、白熊たちは取り払うことはできるのか? 『競争の番人』シリーズ第2弾、新天地で開幕!
「競争の番人」の続編。
白熊楓は、九州事務所へ転勤。
ある呉服屋に脅迫状が届いていた。白熊は、事務所に話を聞きに行く。
呉服業界の内偵に乗り出す。
九州事務所の話なので、以前のメンバーと、変わるのかと思ったら、本部も乗り出してくる案件となり、小勝負も登場していた。
白熊は、新しく赴任した事務所の人間関係や地方のしがらみの中で悩みも多い。
また、いいところは本部が持っていって、地方は、本部の下請けでしかないことに疑問を感じる。
仕事することの意味についても考えをめぐらす。
同僚の白石との会話
「なんで働いているのか、わからなくなるときもあるけどね」
「辛いことのほうが多いですけど、悪くないなって思える日もあるから」
心のモヤモヤが吹っ切れた白熊は、まぶしかった。
白熊と小勝負の距離感がなんとも~
小勝負、あいかわらず、記憶力すごいね。
お気に入り度⭐⭐⭐⭐
競争の番人
新川帆立 講談社 2022年5月

ウェディング業界に巣食う談合、下請けいじめ、立入検査拒否。市場の独り占めを取り締まる公正取引委員会を舞台に、凸凹バディが悪を成敗する!
公正取引委員会の審査官、白熊楓は、聴取対象者が自殺した責任を問われ、部署異動に。東大首席・ハーバード大留学帰りのエリート審査官・小勝負勉と同じチームで働くことになった。二人は反発しあいながらも、ウェディング業界の価格カルテルの調査に乗り出す。数々の妨害を越えて、市場を支配する巨悪を打ち倒せるか。ノンストップ・エンターテインメント・ミステリー!
公正取引委員会の審査官が主人公なので、談合、カルテルの話がメインになる。
今回は、ホテルウェディングに関すること。
そこに、人が刺される事件が起き…犯人はいったい誰なのか?といった事件に発展する。
公正取引委員会の審査官の
白熊楓は、空手が得意で体育会系だけど、お人好しで情の深い。
部署異動でこの審査官となった
小勝負勉は、エリートで感情を出さない。
このふたりが一緒に仕事するが、お互い苦手意識を持ち、会話も進まない。
その後、少しづつ、相手を理解していくところがよかった。
楓と母親との関係は……
楓自身が決めたことに違いはないけれど、
母親のことを思って決めたなのに~
何かしっくりしない。
公正取引委員会の仕事について知ることができ、ミステリーも楽しめる、エンタメ小説だ。
ドラマ化されたが見てなかったけど、確かにおもしろそう。
お気に入り度⭐⭐⭐⭐
君はきっとまだ知らない
汐見 夏衛 スターツ出版 2019年12月

夏休みも終わり新学期を迎えた高1の光(ひ)夏(な)。六月の“あの日”以来ずっとクラス中に無視され、息を殺しながら学校生活を送っていた。誰からも存在を認められない日々に耐えていたある日、幼馴染の千秋と再会する。失望されたくないと最初は辛い思いを隠そうとするが、彼の優しさに触れるうち、堰を切ったように葛藤を打ち明ける光夏。思い切って前に進もうと決心するが、光夏は衝撃のある真実に気づき…。
光夏は苦しかっただろうに。
百年の子
古内一絵 小学館 2023年8月

人類の歴史は百万年。だが、子どもと女性の人権の歴史は、まだ百年に満たない。
舞台は、令和と昭和の、とある出版社。コロナ蔓延の社会で、世の中も閉塞感と暗いムードの中、意に沿わない異動でやる気をなくしている明日花(28歳)。そんな折、自分の会社文林館が出版する児童向けの学年誌100年の歴史を調べるうちに、今は認知症になっている祖母が、戦中、学年誌の編集に関わっていたことを知る。
世界に例を見ない学年別学年誌百年の歴史は、子ども文化史を映す鏡でもあった。
なぜ祖母は、これまでこのことを自分に話してくれなかったのか。その秘密を紐解くうちに、明日花は、子どもの人権、文化、心と真剣に対峙し格闘する、先人たちの姿を発見してゆくことになる。
小学館と思われる出版社をもとに作られた物語。
文林館で働く明日花は、女性ファッション誌から、学年誌の編集部に新しく配属されたのが不満だつた。
そんな明日花が、学年別学年誌に次第に興味を持ち、仕事にやる気を出していく様子は、仕事小説として読みごたえがある。
これは、作者が、取材を繰り返し書かれた作品なのだろう。
当時の出版社の様子がリアルに感じられた。
戦争に翻弄された時期もあっただろうが、
出版社を始めた社長の思いや
より良い学年誌にしようとする編集者の思いが熱かった。明日花、母待子、祖母スエ。
誤解をまねいていた三人の関係が修復されていく様子は、心が暖かくなる。
明日花がインタビューした彬の話が、スエとつながった時、感動!
お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐
ミノタウロス現象
潮谷 験 KADOKAWA 2024年2月

目の前には三メートル超えの怪物、背後には震える少年。好感度を何よりも重視する史上最年少市長・利根川翼は、人生最大のピンチに陥っていた。だが、その危機からの脱出直後、「異様な死体」が発見される――。容疑者の一人になってしまった翼は、自身の疑惑を晴らすために謎解きを始める。
あまり強くない怪獣って、どうなの?
今までにはない話?
ミノタウロスのような牛頭の怪獣に、最初入り込めなかったが、その仕組みというか、実験の話になり、その設定がおもしろく、話にのめりこんだ。
こんな突拍子もない発想よく思いつくものだ。
この作られた世界の中で、殺人事件の犯人を探す物語。
女性市長-翼が、どこかとぼけた感じ。
秘書の羊川との会話がおもしろい。
スリルを味わうというより、設定を楽しむといった物語だった。
お気に入り度⭐⭐⭐⭐
校庭の迷える大人たち
大石大 光文社 2023年6月

小六の息子の授業参観で母校を訪れた幹太は、自分がこの小学校に転校してきた時の奇妙な出来事を思い出す。(「シェルター」)担任する児童の誰かが手のかかる児童ということで、「危険業務手当」をもらっている真奈だが――(「危険業務手当」)学校に集う大人たちに起きた、5つの奇談。
この作家さんの本は初めてで、内容も知らずに、題名に惹かれて読んでみたのだが、私好みの話だった。
学校内で起きる出来事を大人目線で描いている。
学校には不思議な部屋があり、そこにいる間は身代わりが授業を受けている。
月30万もらえる危険業務手当。どんな危険なことがあるのか?
予算計画で物品購入希望が多く、参っている事務 の先生。
妖精 が学校に忍び込み私物を持ち去る。返してくれる時に不思議な力が宿り、才能が引き出される。
我が子に才能を与えたく、妖精に盗んでもらおうと、大荷物を持って学校に行く親たちの姿が滑稽だった。
退職の日までカウントダウンする校長。
何度も同じ日を繰り返す理由とは?
奇妙な出来事ばかりだが、現実に通じるものがある。
ちょっとした驚きもあり、最後には、それぞれが、前向きにがんばろうとしているところがよかった。
お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐
財布は踊る
原田ひ香 新潮社 2022年7月

会社の同僚と平凡な結婚をし、ひとり息子にも恵まれ、専業主婦として穏やかに暮らす葉月みづほ。彼女はある夢を実現するために、生活費を切り詰め、人知れず毎月二万円を貯金していた。二年以上の努力が実り、夢を実現した喜びも束の間、夫に二百万円以上の借金があることが発覚して――。様々な事情で「今より少し、お金がほしい」人達の、切実な想いと未来への希望を描く!
ヴィトンの財布が、さまざまな人を渡り歩く…
葉月みづほは、生活費を切りつめ夢のために貯金。それなのに、夫の借金が発覚。
この夫って頼りにならない。
工夫 して節約していたみづほだから、新しくお金を作ることにかけても、努力を欠かさないだろう。
借金、奨学金の返済 等に悩む人たちを描き、お金の作り方を物語の中で、紹介している。
お気に入り度⭐⭐⭐
幻告
五十嵐律人 講談社 2022年7月
裁判所書記官として働く宇久井傑(うぐい・すぐる)。ある日、法廷で意識を失って目覚めると、そこは五年前――父親が有罪判決を受けた裁判のさなかだった。冤罪の可能性に気がついた傑は、タイムリープを繰り返しながら真相を探り始める。しかし、過去に影響を及ぼした分だけ、五年後の「今」が変容。親友を失い、さらに最悪の事態が傑を襲う。未来を懸けたタイムリープの果てに、傑が導く真実とは。リーガルミステリーの新星、圧巻の最高到達点!
父親の冤罪に気づいた裁判所書記官の宇久井。
タイムループを繰り返すが、
過去を変えると未来が変わる。
父親の冤罪を晴らすと
最悪の事態が待っている。
タイムループを繰り返す中で、宇久井は、最悪の事態を回避できるのか?
どんな未来にたどり着くのか?
万引きにも、万引きする品物や動機により、罪の種類がいろいろあることを知る。
法律に関しての説明も興味深い。
裁判官の鳥間、一番いい答えを出すことに強い葛藤があっただろうな。
ややこしくて、こんがらがる部分は 多々あったけど、宇久井が、 少しでもいい未来にしようと、奮闘する姿がよかった。
お気に入り度⭐⭐⭐⭐












