ピラミッドの秘密 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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さり「ねえねえ、ピラミッドで、新しい部屋が見つかったって、本当?」

ひろじ「うん。この本にもちょっと載ってるよ。『異世界の歩き方』学研と地球の歩き方がコラボして作った本だけど。<日本の科学技術はミュオンを利用して、クフ王の大ピラミッドにこれまで知られていなかった空間を発見した>・・・これ、名大のF研の人たちだよ。この講演会の告知記事を書いたことがあるから、そっちを見てごらん」(*1)

さり「どうやったのか、よくわかんないけど」

ひろじ「じゃあ、ちょっとだけ、ぼくがF研の人から聞いた話を書いておこう」

 

(*1)先進科学塾@名大「素粒子と考古学で探るピラミッド」告知

 

 

【ミューオンでピラミッドの内部を見る】

 

 名大の素粒子研究は長い歴史を持つ。

 素粒子の研究といえば、今は巨大な加速器を使って素粒子同士を衝突させ、新粒子を探すみたいな実験が主流だ。

 それまでは、スパークチェンバーや霧箱、乳液を塗った乾板で素粒子を観測していた。

 名大では旅客機の荷物室に測定用の乾板を置かせてもらい、それを突き抜ける素粒子の跡を測定するという研究が行われ、新粒子を発見している。(自然観測によるまれな現象の発見で再現性がなく、ノーベル賞の対象とされなかったが、後、この粒子を別に発見した科学者がノーベル賞を受賞している。理不尽な話だと思う)

 今回、F研が用いた方法は、伝統的な乾板による素粒子観測。宇宙線のミューオンを測定できるよう、新しく乳剤を開発し、その乾板をピラミッドのある場所に並べ、様々な方向からやってくるミューオンの向きや数を測定した。

 ミューオンが乾板に届く数は、通り道にある岩の量で決まるので、もし通り道に大きな空白があれば、その方向からやってくるミューオンの数は他より多くなる。

 これをコンピューターで数値解析することで、ピラミッド内部に未発見の広い空間があることを発見したものだ。

 

 

れん「すごいですね」

ミオくん「名大の発見は、研究の積み重ねの勝利だね。数十年前、同じ方法で調べようとした研究者がいたけど、これは失敗しているから」

しもん「ピラミッドって、他にも謎がたくさんありますよね。(いつものノートを見て)あのう、前に図書館で読んだ『ピラミッドの秘密』という本に、クフ王のピラミッドの大きさの中に円周率πの値が隠れているって書いてあったんですが、本当ですか?」

ひろじ「教養文庫だね。それ、ぼくも持っているよ。それについてのぼくの考えを、書いておこうか・・・」

 

 

【ピラミッドとπの秘密】

 

 『ピラミッドの秘密』(MCツシャール著/堺傳六訳/教養文庫)には、クフ王の大ピラミッドの底辺の和を高さの2倍で割ると、円周率π=3.14が出ると書いてある。

 建設当時使われていた古代エジプトの王宮腕尺(*3)を使うと、底辺は440、高さは280になる。

 (440×4)÷(280×2)=3.1428

 これは円周率の3.1416に、有効数字3桁の範囲で一致する。

 

 古代ギリシャのアルキメデスが円周率の値を多角形による近似で詳細に求めたのは、大ピラミッド建設の2500年後のこと。(*4)

 ひょっとして、シュメール人もしくはエジプト人が知っていた円周率の秘密がギリシャに伝わり、それをアルキメデスが用いたのでは・・・という、空想的な推理も可能だが、やはり飛躍がすぎるだろう。

 古代エジプト人が円周率の知識を持っていたかどうかを示す記録は、いっさいないからだ。

 そもそも、古代エジプト人は荷車のような車輪を使う乗り物を持っていなかったという。建築作業では円はほとんど使われていないと考えるのが、常識的だろう。

 

 また、クフ王の大ピラミッド以外のピラミッドでは、同じ計算をしても円周率は出てこない。

 大ピラミッドだけが、円周率の神秘を表現する何らかの数学的宗教的理由があったのか、単なる偶然なのかは、わからない。

 むしろ、ピラミッドに神秘を求めるなら、他のピラミッドに円周率が隠されていないのは、どう説明するのか。

 

 大ピラミッド設計で円を用いたため、円周率が設計者も知らないうちに含まれてしまったのだと考える人もいる。

 円を2つ縦に重ねた高さを大ピラミッドの高さとし、その円の半周分(円を半回転さればその長さがわかる)を底辺の1辺とすれば、底辺の和を高さの2倍で割れば、当然のように円周率が出てくる。

 果たして、このような設計上の理由なのか、数秘術的な秘密があるのか、ただの偶然なのか、それはわからない。

 大ピラミッドの円周率について、推理をめぐらし、各自楽しむのは勝手だが、「信じたがる脳は信じたいことを信じる」ので、根拠なくそれを力説するのはいかがなものか。

 

(*3)1碗尺=0.52m

(*4)アルキメデスの物理学上の功績については、次の記事を御覧ください。

アルキメデスと王冠その1〜ミオくんと科探隊

アルキメデスと王冠その2〜ミオくんと科探隊

 

かのん「だよね〜! あのさ、わたし、なんかのTVで、ピラミッドパワーとか聞いたことあるんだけど、知ってる? ピラミッドの模型の中に入れたカミソリが錆びない、とか」

ひろじ「それは、これのことかな。『異世界の歩き方』の中に書いてある。<クフ王のピラミッドのカミソリ研ぎ>の話」

かのん「うわ、それそれ! ちょっとその本、見せて!」

 

【ピラミッド・パワー】

 20世紀初頭、大ピラミッドの玄室にあったネコの死骸が、湿度にかかわらず乾燥しミイラ化していたことを見た人が、高さ1mくらいの木製ピラミッドをつくり猫の死骸を入れたら、やはりミイラになったという。これが<ピラミッド・パワー>発見のきっかけとか。

 1960年代、チェコの人が、高さ15cmほどのダンボール製のピラミッドをつくり、その中に使用済みのカミソリの刃を入れると、刃が新品同様に切れるようになったので、<クフ王のピラミッドのカミソリ研ぎ>として特許を取ったとか。

 現在でも、食品の保存や瞑想など、さまざまな形で活用されている。

(『異世界の歩き方』より、該当部分の要約)

 

 これは、なんでも試してみるという大学時代の友人がやっている。

 彼に聞いたところ、手製のピラミッドに刃物を入れたが、切れるようになったのかそうでないのか、よくわからなかったと。

 りんごを入れても腐らないという話を本で読み、試してみたが、腐ったとも。

 「ぼくは不器用なので、ピラミッドの形を正確に作れなかったのかも」と嘆いていた。

 たぶん、手先が器用な人が作っても、同じだったと思います、ハイ。

 

 なお、この人は数学専攻だったが、とにかく否定する前に何でも試してみるべきだという人で、占いに凝ったときには大阪まで通って、奇門遁甲などを学んでいる。その後も長い間、さまざまな占いを試していた。

 ぼくが占いやら日本の暦やらに詳しくなったのは、多分に彼から得た知識による。

 

 それからずいぶん経って、最後に会った時、占いについてどうだったかと聞いてみた。

 その時の彼の答は・・・

 「当たるも八卦当たらぬも八卦」

 ・・・重い・・・

 

さり「なんだか、おもしろいですです! ・・・あの、このピラミッド・パワーのことが書いてあるページの少し前に、ピラミッドは王の墓じゃなくて、古代神殿だって書いてあるんですけど、これは?」

ひろじ「ああ、この本によると、それを言い始めたのはオカルト主義者たちだっていうけど、どうかな。正統な考古学者の中にもそういう考え方の人がいたと思うよ。吉村作治っていうエジプト研究で有名な考古学者も<ピラミッドは宗教的な王の権威を表すモニュメント>だといっているし」

かのん「神智学協会・・・って、なんか難しそうな会だね」

ひろじ「それはスウェーデンボルグを称える集団で、19世紀にアメリカのブラヴァツキー夫人が初めた協会だよ。チャネリングと呼ばれる降霊術のようなものでお告げを聞く、みたいな。あのヘレン・ケラーが信仰していた協会でもある」

れん「ええっ、ヘレン・ケラーが? どういうことですか?」

ひろじ「それは・・・長くなるから、今日はこのくらいにしておこう」

さり「また、来ます!」

 

 

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