イラストは『いきいき物理マンガで実験』の裏表紙イラストから。ファラデー先生にコイルモーターを持っていただいているイラストです。世界初の「ファラデーモーター」の開発者。
コイルモーターはそれを実用的にした直流モーターの簡易版です。
では、放送大学物理講座2022の続きを。
こちらは、コイルを2つ使って、電流間に働く力を観察する装置。
電流間に働く力は弱いので、それを強くする工夫が必要です。
今回はやっていませんが、その方法をノーヒントで考えてもらうこともできます。
その場合、たいていは導線を並列につないで電池に連結する案になります。(別の講座でやったことが、何度もあります)
中学校のときにやった「並列抵抗の合成抵抗値はもとの抵抗より小さくなる」を信じた結果ですね。
この方法では電流値は増えません。なぜでしょうか。
その理由は単純で、並列にした導線より、その並列導線を電池をつなぐ一本の導線の抵抗の方が大きいので、いくら並列にしても電流値にほとんど変化がないからです。
大きな抵抗値の場合は並列にすることで明らかな抵抗値現象の効果があります。
しかし、導線は抵抗が非常に小さいので、回路全体の抵抗値はむしろ電池から伸びる導線の抵抗で決まってしまうのです。
電流間の力を実験するためには、実際に回路に流れる電流値を変えないまま、効果としては電流が何倍にもなる実験方法が必要です。
それが、電流を何重にも巻く、という方法です。
2つのコイルに電流を流すと、見かけ上、大電流が流れるので、相互に及ぼし合う力も強くなり、導線同士が引っ張り合ったり、押し合ったりする様子を、はっきり見ることができます。
通常、電流間の力は、片方の電流がつくる円形の磁場からもう片方の電流がフレミングの力を受けることで説明されます。
それによって、電流間の力が引力になるのか斥力になるのかを、簡単に予想することができます。
しかし、本質的なことが気になる学生は、他の学生が気が付かないことを疑問に思います。
以前、ある高校生が、こんな質問をしたことがあります。
「同じ向きの電流は引き合うと習ったけど、電流というのは電荷が移動している現象なので、例えば2本のシャーペンを正に帯電させて、同じ方向に投げた場合、それもまた電流と考えて良いですね。そうすると、その2つの電流は引き合うので、2本のシャーペンは引き合ってくっつくことになります。でも、シャーペンといっしょに移動しながらそれを見ると、2本のシャーペンは静止していますから、正電荷同士で押しのけ合うことになりますよね。見る人によって、引き合うか押し合うか、結果が変わるのはおかしいのではないかと思うのですが」(この高校生は、高校数学で初めて虚数を習ったとき、なぜそんな数を考える必要があるのかと、半年ほどずっと気になり、講座の最中もそればかり考えていたそうです)
この高校生の疑問は、静電気力と電流間の力の矛盾(に見えるもの)から生まれています。
まさに、それこそが、アインシュタインが特殊相対性理論を構築した理由でした。
放送大学講座でも、それについては、1日目の終わりに解説していますが、ここではまず、その入口だけ紹介しますね。
どうでしょうか?
電流が磁場を作るとか、磁気が電流を生むとか、電気と磁気が親戚関係にあることは、数々の実験が示していますが、その本当の関係はなんなのでしょう?
フレミングの力は、さきほどの高校生の意見にあったように、動く電荷が磁場から受けるローレンツ力によって説明するのが、通常の理論です。
向きだけではなく、大きさも完全に一致するので、これ自体は問題ないのですが。
さきほどの高校生のような発想でいうと、そもそもなぜ動く電荷は磁場から力を受けるのだろうか、という疑問が生まれますね。(まあ、そういう疑問をまったく感じない人の方が多いのでしょうが、それを追求するのが本来の自然科学の仕事です)
この疑問の答は19世紀中には解決せず、20世紀まで待たなくてはなりませんでした。
一日目は基本的に19世紀までの物理学を実験を通じて体験するという流れなので、ここでは素朴な疑問を紹介するにとどめ、その原因を説明するのはやめています。
こちらは、今やどの物理教科書にも載るようになったクリップモーター。
ただし、これ、簡単なモーターといえど、作るのには手先の器用さが必要で、大人でもなかなかうまく回りません。(うまくいかないその大半の原因は、あちこちの接触不良ですが)
以前はこれも学生に作ってもらっていましたが、やはり半数ほどの学生は苦戦していました。そこで、今年は、思い切ってこれを作るのはやめ、演示実験に留めることにしました。
モーターの実作は、これではなく、ファラデーが作った世界初のモーター、つまりファラデーモーターだけにすることにしました。これは、すぐに作れること、力を受ける向きが単純にフレミングの力で説明がつくことなど、初心者向けに最適なモーターです。
こちらが、演示実験の大型コイルモーター。
クリップモーターは小さいので、演示実験では大型化したものを使用しています。
こちらが、世界初のファラデーモーターを、少し作りやすくしたものです。
ファラデーが実際に作ったのは、銅の棒を上から吊るし、その真下に水銀と磁石を置いたものです。銅の棒を吊るした支持台と水銀容器の間には電池で電圧をかけています。
電池の電流は銅の棒から水銀を伝わるようになっていて、銅の棒に流れる電流が磁石の磁場からフレミングの力を受けて(もちろん、この頃はまだフレミングの力という言葉は、ありません)回転し続ける、という装置です。
この簡単なファラデーモーターは、磁石と水銀のかわりをネオジム磁石1つにやらせています。ネオジム磁石は強力な磁石であるだけでなく、表面が電流が流れる導体になっています。したがって、裸銅線でつくったやじろべえの足先がネオジム磁石に触れたとき、やじろべえに電流が流れます。
つまり、水銀をなくしたファラデーモーターといえばいいのでしょうか。
さて、ファラデーは世界初のモーターを作ったあと、より偉大な発見をしています。
電磁誘導の法則の発見です。
レンツが似たような発見をしていますが、ファラデーはそれを磁力線つまり磁場の変化と結びつけて説明し、しかも定量的な関係も見出しています。
電磁誘導の法則をレンツの法則と呼ばず、ファラデーの法則と呼ぶのは、ちゃんと理由があるのですね。
こちらが、ファラデーの考えた電磁誘導の法則のルール説明。
ファラデーは、コイルには「アマノジャクのように相手に逆らう性質がある」という説明を採用しています。
コイルを擬人化して、コイルを貫く磁力線が変化するとき「その磁力線の変化を妨げる向きに誘導起電力が生じる」としたのです。
もちろん、コイルにそんなアマノジャクな人格があるわけではなく、あくまでも自然現象ですが、このように理解することで、コイルが磁場の変化に応じてどの向きの誘導起電力を生じるかということがわかりやすくなったのです。
いってみれば、フレミングの左手の法則と同様に、なぜそのような現象が起こるかを説明する法則ではなく、どのように起こるかを説明する法則です。
高校物理では、電磁誘導の説明を一時間終えた後、するどい学生から「真面目に聞いていたのだが、結局、なぜ電磁誘導現象が生じるのか、さっぱりわからなかった」という声が上がります。
ファラデーの法則は、電磁誘導現象の原因を解明する法則ではないので、それがわからないのは当然なのです。
それは、フレミングの力と同じく、導線内の動く自由電子が磁場から受けるローレンツ力が原因で起こる現象です。
電磁誘導の応用例。
渦電流と呼ばれる現象です。
金属には自由電子がいっぱい含まれているので、コイルの形になっていなくても、金属のそばで磁場を変化させると、自由電子がローレンツ力を受けて円運動をして、それにより誘導電流が生じます。これが渦電流と呼ばれるものです。
誘導電流がつくる一時的な電磁石は、磁石の動きを妨げる向きに生じます。その結果、本来磁石には強く反応しない、反磁性や常磁性の金属も、磁石に強く反応するようになります。
磁石が遠ざかれば引き合い、磁石が近づけば押し合うという、反応です。
この実験は100円ショップで売られているネオジム磁石(強力磁石という名称)と硬貨があればすぐにやれます。
ご家庭でも試せますので、やってみてください。
こちらが、その説明です。
渦電流などの電磁誘導効果は、コイン選別機やIHとして、実用化されています。
最近よくみかけるようになった、コードレス充電も、その応用例の一つ。
こちらが、コードレスで電力を輸送するデモンストレーション実験です。
これをさらに規模拡大したのが、かのテスラが挑んだ「世界システム」です。
まだマルコーニの無線通信も登場していないとき、テスラが考えた無線通信とエネルギー伝達を兼ね備えた巨大送信塔。資金力が尽きて失敗に終わりましたが、その発想は今は(もっと小規模ですが)実際にエネルギー伝達システムとして実用化の段階に入っています。
これが、電磁誘導の最後の探求実験。
巨大コイルが作っている磁場は、音源の音の情報を含んだ状態でつねに変化しています。それを捉えて、音にもどす装置を作り、どういう状態だとよく聞こえるかを調べる、という実験。
その結果については、次回、ということにさせてください。
関連記事
〜ミオくんと科探隊 サイトマップ〜
このサイト「ミオくんとなんでも科学探究隊」のサイトマップ一覧です。
*** お知らせ ***
日本評論社のウェブサイトで連載した『さりと12のひみつ』電子本(Kindle版)
Amazonへのリンクは下のバナーで。
『いきいき物理マンガで冒険〜ミオくんとなんでも科学探究隊・理論編』紙本と電子本
Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。
『いきいき物理マンガで実験〜ミオくんとなんでも科学探究隊・実験編』紙本と電子本
Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。