とっぴ「あのさ、スキーに行った時に、カセットコンロでお湯を沸かして、カップラーメンを作ったんだけどさ・・・」
とっぴ「あんまりおいしくなかったんだよ。メンがゆできれてないっていうか」
ろだん「それ、おれも経験あるぜ。山で料理したら、生煮えだった」
ミオ「それ、ダーウィンさん(上のイラスト)もろだんと同じ経験をしてて、日記に残してるよ。19世紀にビーグル号で、探検隊といっしょに高い山に登ってジャガイモをゆでたとき、何時間ゆでてもゆだらなかったんだ」
とっぴ「へえ〜、そうなの」
ミオ「ダーウィンは圧力釜で沸点が高くなるのを思い出して、この現象はその逆だと理解したんだ」
あかね「えっ、圧力釜って、圧力鍋のこと? そんなもの、ダーウィンの時代にあったの?」
ミオ「圧力釜はダーウィンの時代より200年くらいまえに発明されてるよ。ボイルの法則って知ってる?」
むんく「温度が一定の時、気体の圧力と体積が反比例するっていう法則」
ミオ「そう。あの法則を見つけた、イギリスのボイルさん(*1)・・・その助手に、フランスから来たパパンさんっていう人がいて、その人が発明したんだ。本にして発表したのは1681年のことだよ」
(*1)冒頭イラストの人。
あかね「じゃあ、今からだと・・・340年前? そんな昔に?」
ミオ「圧力が上がりすぎると容器が爆発して危険だから、それを防ぐための圧力弁もついていた。いま使われている圧力鍋と、ほとんど同じ構造だよ」
あかね「うわあ、その本、読んでみたいな。図書館とかで読めますか?」
ミオ「本のタイトルは残っているけど・・・本そのものは残っていないんじゃないかな」
とっぴ「ええと、タイトルって、どんな感じ? 圧力で料理しちゃうぞ〜、みたいな?」
あかね「何いってるの?」
ミオ「あー、でも、とっぴの感覚って、近いかも」
あかね「え?」
ミオ「その本のタイトルは、最近のライトノベルなんかの長ったらしいタイトルに似てるよ。『新しいダイジェスター(*2)、または骨をやわらからするためのエンジン。その作り方と、次のようなさまざまの場合、すなわち料理、航海、菓子製造、飲料製造、医薬、染料における使い方の記述を含む。あわせて、かなり大きなエンジンの制作費と、それがもたらす利益の計算をそえる』・・・これが、本のタイトル」
(*2)「ダイジェスター」は、パパンが発明した圧力釜につけた名称。
ろだん「いや、それ、ラノベのタイトルより何倍も長いぞ」
ミオ「当時は、こういう長いタイトルの本が流行っていたんだよ。今のラノベのタイトルよりかなり長い」
むんく「流行は、繰り返す・・・」
ろだん「そうだな。ラノベみたいにいうと、『新しい圧力鍋が骨をやわらかくして、いろんなことに利用できる件』みたいなタイトルになりそうだ」(*3)
あかね「なんか、やだなあ」
とっぴ「いや、おもしろいよ!」
(*3)今回の記事のタイトルも、それをオマージュしてつけてみました。
ミオ「パパンは、ボイルの元で気体の研究をしていたから、気圧によって液体の沸点が変わることを知っていた。これを利用して、高気圧にすれば水の沸点が100度より高くなるから、具材をよりやわらかく煮ることができると考えたんだ。パパンは圧力釜を広めるために、たくさんの人を呼んで、圧力釜で作った特上の料理をふるまった。今でいうと、CMだね」
とっぴ「へえ〜、おもしろそう」
ミオ「パパンの圧力釜は評判を呼んで、王様も買い上げたくらいだよ。ダーウィンはその200年後に山に登ったとき、圧力釜の仕組みを思い出して、気圧の低い高山では、水が沸騰する温度が低いので、ジャガイモが煮えないと気がついたんだよ」
あかね「圧力鍋だと、沸点はどのくらい上がるのかしら」
ミオ「気圧を2倍くらいに上げると、沸点は20℃くらい上がる。料理の時は20度上がるだけで、ずいぶん結果が違うんだ。早く煮えるし、よりやわらかくなるね」
【参考】
『エピソード科学史4』現代教養文庫Aサトクリッフ、APDサトクリッフ著、市場泰男訳
『日常の物理事典』東京堂出版近角聡信著
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