氷がすべるのはなぜか?〜本当の理由 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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ファラデー


とっぴ「いやぁっほーい・・・あれ? 何見てるの?」
ひろじ「これ? サイエンス(サイエンティフィック・アメリカン日本版)のDVD-ROM版(*1)」
とっぴ「なになに・・・氷表面の謎を解く・・・なんだか、難しそうな記事だね」
ひろじ「物理では有名な話題だよ。ただ、ぼくが思ってたのとは違う内容だったので、じっくり、いろんなことを考えながら、読みなおしていたところ」
とっぴ「へえ、ひろじさんも、迷うことがあるんだね」
ひろじ「なにいってるの。ぼくは迷ってばかりだよ。その点では、とっぴくんと同じかな」
とっぴ「えへへ。で、どんなことで迷ってるの?」

ひろじ「スケートやスキーで、氷や雪がよく滑るのはなぜかって話題。例えばこっちの本には、氷はなぜ滑るのかというタイトルで、熱力学で計算した結果が書いてある(*2)。スケートの場合、スケートが氷の表面を押しつける圧力で、氷点(融点)が下がるのは0.9Kという計算結果なんだ」
とっぴ「ええと、融点が下がるってことは・・・」
あかね「氷が溶ける温度がセ氏0度じゃなくて、セ氏-0.9度になるってこと。つまり、氷が融けやすくなるってことでしょ」
ひろじ「その通り。圧力で氷が融けて水になるために、スケート靴やスキー板が氷や雪の上でよく滑るようになるというのは、たいていの教科書で説明されている内容なんだ」

ろだん「あれ? でも、雪山の雪って、セ氏0度じゃないだろ。セ氏-5度とか、-10度とか、かなり低い温度だぜ。それで0.9度融点が変わったって、氷は融けないだろ」
ひろじ「まさに、それがぼくも疑問に思っていたことなんだ。圧力効果だけでは、低い温度の氷や雪でスケートやスキーができる理由が説明できない。それを補完する説明がなんだか、知ってる?」
あかね「わたし、聞いたことあるわ。摩擦熱よ!」
ひろじ「そう! この本にも、スケート靴やスキー板が摩擦で氷面を融かすことが、よく滑る原因だと思われる、と書いてある。ほとんどの本が、この二つ、圧力効果による融点降下と、摩擦熱による氷の融解が、氷がよく滑る原因だと書いてあるんだ」
ろだん「それでいいような気がするけどな。何で迷ってたんだよ」
ひろじ「それは・・・」
とっぴ「そっか! だって、摩擦熱が生じるためには、滑らなくちゃいけない。でも、低い温度の雪だと水がまだできていないから、滑らない・・・」
あかね「あ・・・」
ひろじ「そうなんだよ。この説明をしていて、一番ひっかかるのは、それだった。氷が融けて水になるから、滑る。滑るから摩擦熱が生じる。それで氷が融ける・・・ところが、一番最初のところで、とっぴくんがいうように、矛盾があるんだ」
ろだん「そういえば、そうだな」

とっぴ「じゃ、最初にさ、もう、氷がとけて水になってるところがあったんじゃない? だから、滑り始めるんだよ」
ろだん「氷点下5度とか10度とかで、どうやって、氷が水になるんだよ」
ひろじ「まさに、その話が、サイエンスの記事で紹介されていたんだ。古くは、ファラデー(テーマイラスト)の実験に遡る」
あかね「ファラデーって、あの、電磁誘導のファラデー?」
むんく「電場や磁場を考えた、ファラデー?」
ろだん「電気分解の実験とかの、ファラデー?」
ひろじ「そう。このサイエンスの記事によれば、ファラデーは、1842年に、氷点下にある氷の表面に、液体の薄い層があることを実験で確かめている。同じ頃、あのチンダルも同じ実験結果を示しているそうだ。これらは、【表面融解】と呼ばれる現象なんだって。でも、トムソン兄弟(弟は後のケルビン卿)は、1849年に、先ほどの本にあった、圧力による融点降下説を唱えて、表面融解説に反論した。さらに、さっきの氷点下10度でも氷が融ける現象の説明として、1939年に、ケンブリッジ大学のボーデンとヒューズが摩擦熱説を主張した。この二つが、今の教科書や科学解説書の説明に使われているんだ」

あかね「【表面融解】って、氷点下なのに、表面が水になっているの? そんなの、おかしいでしょ?」
ひろじ「表面融解現象が厳密に実験的に確かめられたのは、1985年と1986年の二つの実験なんだって。今から40年も前のことだけど、物理の理論が教科書レベルに定着するのには時間がかかるから、一般に広まっていなかったということだろうね」
とっぴ「氷点下で、融けてるって、どうして?」
ひろじ「とっぴくんは、どう思う?」
とっぴ「もし、そんなことがあるなら・・・ええと、氷の温度が、表面だけ高いとか・・・」
あかね「なにいってるのよ。そこだけ温度が高いなんて、へんよ!」
ろだん「そうだ。温度は表面でも内部でも同じだろう? 熱平衡ってもんがあるぜ」
とっぴ「ええと・・・でも、表面の分子は、内部の分子より、動きやすいんじゃないかな。内部の分子は、ぎゅっと詰まったところにあるけど、表面の分子は、空気に接してて、動きやすい・・・」
ひろじ「お、すごいな。とっぴくん。だいたいのイメージは【表面融解】説と同じだよ。【表面融解】説では、同じ温度の氷でも、内部の分子は四方八方の分子との間で、分子間力の結びつきがあるから、動きにくい。ところが、表面近くでは、分子相互の結びつきの数が少ないから、分子は動きやすくなる。そのために、氷点下でも、氷の表面は流動的な、液体に近い状態になっている。これが【表面融解】現象の理論だよ。これらの現象の実験データは、1985年に鉛の結晶で、1986年にアルゴン・ネオンの薄膜で得られた。それ以来、研究者の間では【表面融解】が、すべての固体で起こるのが常識になったと、この記事には書かれている」
ろだん「すごい! おれにも、その記事読ませて!」
ひろじ「この【表面融解】が教科書に載るようになるのは、もっと時間がかかるだろうね。クォークの話が物理の教科書に載ったのは、6番目のクォークが見つかってから。ゲルマンが最初にクォーク説を唱えてから、何十年も経っている」

とっぴ「ぼく、スキーに行きたくなっちゃったなあ」
あかね「何いってるの? 冬がようやく終わったばかりなのに」
ろだん「でも、確かに、実験して確かめてみたいな」
むんく「南半球に行けばいい」
とっぴ「それ、いい!」
あかね「その旅費、部費で出ると思ってるの?」

(*1)「日経サイエンスDVD-ROM版記事データベース2000→2004」2000年4月号、日経サイエンス社
(*2)「日常の物理事典」近角聡信著、東京堂出版

 

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