クリーヴランドの騎兵隊のために作曲されたこの「黒馬騎兵中隊」はスーザの作品の中でも人気のある作品だ。その名のとおり、馬が歩く雰囲気が表現されている中間部が印象的である。
この作品の初演時のエピソードは有名だ。黒馬を連れた騎兵隊の一団が会場に登場し、ステージ上に整列したといわれている。この作品はブラスバンドで聞くのもすばらしいが、個人的にはロサンゼルス・ギター・カルテットの演奏がとても印象に残っている。ギター4本がスーザのリズム感を際立たせ、曲の雰囲気を的確にかつ大胆に表現しいる。とにもかくにも名曲だ。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
ロサンゼルス・ギター・カルテット[1994年or1995年録音]
【DELOS:DE 3163(輸)】
この名前を聞いてウィーン・フィルを思い出す人はかなりのウィーンフィル愛好家と感服する限りだ。ヘルメスベルガーは20世紀初頭にウィーンフィルでコンサートマスターを務めていた音楽家である。あまり知られていない彼だが、実は曲も書いている。
その彼の作品を身近に聴ける音盤があるので紹介する。小澤征爾がウィーンフィルのニューイヤーコンサートを指揮した時の録音した物である。この演奏会は最近のニューイヤーコンサートの中ではかなり印象に残る演奏だったと勝手に思っており、このヘルメスベルガーの録音がこのコンサートの白眉だったと思う。ウィーンの香り漂う中、小澤がオーケストラを柔軟に操り、熱狂と興奮をムジークフェラインにもたらしている。多くの人が手にしている音盤なので、もう一度聴き直して頂けると幸いである。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
小澤征爾/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団[2002年1月録音]
【PHILIPS:468 999-2(輸)】
古今のヴァイオリン協奏曲の中で、最も長大なヴァイオリン協奏曲のひとつといえるのがこのエルガーの作品だ。演奏によっては50分にも及ぶものもあり、ソリストによっては実につまらない時間になってしまう超難曲といえる。録音そのものもそんなに多くなく、ハイフェッツやメニューイン、パールマン、ケネディ、竹澤恭子の録音が代表的だったが、このヒラリー・ハーンの録音が出たことで、この曲の魅力を再認識するいい機会になったといえるかもしれない。シェーンベルクの協奏曲のときもそうだったが、超絶技巧を要する難曲を「難曲と感じさせない余裕」で乗り切る彼女の表現力には常に感服させられる。この厳粛にしてロマンティックなエルガーもしかり、聞かせどころを弁え、歌心に溢れ、時には劇的にしてエネルギッシュな表情をも見せ、彼女の音楽的許容の広範さを存分に感じることができる。デイヴィスとロンドン響のエスコートも素晴らしい。



【推奨盤】

乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床


コリン・デイヴィス/ヒラリー・ハーン(Vn)/ロンドン交響楽団[2003年10月録音]

【DG:00289 474 5042(輸)】
正式には『ホワイトハウス・カンタータ-ミュージカル《ペンシルヴェニア通り1600番地》からの情景』と題されたこの作品。祖国アメリカの歴史を風刺したカンタータで、バーンスタインらしいジャンルを超越した様々な音楽的要素が盛り込まれている秘曲である。ホワイトハウスを舞台に、歴代の大統領が続々登場し、南北戦争の前後100年余りの歴史的な出来事を、辛辣に描いている。ワシントン、モンロー、ブキャナン、ルーズベルトなど、名前だけでは音楽はなかなか想像し難いが、聴いてみるとそれはそれで結構面白く聴ける。
大統領役のトマス・ハンプソンを始めとする歌手陣も豪華で、演奏の水準は極めて高い。バーンスタインのミュージカルの「ノリ」が好きな方には、新たなバーンスタインの世界に触れられると思う。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
ケント・ナガノ/トマス・ハンプソン/ジューン・アンダーソン/バーバラ・ヘンドリックス/ロンドン・ヴォイセズ/ロンドン交響楽団[1998年9月録音]
【DG:463 448-2(輸)】
1748年のオーストリア継承戦争の終結のために開かれたアーヘンの和議を祝うために作曲されたもので、文字通り花火を打ち上げながら演奏されるために作曲されたものだ。当時のイギリス王の意向で初演時は弦楽器が含まれておらず、実に強大な編成だった。オーボエ24、バスーン12、ホルン9、トランペット9、コントラバスーン1、ティンパニ9、スネアドラム3、というもので、さぞや勇壮なものだったに違いない。ここで紹介する、ピノック版は意外と大人しい。勇壮というよりは優雅な響きであり、これはこれで美しい。気宇壮大なサウンドを期待して聞くと、拍子抜けしてしまうかもしれない。今日は、オリジナル版よりも、ヘンデルが強く主張していた弦楽器を含むもののほうが広く演奏されてるが、たまには強大な編成のものも面白く聞ける。



【推奨盤】

乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床


トレヴァー・ピノック/イングリッシュ・コンサート[1996年録音]

【ARCHIV:453 451-2(輸)】
大バッハの作品を編曲したものとなると、まず先にストコフスキーの名前が挙げられる。しかし、その名前になかなか挙がらないのがシェーンベルクである。シェーンベルクは無調から十二音技法を創始し、独自の音楽世界を創出した20世紀を代表する作曲家である。そんな彼だが、バッハやモン、ヘンデル、ブラームスの作品をオーケストラ版に編曲をしてもいる。シェーンベルクの編曲の特徴は、その作品が持つ特性を充分に活かした音楽的な拡がりが特徴といえ、特に、管楽器と打楽器の効果的に使い、原曲のイメージを大事にしつつも、斬新な響きを産み出しており、一風変わった毛色を見ることもできる。

今日紹介するバッハの『聖アン』もそれが顕著にみられる。少し大味な雰囲気が感じられるエッシェンバッハの演奏ではあるが、原曲の持つ壮麗でかつ、厳粛な雰囲気を存分にオーケストラで表現しているといえる。



【推奨盤】

乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床


クリストフ・エッシェンバッハ/ヒューストン交響楽団[1995年録音]

【RCA:09026-68658-2(輸)】
ドイツの軍隊行進曲には、どの曲にも独特の剛健さが感じられるがこのバーデンヴァイラー行進曲はひときわその印象が強い。本来は「バドンヴィレ行進曲」と言われており、第一次大戦でフランスのバドンヴィレの町を占領した記念に、連隊の軍楽隊長が作曲したものであるが、ヒトラーがこの曲をこよなく愛したことでドイツ風に発音して「バーデンヴァイラー行進曲」と呼ばれるようになったといわれている。ドイツ国内での演奏は注意が必要と言われているものの、当時のドイツ行進曲の代表作として、海外ではしばしば紹介される歴史的意義の深い作品といえる。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
ヴィルヘルム・シュテファン大佐/ドイツ連邦軍司令部軍楽隊[録音年不詳]
【PHILIPS:PHCP-20257】

現在のクラシック音楽界の中で、独自の世界を確立している作曲家のひとりとして数えられるのが吉松隆である。「世紀末抒情主義」を提唱し、現代音楽の典型でもある非音楽的なサウンドとは相反する作品の数々を世に送り出している。


ここで紹介する『星夢の舞』もまた、彼独特のサウンドだ。邦楽器のために書かれた舞曲集で、横笛、尺八4,篳篥、笙、三味線、琵琶、十三絃4,二十絃2,十七絃2,打楽器2、という比較的大規模な編成の邦楽アンサンブルのための作品だ。10の短い舞曲から成り、吉松の作品らしく調性的で、幻想的な世界が繰り広げられている。時折垣間見えるロックにもジャズにも通じる雰囲気は、さながら90年代に流行ったフュージョンバンドの「ノリ」をも感じる事ができる。まさに、「和洋折衷」の極みといえる。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
板倉康明/吉村七重(二十絃筝)/日本音楽集団[2006年3月録音]
【Camerata:CMCD-28116】

チャイコフスキーの大序曲『1812年』。名曲の誕生は決して順調とは言い難いもので、これは実に有名な話だ。工業博覧会の為に書かれたものだが、作曲家自身が「お祭りのために作曲するとは、全くつまらないことだ」と語り、「巨大で騒がしく、暖かい愛情などなく書いたので、芸術的価値はないだろう」とも述べている。鐘を鳴らし、大砲が轟く実に「賑やかな」フィナーレは、上述にあるような意味合いが顕著に体験出来るが、やはりチャイコフスキーの作品だけあって、聴き手は充足感を得る事ができる。それ以上に疲れるのも確かだが…。
そこで今日は実際に大砲をぶっ放し、教会の鐘を「ここぞ」とばかりに鳴らし、合唱も加わる録音を紹介する。名匠ヤルヴィの絶妙なバランス感覚を体験できる録音といえ、必聴の価値はあるだろう。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
ネーメ・ヤルヴィ/エーテボリ砲兵隊/エーテボリ交響楽団合唱団/エーテボリ交響楽団[1989年6月録音]
【DG:POCG-4118】

1977年の全日本吹奏楽コンクールの課題曲であり、今では吹奏楽愛好家の中ではバイブル的な存在になっている東海林修の『ディスコ・キッド』を満を持して紹介する。

吹奏楽コンクールの課題曲にしては破天荒なまでにノリがよく、エレキベースとドラムスが駆使されるポップス調の作品だ。この作品の録音はいくつも残されているが今日はあえて2種類紹介する。

まずは佐渡裕が指揮するシエナ・ウインド・オーケストラの録音。ライブ盤ということもあり、また、日本を代表する演奏家ということもあって、その演奏の技術とパッション、魅せ方と聞かせ方は天下一品だ。バーンスタイン仕込みの佐渡ならではのダイナミックな演奏は、ライブならではの高揚感を伴ってボルテージは最高潮に達する。それがこの演奏の一番の魅力だ。

もうひとつ・・・、加養浩幸が指揮する土気シビックウインド・オーケストラの録音を紹介する。日本屈指のアマチュア吹奏楽団で毎年コンスタントに録音を残しているバンドだ。云わずと知れた全国大会の常連であり、その技術とアンサンブル能力はアマチュアの域を超越したものがある。そんなバンドが奏でる『ディスコ・キッド』は、予想通りに上手い。折り目正しい楷書的な演奏ではあるが、理性的なパッションの表出がスタジオ録音であるがゆえと感じる。下手なプロの演奏を聴くくらいなら土気シビックの演奏に大枚を叩いたほうが無難な気がする。そんな気にさせてくれる彼らの演奏だ。
プロアマそれぞれ日本を代表するバンドで聴く『ディスコ・キッド』。吹奏楽の楽しさを存分に味わえるものであるのは確かである。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
佐渡裕/シエナ・ウインド・オーケストラ[2004年12月録音]
【avex:AVCL-25036】


【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
加養浩幸/土気シビックウインド・オーケストラ[2009年2月録音]
【CAFUA:CACG-0131】