トヨタ自動車の小型ハイブリッド車「アクア」は発売約1カ月で12万台を受注したそうだ。昨年末に復活した補助金の追い風を受け、燃費のいい「エコカー」が国内市場で快走している。
日本自動車販売協会連合会(自販連)と全国軽自動車協会連合会が発表した1月の新車販売台数は、41万5931台と、前年同月実績を36.2%上回るなど、うらやましい状況だった。
前年比プラスは4カ月連続。エコカー補助金の復活を決めた政府方針を追い風に、1月としては過去最高の伸びを記録。
他方で、視点をガソリンスタンドに移すと全石連が、今後5年間のガソリン販売予測を年率4.1%の減少が続く見通しと発表しているなど、厳しい状況が続く。
今後も減販が続く要因としては、
①人口の減少、高齢化により車を利用する人口が減少する
②ハイブリッドなど省燃費車が増加する
③若者のクルマ離れが進む
④EV(電気自動車)の普及に伴いガソリン車が減少する
などの点があげられる。
やはり消費者のふところをかんがみると燃費のいい「エコカー」が自動車増産のカギをにぎるようだ。
ハイブリッドを牽引し、ガソリンスタンドを苦境に追い込んでいる(≒消費者を守ってもいる?)トヨタ自動車は、ハイブリッド車の国内外での累計販売台数が、昨年の3月に300万台を突破したと発表した。(トヨタ調べをグラフに示す:http://www2.toyota.co.jp/jp/news/11/03/nt11_007.html)
!["ナレッツェリア"-ハイブリッド](https://stat.ameba.jp/user_images/20120221/00/hamamatsucyo/2e/18/j/t02200421_0786150411807167019.jpg?caw=800)
ハイブリッド車の急拡大とはうらはらに、痛い思いをしているガソリンスタンド(以下SS)の店舗数推移は統計的に“-0.96”という負の相関関係をしめしている。つまり「ハイブリッド車の拡販」と「SS減少」は、はっきりとした負の相関関係が認められたのだ。
2009年以降のハイブリッド車の急拡販の裏に秘められた消費者の可処分所得の減少や原油価格の高騰を総合した代替変数として「SSの店舗数の推移」に着目したわけだ。そこで「SS店舗数の推移」をもとに「ハイブリッド車の需要予測」をおこなってみた。
結果は、真ん中のグラフをごらんいただきたい。予測モデルとしては重回帰モデルの一種となるが説明力は99%の説明力を持つことが判明。
第三のグラフがこのハイブリッド車需要予測モデルの「予測誤差」の散布図。
どうみてもバラバラ。
つまり予測モデルの“誤差”には一定の法則性が見当たらない。時間とともに誤差が一定の比率で拡大していたり、その逆となると予測モデルが怪しいということ。
これを判定するダービン・ワトソン比を計算してみた。
DW比
1.774592928
これが1.5~2.5の間にあれば大丈夫。
(※ダービンワトソン比については別途解説)
ここでは「ハイブリッド車」の需要予測モデルを組み立てるのに相関関係のハッキリしている統計を利用してみた。
ハイブリッド車の需要予測を単純に実行するのではなく、SS店舗数との相関係数を分析し、さらに予測誤差のダービン・ワトソン比を計算して誤差の自己相関がないことを検証した。
このような一連のステップをサポートするソフトを予測分析システムと置づけることができる。
話を、ハイブリッド車から自動車全体に移そう。
我が国を牽引する自動車業界のサプライチェーンの特徴の一つに「内示-引取りかんばん方式」があげられる。
これは自動車会社が、車種ごとに翌月・翌々月における部品の調達見込数量を、あらかじめ部品メーカーに対して「内示」の形で示し、当月の納入は「引取かんばん」で時間単位で確定指示を行うものである。
引取かんばんを受け取った部品メーカーは、あらかじめ定められた時間単位のリードタイムどおりに、その数量を生産しておさめなければならない。
この「内示-引取りかんばん方式」はクルマの生産が少なくとも2年以上は継続されることを想定して車両メーカーと部品メーカーのサプライチェーンを制御する重要な要因である。
!["ナレッツェリア"-内示引取り方式](https://stat.ameba.jp/user_images/20120221/00/hamamatsucyo/7c/c8/j/t02200166_0576043411807165739.jpg?caw=800)
上の図に内示引取り方式を図解してみた。部品メーカーは、あてもなく自社製品(≒部品)の“需要予測”を行うのではなく継続的に受領してきた「内示トレンド」のバラツキ、周期性、断層の発生などトレンド解析から取り組み、来月・来週以降を予測して在庫管理・発注管理に活かすことができます。
なぜなら、この業界特有の内示情報と「引き取りかんばん」は強い相関関係にあることを期待してもバチはあたらないからだ。通常は自動車メーカーが提示してきた「内示」情報は「引取り量」とそれほど齟齬のないようにしなければ部品メーカーとの相互信頼を失うことになる。
もしも「内示」と「引取りかんばん」に齟齬がないならば、「内示情報」と「引取りかんばん」は相関関係を持つはずだ。
内示をトレンド解析してみて、予測に活かすコツは
-内示数量のバラつきの変化でバッファー在庫量を変更(変動係数)
-トレンド・トラップの発生を捉えることで予測をチューニング(周期性、レベル変化、断層発生)
-内示、引取りかんばん実績の共分散、相関係数の変化を捉えることで予測方式を変更
-製造LT,輸出LTのバラつきの変化を捉えて基準在庫量を変更
!["ナレッツェリア"-トレンド・トラップ](https://stat.ameba.jp/user_images/20120215/07/hamamatsucyo/ce/5e/j/t02200165_0800060011795289944.jpg?caw=800)
※
トレンド・トラップは前回の記事を参照
などを捉えて、予測に反映させ、在庫管理に活かします。
トレンド解析の一例をあげると、
①変動係数が急激に変化した場合は・・・・予測アルゴリズムを変更します⇒積分系グレー理論
②周期性の歪みを特定・・・・・・・・・・予測パラメータを微修正します⇒ARIMA
ここでは
「内示情報」と「引取りかんばん」の相関関係が弱い場合を取り上げます。
通常は自動車メーカーが提示してきた「内示」情報は「引取り量」と相関関係がつよくなければ相互信頼を失いかねないのでうが・・・。
しかし、実際にはそうでもない自動車メーカーもあります。
大切なことは、トレンドデータにひそむ断層や歪を見つけること。そして予測を修正し在庫削減を実現すること。
もし先行情報である内示と引取りかんばんの間の相関関係が崩れたら相関係数が0に近づく
※(相関係数≒2 つの確率変数の間の相関を示す指標で-1 から 1 の間の実数値をとり、1 に近いときは2 つの確率変数には正の相関があるといい、0 に近いときは相関は弱い)
「内示・引取りかんばん」の相関係数>0.7・・・「内示・引取りかんばん」をもとに需要予測
「内示・引取りかんばん」の相関係数<0.7・・・「引取りかんばん」の自己回帰をもとに需要予測
グラフでは内示と引取りかんばんの相関係数は0.5と0.7より小さく、相関が低い。つまり自動車メーカーの内示をあてにしていると痛い目にあうことが予想される。
そこで実際に引取ってくれた「かんばん実績」の自己回帰分析をおこない予測することにする。
!["ナレッツェリア"-引取りかんばん予測](https://stat.ameba.jp/user_images/20120221/00/hamamatsucyo/5d/82/j/t02200133_0422025611807165738.jpg?caw=800)
実際には「引取り実績」から自己回帰をとってもピンク色のグラフのように安定したトレンドを予測はできるが現実離れしてしまう。
そこで、予測誤差を活用することにする。この自己回帰プラス予測誤差から予測する方法こそARIMAモデルである。
この「引取りかんばん実績」からの予測をもとに定期発注量を決めることが出来る。
たとえばGMやフォードからの「内示」と「引取り実績」にもとづいて米国販社が日本の工場に毎月一回の発注をしているサプライチェーンモデルを思い出せばピッタリだ!
米国販社の定期発注量=予測/稼働日数×(発注間隔+製造LT+日本からの輸出LT)+予測誤差の標準偏差×√(発注間隔+製造LT+日本からの輸出LT)
この場合、予測精度も大切だが日本の製造納期回答精度や輸出納期回答精度も大切なファクターだということがわかる。
①製造納期が回答より遅れることが確率的に多くなれば発注量は増える(米国販社のバッファー在庫は増える)
②輸出の船便への積み込みが遅れる確率が増えると発注量は増える(米国販社のバッファー在庫は増える)
これを定量的に計算することが可能だ。
さらに『米国販社の3月末の時点の在庫金額を18億円に抑制したいが、何をどの程度在庫にしたらよいのかわからない?』
【その為には2月、3月にどの程度発注したらよいのかわからない】
という問題に具体的な回答がでる。
これが単純な需要予測システムや在庫管理システムとは違う!
予測分析システムは、トレンドデータにひそむ断層や歪を見つけること。そして予測を修正し在庫削減を実現することが可能になるのです。
次回は、この特定時点の「在庫ポートフォリオ」を予測分析システムでどのように実現するのかを解説します
(プロジェクトではバッファーシミュレーションによって納期とリソースのトレードオフ計算が可能)