今日はアニキの誕生日。38歳になった。
本を読むのが好きなアニキに、元気になってヒマつぶしに本でも読んでもらいたいと金属製のシオリをプレゼントした。プレスで打ち抜いたアルミ板に色を付けただけの物であるが、2000円近くもした高価な物だ。 しかし当のアニキは、体の痛みのため本を読むどころでは無かったと思われる。
夜中は病室に1人だけで痛みに耐えていたようだったので、少しでも気を紛らわして欲しいとこの頃からアニキの携帯にメールを送るようになった。
今まで用があるときしかメールをしていなかったので何を書いて良いか判らず、アニキ宛てにメールを書くことに違和感があった。なので大した内容ではなく、世間話程度のもの。
送信するが返信が来ない。 「アニキらしいや」と思っていたのだが、その頃のアニキはメールを読むことは出来るが打つことが難しかったらしい。打つのにかなりの体力を消耗してしまうのだろう。
何しろアニキが俺のメールを読んでいることが判ったので、返信は期待せずメールを一方的にアニキへ送ることにした。
話が逸れるが、その頃俺は記憶力が低下しているような気がしていた。
日常生活で判らないことなどがあった場合はまずネットで調べるのだが、帰宅したときには何を調べようとしていたのか思い出せないことが多いのだ。忘れていることすら忘れていることもあったかもしれない。
ニンニクから抽出できるアホエンという成分が記憶力回復に役立つというのを以前テレビでやっていたのを思い出し、オリーブオイルを使ってアホエン入りのオイルを作った。
調べてみるとこのアホエンという成分はガン予防に効果があると書いてあったので、アニキのために多めに作り病院へ持っていった。あくまで予防効果があるだけで既に増殖している腫瘍が無くなるということでは無いと思ったが、少しでもアニキの力になりたかったのだ。
出来上がったオイルは加熱するとアホエンの成分が壊れてしまうためそのままサラダなどにかけて摂取すると良いのだが、俺の説明が悪かったのかアニキはそのままオイルを飲んでいたらしい。
お袋伝に、「何かスゲー苦くて、喉がピリピリするんだけど、って言ってたよ」と聞いて笑ってしまった。
病院の面会時間は13時から。アニキの奥さんは毎日看病のために板橋区の実家から築地まで電車で通っていた。毎日面会時間開始の13時に来ていたそうだ。
ある日お袋が面会可能開始時刻より早めに面会に行ったところ、アニキが涙を流しながら弱音を吐いた。何日も続いている体の痛みがかなり堪えているのだ。
奥さんが到着するからと涙を拭った時には既に遅く、奥さんに「何で泣いてるの? 泣いちゃダメでしょ!頑張って治すんでしょ!」と泣きながら叱られたようだ。
実際アニキの奥さんは頑張っていた。
弱音を吐かない。 泣かない。 不安な様子を全く見せない。 諦めない。 入院しているときは毎日彼女の実家から病院へ通っていた。
強い人だ。