映画、音楽、アート、小説、料理など芸術に関する話題について、思いつくまま気の向くままアットランダムに書いていきます。★★★★★
シン・仮面ライダー鑑賞しました。あの仮面ライダーをどうやって一般向けの映画にするのか、興味津々でしたが、さすがに今回は、脚本に少し無理がありました。仮面ライダーやオーグ、ロゴのデザインはよかったですが、物語の本筋がよくわからず、緑川家族の私的な幸福論にまわりが巻き込まれてとんでもないことになっているといった感じです。CGはそれなりに良かったですが、展開が唐突、ショッカーの世界観が見えてこない。随所に仮面ライダーのオマージュがあり、ファンとしてはそれだけで嬉しいんですが、映画としてはちと微妙。(★★★)
グリーン・ディスティニーのミシェル・ヨーがマルチバースの世界を駆け巡るアクションエンターテインメント。正直ここまでぶっ飛んだ映像体験は見たことがない。あまりにもぶっ飛んでいるため、途中、なんの映画か、よく分からなくなるが、ちゃんと物語として成り立っているから凄い。キーになるのは、マルチバースというキーワード、超現実世界をいったりきたりで、もうやりたい放題だ。CG、バーチャルプロダクション、その他あらゆる映像表現を使って怒涛のアクションシーンが連続する。妄想に継ぐ妄想、常識を超えためくるめくイマジネーションは想像を超える。カット数が半端なく多く、見ていてちょっと疲れたが、氾濫する映像に慣れてしまっている今の私たちにとっては、十分許容できる範囲だ。(★★★★)◎エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス公式サイト
海沿いのレトロな映画館。主人公のヒラリーはこの映画館のマネージャーをしている中年女性。物語は影を感じる彼女を起点として展開する。上司との関係、同僚との関係、そして家族・恋人との関係。人はそれぞれが持つ社会性の中で生きている。自分では変えることができない環境の中で、自分はどうすべきか、人は誰しも、多かれ少なかれ、心の傷を負って生きている、その傷を癒してくれるのは人の優しさ。人は、人との関わりの中で生きてこそ、自分とは何かが見えてくる。「映画は人生そのもの」、そんな製作者の思いが伝わってきました。劇中で紹介される映画作品が懐かしかった。とにかく映像が美しい、こんな映画館があったら行ってみたい。(★★★☆)●エンパイア・オブ・ライト公式サイトエンパイア・オブ・ライト現代映画界&演劇界が誇る名匠サム・メンデス監督が満を持して、5度アカデミー賞作品賞を世に送り出したサーチライト・ピクチャーズとタッグを組んだ最新作。舞台は1980年のイギリス南岸の静かなリゾート地。本作はそこに生きる人々の絆と“映画と映画館という魔法”を力強く、感動的に描く、珠玉のヒューマン・ラブストーリー。www.searchlightpictures.jp
中学生の頃、NHK-FMで「映画音楽とともに」という番組をよく聞いていた。その時よく流れていたのが、「荒野の用心棒」「夕日のガンマン」といったモリコーネの音楽だった。映画「モリコーネ 映画が恋した音楽家」は、彼の半生を描いたドキュメンタリーである。本作は、モリコーネと馴染みの深い映画監督やミュージシャンのインタビューに加え、彼自身が自身を振り返る語りで構成される。それに合わせ、写真や記録映像。映画の名場面が時代をおって紹介される。この映画を見て感じたのは、映画音楽のスタイルを築いた彼の功績のすばらしさと、人生観だ。そして何より、映像と一体化した、メロディの美しさと、まるで、映像より先に、そこにサウンドが存在していたかのような音楽表現に魅了される。時代に翻弄されながらも、自分を信じて、前に進む彼の姿に感動し涙する。まさに、Life is beautifulな人生だ。(★★★★)◎海の上のピアニスト美しい少女に出会い一目惚れ、気持ちが伝わるピアノの音色/映画『海の上のピアニスト』本編映像2海の上で生まれ、生涯一度も船を下りなかったピアニストの伝説『海の上のピアニスト』。4Kデジタル修復版&イタリア完全版。訃報が届いた“マエストロ”と言われた映画音楽の巨匠 エンニオ・モリコーネの音楽使用部分の本編映像解禁!『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ監督と先日惜しくも91歳で亡くなった映...www.youtube.com◎ニュー・シネマ・パラダイス映画『ニュー・シネマ・パラダイス』デジタル・レストア・バージョン Blu ray BOX予告編映画『ニュー・シネマ・パラダイス』公開25周年記念して、4月6日に発売するインターナショナル版&完全オリジナル版を収録したBlu-ray BOXの予告編。#ニューシネマパラダイス#ジュゼッペトルナトーレ#エンニオモリコーネ#フィリップノワレチャンネル登録はこちら!http://goo.gl/ruQ5N7www.youtube.com
生まれつき耳が聞こえないケイコが、下町のボクシングジムでプロボクサーとなり戦い続ける物語。テーマ的には、小笠原恵子の原案のタイトル「まけないで!」のほうが本質を表している。これは、自分と戦う物語だ。現実を受け止め、自分と戦いながら、前に進むことの大切さを、この物語は教えてくれる。耳が聞こえないことで誤解され、話せないことで気持ちが伝わらない。彼女はプロボクサーとして自己を確立することで、人との心の交流を実感し、孤独感から少しだけ解放される。主演の岸井ゆきの演技、負けん気な目がいいです。暖かく彼女を見守る会長役の三浦友和のキャスティングもハマっています。カメラはそんな彼女の日常を淡々と追いかけます。派手さはありませんが、心に残る作品です。(★★★★)◎ケイコ 目を澄まして公式サイト
今年も、2022年勝手に外国語映画ベストテンを発表します。今年の外国語映画の鑑賞本数は20件。(少ないですが)第1位:トップガン マーベリック第2位:コーダ 〜あいのうた〜第3位:パワー・オブ・ザ・ドック第4位:女神の継承第5位:ザリガニの鳴くところ第6位:ザ・メニュー第7位:ホイットニー・ヒューストン 〜I wanna dance with somebody〜第8位:きっと地上には満天の星第9位:TITAN第10位:MENトップガンはダントツで1位です。追いトップガンという言葉に象徴されるように、ドックファイトの映像は何度見ても興奮します。2位のコーダは、人間愛、家族愛にみちた素晴らしい作品でした。それとは対照的だったのが3位のパワー・オブ・ザ・ドック。人間の弱さやとエゴを見事に物語で表現した作品でした。印象に残っている作品は、求め合う愛と欲望を狂気的に描いた「TITAN」。再生をテーマにしながら宗教的歴史観による妄想の世界を描いた「MEN」です。皆さんの今年のベスト映画はなんだったでしょう?ちなみに、主演男優賞は、トム・クルーズ(トップガン)主演女優賞は、アニャ・テイラー(ザ・メニュー)ラジー賞は、NOPE。<各映画賞関連サイト振り返り>第94回アカデミー:作品賞 コーダ〜あいのうた〜2022年 第94回 アカデミー賞特集(2022年) 全部門ノミネート・作品賞 - 映画.com映画.comが送る第94回 アカデミー賞特集。2022年 第94回アカデミー賞にノミネートされた映画作品を全部門ご紹介します。eiga.com第75回カンヌ映画祭第75回 カンヌ国際映画祭(2022年) - 映画.com第75回 カンヌ国際映画祭(2022年)の各受賞作品、ノミネート作品を紹介!eiga.com第72回ベルリン国際映画祭第72回 ベルリン国際映画祭(2022年) - 映画.com第72回 ベルリン国際映画祭(2022年)の各受賞作品、ノミネート作品を紹介!eiga.com
ベストヒットUSAのホイットニー・ヒューストン特集で、プロデューサーのクライブ・デイヴィスが出演していた。本作にも登場する伝説のプロデューサーだ。彼はインタビューの中で、本作は真実に最も近いと話していた。ホイットニー・ヒューストンの映画といえば、2019年にドキュメンタリー、オールウェイズ・ラブ・ユーがまだ記憶に新しいが、I WANNA DANCE with SOMEBODYでは、彼女の半生を人間ドラマとして見事に描いている。今回、映画を見て感じた事は、彼女が一人の人間として、支えてくれる人々の期待に応えながら、自分の人生を強く生きる事の大切さだ。特に音楽制作という意味で、プロデューサー、クライブが重要な意味を果たしており、ヒット曲がどのように生まれたかなど、その裏側が丁寧に描かれている点が印象に残った。そして、彼女を支える人々との人間関係。状況が変われば、人も変わる。お金の問題や嫉妬。衝突を繰り返しながらも、自らの人生を前向きに生きた彼女の人生は尊い。同世代の私にとって、スーパーボールでのアメリカ国歌の彼女の歌声や、映画ボディガードでの女優としての彼女の熱唱は、特別な記憶として、今でも深く心に残っている。(★★★★)◎ホイットニー・ヒューストンI WANNA DANCE with SOMEBODY
このイマジネーションどこから湧いてくるのか。映画「MEN 同じ顔の男たち」はエクス・マキナのアレックス・ガーランドの作品だが、本作も形のないものを映像と演出で見事に描いている。話の筋としては、夫の死を目の前で見た妻が、心の傷を癒すために田舎を訪れ、そこで不可解な出来事を体験するという物語だ。不可解な出来事とは、タイトルにあるように、出会う男が同じ顔であること。これが何を意味するかは、映画を見て確認してほしい。例によって、この作品、西洋的宗教観が背景にあり、我々日本人にとっては理解しずらい部分が多い。冒頭、主人公のハーパーが庭のリンゴをかじるシーンがあるが、これは旧約聖書でイブが蛇にだまされて禁断の果実を食べてしまうことと同じく、物語の始まりを示しており、この作品のテーマである、男と女の関係を示すプロローグである。何を意味しているかを理解するには、後半で起こる「その男たち」が巻き起こす不可解な出来事や彼らの話からその意図を推測するしかない。追いかけてくるように現れる謎の男たち、見透かされているような意味深なセリフ。まるで、悪夢を見ているようだ。(★★★☆)
特殊な嗅覚を持つ幼い娘が母の記憶に潜入する。封じられた過去が現在と交錯し、禁断のドラマが始まる。この映画の面白いところは、通常、回想という形で物語をさかのぼる形式をとる事が多いが、本作では、匂いから導かれる特殊能力という形でそれを表現しているところ。(つまり観賞者は、少女と一緒に回想シーンを傍観する)嗅覚の記憶はとても強い。少女は、写真を撮るように匂いを瓶詰めにして保管する。匂いによって呼び起こされる母の過去の記憶を見た娘は、最愛の母の本当の姿を知ってしまう。試される愛、親子の愛は勝てるのか?このあたり、若干難解だが、実にフランス映画らしい展開。ちなみに、映画のタイトル、ファイブ・デビルズは、町の名前という設定。(★★★☆)◎ファイブ・デビルズ公式サイト
ノースカロライナの湿地帯で発見された変死体。事件が事故か?偏見や先入観が渦巻くミステリー。この作品はベストセラーになった同名小説を映画化したものだが、物語の展開がとても面白い。原作の力はもちろんだが、手付かずの美しい自然描写に加え主演のデイジー・エドガー=ジョーンズの演技が素晴らしく、映画として素晴らしい作品に仕上がっている。物語の背景には、家族や社会に潜む問題があり、自然の摂理との対比によって、それらが浮き彫りにされる。単なるミステリーとは異なり、見方によっては、法廷や恋愛サスペンス的な要素もある。ジャンルは異なるが、「君を読む物語」の次のシーンが見たくなるような展開を思い出した。結末は、ラストシーンを見るまでわからない。(★★★★)◎ザリガニが鳴くところ映画『ザリガニの鳴くところ』 11月18日(金)全国の映画館で公開 | オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ全世界1500万部突破の記録的大ヒットミステリー、待望の映画化!事件の真相は、初恋の中に沈んでいる──。www.zarigani-movie.jp
いかれたシェフのフルコースサスペンス。料理や料理人を題材にした映画は沢山あるが、こういった視点の作品は、あまり記憶にない。絶海に浮かぶ孤島のレストラン。逃げ出すことはできない。ディナーが始まる。フルコースの料理が運ばれてくるワクワク感が突如として恐怖の緊迫感に変わる。顧客は一人を除いてすべて選ばれた客。目的はなんなのか?料理が提供されるたびに、その謎が少しずつ明らかになっていく。料理を提供するスタッフとゲストは表裏一体、集団心理や同調圧力の恐ろしさを感じる。心理的にも逃げ出せない。シェフ役のレイフ・ファンズのシリアスで神経質な演技が、不気味で良かった。主演のアニャ・テイラー=ジョイの自然体の演技は好印象。今後の活躍が楽しみ。(★★★★)◎ザ・メニュー公式サイト
ここはどこ?私は誰?。「君だけが知らない」は、記憶喪失になった主人公が病院で目を覚すシーンからはじまるサスペンスだ。この手の記憶喪失ものの映画はたくさんあるので、オリジナリティを出すのは難しい。主演のソ・イェジはいい演技をしていたし、それなりに面白かったが、あと一歩という感じであった。イメージとしては、冬ソナのサスペンス版といった感じで、韓流ドラマが好きな方のツボは掴んでいたであろう。社会的な側面がもう少し盛り込まれていたら、作品に厚みがでたと思う。(★★★☆)
映画「LAMB/ラム」は、山間に住む羊飼いの夫婦が、羊の出産に立ち会い、得体の知れない何かが生まれ、これを子供(アダ)として育てるという話ですが、一言で言うと、なんともいえない不気味な映画です。羊たちの視線、おびえる群れ、得体の知らない何かの違和感。淡々とした羊飼いの日常。静寂な山間で起こる不可解な出来事が、不安を誘います。映像表現として、得体のしれない何かの見せ方が秀逸です。一歩間違えば、チープになりそうですが、カメラアングルや、CG合成などを上手く使い、それなりのリアリティを創り上げています。テーマは、家族や親の愛ですが、設定の背景には、キリスト教的な世界観が反映されているようだ。(★★★☆)
映画「きっと地上には満天の星」は、ニューヨーク、地下鉄の廃トンネルで、育った少女と、母親の物語。本作には、実在の地下コミュニティの潜入記「モグラびと ニューヨーク地下生活者たち」という原案があり、監督のセリーヌ・ヘルド&ローガン・ジョージが脚本を手掛けている。生まれてから一度も地上に出た事のない5歳の女の子、リトル。必死で我が子を育てる麻薬依存症のニッキー。ある日、不法住居者に市の職員による強制執行がはいる。我が子と引き離されたくないニッキーはリトルとともに地上に逃げだす。二人はどうなってしまうのか?必死で我が子の存在を隠すニッキー、本当の愛とはなんなのか?親の愛が試される。なんというリアリテイ、秀逸な脚本。主演は監督のセリーヌ・ヘドロが演じている。今後も彼女の活躍に注目だ。(★★★★)
NOPEとはNOの代わりに使うスラングのようだが、予告編では「無理」という日本語が当てられている。この作品は未確認飛行物体にさらわれるアブダクションものの部類にはいるだろうか?なんとも言いようのない不思議な映画であった。未確認飛行物体は、未知なるものであるから、何がどうなっているのかは、わからない。ただ、現実におこる現象だけが謎を解く鍵だ。未確認飛行物体の比喩だったのか、タレント猿のエピソードが出てくるが、何が言いたかったのか、今一つよくわからなかった。逃げ惑う人間や、未確認物体の接近を認知するための演出などは面白かったが、未確認飛行物体の描写に違和感を感じた。この点がもう少し、ふに落ちる表現であったら、かなり恐ろしい映画にに仕上がっていたかもしれない。(★★★☆)
HIP HOP界の2代スター殺害事件の実話をもとにしたフィクション。L.A.の犯罪もといえば、警察の腐敗や犯罪組との癒着といったイメージがあり、ロス暴動など、人種差別的な事件が思い出される。本作は、引退後もこの事件を追いかける元刑事(ジョニー・デップ)と二人の事件を記事にした記者(フォレスト・ウィテカー)による真相の追及が見どころであることは言うまでもないが、警察の腐敗や人種差別がここまで酷いものだったのかと、目を疑うシーンの連続。法の番人である弁護士や警察官の信じられない行動や発言がどこまで真実かはわからないが、恐ろしい世界である。この映画、話が複雑で、回想シーンなど時間軸が前後するので、難解なところもある。現在も未解決の事件であり、アメリカ社会のダークな部分を感じさせる作品だ。(★★★☆)◎L.A.コールドケース
物語はドキュメンタリー制作のクルーが、霊媒師のニムの密着取材をするところから始まる。スピルチャルな儀式、関係者インタビュー。よくあるドキュメンタリー映画の展開だ。撮影クルーによるドキュメンタリー風の手法は、ヴィレアウィッチプロジェクト依頼、多くの作品で使われているが、この映画、ただ怖い映像を見せるだけにとどまらない。撮影スタッフは、ニムの取材中に姪のミンの奇行を目の当たりにし、女神の継承の現場を撮ることに目的を変更する。ここからが本編、怒涛の恐怖シーンの連続である。ネタバレになるので、ここから先の内容は差し控えるが、心霊現象や悪魔付き的な表現が見事で、本当に怖い。ドキュメンタリー的な設定が、実際に目の前で起こっている事のように感じられ、その場に立ち会ってるような感覚に陥る。物語の展開も予定調和ではなく、思いもよらぬ驚愕の展開に度肝を抜かれる。「女神の継承」韓国ホラーのレベルの高さを感じさせる一本だ。(★★★★)
30年ほど前に沖縄で白タクに乗った時、運転手のおっちゃんが、空港につくまで、カセットテープでずっとエルヴィスを流し、エルヴィスの思いを熱く語っていた経験が今でも忘れられない。 私自身、実際にエルヴィス・プレスリーを生で見たことはないが、写真や映像で見る彼には、なんとも言いようのない物悲しさを感じていた。映画エルヴィスは、そんなエルヴィスの一生を描いた伝記的な映画映画であるが、輝かしいスーパースターとしての活躍の裏にある苦悩や音楽に対する情熱を追体験できる作品である。物語は、彼のプロデューサーとなるトム・ハンクス演じるパーカー大佐の視点で進行する。パーカー大佐とエルヴィスに対する影響力は強く、作品としては、「エルヴィスとパーカー大佐の物語」と言っても良いくらいである。この映画は娯楽映画としても優れていて、ミュージカルと行っても良いぐらい、全編を通じて音楽が流れている。音楽は黒人音楽であるリズム&ブルースやゴスペルから始まり、エルヴィスによって、ロックが形づくられ醸成していく。そういった意味では、エルヴィスを知らなくても、一見の価値は十分あるだろう。背景として重要なのが、人種差別や政治的な問題だ。エルヴィスの音楽は、そんな時代から生まれたものであり、もがき苦しみ、犠牲をともないながら、音楽に捧げた彼の人生に感銘を受ける。(★★★★)
これは、紛れもなく愛の映画である。表面的に見れば、猟奇殺人の問題作であるが、愛の世界を描いた作品だ。父親の愛に飢えた少女アレクシアと、失踪した息子への愛に生きる消防士。この二人の運命的な出会いによって物語は新たな局面を迎え、クライマックスまで一気に突き進む。感覚的には、ベティ・ブルーやトリコロール三部作の記憶が一瞬蘇ったが、それらには無い、多様性のが叫ばれる今の時代を感じさせる異次元の愛の世界を見せてくれる。物語は決して堕ちていくわけではなく、結実に向かいながらも、なんとも言いようのない悲哀を感じさせてくれる。この映画の凄いところは、なんといっても主演ふたりの熱演である。特にアクレシアを演じたアガト・ルセルの体を張った演技は強烈だ。まさに命がけ、ここまで捨身の演技は過去にあまり見たことがない。本作は2021年、カンヌ映画際のパルムドール(最高賞)を獲得しているが、この作品を選ぶところは、実にカンヌらしい。(★★★★)◎映画「チタン」公式サイト
待ちに待ったトップガンマーベリックがついに上映公開となった。期待通り興奮の連続だった。とにかく、戦闘機の実写映像が凄い。パイロットが、強烈なGに耐える表情、背面飛行や、旋回などで映し出される空と大地、太陽の光など、実写ならではの迫力だ。そして、なんといってもトムクルーズの体当たりの演技に脱帽する。とても還暦とは思えない。ストーリーはシンプルで、とあるミッションを成し遂げるために、マーベリックが教官としてトップガンのパイロットを訓練するというものだ。前作のトップガンが上映された、1986年は、私が社会人1年生の年であり、35年という時間の経過も感慨深い。ライバルのアイスマンは出世し、マーベリックは独身で大佐、現役のパイロットだ。戦闘機は前作のF-14(トム・キャット)からF/A-18E/F(スーパーホーネット)に変更され、マーベリックが乗るバイク(NINJA)も新しくなっている。作戦で敵国の第五世代戦闘機と旧型戦闘機で戦うことについて、マーベリックが「最後はパイロットの腕」と話すシーンがあるが、これこそ35年間現役戦闘機乗りとして実戦活躍してきたものだけが言える重みのある言葉であり、彼自身の人生を肯定する言葉であろう。この映画のテーマの一つに、世代交代と、引き継いでいくことの大切さがある。技術的なことはもちろんだが、それ以上に精神的なもの、人間して大切なものを後世に引き継いでいくことが大切だ。戦闘機の時代は終わり、無人機の時代が訪れてても、トップガンが米軍の中で果たした役割は偉大なのだ。(★★★★☆)