快進撃を続ける星野リゾート、先日もテレビ東京の未来世紀ジャパンで紹介されていました。その戦略の一つにマルチタスクという施策があると星野社長が強調していました。
担当業務を縦割りではなく、横に並べ手の空いたスタッフが業務横断的に処理するという一人n役をマルチタスクと言っているようです。OSでいうところのマルチタスクとは意味が違い、意味から言うとマルチタレント、昔は多能工と言っていたものです。製造業では当たり前のことで、何十年も前からやっていたことですが、この方法が喧伝され注目されるところを見るとホテル業界では珍しいようです。他業界を観察することで、それまで気が付かなかったことに気が付き、やってみると効果が出た、ということでしょうか。
昔、製造業では工員が旋盤、フライス盤などを操作して製品を加工、製造していました。この時、旋盤しか使えないのではなく、フライス盤も使えるよう教育・訓練し、一人で複数の工作機械を操作できるようにしました。これを多能工化と呼んでいました。歌って踊れるタレントのようなものと思えば、理解が早いでしょう。多能工化という言い方は旧いので、私はマルチタレント化と言うようにしてきましたが、医療機関でも同じです。たくさんの医療機器があるものの、それを操作できる人がいなければ患者は機器ではなく、その人が空くまで待たなければなりません。
ある病院で院内滞留時間を最小にするという目論見もあり、予約業務を切り口にした院内リソースマネジメントシステムを開発していた時、この問題がありました。ここでプロジェクトメンバにマルチタレント化の説明をし、患者待ち時間軽減、予約日時の自由度向上と共に生産性向上に寄与するものであることを理解してもらい推進しました。具体的には・・・検査員が扱える検査機器、検査の種類の現状把握と、誰に何時までにどの検査ができるよう教育するのか、指導員は誰かなどにつき一覧表を纏め、適宜実施してもらいました。
この様にして、以前は数的には検査員がいるのに、技量、操作技能的にできなかった検査ができるようになり、院内滞留時間の軽減に役立ちました。看護師の場合、総合病院では診療各科を回って担当できる領域を広げ、マルチタレント化を図っています。しかし、マルチタレント化が一朝一夕にはいかない場合もあります。例えば、同じ診療科でも、外来、手術、病棟のように担当する業務の内容が異なる場合です。特に交代勤務がある病棟の場合は、スキル以前の問題があります。
私がコンサルした病院では、コンサルに入る以前には、外来、手術、病棟のローテーションを行い、看護師が外来、手術、病棟のどの業務もこなせるようにしていたようですが、何らかの事情により(トップの方針変更?)、担当を固定化してしまいました。また、外来が忙しいということで、病棟勤務になっている看護師さんを臨機応変に応援に回すことができない縛りもあります。病棟に勤務する看護師の数が法律で決められており、臨時に病棟から外して忙しい外来を応援させると、法律で決められている病棟看護師数を満たさなくなってしまいます。法律ではありませんが、子供がまだ小さいなどの理由で夜勤のある病棟勤務ができず、外来に回っている事情を持つ看護師もいます。これらを効率化、生産性向上、人員の有効活用、マルチタレントなどとして、十把ひとからげで処理しては、従業員満足度の低下を招き、職場の雰囲気を阻害し、ひいては生産性向上とは反対の結果を引き起こしてしまう可能性があります。
星野リゾートがやっているような、お迎え、部屋案内、食事サポート、見送り、清掃などホテル業界のマルチタレントは問題ありませんが、業界業種によって事情が異なる既述の様なこともあるので、単純にマルチタレント化を考えてはいけません。私は、“実行可能解”という言葉を使っていますが、斯くあるべき!ということと、実際できるかどうかとを分けて考えずに(本質を理解せずに)教科書的なマルチタレント化を図ると、現実離れしてしまいます。コンサルする側は、観察力、業務分析、プレゼンテーション、ネゴシエーションの能力、センスが求められます。大企業のCIOのような立場だった人物に現場に入り込んでの泥をかぶってのコンサルを期待しても無理でしょう。何を置いても現場に入り込み、泥かぶり、現場と一体となることが必要になります。事件は現場で起きている!
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