新聞を見て驚きました。都道府県別魅力度6年連続最下位の茨城県が電子決済100%達成という見出しです。さすがにマイクロソフトアジア執行役常務、シスコの専務執行役員など、名だたるIT企業の幹部を歴任した知事が陣頭指揮しただけのことはあるなと思いました。私は都立科学技術大学(現首都大学東京)で都庁や都下の自治体の管理職教育を行ってきた関係から、自治体の硬直した仕事の仕方を普通の人よりも身近に見ているので、すごいことをやってのけたものだと感じたものです。

一口で決済業務の電子化と言っても、決済業務は多種多様あり、一様ではありません。100%の電子化というのだから、この多種多様ある決済業務全てを対象にしてるはずです。これはすごいことで、都庁はじめ、全国の自治体から見学希望が相次いでいるのもうなづけます。しかし、実態は・・・

さもありなんでした。従来からの仕事の仕方を変えずに業務をシステムに載せても効果がないことは、SEでなくても皆さんご存知です。この記事を見ると、決済文書を画面で見る習慣がなく、従来通り紙の文書を手渡し、捺印までしているのだから呆れます。13年前から電子決済システムが稼働しているにも拘わらず利用率が低迷していたのに、知事が代わったからといって急に100%になるはずがないと思うのが普通です。何らかの成果を出したい新知事と、電子決済を推進したい功を焦る県のICT戦略チームとの合作勇み足的プレスリリースだったというのが本当のところではないかと推測します。

ICT戦略チームのリーダは、決済判断に直接関係のない資料はスキャンしてまで電子化する必要がないとの見解ですが、そもそも、どれが直接関係し、どれがそうではない資料かの区別をする明確な基準を作ったのでしょうか。また、作る際には十分な現状調査、現場からのヒアリングを行ったのでしょうか?そしてそれは庁内でオーソライズされ、説明会も開かれ、庁内全部署関係全職員に周知徹底されていたのでしょうか?

もう一つ確認したいのは、システムが稼働して13年も電子決済システムの利用率が上がっていない現状がある中で、その原因を調査し、問題解決のための実行可能で有効な策を考え、且つ実施し、ブラッシュアップして行っていたのかどうかです。IT企業出身の新知事が誕生したので、この虎の威を借りて『使え!』と号令をかけただけではなかったか?という懸念があります。

 

外部から持ち込まれる紙の資料はスキャンすれば電子的に扱えますが、建築土木の資料などにつきものの大きな図面は、スキャンして添付しても一つの画面では全容を把握できず、上下左右斜めにスクロールして見るしかありません。そもそもこの大きな図面をスキャンするには大型&高価なスキャナが必要です。あったとしても、複数台用意されている必要があります。電子決済を推進するICT戦略チームはこの辺の問題を如何にして対処していったのかを知りたいものです。

私は、病院統合情報システムを作る際に気を付けたのは紙の形で提供される他院から発行される診療情報提供書、紹介状、あるいは障がい者、生活保護者に関して関連機関から発行される紙の資料の処理ですが、これはドキュメントセンタと呼ぶ場所を用意し、そこでスキャンしたものと関連する書類とを紐づけする作業をしました。広い庁舎でこの様な仕掛けが一ヶ所では動き回る手間が大変だし、出先機関はわざわざ本庁までこなければなりません。この辺をどの様にしていたのかも知らないと正しい評価ができません。参考までに病院統合情報システムで用意したドキュメントセンタでの処理手順を紹介します。

開発したシステムが現場で使われるには作ったから使え式の問答無用な上意下達ではアウトです。大前提は、(強制されずに)現場レベルでシステム整備の必然性が理解されていなければならないということです。そのうえで、現場の職員に積極的に協力してもらいつつ、業務を観察して仕様を作り、それを現場の職員にも参加してもらってデザインレビューした仕様で実装されれば(開発されれば)、使え!と言わなくても使われるものです。

なお、本件は顕在、潜在を問わず、昔から続いてきた仕事の仕方のどこにどの様な問題があり、改善、改革が必要だという意識を関係者が持つような説明の仕方が求められます。高圧的な意識改革強制ではなく、自分自身の理解の延長線上での納得です。旧態依然とした仕事の仕方にノスタルジーを感じている関係者がほとんどだとすると、まずはその方々の意識改革から始めなければならないでしょう。それを13年間放置してきたのは、理念優先で教科書的なICT戦略チームの進め方と、浸透に無関心だった関連部署の責任ではないかと思われます。

 

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