医師/SEの基本は会話というタイトルですが、職種を問わず全ての職業で会話は必須です。日常的な会話は言わずもがなですが、ここでいう会話は、業務遂行上必要になる会話のことです。医師は患者との会話(問診)を通して患者の状態を把握し、SEはシステム設計を行う際には、会話(コミュニケーション)をとおして顧客の要求仕様を聞き出さなければなりません。

私は、情報収集のために時々BMJ(British Medical Journal)というイギリスの医学誌のコンテンツを検索しています。ここに、以下のような一文が掲載されていました。

『診察、治療がうまくいくか否かは、患者と医師がどの程度うまくコミュニケーションを取るかによる』と書いてあります。当たり前ですが、BMJにして敢えて書いてあるということは、基本中の基本ということとイギリスでも患者と医師とのコミュニケーションがうまく行っていないのか?と思わせます。

 

以前、患者の些細な症状を見逃さず、総合的な観点から病気を診断する総合診療の達人(ドクターG)が出題する症例を解き明かし、正しい病名を推理するNHKの総合診療医ドクターGという医療エンターテインメント番組がありました。指導するベテラン医師は、回答者の研修医にどうしてその病名にしたのかを聞きながら、気づいていない兆候をサジェスチョンして再考させ、正しい病名にたどり着かせるというシナリオで話が展開されます。ドクターGは、最初に正解を示してその理由を解説するのではなく、ヒントを与えながら、研修医が自身の知識を使って自分の力で正解にたどり着くよう誘導する役割ですが、その際に交わされる会話は参考になりました。

 

指導するドクターGの問診力、観察力の違いを見せつけられますが、実務経験とそれを踏まえて作られた目の付け所データーベースが効いていると思います。問診しながら病名を絞り込んでいきますが、患者を観察しながら、どうしたら忌憚なく聞き出せるのかを見極められるのが名医ではないかと思います。(この辺のノウハウをロジックにした機能を入れた問診システムがあります)。

 

一方、患者を観察するどころか質問も受け付けず、一方的に聞こうとする居丈高な医師もいます。新聞の投書欄を見ると、症状を話し出すとそれをさえぎり、『こちらの聞くことだけに答えてください』という医師や、『症状だけを話してください。あなたの考えを話されると診断の邪魔になります』などという信じられない発言をする医師も現実にいるようです。

この医師達には、冒頭で紹介したBMJの一文を見せ、態度を改めてもらわなければなりません。コンサル先の病院で見たのは、投書箱に入っていた『90過ぎの父親に向かって詰問調でぞんざいな口調で対応する◯◯医師がいる。口の利き方があるだろう!医師である前に人間としての常識の疑う。猛省を促す』という趣旨の付き添いの方からのクレームでした。

 

その医師は、私も生意気な人物だとは思っていましたが、この指摘を受けた医師はコンピュータメーカでSEをやっていて医学部に入り直して医師になったなかなかの志を持った若者でした。最初から医師であるよりも社会経験を積んでいた分、患者との接し方は上手な方ではないかと思っていましたが、持って生まれた性格のようなものがあり、患者を観察し、問診し、親身になって患者とコミュニケーションを取って治療に当たるというより、診てやるという居丈高な姿勢が強い人物でした。生身の人間を相手にする医療従事者は、技術を磨くと同時に、人として成長しなければならないことを改めて感じます。

 

コミュニケーションの定義はいろいろありますが、簡単に言えば意思疎通で、医師に限らず業界業種を問わず普遍的になるはずです。この能力がないのでは、仕事どころか近所づきあい、日常生活にも困ります。特に、QOL(Quality Of Life/生活の質)、ひいては生死に関わる医師に代表される医療従事者には、この能力が人並み以上に求められます。

 

SE(SystemEnginner)が仕様を作成する際にも同じようなことが言えます。プロジェクトメンバとのコミュニケーションを良くして、システム設計に必要な情報を聞き出し、仕様をつくらなければなりません。聞き出す能力(ヒアリング力、質問力)の高いSEは、対象者の顕在化している知識経験はもちろん、表に出てきてない潜在知識、経験も見抜き、性格、生活環境、家族環境さえも加味します。そのために頻繁に現場に出向き、観察することも怠りなく行い、頻回なメールのやり取りも行います。プロジェクトメンバに信頼されなければ、要求を聞き出すことができません。できるSEとできる医師は同じではないかと思います。一般ビジネスマンにも通じるはずです。

 

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