あらすじ
不当な理由で職場を解雇され、その腹いせに罪を犯し逮捕されてしまった玲斗。そこへ突然弁護士が現れる。依頼人の命令を聞くなら釈放してくれるというのだ。依頼人に心当たりはないが、このままでは間違いなく刑務所だ。そこで賭けに出た玲斗は従うことに。依頼人の待つ場所へ向かうと、年配の女性が待っていた。千舟と名乗るその女性は驚くことに伯母でもあるというのだ。あまり褒められた生き方をせず、将来の展望もないと言う玲斗に彼女が命令をする。「あなたにしてもらいたいこと それはクスノキの番人です」と。
ひと言
久しぶりに読む東野作品でした。クスノキの祈念って何なの?早くその秘密が知りたくてページを繰る手がとまりません。さすが東野 圭吾さん 読みやすく、あっという間に読者を東野ワールドに引き込んでいきます。一時は図書館の「東野 圭吾」の棚に本がほとんどないこともありましたが、最近は、棚に本が戻ったり、予約も他の作家さん並みにできるようになったのでまた予約を入れて読んでみたいと思います。
千舟は続けた。「自分たちが食べたいと思ったものを、お客様に召し上がっていただく。つまり自分がしてほしいと思うことをお客様にしてさしあげる、それがサービスの基本だと改めて思い知ったのです。以後、迷った時には、それを第一に考えるようになりました」
(17)
「優美さんとは、どんな話を?」佐治は少し迷う素振りを見せてから口を開いた。「あいつは、こういったんだ。仮に過去にはいろいろとあったにせよ、現時点で家族に対して後ろめたいことがないのなら、預念してきてほしい。その念を私が受けて、仮に昔の悪事を知ったとしても、今回だけは目をつぶってあげる、今後も一切触れない、だってさ。だけどもし現在、何らかの形で家族を裏切っているのなら、何もしないですぐに帰ってきてといわれた。どう思う?」「彼女、そんなことを……」くっくっと佐治は笑みを漏らした。「ずるいよなあ。そんなふうにいわれて何もせずに帰ったら、家族を裏切ってるって話になるじゃないか」「たしかにそうですね。うまい言い方を思いついたものだな」
(26)
千舟は悲しげな目を向けてきた。「あなたにはわからないと思います。若いあなたには。覚えておきたいこと、大切な思い出、そうしたものが指の間から砂がこぼれるように消えていくんです。その恐ろしさがわかりますか。知っていた人の顔さえ、次々に忘れていくんですよ。いつかきっと、あなたのことも忘れてしまうでしょう。それどころか、忘れたという自覚さえなくなるのです。それかどれほど悲しいか、辛いか、あなたにわかる?」
「たしかに俺にはわかりません。でもそこがどんな世界なのか、千舟さんだって今はまだ知らないでしょ? 忘れたという自覚さえないのなら、そこは絶望の世界なんかじゃない。ある意味、新しい世界です。次々にデータが消えるのなら、新しいデータをどんどん書き込んでいけばいいじゃないですか。明日の千舟さんは、今日の千舟さんじゃないかもしれない。でもそれでもいいじゃないですか。俺は受け入れます。明日の千舟さんを受け入れます。それじゃいけませんか」
千舟は目を瞬かせた後、じっと玲斗を見つめてきた。やがて、ふっと唇を緩めた。「今、何を考えていると思いますか」「わかりません。どんなことですか」「美千恵のことを羨ましいと思ったのです。心底、妬ましいと思ったのです。短い年月だったとはいえ、こんな素晴らしい息子と一緒に暮らせたなんて、どれほど充実した生活だったんだろうって」「千舟さん……」
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