あらすじ
全五編すべての主人公が小学生という、初の試みの短編集。ソクラテスといえば「無知の知」。では、「逆ソクラテス」というと……。逆境にもめげず簡単ではない現実に立ち向かい非日常的な出来事に巻き込まれながらもアンハッピーな展開を乗り越え僕たちは逆転する。敵は、先入観。世界をひっくり返せ! 
(2021年本屋大賞 第4位)


ひと言
伊坂幸太郎デビュー20年の集大成。そうきたか…。というような本でした。読みやすく、伊坂作品としては、自分の中では上位にくるような本でした。本屋大賞4位も納得!


「完璧な人間はいるはずないのに、自分は完璧だ、間違うわけがない、何でも知ってるぞ、と思ったら、それこそ最悪だよ。昔のソクラテスさんも言ってる」「ソクラテス?」「『自分は何も知らない、ってことを知ってるだけ、自分はマシだ』って、そう言ってたらしいんだ」「自分は? 知らないことを知ってる?」安斎の言葉は、早口言葉にしか聞こえず、慌てる。「ようするに、何でも知ってるって思ってる奴は駄目だ、ってことだよ」「ソクラテスって、プラトンの先生だったんだっけ」佐久間が言う。「うん、そうだよ」「じゃあ、先生という意味では、久留米先生がソクラテスだ」「草壁、それは違う、さっきも言ったように、ソクラテスさんは、自分が完全じゃないと知ってたんだから。久留米先生は、その反対だよ。逆」「そうか、逆か」草壁は真面目に答えていた。「だから」安斎がはっきりとした声で言う。「ここで俺たちが、久留米先生の先入観をひっくり返すんだ」 「先入観ってどういう意味?」草壁が訊ねると、安斎は、君が答えてあげなさい、と言わんばかりの目で、僕を見た。「決めつけのことだよ」と僕は、さも常識であるかのように説明した。
(逆ソクラテス)

「ほら、先入観っていうのはさ、答えがはっきり出ないものに、大きな影響を与えると思うんだ。数字で結果が出ないもの。逆に言えば、俺たちが仕掛けやすいのも、そういう曖昧なところなんだ」
(逆ソクラテス)

「みんなに覚えていてほしいことは、人は、ほかの人との関係で生きている、ってことだ。人間関係にとって、重要なことは何だか分かる?」「お歳暮?」と言ったのは福生だった。彼は真剣だったのかもしれないけれど、みながどっと笑った。少し、肩やお腹から力が抜けた。緊張していたのだと気づく。「お歳暮、それもひとつ」久保先生がそんな風に軽快に、僕たちに言い返すのも初めて見た。「でも、あいつはいい人に見られたくてお歳暮を贈ってる、とばれたらどうだろう? 逆効果だよね。そういう意味では、一番重要なのは」先生が指を立てる。「評判だよ」さっきよりは少ないけれど、また笑い声が出た。「評判がみんなを助けてくれる。もしくは、邪魔してくる。あいつはいいやつだな。面白いやつだな。怖いやつだな。この間、あんな悪いことをしたな。そういった評判が、大きくなっても関係してくる。もし、缶ペンケースを落としているのがわざとだったとして、もしくは、誰かに無理やり缶ペンケースを落とさせるような、自分は手を汚さずに誰かにやらせるような、ずるい奴がいたとするだろ」クラスの何人かは、騎士人のほうに視線をやったはずだ。「先生にはばれなかったとしても、ほかの同級生はそのことを知っている。だれだれ君は、だれそれさんは、授業中に缶ペンケースを落として授業を邪魔していたな、だれそれ君はずるがしこい奴だったな、と覚えている。いい評判とは言えない」こんなに活発に、たくさん喋る久保先生が新鮮で、いったい何がどうなっているのか、いつもの教室だけれどいつもの教室ではない、そもそも親たちがたくさんいることがおかしいのかもしれない。現実がごちゃまぜになった夢を見ている気持ちになった。
「みんなは、まわりの人に迷惑をかけるのは良くないと分かっていると思う。迷惑をかけたくない、というのは、別に、いい子ちゃんでいたい、とかそういう理由ではないはずだ。群れで生活をしてきた人間の習性みたいなものだよ。群れの中だと、迷惑をかける人間は、仲間から外されていたはずだから、ほとんどの人間には、まわりに迷惑をかけたくない、という気持ちがある。ただ、中には、わざと迷惑をかけようとしている人もいる。今の人の社会は、群れの中で少しくらい迷惑でも、すぐに仲間外れにはしないからね、もちろんそれはいいことなんだけれど、そういう人は単にそれに甘えているだけなんだ。そういう人に、君たちは困らされるかもしれない。迷惑をかけて面白がる人に君たちが、良くないよ、と言っても、彼らは変わらない。反省もしてくれないことが多い。だから君たちは心の中で、可哀想に、と思っておけばいい。この人は自分では楽しみが見つけられない人なんだ、と。人から物を奪ったり、人に暴力を振るったり、彼らは結局、自分たちだけで楽しむ方法が思いつかないだけの、可哀想な人間なんだよ。もちろんこのクラスにはそんな人間はいないけれど」久保先生が念を押すように言うものだから、可笑しかった。「もし、平気で他人に迷惑をかける人がいたら、心の中でそっと思っておくといい。可哀想に、って」
(非オプティマス)
 

 

今日のお昼は名駅の「祇園茶寮×タニタカフェ」へ。白い唐揚げ御膳(935円)をいただきます。タニタだけあって見るからにヘルシー。そしてとてもおいしいです♪。食べた後から気づいたのですが、いただいたのは祇園茶寮オリジナルランチメニューで、祇園茶寮×タニタカフェ コラボランチメニューというのがあって、そちらを食べないといけなかったかも……。まぁ美味しかったからどちらでもいいか。次はコラボメニューを食べよっと。ごちそうさまでした♪

 

祇園茶寮×タニタカフェ 名古屋駅店

名古屋市中村区名駅4

 

 

 

 

今日のお昼は、1カ月ほど前にJRゲートタワー12階にオープンした博多の名店「ラーメン 海鳴(U7RI)」へ。魚介とんこつ(820円)をいただきます。博多ラーメンだけあって麺のかたさが バリ・カタ・普通・やわ から選べますが普通をチョイス。魚介と豚骨のスープがとてもおいしいです♪。これ好きかも…。紅ショウガとにんにくで味変してもグッド。博多っ子はこれをバリで替玉して食べるんだろうなぁ。次に挑戦してみよっと。ジェノバや辛子明太子DXも食べてみたいです。ごちそうさまでした♪

 

ラーメン 海鳴 JRゲートタワー店

名古屋市中村区名駅1 JRゲートタワー12F

 

2日前から期間限定で近鉄パッセ 地下1階のグルメステーションに出店している「OMUSUBI Cake (おむすびケーキ)」を買いに行きました。苺、しょこら、ティラミス(450円)と桜(500円)をいただきます。コンビニのおにぎりと同じような開け方でブラックココアクレープで作った海苔を巻いていただきます。インスタ映えと話題性だけなのかと思いましたが、おいしい♪。100万個売れるのも納得。アイデアも素晴らしく、人にあげたくなるような一品でした。ごちそうさまでした♪

 

オオサカ オムスビケーキ

 

 

今日のお昼はイオン新瑞橋店の3F フードコートにある「ペッパーランチ」のお肉たっぷりビーフペッパーライス(990円)です。メニュー表を見て「これ 食べたい!」と一目ぼれの逸品です。熱々の鉄板で肉やライスを石焼ビビンバのようにしていただきます。お肉もたっぷりで柔らかくておいしいです♪。これは時々食べたくなる一品でした。ごちそうさまでした♪

 

ペッパーランチ イオンモール新瑞橋店

名古屋市南区菊住1

 

あらすじ
お探し物は、本ですか?仕事ですか?人生ですか? 人生に悩む人々が、ふとしたきっかけで訪れた小さな図書室。彼らの背中を、不愛想だけど聞き上手な司書さんが、思いもよらない本のセレクトと可愛い付録で、後押しします。自分が本当に「探している物」に気がつき、
明日への活力が満ちていくハートウォーミング小説。
(2021年本屋大賞 第2位)


ひと言
問題提起や考えさせられる本もいいけれど、やっぱり自分にとっての読書は、明日への元気がもらえるような本がいい。2021年本屋大賞 第2位の本だけのことはある素敵な作品でした。定年退職後の再就職は電車通勤になり1時間以上かかり疲れるけれど、読書の時間が確保できたと前向きに捉えて自分も頑張っていこうと思いました。

「そういうのって、狙ってどうこうできることじゃないじゃん。だから、まず俺に必要なのは、目の前のことにひたむきに取り組んでいくことなんだと思った。そうやってるうち、過去のがんばりが思いがけず役に立ったり、いい縁ができたりね。正直、ZAZに転職して、これから先のことをはっきり決めてるわけじゃないよ。決めてもそのとおりにいく保証はないし。ただ」そこで一度区切ると、桐山くんは静かに言った。「何か起きるかわからない世の中で、今の自分にできることを今やってるんだ」私じゃなく、自分に話しかけるように。
(一章 朋香 二十一歳 婦人服販売員)

小町さんは蓋を閉じ、僕を見た。「起業にも、いろいろあるよね。なにをしたいの」「いつか、雑貨屋をやりたいんです。アンティークの」「いつか」小町さんはまた、そこだけ復唱した。フラッ卜な言い方だったけど、僕はなんだか、あわてて言い訳をしなければいけないような気持ちになった。「いや、だって、すぐには会社辞められないし。店を開けるほどの莫大な資金をあっさり調達なんてできないし。そりゃ、いつかなんて言ってるうち、夢で終わっちゃうのかもしれないけど」「………夢で終わる、というか」小町さんは、かくんと首を傾ける。「いつかって言っている間は、夢は終わらないよ。美しい夢のまま、ずっと続く。かなわなくても、それもひとつの生き方だと私は思う。無計画な夢を抱くのも、悪いことじゃない。日々を楽しくしてくれるからね」僕は言葉を失った。「いつか」が夢を見続けるための呪文だとしたら、その夢を実現させるためには何を言えばいいんだろう。「でも、夢の先を知りたいと思ったのなら、知るべきだ」
(二章 諒 三十五歳 家具メーカー経理部)

「だけど、会社員とお店を両方やっていたら、旅行にも行けないじゃないですか」訊かれ慣れている質問なのか、それはそうだね、と安原さんはうなずく。「でも、なかなかお会いできないような方がお店に来てくださったり、面白い出会いがあったりして、毎日いろんなところを旅しているようなものなんです。外に出かけずずっとここにいても、お釣りがくるくらいの楽しい経験をさせてもらってる」目の覚めるような回答だった。そうはっきりと言えるようになるまで、安原さんは何を見て誰に会ったのだろう。自分の店を持つって、そんな素敵なことがあるんだ。
(二章 諒 三十五歳 家具メーカー経理部)

「私、先生とはもう、こんなふうにお会いできないんじゃないかと思っていました。だって、私はもう……」編集者じゃないから。先生の前でなんとか蓋をしていた感情が、堰を切ってこぼれだす。「ミラでバリバリ働いてる木澤さんに嫉妬したり、子どもができて人生が狂ったなんて思ってしまって、そういう自分もいやで」みづえ先生はスプーンを置き、穏やかに言った。「ああ、崎谷さんもメリーゴーランドに乗ってるとこか」「メリーゴーランド?」ふふふ、とみづえ先生が口元をほころばせる。「よくあることよ。独身の人が結婚してる人をいいなあって思って、結婚してる人が子どものいる人をいいなあって思って。そして子どものいる人が、独身の人をいいなあって思うの。ぐるぐる回るメリーゴーランド。おもしろいわよね、それぞれが目の前にいる人のおしりだけ追いかけて、先頭もビリもないの。つまり、幸せに優劣も完成形もないってことよ」そこまで楽しそうに言うと、みづえ先生はコップの水を飲んだ。「人生なんて、いつも大狂いよ。どんな境遇にいたって、思い通りにはいかないわよ。でも逆に、思いつきもしない嬉しいサプライズが待っていたりもするでしょう。結果的に、希望通りじゃなくてよかった、セーフ!ってことなんかいっぱいあるんだから。計画や予定が狂うことを、不運とか失敗って思わなくていいの。そうやって変わっていくのよ、自分も、人生も」そしてみづえ先生は、どこか遠くを見ながらほほえんだ。
(三章 夏美 四十歳 元雑誌編集者)

かつて子供だった私たちのすべてが「サンタクロースはいない」と人生のどこかで知らされたはずなのに、相変わらずサンタクロースがクリスマスから消え去る気配がないのは、まだ幼い子供たちがそれを信じているから、ではありません。昔子供だった大人たちこそが、大人になってもなお、「サンタクロース」の真実を心から理解して、その世界を生きているからです。……。子供にサンタクロースの夢を見せてやろうとする親のすべてが、自分の心の中に真実のサンタクロースを住まわせています。だからこそ、子供の多くが、そりに乗ったサンタクロースが「実在する」と感じます。
(三章 夏美 四十歳 元雑誌編集者)

そういえば、小町さんに飛行機をもらったと思い出す。大昔の人間は、鳥を見ていて自分も空を飛びたいって、思ったんだろうな。でもいくら進化したって羽根は生えないってわかったんだろうな。だから飛行機を作ったんだろう。俺は鳥になれないし、飛行機も作れない。空なんか飛べない。
(四章 浩弥 三十歳 ニート)

そして左手には、土の中に保管されていた高校生の俺。四つ折りにされた紙の端をつまみ、俺はようやく、タイムカプセルを開く。そこに書かれた文字を見て、俺はハッとした。「人の心に残るイラストを描く」たしかに俺の字で、そう書いてあった。そうだったっけ……ああ、そうだったかもしれない。どこかでねじまがって、勘違いが刷り込まれていた。「歴史に名を残す」って書いてたと思い込んでいた。壮大な夢を抱いていたのに打ち砕かれたって。俺を認めてくれない世間や、ブラックな企業がはびこる社会が悪いって、被害者ぶって。でも俺の根っこの、最初の願いは、こういうことだったじゃないか。……。十八歳の俺。ごめんな。今からでも、遅くないよな。歴史に名が刻まれるなんて、うんと後のことよりも……それよりも何よりも、誰かの人生の中で心に残るような絵が一枚でも描けたら。それは俺の、れっきとした居場所になるんじゃないか。
(四章 浩弥 三十歳 ニート)

「わたしのような会社人間にとって、定年退職というのは社会から退いたということなんだと実感しています。会社員をしていたころはゆっくり休んでみたいと思うこともあったけど、実際に時間ができたら何をすればいいのかわからなくて。残りの人生が、意味のないものに思えてね」小町さんは眉毛ひとつ動かさず、穏やかに言った。「残り、とは?」わたしは自問する。残りとは。「残りもの、かな。あまりものというか」自嘲気味に答えると、小町さんは、今度は反対側にこきっと頭を傾げた。「たとえば十二個入りのハニードームを十個食べたとして」「はい?」「そのとき、箱の中にある二つは『残りもの』なんでしょうか」「…………」すぐに声が出なかった。小町さんが投げかけた問いは、核心をついている気がした。しかしそれに対する答えを、わたしはうまく言葉に置き換えられない。……。
そして一番下に、こんなタイトルがあった。『げんげと蛙』。
(五章 正雄 六十五歳 定年退職)
 

 

2週間ほど前まで、JR高島屋の特設会場で出店していた「バターズ」。世界中からの厳選したバターを使用したクラフトバターケーキ(1350円 5個)をいただきます。そのままでもおいしいのですが、おいしい召し上がり方に書かれた、トースターで3~5分ほど温めて、3分ほど待っていただくと、バターの香りが増し、サクサク感も増してとてもおいしいです♪。新宿、横浜、大阪には常設店があるとのことなので、名古屋にも常設してくれるとありがたいなぁ。ごちそうさまでした♪

 

バターズ

 

 

昨日から名鉄の地下1階食品フロアで行われているパンマルシェ第2弾。お目当ては「石窯パン工房 グランクレール」のあっぱれ おかざきカレーパン(380円)です。昨日仕事帰りに寄ってみたのですが売り切れ、今日は仕事がお休みなので買いに行ってきました。このカレーパンは カレーパングランプリ 2019の西日本揚げカレーパン部門で金賞を取ったカレーパンです。380円は少し高い気もしますが、皮がモチモチで、ルウもたっぷり詰まっていて、とてもおいしいです♪ 一緒に買ったクリームパンもグッド。ごちそうさまでした♪

 

石窯パン工房 グランクレール

岡崎市赤渋町田中

 

 

 

 

あらすじ
52ヘルツのクジラとは 他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラ。たくさんの仲間がいるはずなのに何も届かない、何も届けられない。そのため、世界で一番孤独だと言われている。「わたしは、あんたの誰にも届かない52ヘルツの声を聴くよ」自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会う時、新たな魂の物語が生まれる。

ひと言
虐待、毒親、トランスジェンダー、ヤングケアラー(この言葉は最近知りました)etc…。 現代の問題について考えさせられる一冊でした。2021年本屋大賞の発表もいよいよ明日 4月14日。2020年の大賞「流浪の月」に似たような本なので、この本 大賞を取るかも?!。どうにか発表前に読めてよかったです。明日の発表が楽しみです♪


「わたしね、寂しくて死にそうな時に、聴く声があるんだ」この間、これを聴いてもらおうとして、彼に逃げられたのだ。イヤホンの片方を彼に渡し、もう片方を自分の耳に挿した。プレイボタンを押すと、すぐに声が流れてくる。彼がわたしを見て、何か言いだけに口を動かす。「うん、そう。クジラの声。でも、前に聴いた子の声とは、違うんだ」遠くから呼んでいるような、離れて行くような声。世界の果てまで響いていきそうな声。「このクジラの声はね、誰にも届かないんだよ」少年が目を微かに見開き、首を傾げる。「普通のクジラと声の高さが ―― 周波数って言うんだけどね、その周波数が全く違うんだって。クジラもいろいろな種類がいるけど、どれもだいたい10から39ヘルツっていう高さで歌うんだって。でもこのクジラの歌声は52ヘルツ。あまりに高音だから、他のクジラたちには、この声は聞こえないんだ。今聞いているこの音もね、人間の耳に合わせて周波数をあげているらしいから、実際はもっと低い声らしいんだけど……」 52ヘルツのクジラ。世界で一番孤独だと言われているクジラ。その声は広大な海で確かに響いているのに、受け止める仲間はどこにもいない。誰にも届かない歌声をあげ続けているクジラは存在こそ発見されているけれど、実際の姿は今も確認されていないという。「他の仲間と周波数が違うから、仲間と出会うこともできないんだって。例えば群がものすごく近くにいたとして、すぐに触れあえる位置にいても、気付かないまますれ違うってことなんだろうね」本当はたくさんの仲間がいるのに、何も届かない。何も届けられない。それはどれだけ、孤独だろう。「今もどこかの海で、届かない声を待ちながら自分の声を届けようと歌っているんだろうなあ」
(2 夜空に溶ける声)

「わたしさ、あんたの呼び名をずっと考えてたんだ。だってムシなんて呼べないもん。でも今思いついた。あんたがわたしに本当の自分の名前を教えてくれるまで『52』って呼んでもいい? わたしは、あんたの誰にも届かない52ヘルツの声を聴くよ。いつだって聴こうとするから、だからあんたの、あんたなりの言葉で話しな。全部、受け止めてあげる」 少年がびくりとして、わたしを見る。月明かりに照らされた目は澄んで、涙で濡れている。うつくしい湖のようなその目に、微笑みかける。 「わたしも、昔52ヘルツの声をあげてた。それは長い間誰にも届かなかったけど、たったひとり、受け止めてくれるひとがいたんだよ」どうしてそれを、魂の番だと思わなかったのだろう。運命の出会いだと気付けなかったのだろう。気付いたのは彼が去ってからだなんて、遅すぎる。
「あんたには、もっと仲間がいるかもしれない。この世のどこかにでっかい群がいるかもしれない。ううん、きっといる。だからわたしがそのひとたちのところまで、連れていってあげる。わたしが連れていってもらえたように」わたしは、わたしの声を聴いて助けてくれたひとの声を聴けなかった。もしわたしが彼の声を聴いていれば、全身で受け止めていれば。そうしたらこんな今にはなっていなかったはずだ。わたしがこの子にしようとしていることはきっと、聴き逃した声に対する贖罪だ。消えることのない罪悪感をどうにか拭おうとしているのだ。でも、それでもいい。彼の代わりだとしても、純粋な思いじゃないとしても、今はこの子を助けたい。こんなわたしでも、できるのならば。52が、空を仰ぐ。そしてゆっくりと口を開いた。生まれたての赤ん坊よりも儚い、弱々しい泣き声が、夜空に溶けていった。
(2 夜空に溶ける声)

「頑張るのは、えらいことだよ。でも、そろそろ限界だと思う」「でも、わたしがやらないとならないんです。血の繋がらない、母の連れ子のわたしを高校まで出してくれた恩があるので」だから、わたしがやらないとならない。何度となく母が言い、わたし自身も自分に言い聞かせた言葉を口にすると、アンさんが「恩で死ぬの?」と訊いてきた。死という言葉に虚を衝かれて口を噤むと、アンさんは「キナコ、さっきまで死ぬっもりだったよね? てことは、もう限界を越してるんだよ。死ぬくらい追い詰めてくるものはもう『恩』とは呼べないんだよ。それは『呪い』というんだ」と子どもに言い聞かせるようにゆっくりと言った。まさか、わたしが死を考えていたことに気付いていたとは思わなくて、彼の顔を見つめることしかできない。「呪いになってしまうと、あとはもう蝕まれていくだけだ。だから、抜け出す方法を考えようよ」 「抜け出す……?」 呟くと、美晴が「そうだよ!」と声を大きくしてわたしの肩を摑んだ。「貴瑚、言ってたじゃん。高校を卒業したら、新しい人生が始まるんだって。あんたはまだ、その新しい人生に踏み出せてないんだよ」それはもう、ずいぶん昔の記憶のような気がする。でも、そういう希望を抱いていた日が確かにあった。ずっと望んできた家族の輪から離れてしまう代わりに、何か得られるものがきっとあると信じていた。わたしは高校卒業式前日のあの日で立ち止まってしまったままなのかもしれない。「キナコ、新しい人生にいこう」アンさんが言う。わたしは耳の奥で、とくとくと音がするのを感じていた。何の音だろう。 ああ、これはわたしの心臓が高鳴る音だ。わたしは、ここから進むことができるのだろうか。ふたりの笑顔を見つめた。
(3 ドアの向こうの世界)

藤江さんは52を抱きしめて「ごめんなあ」と繰り返した。ごめんなあ、本当はあたしがいっちゃんを引き取って育ててやりたいけど、年金暮らしのばあさんじゃ無理なんよ。本当にごめんなあ。52は自身を抱きしめて泣く藤江さんの背中をそっと撫でていた。大丈夫だと言うように。
帰り道は、誰も口を開かなかった。だらだらと流れる汗も拭わず、ただホテルを目指す。わたしは、52の手をしっかりと握って歩いた。何か言いたげにわたしを見上げてくる52に短く言う。「わたしは、52って呼ぶから」わたしに本名を教えなかったのは、この子が自分の名前を受け入れられないからだ。そんな名前を、わたしが軽々しく呼んでいいはずがない。だから、今はその名では呼ばない。52は少しだけ戸惑った顔をして頷いた。「それと、今はこの手を離さないから」手を離してしまえば、涙ひとつ零さないこの子どもが死んでしまう気がした。
(4 再会と懺悔)

「ひとから言われた言葉なんだけどね、ひとには魂の番がいるんだって。愛を注ぎ注がれるような、たったひとりの魂の番のようなひと。あんたにも、絶対いるんだ。あんたがその魂の番に出会うまで、わたしが守ってあげる」かつて何度も思い返して抱きしめた言葉が、わたしの舌の上で鮮やかに蘇る。勝手に、涙が溢れた。アンさん。ねえ、アンさん。さっき、わたしに声を届けてくれたクジラの一頭はアンさんだよね。わたし、最後の最後で、アンさんの声を聴けたんだね。アンさんはまた、わたしを助けてくれたんだね。わたしとこの子に、新しい人生を示してくれたんだ。わたしはあなたをしあわせには出来なかったけど、この小さな子どもだけは、絶対しあわせにしてみせる。この子の声だけは、いつでも、いつまでも聴く。だから、許してとは言えないけれど、せめてわたしを、この子を見守ってください。「わたしか守るから、帰ろう」
手を差し出し、愛を込めてその名を呼んだ。「わたしと帰ろう、愛(いとし)」月明かりの下、彼が大きく震えるのが分かった。それから、夜空を仰ぐ。波の音だけが広がっていた世界にああ、と声が響いた。ああ、ああ、と愛は体を折って声を上げる。
(7 最果てでの出会い)

「あのね、愛が向こうに行ってしまう前に、ちゃんと話しておこうと思って」少しだけ言葉を探した後、わたしは「わたし、あんたに会うまで死んでたんだ」と話し始めた。「ここに来る前に、大好きなひとを死なせてしまって、そしてもうひとりの大好きなひとを恐ろしいひとに変えてしまった。それが辛くて、自分も死にたいと思ったのに死ねなくて、だから心だけ死んでたと思うんだ」愛は黙って耳を傾けてくれる。「前に、わたしはわたしの声を聴いてくれたひとの声を聴けなかったと言ったでしよ。そのせいで、死なせてしまったの。そのことがずっと辛くて、自分を許せなかった。わたしがあんたにしようとしたことは、そのひとに対する、できもしない贖罪だった」波の音が優しい。小さな雲が月明かりによって形を現している。「その贖罪がいつしか、わたしを生かすようになってた。あんたのことを考えて、あんたのことで怒って、泣いて、そしたら死んだと思っていた何かが、ゆっくりと息を吹き返してたんだ。わたしはあんたを救おうとしてたんじゃない。あんたと関わることで、救われてたんだ」愛を見て、「ありがとう」と言う。「あの雨の日、わたしに気付いてくれてありがとう。わたし、あんたの声を聴くために出会ったと思ってた。聴けなかったひとの……アンさんの声の代わりに、あんたの声を聴くのが使命とすら思ってたかもしれない。でもそれ、驕りだった。わたしはまた、『助けて』という声を聴いてもらえていたんだよ」さっき品城さんからわたしを守ってくれた手を取る。まだ頼りない少年のそれを両手で包む。寂しくて死にそうだったあの時も、そうだ。わたしの傍に来てくれたのは、この子だった。わたしは彼に、見つけてもらえたのだ。「わたしを見つけてくれてありがとう、愛」 「キナコ」愛が、わたしの手にもう片方の自分の手を重ねる。それから、はにかむように笑った。それはとてもかわいらしい笑顔で、わたしは夢でも見ているのかと思う。「きいてくれた」ゆっくりと、愛が言う。 「あの夜、たすけてと言ったぼくのこえ、キナコはきいてくれたよ」 優しい声だ。わたしの耳をやわらかく揺らす、何よりもうつくしい旋律。「だから、きてくれた」喋りすぎたのか、愛が噎せ返る。何度も咳をして、それから涙の滲んだ顔にもう一度笑顔を浮かべて、言った。「キナコに会えて、よかった」嬉しくて、言葉が出ない。あの晩、全身で感じた声は夢じゃなかった。わたしはちゃんと、全身で彼の言葉を受け止めていたのだ。受け止めることが、できたのだ。……。……。
今この時、世界中にいる52ヘルツのクジラたちに向かって。どうか、その声が誰かに届きますように。優しく受け止めてもらえますように。わたしでいいのなら、全身で受け止めるからどうか歌声を止めないで。わたしは聴こうとするし、見つけるから。わたしが二度も見つけてもらえたように、きっと見つけてみせるから。だから、お願い。52ヘルツの声を、聴かせて。
(8 52ヘルツのクジラたち)
 

 

3月で定年退職となり、4月からの再就職先は名古屋市南区になりました。先日 前から行ってみたかった「山田餅 あらたま店」へ。以前「林修のニッポンドリル」という番組で取り上げられた草餅(162円)をいただきます。お店の方に伺うと、博物館前の「山田餅 本店」と同じ系列のお店ですが、お餅はそれぞれのお店で作っているとのことでした。それで林修さんが本店ではなく新瑞店の名前を出されたのか と納得。「赤福」の朔日餅(3月)、岐阜県海津市の「かわしまや」の草餅に並ぶほどおいしい、林修さんが一押しするだけのことはある草餅でした。ごちそうさまでした♪

 

山田餅 新瑞店

名古屋市瑞穂区瑞穂通8