あらすじ
「冤罪を晴らす神社はありますか?」そう訊ねる女子高生の心に秘めた罪と恋。もも吉庵の飼い猫にまつわる過去と、祇園の人々の「やさしい噓」。商売に身の入らない骨董商を改心させた女性秘書の純真。能率・効率を追求した経営者の窮地を救ったある約束……。


ひと言
もうだんだん、書くことがのうなってきました。今回は伏見稲荷大社の三徳亭の抹茶最中アイス、四ツ辻のにしむら亭のいなり寿司・親子丼、祇園へ出店した緑寿庵清水の金平糖、花見小路のぎおん徳屋の本わらびもちなどが紹介されました。

なだらかな坂道をしばらく行くと、脇へ進む階段が現れた。「ここよ」その登り口に立つ「由緒書き」を見上げて綾香が尋ねた。「菓、祖……神社?ここのこと?」「そう、ここ、菓祖神社さん。読んで字の如し。大昔に、日本にお菓子をもたらした神様をお祀りしてあるんや」「え~お菓子の神様なの! そんな神社があるなんて、ステキ!!」「うちら『あんこクラブ』にもぴったしやろ」祭神は二柱。田道間守命(たぢまもりのみこと)と林浄因 命(はやしじょういんのみこと)だ。「その昔な、垂仁天皇が田道関守に不老不死のお菓子を探してくるように命じたそうなんや。田道間守はな、十年かけて大陸で『非時香菓』(ときじくのかくのこのみ)いうお菓子を見つけて持ち帰ったんやて。そやけど、既に帝は亡くなってはったいう悲しい話なんや」綾香は、ここまで話を聞いて思い出した。「なんか『竹取物語』とそっくり。あれはたしか、かぐや姫が求婚してきた皇子たちに、蓬莱の王の枝とか宝物を探してくるように言う話でしたよね。不老不死の薬も出てくるし」「綾香ちゃん、古典もなかなか勉強してはるなあ」と、令奈が腕組みをして感心した。「それからな、林浄因いうんは、室町時代に中国から来日して、日本で初めてあんこの入ったお饅頭を作った人やそうや。なあ、うちらみたいに和菓子屋に生まれた子にとって、えろう霊験あらたかな神社やろ」「はい!」綾香は、階段を上がるなり、石造りの玉垣を一つずつ順に眺めた。そこには京都の菓子製造業を営む会社の名前が刻まれていた。「わあ~有名なお店ばっかりやね。出町ふたば、井筒ハッ橋本舗、かわみち屋、二條若狭屋、鶴屋弦月、中村製餡所、千本玉壽軒……聞いたことあるお店ばっかり。あ!俵屋吉富さんの名前もある。ここの『雲龍』はお婆ちゃんが京都へ旅行に行った時にお土産にもらって食べたことあります。美味しかったなあ!」それもそのはず。菓祖神社は、京都の菓子業界の人たちが集まって鎮祭した神社なのだ。だから玉垣も和菓子屋さんが寄進している。
(第一話 少年の 痛みを癒し山燃ゆる) 

もも吉の瞳が一瞬輝き、口元が一文字になった。……。……。「あんさん、ほんまに融通が利かしまへんなあ」「融通て」「嘘ついたらよろし」「え?嘘って」もも吉は、にっこり笑って答えた。「嘘言うたら、人聞きが悪うおすなあ、かんにんやかんにん。仏教でいうところの方便を使うたらええんや」「方便……ですか」「そうや、方便や。なんでもかんでも、嘘を方便や言うてごまかそういうわけやない。嘘言うんは二つに分けられること知ってはるか? 良うない嘘と、ええ嘘や」「嘘にええもんと悪いもんがあるんですか?」陽介は撫然とした。ところが、もも吉は、「もちろんや。自分が有利になるためにつくのが悪い嘘、人のために役に立つためにつくのがええ嘘や。ええ嘘なら、方便と言い換えても閻魔様は許してくださるいうわけや」と言い、にっこり微笑んだ。
(第二話 嘘つけば  幸せ来る祇園町)

 

 

あらすじ
もも吉庵の女将の娘で、タクシー運転手をしている美都子は、乗客のある高齢の女性とその介護士の嚙み合わない会話を聞いて、二人の真の関係に気づき……。亡き息子の復讐を誓う男の哀しき慟哭。料理の才能に恵まれた青年が陥った心の落とし穴。声を失い、筆談でお座敷を務める舞妓の勇気がもたらした奇跡。甘味処「もも吉庵」に集う人々の悲喜こもごもに、女将のもも吉が寄り添い、ぬくもりを与える京情緒溢れる連作短編集。


ひと言
途中、予約していた小川 糸さんの「小鳥とリムジン」が入ってしまいましたが、「もも吉庵のあまから帖」がやっぱり面白く、ほっこりさせてくれたり、時には涙を誘う内容だったりして、こうなったらもう最後まで読むっきゃないでしょう。今回もグリル富久屋さんのフクヤライス、上賀茂神社門前の神馬堂のやきもち、鞍馬の多聞堂の牛若餅、菅原院天満宮神社の近くの竹邑庵(ちくゆうあん)太郎敦盛のあつもりそば、寺町通竹屋町の進々堂寺町店のカレーパンなど有名どころの紹介もいっぱい。これもこの本が読まれる理由の一つかも知れませんね。

もも吉は、コーヒーが好きだ。河原町へあれこれと買い物に出掛けた帰り、少し歩き疲れたので「六曜社珈琲店」に立ち寄った。一九五〇年創業の京都人が誇る喫茶店だ。店内は、開店当時の時代にタイムスリップしたような趣が漂う。自家焙煎のブレンドコーヒーを一口、二口と口に含むと、香しい薫りが鼻孔にスーツと抜けた。ただそれだけで、疲れが失せてゆく気がする。いつもコーヒーと一緒に頼むのが、手作りのドーナツだ。世の中には穴の空いていないドーナツがある。あんぱんの形やスティック状のものだ。でも、もも吉は思う。穴が空いているからこそ、ドーナツはドーナツらしいのだと。つらつらと考える。その「穴」とは、人間で言うと「足りないもの」であり、「欠けているところ」なのではないか。……。……。
人生には災厄がたくさん訪れる。トントンッと上手くいく、なんの苦労もない人生など、きっとつまらないに違いない。たとえ失敗しても転んでも、自分の「足りないもの」「欠けているところ」に気付いて、人生をやり直せばいいのだ。それこそが生きることの醍醐味なのだと信じている。人生はドーナツと同じ。ドーナツの穴は食べられない。けれども、穴が空いているからこそ、ドーナツは美味しいのだ。
(第四話 大寒の 水は心に温かし)

「そうや、そうや。忘れるとこやった」そう言い、小鈴はカバンからゴソゴソと取り出す。「はい、お守りや。これがあったら手術は絶対、成功や」「うわ〜何これ、キラキラ光ってきれいなお守りやなあ」「きれいなだけやないで、効き目ばっちりや」それは、下鴨神社の摂社である御手洗社の池の水が入ったお守りの「水守り」だった。透明の小さな球体の中には、御手洗池のご神水が入っており、無病息災のご利益があるという。「球の中に双葉葵の絵が浮かんでいるやろ。葵ちゃんにぴったりや思うたんや」「おおきに、お姉ちゃん」
(第五話 溜息を つけば幸せ花吹雪)


 

 

あらすじ
苦しい環境にあり、人を信頼することをあきらめ、自分の人生すらもあきらめていた主人公が、かけがえのない人たちと出逢うことで自らの心と体を取り戻していく。主人公の小鳥のささやかな楽しみは、仕事の帰り道に灯りのともったお弁当屋さんから漂うおいしそうなにおいをかぐこと。人と接することが得意ではない小鳥は、心惹かれつつも長らくお店のドアを開けられずにいた。十年ほど前、家族に恵まれず、生きる術も住む場所もなかった18歳の小鳥に、病を得た自身の介護を仕事として依頼してきたのは、小鳥の父親だというコジマさんだった。病によって衰え、コミュニケーションが難しくなっていくのと反比例するように、少しずつ心が通いあうようにもなっていたが、ある日出勤すると、コジマさんは眠るように亡くなっていた。その帰り、小鳥は初めてお弁当屋さんのドアを開ける。


ひと言
かなり前に図書館に予約を入れた本をやっと読むことができました。『食堂かたつむり』―「食べることは、生きること」、『ライオンのおやつ』―「死にむかうことは、生きること」、小川糸が描き出す、3つめの「小鳥とリムジン」―「愛することは、生きること」とこの本の紹介文に書かれていましたが、ほんとうにその通りの本だと思いました。

最近のコジマさんはもう、ほぼ寝たきり状態だ。以前は、何が何でも、それこそ這ってでも自力でトイレに行こうとしたけれど、何度か失禁を繰り返してから、コジマさんの中にあった羞恥心のようなものが薄らいでいき、次第にオムツをはくのも、そのオムツを私に交換されるのも、無表情で受け入れるようになった。羞恥心というものを手放さなければ、人はそういう行為を受け入れられないのかもしれない。
(第一章 リムジン弁当)

やっぱり明日、もう一度コジマさんに会いに行こう。コジマさんに、ちゃんとスニーカーを履かせて、しっかりと旅立ちを見届けよう。そして火葬が済んだらコジマさんの骨を大事に拾って、無事にすべてをやり遂げたら、青空
の下で飴パンを食べよう。結局、私は一度だってコジマさんを「お父さん」と呼んであげなかった。リップサービスでもなんでもいいから、一回くらい、そう呼んであげればよかった。そう思ったら、後悔の気持ちがみるみる押し寄せて、また泣きそうになった。でも、ぐっと踏ん張って涙を堪えた。星が綺麗だったから。その星の光を、悲しみの涙に邪魔されたくなかったのだ。
(第一章 リムジン弁当)

理夢人さんが言った。「シス?ジェンダー?」「自分が自覚している性のことね。生まれた時の性に違和感がなければ、シスジェッダー。それに対して、オジバとか、オジバのパートナーだった小百合ちゃんみたいに、生まれた時に与えられた性別と自分がそうだと思っている性別が違う場合は、トランスジェンダー」「あ、そういうことか」私は言った。
(第三章 オジバについて)

ねえ、小鳥はソッタクって言葉、知ってる? ソッタク? そう、忖度じゃなくて、啐啄(そつたく)。聞いたことないよ。私が言うと、卵の中にいる雛が生まれようとする時に、殼を内側から破ろうとするでしょ。その、雛が卵を内側からつっつくことが、啐。で、それに合わせて、同じ場所を親鳥が外側から卵を破ろうとするのが、啄。このタイミングが合わさることで、卵がちゃんと割れて、中から雛が誕生するの。どっちかだけじゃ、うまく割れないんだよ。
(第四章 モーニングステーキ)

「僕さ、小鳥と凹凸をするようになってね、感じることが大事なんだ、ってすごく思うようになったの。だってさ、これからの時代、AIとか量子コンピューターとか、もっともっと進化して、難しい計算とか、未来予測とか、なんでもやってくれるわげでしよ。ロボットの技術も進んで、人間の役割をどんどん担うようになっていく。生身の人間とロボットの差異はみるみる狭まって、人間だろうがロボッ卜だろうがそう違わない時代が、結構間近に迫っているんじゃないか、って思うの。でもさ、そうなった時、人間が唯一ロボットに勝るのは、感覚なんじゃないか、って気づいたんだ。感じるってこと? だって、いくら技術が進んでも、ロボッ卜は感じることかできないもん。そこが、ロボッ卜と人間のいちばんの違いって気がする。でもって、感じることの最大の行為が、凹凸じゃない?」「そうだよね」感じなかったら、凹凸はできない。理夢人が続ける。「この先、人間がロボットに肩代わりしてもらえることはいっぱいあるけど、でもどんなに優秀なロボットでも、人間そのものを作ることはできないでしょ。いくらロボッ卜の技術が進化したってさ、ロボットは濡れることがないし、勃つ気持ち良さも味わえないんだ。人間は、人間しか、しかも男と女でしか作れないんだよね。だから、これからの時代、人間がしなくちゃいけないのは、自分の五感を使って、ちゃんと体で感じることだと思うんだ。もっともっと感じて、感覚を磨いて、感受性を研ぎ澄ませること。そうすれば、どんなに口ボットに活躍の場を奪われても、ロボットと人がそれぞれの役割を担うことで共存できるんじゃないかな?」「そんなことを考えてたの?」
(第七章 凹凸)
 

 

松坂屋で今週水曜日から出店している「にわのパン」。常滑の「ココテラスの丘」の敷地内に2023年6月にオープンしたお店です。たまごが売りのお店で、一番人気のにわのパン(290円)、たまごいっぱいクロワッサン(380円)、厚焼きたまごバーガー(380円)を購入。たまごの卵白を使ったもちもち食感のにわのパン、名前通りのたまごいっぱいクロワッサン、出汁の効いたとてもおいしい厚焼きたまごをサンドしたバーガー、そのどれをとってもたまごのおいしさを強く感じるパンでした。またココテラスの丘に立ち寄ったときには是非にわのパンにも立ち寄りたいです。ごちそうさまでした♪。

 

にわのパン

常滑市大谷字芦狭間

 

先日、ラーメン百名店の「なるとや」で塩ラーメンを食べ、そう言えばこのブログを始める前に食べに行った「徳川町 如水」の塩ラーメンと比べたくなり今日のお昼に食べに行きました。行列を覚悟で行ったのですが、駐車場もすんなり停めることができ、お店の中の行列も全くなく、すぐに着席し、塩ラーメン(900円)とチャーシュー丼(小)(ランチ時は150円)を注文します。前に伺ったのは十数年前なのであまり記憶にありませんが、美味しかったのだけは覚えています。こちらのお店は2017年から8年連続百名店に選ばれている、愛知を代表するラーメン屋さんと言っても過言ではありませんが、まずスープから…。「ん?!…」もちろんとても美味しいのですが、昔のような感動がありません。ひょっとしたら先日食べた「なるとや」の方が美味しいかも?…と思ったくらいです。ここ十数年、すべてのラーメンが劇的に進化し、美味しいラーメンが増えたんだということにびっくりしました。ただ昔から愛知を代表する塩ラーメンであることは間違いなく、全国から人が訪れるお店ですので、もし食べたことがないという人は必ず食べに行ってください。ほんとうに久しぶりの塩ラーメンごちそうさまでした♪♪♪。

 

徳川町 如水

名古屋市東区徳川町

 

今日はラーメンが食べたくなり、5年連続 食べログ ラーメン EAST 百名店の「なるとや」へ。一択の塩ラーメン(860円)と卵かけご飯(ランチ時 100円)をいただきます。まずはスープを2、3口。魚介の旨味たっぷりのスープがとても美味しく食べログ5年連続の選出も納得。スープがそうめんのような細麺とよく合い、スープと麺で食べさせるシンプルな具材で女の人でもペロッといけちゃいます。普通は290円の卵かけご飯もランチ時は100円で合計960円でお腹いっぱいになりました。ごちそうさまでした♪。また伺わせてもらいます。

 

なるとや

名古屋市中区栄4

 

今日は、私のグルメの師匠おすすめ、2023 2024 食べログ アジア・エスニック EAST 百名店の「バンチャガル」へお昼を食べに行きました。駐車場がないので向かいのヤマダデンキに車を停めてお店に向かいます。人気店ですが運のいいことに待ち時間なしで入れました。Sセット(日替りカレーセット)(950円)をいただきます。ナンかライスではプレーンナンを、辛さは2ミディアム、飲み物はウーロン茶を(ラッシーも選べたので、そちらにすればよかった)選択。焼きたて熱々のナンと自分には程よい辛さでとても美味しいカレーです。ただ歳のせいか、ナンが大きくてお腹いっぱいです。ナンのおかわり自由ですが、こんなのもう一枚食べる人がいるの!?。とても美味しいナンカレーでした。ごちそうさまでした♪。

 

バンチャガル

名古屋市千種区星ヶ丘元町15

 

今日は娘夫婦の家に行った帰り、2人で「八千代味清」に立ち寄り早めの夕食をいただきました。名代ヒレかつ定食(味噌ダレ)ライス大盛無料(1950円)をいただきます。2019ミシュランのビブグルマン掲載店で芸能人や前河村市長のサインもいっぱいです。みそだれは七宝味噌で濃厚でとても美味しいです。伝統のソースダレはテーブルにも置いてあるので味変のソースとんかつでもいただけます。またテーブルのからしをつけていただくとまたおいしくとても柔らかく美味しいヒレかつでした。ごちそうさまでした♪。

 

八千代味清

名古屋市中村区稲葉地本通2

 

 

 

 

 

あらすじ
京都・祇園の片隅にひっそりと佇む甘味処「もも吉庵」。店を営む元芸妓のもも吉の、趣向を凝らした麩もちぜんざいと人柄に惹かれ、お客が今日も訪れる――。楽しいはずの修学旅行で、終始沈んだ表情の女の子が抱える事情とは。病のため職を失った男が起こした、思いもよらぬ行動。声を失った舞妓と、駆け出しの料理人の淡い恋。古都の風情と、花街に集う人々のひたむきに生きる姿を描いた人情物語。


ひと言
今回も京都の有名処、京菓子司 末富の京ふうせん、一保堂茶舗の喫茶室 嘉木、醍醐寺名物の力餅、総本家河道屋の蕎麦ほうる、笹屋守栄の平野の桜、などなど。やっぱり京都はええなぁ。もう少し人出がすけないとええんやけどなぁ。 

「曹洞宗では壁に向かって座る。うちは臨済宗やから向かい合って座るんやが、今日はみんな庭を向いて並んで座ってな」「……」「ええか、まず座布団を二つに折って、お尻の下に敷いて座るんや。これで少しは足が楽になる」みんな黙って従う。「それから足を組む。結跏趺坐(けっかふざ)いう正式なやり方もあるけど、今日はきちんと組まんでもええ。普段あぐらかいてないもんがすると、股関節痛めるとあかんからな。こだわらんと、できる範囲でな。ええな、組めたな」「はい」シュートがみんなを代表するように答えた。「さて次や。手のひらを上にして両手を重ねて、足の裏んところに置く。その時、右の親指と左の親指の先っぽが、軽~く触れるか触れんようにするんや。でけるか……そうや、そうや、みんなでけてる。そないしたら背筋をピーン伸ばしてな、左右に身体を二、三度揺らす……そうや、そうや、そないして固い身体をほぐすんや」誰も一言もしゃべらない。もう座禅に入っているような空気になった。
(第一話 風薫る 少女に仏の慈悲あらん)

「なぜ一見さんはお断りなんですか?」「それはなあ、信用や」「信用?」もも吉は、ちょっと真面目な顔つきで講釈をした。「お客さんがお茶屋で遊ぶ時、舞妓さんや芸妓さんの花代とか、お料理代とか、夕クシー代とか、それからお土産代とか全部、お茶屋さんが立て替えてくれるんや。そやからお客さんは財布持たんと来られる。そいで、月末にまとめていっぺんに支払うんや。ツケやな。でもそんな高い金額、踏み倒されたらたいへんや。そやから信用でける人しか上がることがでけへんいうわけや。目先の儲けよりも、ず~っと長いことお店を続けてゆくことの方が大切やいう智恵でもあるんや」「へ~、勉強になりました」
(第一話 風薫る 少女に仏の慈悲あらん)

「そやなあ、わかるわ。僕もほんまは怖い顔した仏様は苦手や。東寺言うたら不動明王、降三世明王、大威徳明王……それに持国天、増長天と恐ろしい顔した仏像のオンパレードやからなぁ」美都子は、それらの仏様を思い浮かべた。たしかに、どれも怒りの形相をしている。不動明王は右手に宝剣を持ち、両目をカッと見開いて睨みつけ、上の歯牙で下唇を噛んで恐ろしげだ。菜摘は、ささやくような声ながらも、訴えるように言う。「私、せっかく京都に行くんだから仏様にお願いしたくて……救ってもらいたくて、たくさんの仏像が見たいって思ったんです。… …でも怖くて怖くて。なんであんな怖い顔してるんですか? 人を幸せにするのが仏様じゃないんですか?」美都子は、一本取られた気がした。まさしくその通りだ。でも、ここで頷くわけにはいかない。すると、もも吉が菜摘の問いを受け、答えた。「ええとこ気づきばったなぁ。菜摘ちゃん、あんた偉いなぁ」「え?……」「人にはいろんな煩悩がある。悲しみや苦しみ、そして人を憎んだり羨んだり。なかなか穏やかな心を持つのは難儀なもんや。そこで怖い顔した仏さんが、そんな悲しみや苦しみを追い払ってくださるんや。うちらの代わりになあ」菜摘の瞳が、少し大きく開いたような気がした。もも吉は、菜摘の眼をじっと見つめている。一つ溜息をついたかと思うと、裾の乱れを整えて座り直す。普段から姿勢がいいのに、いっそう背筋がスーツと伸びた。帯から扇を抜いたかと思うと、小膝をポンツと打った。ほんの小さな動作だったが、まるで歌舞伎役者が見得を切るように見えた。「菜摘ちゃん言わはったなあ。ようお聞きやす」「は、はい」「実は、うちは仏様が怖い顔してはる理由は、もう一つあるんやないかと思うてるんや」菜摘の眼差しは、何かの救いを求めているような真剣さが漂っている。「世の中いうんはなあ、一見鬼のように思える人が幸せを授けてくださるんやないかてな。辛い苦しいことが、いずれは希望に繋がるし、不幸に思えることが幸せに導いてくれる。ええか『幸運』言うんは、時に『不幸』の顔してやってくるんや。そやから不幸な目に遭うても落胆することはないんやで」美都子は、さすがわが母もも吉だと思った。あれこれと生き方でぶつかることはあるが、苦労を重ねて来た者にしかたどり着けない境地を感じた。
(第一話 風薫る 少女に仏の慈悲あらん)

地蔵尊の下の方に、何やら紙切れが貼ってある。それは、新聞のチラシの裏を使って書かれたメッセージだった。楓は、夢遊と朱音、そして男の子たちと一緒に地蔵尊の前まで来てしゃがみ込んだ。マジックペンの文字は、丸っこくて可愛くて、いかにも若い女の子が書いたものに違いないと想像できた。
子猫ちゃんは、うちでお世話させていただきます。なんてカワイイ子なんでしょう♡ わたしは、来年、大学を受験します。今日は、母と一緒に梨木神社へ合格祈願に行ってきたところでした。学業御守をいただいてきました。本当は、萩鈴も欲しかっだけれど、お小遣いが少ないので我慢しました。ところが、この子猫ちゃんの首に、なんと萩鈴が付いていて、もうびっくりしてしまいました。これはもう絶対、神様の思し召し! この子は、梨木神社の神様のお使いに違いありません。それが、わたしの大好きなピンクの色のリボンに付いているなんて、またまたチョーラッキーです。もしも、元の飼い主さんがこの手紙を見られることがありましたら、どうぞ安心してくださいね。今日から、この子は、うちの家族の一員になりました。 K高校・桜子
(第一話 風薫る 少女に仏の慈悲あらん)

楓は、恥ずかしさも忘れて、子どものように泣きじゃくった。朱音が近づき、そっとハンカチを差し出した。楓は、それを素直に受け取ると言った。「おおきに、おおきに朱音ちゃん」楓はふと、桔梗流の家訓が頭に浮かんだ。昨日も、もも吉に言われたものだ。『人は信なり、人は仁なり』「信」とは、誰をも何事をも信じる純真無垢な心のこと。心を信じ合い通わせてこそ、人の心は紡がれる。「仁」とは、人を思いやる心。己の利など一切考えず、世の為、人の為に生きる心。そう、桔梗流は、人を大切にする流派なのだ。まさしく、この朱音こそ、その家訓にふさわしい娘ではないかと。
(第三話 萩の寺 恋は子猫に誘われ)

男の子がもも吉に、甲高い声で言った。「おばあちゃん、小さいお茶碗もろうてもええ?」「小さいのか?」「うん、お父さんとお母さんと一緒に四人で食べたいんや」父親と母親がハツとして、瞳が大きく見開くのがわかった。父親が言う。「何言うてるんや。そないなことしたら、ちびっとになってしまうで」父親と男の子の眼が合った。「ええんや、二人で食べるより、四人で食べた方がおいしいさかい」父親と母親が眼を合わせる。「あのな… …僕な、さっき初めて知ったんや」父親に代わり、もも吉が尋ねた。「ぼん、何をや?」「うん。僕んちはお金持ちやさかいに、お饅頭、いつでもぎょうさん食べれる。一番好きなんは、阿闇梨餅や。いっぺんに六つ食べたこともある。夕飯食べられへんようになって、お母さんに叱られたけどな」なんとも微笑ましい。もも吉は、「ほんで?」と話の続きを促した。「さっきな、天神さんの縁日でおじちゃんに大判焼きもろうたやろ。そん時『なん
や一個かいな』て最初は思うたけど、妹と半分ずつして食べてみて、びっくりしたんや。今までこないに美味しいもん食べたことないて。お父ちゃんもお母ちゃんも知ってた? お饅頭ってな、一人で何個も食べるより二人で一個食べた方が何倍も美味しいんやな。それでな、ひょっとしたらな、ぜんざいも二人で食べるより、四人で食べた方が美味しいんやないかて思うたんや」父親も母親も、言葉を失っている。もも吉は急いで四組の小さめの茶碗と木匙を用意した。すると男の子が、危なげな手つきで、妹と両親の分を取り分けた。
(第五話 老舗継ぐ 兄弟におぼろ月)


 

 

 

あらすじ
かつて一世を風靡しながら、不慮の事故で行方を晦ました歌舞伎役者が、十五年ぶりに京都に姿を現した理由とは。茶会の準備で老舗和菓子屋の女性が見せた「おもてなし」の神髄。ようやくお店出しが決まった舞妓に思わぬ事態が……。祇園にひっそりと佇む一見さんお断りの甘味処「もも吉庵」を営む元芸妓・もも吉と、そこに集い、慎ましくも誇り高く生きる人々の哀歓を描いた連作短編集。シリーズ第三弾。


ひと言
もう読みだしたら止まらない「京都祇園もも吉庵のあまから帖」シリーズ。今回も麩嘉さんの麩まんじゅう、吉鳳亀広の菱最中(菱形でこしあんと粒あんが半分ずつ詰められている)、鶴屋弦月の州浜、三條若狭屋のちご餅、錦市場の昆布佃煮専門店の千波の上白おぼろ昆布、切通し進々堂のゼリーなど。巻末には美味しいぜんざいの作り方まで。3日前に五条の半兵衛麩の喫茶「Cafe ふふふあん」で麩もちぜんざいを食べてきましたが、次に京都を訪れた際には、この本で紹介されたお店に伺うのを楽しみにしています。

「私たち、『子どもにも、誰にも迷惑かけずにポックリ逝きたいわ』って、いつも言い合ってるの。ねえ、運転手さん。京都に、ポックリ逝ける願いを叶えてくださる仏様は、ありゃーすの?」「あります、あります。そないでしたら、このあとそちらへご案内しましょう」ということで、美都子がお連れしたのは、即成院だった。皇室ゆかりの名刹・泉涌寺の塔頭の一つである。「極楽往生」の願いを聞き届けてくださることから、「ポックリ信仰」で崇められている。
(第一話 山装い 花街の恋の同窓会)

「朝方の話なんですけど、お手伝いしてくださった三人にイノダコーヒで、モーニングセットを食べてもらったんです。私も、少し遅れてイノダさんに向かったんですが、途中の道で入れ違いになりました。ゆっくり一人でコーヒー飲んで、気い落ち着かせよう思うてたら、朱音さんが一人で店に戻って来たんです」全員が夢遊の話の続きを、食い入るように聞いている。「会計のレジの前で、朱音さんがなんや謝ってはる。ペコペコ頭を下げて。妙やなぁ、思うてたら、近くに座っていた紳士が彼女に話し掛け、自分の名刺を渡したんです。どうにも気になりましてねえ。その紳士の顔にちょっと見覚えがありまして、朱音さんが帰った後で、紳士に声を掛けて尋ねたんです。するとですねぇ……」みんな、まるでミステリーの謎解きのように耳を傾けている。「朱音さんは料理を残してしまったことを謝りに戻ったそうなんです。それでレジの女性に『明智様にご馳走になった朝ごはん、ほとんど手も付けず残してしまいました。気分が悪くて、食欲が無くて。作ってくださった厨房の方に、ごめんなさいってお伝えいただけますか?』と、伝言を頼んだそうです。それをそばで 聞いていた紳士は、感心してしまったそうなのです」「紳士、紳士て、夢遊はん思わせぶりやなあ。どなたはんやの?」と、久美子が夢遊に尋ねる。すると夢遊は、朱音に促した。「その名刺、今、持ってはるか?」朱音は、びくびくしつつ「はい」と答えて、肩掛けのポーチから取り出して見せた。全員がのぞき込む。最初に、久美子が声を上げた。「猿丸はんやないの!」夢遊が話を続ける。「そうなんです。名門・東京クラシックホテルの猿丸総支配人です。猿丸さんは、こう言わはりました。『今どき、料理残す人は珍しくない。なのにこれほど丁寧に詫びる人を見るのは珍しい。記憶では一人だけです』って」関川が訊く。「それは誰やって?」夢遊は答えた。「松下幸之助はんやそうです」「ほほう」と、また全員が声を合わせて感嘆した。
(第三話 桔梗の 揺れて茶会のにわか雨)

徳丸はもも也の汲んできた水を飲み干すと、一つ溜息をついて真面目な顔つきになった。ついさっきまで、酔いつぶれそうだったのが嘘のようだ。「もも也ちゃん、もうわかったよな……気張る、いうことがどんなことか」「わかった……気がします」徳丸は、スターだからといって、噴りもせず腰も低い。それどころか、周りによく気遣いをする。さらに、プライドにこだわらない。いい映画を作るためなら、自分が二歩も三歩も譲ることさえいとわない。自分に欠けていたことばかりだ。「……」「なら、質問だ。どうしたら一等賞になれると思う?」それは、もも也がずっと知りたかったことだ。「一等賞はなりたい人がなるんじゃない、自分で一等賞になるんでもない」「え!?」「いいか、説教じみたこと口にするのは嫌いだから、二度と言わん。よく聞きな」もも也は、徳丸を見つめた。「一等賞っていうのは、みんなにしてもらうもんなんだ」「あっ」と思った。目からうろこが落ちるとはこのことだ。自分は、誰よりも努力してきた。でも、それは結局、独りよがりの「頑張り」に過ぎなかったのだ。「人のことを気遣ったり、悩み事を聞いてあげたり、人のために尽くしてる人が、周りから感謝されて応援されて一等になるんだ。もっと言えば 、自分のことは後回しということだ。グッと堪えて、自分のことより先に人のことを考えるんだ」もも也は恥ずかしかった。人を掻き分け掻きわけ、上へ上へと目指して生きてきた。自分のことしか考えていなかった。
(第四話 告げられぬ 想いの募る夏の夕)


烏丸高辻の平等寺。がん封じの願いを聞き届けてくれることで有名で、そのお守りは、薬壷の形をしている。中には、まじないと薬香が入っている。琴子は、もも奈から、「六角さんへお詫び状書いてええですか」と相談された。マル京のお父さんから、「声が出なければ、手紙を書いたらええ」と勧められた。そして、ちょっと高級な便箋と封筒をもらったのだという。その時、ちょうど耳にしていた奥さんの手術の話を、もも奈にした。すると、「病気平癒に一番効く神社かお寺を教えてほしい。一緒にお守りを送りたい」と言い出した。そこで、因幡薬師へ連れて行き、ご祈祷を上げてもらいお守りを授与していただいたのだ。「この人、黙って『はい』言うて渡してくれるさかい、てっきり自分で因幡薬師さんに行 ってご祈祷上げてもらったんやと思うてたんや。ところがな ぁ、今日の昼間のことや。お昼ご飯食べてる時、この人に『お守りおおきに』言うたら、『実は……もも奈ちゃんから……』言うやないか。それだけやない。里中さんで、もも奈ちゃん泣かせた言うし、叱ってやったんですわ」琴子は、思い出した。たしか、六角は養子だと聞いていたことを。奥様が、もも奈ににじり寄る。そして、もも奈の両手を取り、因幡薬師のお守りを握らせた。「おおきに。ほんま、おおきに」「……う……う〜」もも奈は戸惑い、どうしたらいいか、わからない様子。「うちな、ほんまは怖くて怖くて仕方がなかったんや。もし、手術がうまくいかへんかったら……。この人とも、さよならせなあかん。おかしくなりそう、いや、平常心保とうとして、反対に辛くてたまらんかった。今から思うと、この人にもっと泣いて わめいて気持ちをぶつけたらよかった思う」「おい、お前……」「怖くて、怖くて、手術室に入る時、先生にお許しもらって、因幡薬師さんのお守り、手に握りしめてたんや。半日もかかる手術やった。おかけで、眼え覚ましたら生きてた。目の前に、この人の顔が見えたんや。もも奈ちゃんのおかげや」
(第五話 大文字 舞妓姿を見せたくて)