あらすじ
「冤罪を晴らす神社はありますか?」そう訊ねる女子高生の心に秘めた罪と恋。もも吉庵の飼い猫にまつわる過去と、祇園の人々の「やさしい噓」。商売に身の入らない骨董商を改心させた女性秘書の純真。能率・効率を追求した経営者の窮地を救ったある約束……。


ひと言
もうだんだん、書くことがのうなってきました。今回は伏見稲荷大社の三徳亭の抹茶最中アイス、四ツ辻のにしむら亭のいなり寿司・親子丼、祇園へ出店した緑寿庵清水の金平糖、花見小路のぎおん徳屋の本わらびもちなどが紹介されました。

なだらかな坂道をしばらく行くと、脇へ進む階段が現れた。「ここよ」その登り口に立つ「由緒書き」を見上げて綾香が尋ねた。「菓、祖……神社?ここのこと?」「そう、ここ、菓祖神社さん。読んで字の如し。大昔に、日本にお菓子をもたらした神様をお祀りしてあるんや」「え~お菓子の神様なの! そんな神社があるなんて、ステキ!!」「うちら『あんこクラブ』にもぴったしやろ」祭神は二柱。田道間守命(たぢまもりのみこと)と林浄因 命(はやしじょういんのみこと)だ。「その昔な、垂仁天皇が田道関守に不老不死のお菓子を探してくるように命じたそうなんや。田道間守はな、十年かけて大陸で『非時香菓』(ときじくのかくのこのみ)いうお菓子を見つけて持ち帰ったんやて。そやけど、既に帝は亡くなってはったいう悲しい話なんや」綾香は、ここまで話を聞いて思い出した。「なんか『竹取物語』とそっくり。あれはたしか、かぐや姫が求婚してきた皇子たちに、蓬莱の王の枝とか宝物を探してくるように言う話でしたよね。不老不死の薬も出てくるし」「綾香ちゃん、古典もなかなか勉強してはるなあ」と、令奈が腕組みをして感心した。「それからな、林浄因いうんは、室町時代に中国から来日して、日本で初めてあんこの入ったお饅頭を作った人やそうや。なあ、うちらみたいに和菓子屋に生まれた子にとって、えろう霊験あらたかな神社やろ」「はい!」綾香は、階段を上がるなり、石造りの玉垣を一つずつ順に眺めた。そこには京都の菓子製造業を営む会社の名前が刻まれていた。「わあ~有名なお店ばっかりやね。出町ふたば、井筒ハッ橋本舗、かわみち屋、二條若狭屋、鶴屋弦月、中村製餡所、千本玉壽軒……聞いたことあるお店ばっかり。あ!俵屋吉富さんの名前もある。ここの『雲龍』はお婆ちゃんが京都へ旅行に行った時にお土産にもらって食べたことあります。美味しかったなあ!」それもそのはず。菓祖神社は、京都の菓子業界の人たちが集まって鎮祭した神社なのだ。だから玉垣も和菓子屋さんが寄進している。
(第一話 少年の 痛みを癒し山燃ゆる) 

もも吉の瞳が一瞬輝き、口元が一文字になった。……。……。「あんさん、ほんまに融通が利かしまへんなあ」「融通て」「嘘ついたらよろし」「え?嘘って」もも吉は、にっこり笑って答えた。「嘘言うたら、人聞きが悪うおすなあ、かんにんやかんにん。仏教でいうところの方便を使うたらええんや」「方便……ですか」「そうや、方便や。なんでもかんでも、嘘を方便や言うてごまかそういうわけやない。嘘言うんは二つに分けられること知ってはるか? 良うない嘘と、ええ嘘や」「嘘にええもんと悪いもんがあるんですか?」陽介は撫然とした。ところが、もも吉は、「もちろんや。自分が有利になるためにつくのが悪い嘘、人のために役に立つためにつくのがええ嘘や。ええ嘘なら、方便と言い換えても閻魔様は許してくださるいうわけや」と言い、にっこり微笑んだ。
(第二話 嘘つけば  幸せ来る祇園町)