あらすじ
明治後期の北海道の山で、猟師というより獣そのものの嗅覚で獲物と対峙する男、熊爪。図らずも我が領分を侵した穴持たずの熊、蠱惑的な盲目の少女、ロシアとの戦争に向かってきな臭さを漂わせる時代の変化……すべてが運命を狂わせてゆく。人間、そして獣たちの業と悲哀が心を揺さぶる、河﨑流動物文学の最高到達点!!
(第170回 直木賞受賞)
ひと言
2025年も後1日で終わり。今年の漢字は「熊」そして今年の重大ニュースの1位も「熊 出没 熊 被害」だった。まさに今年の最後の一冊にふさわしい本でした。著者はマタギなの?と思うくらいの臨場感とリアリティで読者に迫ってきます。この本を読むまでは金属バットのようなもので、熊の鼻から目の下辺りを思いっきり叩けばやっつけられるぐらいに思っていましたが、そんなことぐらいで熊はやっつけられないんだということが非常によくわかりました。来年は熊被害や、熊に襲われて大けがや命を落とす人が出ないことを心から祈っています。
熊爪の視線が赤子に注がれているのを感じたのか、陽子はようやく理解したふうに頷いた。「そういうものだもの。変えようとしても変えられないもの。お乳や守る人がいなきゃすぐ死ぬし、あたしもあんたも今生きてるのは、お乳や守る人がいたせい。たぶん」「そうなのか」自分は、自分だけは他の人間と在り方が違うのではないか。熊爪は漠然とそう思ってきた。俺だけは生まれてすぐに肉を齧(かじ)り、放置されても生き続けられたのではないか。そう思っていたが、陽子の言う通りならばどうやらそうではないらしい。自分もこうして無力に女の乳をしゃぶり、自力で起き上がることもできず、糞尿を垂れ流しては浄められてきたのか。目の前にいる赤子の有様と、確かにあったであろう自分の過去とがどうも繋がらない。
(十一 喰らいあい)


















